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リレーエッセー
つながれインフォプロ 第13回
迫田 けい子
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2014 年 57 巻 7 号 p. 494-496

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「むすびめの会(図書館と在住外国人をむすぶ会)」は,1991年に発足した。以来23年が過ぎ,会員数は,現在日本各地と外国にいる方も含めて約230人である。

会の活動を紹介する前に,日本における外国人登録者の状況について少々触れておこう。

日本は,長い間,専門的・技術的分野の外国人は受け入れるが,単純労働者は制限するという方針であった。戦後すぐの頃から1980年代までの日本の外国人登録者数に大きな変動はない。1980年の法務省による登録外国人総数は,78万2,910人。その出身の国・地域別統計をみてみると,1位:韓国・朝鮮 66万4,536人,2位:中国 5万2,896人,3位:アメリカ 2万2,401人,4位:フィリピン 5,547人,5位:イギリス 4,956人,6位,7位は2,000人台,8~14位は1,000人台,15位以下は1,000人以下である。このように,日本が植民地としていた韓国・朝鮮,中国の出身者が実に90%以上を占めていた。

この構成が大きく変わったのが,1980年代後半である。バブル経済で,労働力不足が深刻となる建設現場などでは,南米の日系人やパキスタンやバングラデシュ,イランなどの出身者等の「不法就労」の事例も出てきた。そこで1990年,国は「不法」でない外国人労働者の受け入れのために,日系の3世までの「定住者」の枠を創設した。これ以降,南米の日系人の数が急激に増えていくことになる。

図書館界に目を転じると,民族的言語的マイノリティー集団への図書館サービスは,カナダや北欧の図書館員たちの活動がまずあった。IFLA(International Federation of Library Associations and Institutions,国際図書館連盟)では,1970年代後半から,ワーキンググループが作られ,1983年にラウンドテーブルに昇格した。1986年のIFLA東京大会のときから,「多文化社会図書館サービス分科会」となった注1)

こうしたIFLAなどの動きを,いち早く日本に紹介し,「多文化サービス」の考え方を普及させたのは,当時,阪南大学にいた深井耀子を中心に発行された雑誌『多文化サービス・ネットワーク』である(第1~10号 1989~1996年)。また深井は,1992年に青木書店から『多文化社会の図書館サービス:カナダ・北欧の経験』を出版している。

むすびめの会はこうした情勢の中で船出した。機関誌『むすびめ2000(にせん)』創刊号(1991年7月刊)には,以下の発刊の辞が掲載されている。

「いろいろなことを『むすぶ』ことを願って,この通信を発刊します。図書館と,日本で生活している外国人,日本語が中心言語でない日本人,その暮しを毎日よいものにしようとネットワーキングしているグループの人々,いろいろな言語で書かれた本,雑誌,新聞,ビデオや情報,それら全部の『むすびめ』となることができれば,という思いを込めています」

そして,さらに「西暦2000年までには,さすがの日本も単一民族国家の幻想を脱皮し,多民族,多文化国家として動きだしているだろうし,図書館がそのインフラストラクチャーとしてしっかり機能しているはずだ,そう願いたいというおまじないの気持ちを2000にこめました」。

こうして西暦2000年を迎えたとき,『むすびめ2000』のタイトルを,これから毎年2001,2002と変えていくか? ということも話題にのぼった。しかし「毎年改題する雑誌はよくない」「設立の頃と状況はあまり変わっていない」などの意見が大半で,そのままとなり,年に4回の定期刊行を続け,2014年9月発行の号で88号に達している。

頁数は,平均32頁,多い時には64頁にもなり,ISSNも取得した(ISSN:1883-1230)。

また毎号表紙は,「むすびめ」にちなんだイラストや写真で,読者からは,「今度の号は,どんな表紙かな?」と楽しみにしているとの声が多く寄せられる(12)。

図1 機関誌『むすびめ2000』創刊号
図2 機関誌『むすびめ2000』最近の表紙

「シリーズ・お隣の外国人」など,外国人からの原稿は,その原語と日本語訳の併記を心がけ,各種会合への参加記などのほか,「こむすびのページ」(児童書の紹介),「まるちいんふぉぼーど」(多文化関連資料紹介)など好評の連載も多い。

ほかに会の出版物としては,1995年に発行した『多文化社会図書館サービスのための世界の新聞ガイド:アジア・アフリカ・中南米・環太平洋を知るには』(日本図書館協会)がある。

例会は会報の発行と併せて,年に4回。それに時折,特別例会として大きなイベントも開催する。2013年9月には,約20人が参加した「むすびめ韓国図書館見学ツアー」を開催した。

会員は,公共・学校・大学・専門図書館員や研究者,出版関係者,国際交流関係団体職員,外国人支援団体関係者,住民・学生などいろいろな分野の方々が参加している。会報のほか,会員間のメーリング・リストで,新しい情報や意見を交換することで,多彩な会員の活動を把握し,事務局のメンバー間でのメーリング・リストや例会時の打ち合わせなどで,関心のあることを語り合ったり,企画を立てたりしている。

最近の学習会・見学会をちょっと書き出してみよう。

  • <講演会>

○ 「北欧の公共図書館-移民のくらしのセーフティネット機能に着目して」ゲストスピーカー:和気尚美さん

○ 「インドネシアのこどもたち-読書・図書館」ゲストスピーカー:シルヴィア・チョクロワティ・ミヒラさん

○ 「多文化共生を考える-多言語・多文化教育研究センターの活動を通して」ゲストスピーカー:杉澤経子さん(東京外国語大学)

  • <見学会>

○ 「シャンティ国際ボランティア会の見学」

○ 『多文化サービス実践編』の発行に向けての図書館見学会(足立区,江戸川区,目黒区,新宿区,北区,荒川区,府中市,埼玉県立)

外国人登録者の数は,1991年に100万人を超え,2005年には200万人を突破した。外国にルーツをもつ子どもたちの教育・文化,言語保持の問題は,日本に昔からあった在日韓国・朝鮮人1世たちの苦悩を照射するものであった。私たちは,彼らの歩んだ,母語保持・文化の伝承を図書館サービスの面から検証し,学ぼうとする人の権利を保障すべく学習会などを重ねている。

「むすびめの会」のホームページは以下のとおりである。

http://www.musubime.net

外国語図書を扱っている書店のリストをはじめとして,多文化サービスを始めたいと思う方に役立つ情報をたくさん掲載しているので,ぜひご訪問ください。

関心のある方の入会をいつでもお待ちしております。

執筆者略歴

迫田 けい子(さこた けいこ)

日本図書館協会多文化サービス委員会委員,むすびめの会事務局。

ビルマ難民の第三国定住で,2012年度の日本への希望者がゼロだったという。難民移住に日本が選択肢から外されるのは,外国人にとって日本が住みにくい国であることの証。どの子も輝いた目で未来を思い描ける日が来ますように!!

本文の注
注1)  これらの経過については,以下を参照。

『IFLA多文化社会図書館サービス』, 国際図書館連盟多文化社会図書館サービス分科会著, 深井耀子解説・編集, 田口瑛子訳・編, 多文化サービスネットワーク刊 日本図書館協会, 2002, 65p.

 
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