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インフォプロによるビジネス調査-成功のカギと役立つコンテンツ 第7回 人物情報
上野 佳恵
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2014 年 57 巻 7 号 p. 484-489

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ここまで,ビジネス調査の主要な4分野のうち企業,業界・市場,消費者動向について述べてきたが,今回は最後の分野,人物情報についてみていこう。

1. ビジネス調査における人物情報

人物に関する情報は,それだけが単体で必要になるよりは,企業情報や業界情報に付随して必要となるケースが多い。

たとえば,取引先を開拓したい場合,アプローチする会社がどのような会社なのかという企業情報に加え,どのような部署があり,誰が担当なのかという情報があればアプローチしやすくなる。さらに,新たな取引先を訪問する際に,その企業についての情報を集めるのはもちろんであるが,担当者のプロフィールなども事前に得ておきたいものである。また,ライバル企業の動向をみていく際に,組織改編や人事異動などの情報から,その企業の戦略や事業展開の方向性をうかがい知ることも可能であろう。また,業界調査を進めていくと,業界のキーパーソンにヒアリングをしたいケースも出てくる。その際誰に話を聞けばよいかを絞り込んでいくのはヒアリングの際の最大のポイントとなる。

人物に関する情報というと一見ビジネス調査とは少し縁遠いイメージがあるかもしれないが,企業は人の集合体であり,製品を開発するのも販売するのもヒトである。そう考えれば,企業について調べる際にも,業界について調べる際にも,特定の人物に関する情報は欠かせないものとなる。

2. 企業の役員情報

企業情報と同様,ある企業の経営者や役員について知りたいと思ったら,まずはその企業のWebサイトを確認することになろう。

たいてい“企業概要”などの企業紹介ページに役員の一覧が出ているし,“役員一覧”などとして各役員の担当業務や略歴などを載せている会社も少なくない。さらに,上場企業であれば,取締役や執行役員の生年月日,経歴などは有価証券報告書にも掲載されている注1)。また,Webサイトに社長からのメッセージや,経営陣による事業ミッションについてのコメントを載せている企業も多い。経営者としてのオフィシャルなコメントであり,特に中小企業やオーナー企業などの場合は,企業のミッション=社長の信念ともいえ,そこから社長の経営姿勢などもうかがい知ることができる。

3. ビジネスパーソンの情報源

(1) 職員録など

企業の経営者や役員などをはじめとした著名人の情報をまとめている冊子体の情報源としては,かつては『日本紳士録』(交詢社),『人事興信録』(興信データ)という資料があったが,2005年の個人情報保護法施行以来,プライバシーにかかわる情報の扱いが難しくなったこともあり,2000年代後半を最後に双方とも休刊となっている。

上場企業に限定されるが,東洋経済新報社『役員四季報』(年刊)では,企業ごとに全役員を対象に役職,担当職,生年月日,学歴など,計3万9,000人あまりの情報が掲載されており,手軽に参照することができる。

官公庁職員に関しては『職員録』(国立印刷局,年刊)に,中央官庁から独立行政法人,特殊法人,国立大学法人,都道府県から市町村の役職員まで,約56万人の名前が出ている。たとえば,あるビジネス・製品を統括する省庁の担当者に連絡を取りたいときなど,どんな部署があるのか,担当者は誰なのかをあらかじめ調べておくことが可能である。また,ビジネス調査では利用する機会が限られるが,国会議員に関しては『国会便覧』(廣済堂出版,年2回刊)が発行されている。

(2) 人事情報オンラインデータベース

冊子体で得られる情報は限られているが,有料データベースサービスを利用すると,部長などの管理職クラスまでの情報を入手することが可能となる。

「日経WHO'S WHO」注2)は,日本経済新聞デジタルメディアが独自に収集した,全国の上場および有力未上場企業約2万社の役員,執行役員,部長,次課長約28万件,および中央官庁,政府関係機関や業界団体,国会議員,県議会議員など約2万件,計30万人分の情報を収録している。各個人の情報としては,主には現職名,新職名,勤務先,社内歴,人事異動速報などであるが,役員に関しては,生年月日や学歴,入社入省年月,趣味,座右の銘などもカバーされている。

また,特定企業の役員を一覧する,というだけではなく,業種や生年,出身校,職務・役職区分などの条件を指定して検索することもできるので,たとえば“北海道に勤務する食品企業の営業・販促系管理職”といった探し方も可能である。

総合データベースサービス「日経テレコン」のほか,企業情報の回でも紹介した個人向けビジネス情報提供Webサイト「日経goo」注3)からも利用することができる。

ダイヤモンド社は,昭和初期から企業の人事情報をまとめた『会社職員録』を出版してきたが,2011年版で冊子体は休刊となりそれらの情報は「DIAMOND D-VISION NET」注4)というデータベースサービスに移行している。有力企業1万6,000社の人事情報約25万人について,基本属性と役員クラスについては出身地,出身校,生年月日などが掲載されている。

こちらも,企業名からの検索だけではなく,地域や企業規模,役職,部門などの条件を指定した検索も可能である。独自サービスの「DIAMOND D-VISON NET」以外にも,「ダイヤモンド役員・管理職情報」として,総合データベースサービス「日経テレコン」「G-Search」,ビジネス情報提供サイト「@niftyビジネス」注5)「日経goo」などでも利用が可能となっている。

「日経WHO'S WHO」「ダイヤモンド役員・管理職情報」ともに,収録対象となっている範囲は有力未上場企業までになるが,東京商工リサーチの「東京商工リサーチ経営者情報」注6)では,全国約142万社の企業経営者(代表者)のプロフィールを得ることができる。情報内容としては,生年,出身地,出身校程度とさほど詳しいものではないが,中小企業経営者の情報源としては他に類似のものはなく,貴重な情報源となる。

東京商工リサーチのインターネット企業情報サービス(tsr-van2)では提供されておらず,総合データベースサービスもしくはビジネス情報提供サイトからの利用となる。

4. 新聞・雑誌記事

(1) 記事検索サービスの利用

データベースから得られる年齢や出身地といったプロフィール情報は,相手と話をする際のさまざまなきっかけにはなるだろうが,直接ビジネスに結びつくものではない。社内外の経歴がわかればその人が技術畑なのか営業畑なのか程度はわかるが,詳しい専門分野などの情報までは得られない。そこで,その人が実際にどのようなことを行っているのか,何を担当しているのかなどを知るために次に行うのは,記事検索やインターネット検索である。

データベースサービスを利用して,人名で記事検索をすれば,その人の書いた記事もしくは,その人について書かれた記事を得ることができる。同姓同名の人もいると考えれば,会社名をかけ合わせればよいだろう。インタビューなどのまとまった記事に登場するのは多くの場合,経営者レベルに限られるが,何らかの事業や製品についての記事の中で,研究開発や新製品の担当者のコメントが掲載されていることも少なくはない。業界新聞・雑誌であれば,特定の製品分野についての記事なども多くなってくるので,その確率は高まる。

(2) Web上の人物情報

さらに,人物情報の場合はインターネットのキーワード検索も有用である。業界によっては,電子ジャーナルが複数発行されていたり,業界関連のWebサイトが作られているようなところもある。媒体が増えれば増えるほどそこに載せる記事が必要になるわけで,業界に詳しい人のインタビューや製品開発ストーリーなどが主要コンテンツとして掲載されている場合も多い。

また,インターネット検索をすると,各種の講演会,展示会,研究会などで当該人物が講演しているという情報などもつかめる。その講演資料がWebサイトから参照できればいうことはないが,少なくとも講演会等の参加者募集の告知を見れば講演の概要はつかめる。そもそも,講演者はそのテーマに詳しい人物を選んでくるものであり,何がテーマとなって,どのような会で講演・発表したのか,というのは,その人の専門性に直結する情報ともいえる。

(3) 専門家を探す

これらの記事情報やWeb情報は,すでに特定された人物の情報を得るというだけではなく,何らかの専門家や業界のキーパーソンを探すというときにも威力を発揮する。人事情報データベースで条件検索をしても,リストは出てくるかもしれないが,その中で誰がキーパーソンなのか,どの人が業界で著名とされているのかまではわからない。しかし,業界の見通しを述べている記事の中でコメントが紹介されている人,あるビジネス動向を紹介する講演会の講演者などは,業界の専門家,キーパーソンと目されていると考えて間違いない。業界・市場に関する記事やWebサイト,講演会情報などの中から,人物を特定することも可能である。

5. 研究者情報

インフォプロの皆さんであれば,すでにご存知・ご活用のこととは思うが,研究者データベースである「researchmap」注7)(科学技術振興機構)も紹介しておこう。

「researchmap」は大学や研究機関を中心とした全国約23万人の研究者のプロフィールと業績がデータベース化されたものであり,所属機関はもとより,研究分野,研究キーワードから検索することができる。ビジネス調査で研究者情報が必要となってくるのは,前述のような業界・市場の専門家,キーパーソンを探すという場合が主になってくる。研究分野やキーワードから研究者を探し出すことができ,経歴に加えて,書籍,論文,講演などの過去の業績や現在の研究テーマを一覧することができるので,自分が探している分野のキーパーソンを網羅的かつ効率的に絞り込んでいくことが可能となる。

6. ビジネス向け交流サイト「LinkedIn(リンクトイン)」

これまで紹介してきた情報源とやや趣は異なるが,ビジネス向け交流サイト「LinkedIn(リンクトイン)」注8)1)についても触れておきたい。2003年に米国でスタートし,就職・転職活動のための交流サイトという位置づけでユーザーを増やし,全世界での登録者は3億人を超えている。利用者は,自分の学歴,経歴,スキルなどを詳細に記載し,それを見て人材を探している企業がコンタクトをしてくるという流れである。さらに,就職・転職活動以外にも,営業活動や,ビジネスパートナーの探索など,さまざまなビジネス上のネットワークを拡大するために利用されている。

Facebookなど他の交流サイトと違って,完全にビジネスに特化しており,『Fortune』の企業ランキングトップ100社の94%がLinkedInの“タレントソリューションズ”サービス(採用支援サービス)を利用するなど,企業側も積極的に利用している(データはLinkedIn注9),2014年8月6日現在)。

日本では,自ら情報を発信して転職活動をしたり,個人で動いてビジネスパートナーを見つけることが一般的ではないため,登録者数は100万人超と,あまり利用は進んでいない。しかし,他のデータベースなどでは見つけられないような専門家やビジネスの協力者が見つけられる可能性もあるので,1つの情報源としてLinkedInの活用・応用も考えてみるとよい。

図1 LinkedIn画面例

7. 総合的な人物情報データベース

ここまでビジネスパーソンと研究者を中心とした情報源を紹介してきたが,人物情報に関しては各種の著名人や歴史上の人物なども含めた総合的な人名録やデータベースがある。

ビジネス調査とはいっても,企業の社会貢献活動の一環として芸術家を招いてイベントを開く,スポーツ選手を支援する,関連業界の規制や法制度に関連して政治家とコンタクトを取りたい,等々,ビジネスとはあまり関連のない分野の人物に関する情報が必要とされる場合もある。このような場合,総合的な人物情報データベースを利用することになる。

日外アソシエーツ「whoplus」注10)は,歴史上の人物から現在活躍中の人物まで,日本人約26万人と外国人約7万人を併せた約33万人のプロフィールデータベース「who」(人物・文献情報)に,日外アソシエーツが作成している各種の人物関連事典(『人物レファレンス事典』『事典 近代日本の先駆者』『写真レファレンス事典 人物・肖像篇』など)の約28万人分のデータを追加したもので,横断的に検索することができる日本で最大級の人物情報データベースである。日外アソシエーツは,書籍や雑誌のデータベースも作成していることから,プロフィール情報のみでなく,ある人物が書いた記事・論文や書籍を併せて検索することも可能となっている。

また,収録件数はさほど多くはないが,朝日新聞の「朝日新聞人物データベース」(約3万5,000件収録),読売新聞の「読売人物データベース」(約2万6,000件収録)は,新聞記事をベースとして,政治家,経済人,文化人,スポーツ選手などを幅広くカバーしている。特に「読売人物データベース」では,その人物に関連する読売新聞記事(1986年9月以降)へリンクする機能があり,プロフィール情報だけではなく,関連する記事も併せてみることができるようになっている。

これらの総合人物情報データベースは,企業人事情報データベースと同様,「G-search」または「@niftyビジネス」から利用することができる(「日経テレコン」では,「朝日新聞人物データベース」と「読売人物データベース」のみ提供している)(2)。

図2 人物情報に関するデータベース

8. 人物情報におけるインターネットの活用

以上,人物情報の情報源についてみてきた。個々人に関する情報というのは公人・企業人といえども,プライバシーにかかわってくる部分もあるため,そもそもあまり多様な情報源があるわけではなかった。そして,個人情報保護法が施行されてからは,さらに情報源が狭められてしまった。

一方でインターネットの普及により,これまでは探すことが難しかったり手間がかかったりした講演者や発表者などの情報が簡単に手に入るようになっている。また,紹介したLinkedIn以外にも個々人でブログやFacebookなどの一般的なSNSを利用して積極的に情報を発信している人も多く,インターネット検索をすると思いがけず有用な情報に出会えることもある。

人物情報は,ビジネス情報の中では,もっともインターネット情報の活用範囲が広い分野ともいえよう。

5回にわたって,「企業,業界・市場,消費者動向,人物」という,ビジネス調査の主要分野の調べ方と情報源について述べてきた。次回は少し視点を変えて,ビジネス調査に使える資料集や情報源,情報サービスについて整理してみたい。

本文の注
注1)  有価証券報告書については以下を参照のこと。 

上野佳恵. インフォプロによるビジネス調査 – 成功のカギと役立つコンテンツ 第3回 企業情報. 情報管理. 2014, vol. 57, no. 3, p. 187-192.

注2)  http://t21.nikkei.co.jp/public/guide/pr/price/whs.html

注3)  http://nikkei.goo.ne.jp/nkg/search/human/

注4)  http://www.d-vision.ne.jp/

注5)  http://business.nifty.com/gsh/QDIK/

注6)  http://business.nifty.com/gsh/QTSK/,など

注7)  http://researchmap.jp/

注8)  https://jp.linkedin.com/

注9)  "About LinkedIn", http://press.linkedin.com/about

注10)  http://www.nichigai.co.jp/database/who-plus.html

 
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