図書紹介
ホームスの冒険 謎解き・紐解き・文献検索：医学文献を求めて
2014 年 57 巻 6 号 p. 436
詳細
2014 年 57 巻 6 号 p. 436
本書はそのタイトルどおり，文献検索を理解するための解説書である。学術情報を読む人・書く人・探す人にとって必要な知識がわかりやすくまとめられている。副題に「医学文献を求めて」とあるが，あらゆる分野で学術文献にかかわる人の手元に置いて損のない1冊だ。図書館初任者や研究を始める人は，まずこの本で引用文献から文献検索の概要までアウトラインを理解してから，PubMedなどのデータベース検索に取り組むことをお薦めしたい。ベテランの方でも，おさらいのつもりで読んでみると新たな発見があるだろう。
難解な文献捜査に名探偵ホームスと友人の医師ワズスンが乗り出す手法で，初心者にもわかりやすく系統立てて学べるよう丁寧に説明されている。著者の小林靖明氏は札幌医科大学附属総合情報センターのベテランのライブラリアンで，名探偵ホームズ顔負けの博識な紳士であり，ストーリーテラーの筆は冴（さ）えている。目次の一部を見るだけで思わずページをめくりたくなる。
物語や心が和むイラストにひかれて読み進むうちに，書誌事項の読み方，略誌名，学術情報の流れ，データベースの種類と使い分け，所蔵館調査までがすんなりと理解できる仕掛けになっている。フルカラーのデータベース画面のショットや参考文献も豊富で，課題もあり自己学習にも最適だ。特に，acta，et al.などラテン語からの用語，TransactionsやProceedingsなどの誌名や書名で日常的に目にする用語一覧は役に立つだろう。筆者も昔駆け出しのライブラリアンだった頃，参考文献欄に頻繁に出てくる「ibid.」というタイトルがどうしても見つけられず悩んだことを思い出した（ibid.はラテン語の「同上」の意味）。
巻末索引があればいうことはないが，A5版のソフトカバーで189ページとかさばらないのもよいところだ。本書は日本病院ライブラリー協会（JHLA）機関誌「ほすぴたるらいぶらりあん」と北海道病院ライブラリー研究会「NEWS LETTER」の連載をベースにして全面的に改訂されたものだという。病院図書室は医療法により地域医療支援病院に設置が義務づけられた施設で，担当者はソロ・ライブラリアンが多いため，自己研鑽（けんさん）が重要である。発行元のJHLAは2015年に創立40周年を迎える職能団体で，「デスクマニュアルシリーズ」ではスキルアップのための実務マニュアルや「患者医療図書サービス」などを刊行し，信頼できる医学文献を提供するという病院図書室担当者の役割をサポートしている。この1冊も，改版しながら広く長く読み継がれることを期待したい。
（千葉県済生会習志野病院図書室／ヘルスサイエンス情報専門員［上級］ 佐藤正惠）
