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大学図書館書籍アーカイブHathiTrust
時実 象一
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2014 年 57 巻 8 号 p. 548-561

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著者抄録

大学図書館の協同デジタルアーカイブ事業HathiTrustについて解説した。HathiTrustはGoogle Booksプロジェクトに参加した米国大学図書館が,Googleから得た書籍デジタルデータをアーカイブするために2008年に始まった。現在はこれにInternet Archiveのデジタル書籍や連邦政府文書などが追加されており,1,141万2,713点のコンテンツ,うち書籍588万8,922点,約35%の397万8,007点がパブリックドメインである。Google Booksプロジェクトの歴史と訴訟や和解の経緯,HathiTrustの設立の経緯と現状,会員制度,コンテンツの詳細,システムの概要,研究活動などについて解説した。

1. 象は忘れない

英語に,"Elephants never forget"ということわざがある。アガサ・クリスティーのミステリーにも『象は忘れない』(Elephants Can Remember)という本がある1)。Scientific Americanの記事2)によると,テネシーの野外動物園にいたジェニーという象は,23年前にサーカスに一緒にいた象に再会したときに,その友達を覚えているようなしぐさをした。また,タンザニア国立公園が1993年に干ばつにあったとき,1958~1961年の干ばつを経験した象は水や食料を探しにすみかを離れたという。研究者は,前回の干ばつを彼らは覚えていたと考えている。

このように,象が記憶がよいということは科学的事実と考えられている。象を記憶のシンボルとしている有名なWebサービスにEvernote(1)がある。これから紹介するHathiTrust(ハチトラスト)(2)もその1つである(米国共和党のシンボルが象であるのは,違う理由のようである3))。

HathiTrustが象をシンボルとしているのは,これがアーカイブだからである。なお,Hathiのヒンドゥー語の正しい読み方はハーティーのようであるが4),HathiTrustの人たちもハティと発音しているようである。カタカナで書くときはハチトラストになる。

筆者は2014年5月27日にアナーバー(Ann Arbor)のミシガン大学にあるHathiTrustを訪問し,2月に新たに事務局長となったMike Furlough氏と,発足当初からシステム開発などの中心となってきたJeremy York氏に話をうかがった(3)。本稿で,特に参考文献が示されていない記述は,そのときの話である。

HathiTrustの前事務局長John Wilkin氏は2012年12月18日に国立国会図書館を訪問し,講演を行っている4)

図1 Evernoteのロゴ
図2 HathiTrustのロゴ
図3 Mike Furlough氏(左)とJeremy York氏(右),ミシガン大学ハッチャー・グラデュエイト図書館

2. HathiTrustとは何か

米国の大学図書館等が協同で運営しているHathiTrustは書籍を中心としたアーカイブである5)。電子図書館と考えてもよい。コンテンツの多くは,後で説明するように,Google Booksプロジェクトで電子化された本であるが,Google Booksよりも細かい検索ができる。またコンテンツとしては国立国会図書館の近代デジタルライブラリーとよく似ているが,最近の本もデジタル化されていることと,全文が検索できるところが大きく違う。

HathiTrustのWebサイトでコンテンツの点数を見ると,2014年7月29日現在で1,141万2,713点のコンテンツがあり,そのうち書籍は588万8,922点,逐次刊行物が29万7,247点である。これを長さにすると135マイル,重さにすると9,273トンとなっている。このうち約35%の397万8,007点がパブリックドメイン,すなわち誰でも自由に読むことができる書籍等である。

書籍アーカイブとしては,従来HathiTrustが世界最大であったが,最近Internet Archiveが各地の図書館と協力してその蔵書を大量に電子化し,現在640万点の書籍等を保有している(2014年8月2日現在,ただし連邦裁判所文書110万点を含む)6)。したがってHathiTrustは現在世界2位と考えられる(Google Booksはさらに多くのデジタル化書籍を保有しているが,公共的なアーカイブとはみなせないので除く)。

これを言語でみると,約半数が英語,ついでドイツ語,フランス語,スペイン語,中国語,ロシア語と続き,7番目に多いのが日本語コンテンツとなっている(4)。

図4 HathiTrustコンテンツの言語分布7)

58はHathiTrustの詳細検索を行った例である。

多くの検索結果は「Limited (search-only)」(6のa参照)となっているが,これは外部の利用者に対する制限である。この本を所蔵しているメンバー図書館だけが,電子版を自由に読むことができる。

一方,「Full View」(6のb参照)と示されている書籍,たとえば「Memoirs of Sherlock Holmes」(6のc参照)は著作権の存続期間が満了しているので,誰でも自由に閲覧・ダウンロードができる。これを開くと,次の閲覧画面となる。また「Catalog Record」(6のd参照)をクリックすると書誌事項(7)が表示される点もGoogle Booksとは異なり,OPAC(Online Public Access Catalog,オンライン蔵書目録)に限りなく近い。

HathiTrustにあるほとんどの冊子はGoolge Booksにもあるが,Google Booksは大学の蔵書を電子化したものだけでなく,出版社から冊子を提供されたものを電子化したり,デジタルデータを提供されたものもあるので8),検索結果はかなり異なる。

HathiTrust(8)と,Google Books, Open Library (Internet Archive)のインターフェースを比較した報告がある。Millerらによれば,多くの利用者はOpen Libraryのインターフェースが一番使いやすいと回答した9)

図5 HathiTurstの詳細検索画面
図6 HathiTurstの検索結果一覧画面
図7 HathiTrust検索回答の書誌画面
図8 HathiTrustのPC書籍リーダー画面

3. Google Books訴訟の経緯

HathiTrustの歴史を語るには,まずGoogle Booksについて説明する必要がある。2004年12月,GoogleはGoogle Printプロジェクトを公表した。ハーバード大学,スタンフォード大学,ミシガン大学,オックスフォード大学,およびニューヨーク公共図書館と協力し,その蔵書1,000万冊以上をスキャン方式で電子化するという計画である。このうちスタンフォード大学とミシガン大学については著作権の残存している書籍(米国の著作権法では1923年より前に出版された書籍の著作権はすべて消滅しているので,それ以降の書籍)も電子化するとした。なお2005年11月にはこのプロジェクトはGoogle Book Searchと改名されている。

図書館の蔵書の電子化は図書館プロジェクトと呼ばれるが,その進め方は次のとおりである。図書館は蔵書を提供するだけで電子化はGoogleがすべて行い,その技術の詳細は一切公表されていない。費用はすべてGoogleが負担するが,その代わりにデジタル・データの権利はすべてGoogleが保有する。図書館にもデジタルコピーを提供するがPDFだけである。わが国では2007年7月に慶應義塾大学図書館がパートナーとなったことが発表された。

GoogleのDaniel J. Clancyは,2008年にこのプロジェクトの進行状況について述べ,電子化したのは書籍700万冊としている10)。そのうち図書館の蔵書が600万冊,出版社から提供を受けた本が100万冊で,全体のうち100万冊は著作権の存続期間が満了しており,400~500万冊は著作権は存続しているが絶版であるとしている。また2010年のPCWorldの記事では,GoogleのLeonid Taycherがすでに12万冊以上をスキャンしており(2010年6月現在),あと10年以内に,出版されたすべての書籍(約1億2,900万冊)すべてを電子化できるだろうと述べている11)

この計画に対して多くの支持が寄せられた一方で,2005年には米国作家組合(Authors Guild)と米国出版社協会(Association of American Publishers: AAP)等が相次いで集団訴訟(Class Action)を起こした(詳細については参考文献12)を参照)。彼らは,Googleが著作者の許諾を得ず本を複製(デジタル化)し,それを検索に供するのは著作権法に違反し,著作権者の利益を侵害したとしている。これに対してGoogleは,この事業は米国著作権法で認められている公正使用(フェアユース)に当たると主張した。すなわち,(1)これまでアクセスできなかった情報へのアクセスを提供するのであるから「公正使用」である,(2)著作権者・出版社に対して新しいビジネスの機会を提供している,(3)すべての著作権者・出版社の許諾を得るのは現実的でない,(4)著作権者・出版社は掲載を拒否できる(opt out),との理由からである。

この裁判は「公正使用」についての新しい判断がなされるかどうかという点で多くの注目を集めたが,突然2008年10月に,Googleと米国作家組合,米国出版社協会との間の和解が成立した。和解の合意によれば,Googleは2009年1月5日より前に出版された書籍(定期刊行物は除く)についてデジタル化を継続するが,デジタル化の補償金(著作権者・出版社に対して)4,500万ドルを支払った。これは著作権者に1冊60ドルの割合で支払われる。またGoogleは3,000万ドルを超えない裁判費用を支払うほか,3,450万ドルをBook Rights Registryの創設と初期の運営のために負担する。著者には不参加を表明しない限り決められた利用に関する規則(default rule)が適用される13)

この合意に基づき,2009年春には,Googleから日本の著作権者に対してこの和解に参加するかどうかを連絡するよう,またBook Rights Registyに登録するよう広告や書簡が届き,わが国では一時大騒ぎとなった。たとえば,日本文藝家協会はGoogleに対して抗議声明を発表している14)

この合意についてはそれまで不可能だった,著作権が存続している書籍の全文が読めるようになるとして歓迎する声があった一方で,Googleという一企業が世界の書籍を配信する権利を独占することに危惧をもつ声もあった15)。2009年8月26日にはGoogle Booksの和解に反対するOpen Book AllianceがAmazon,Yahoo!,Microsoftなどによって結成され16),9月3日にはAmazonが異議申し立てを行ったと伝えられている17)。さらに米国司法省も独占禁止法に抵触するとして懸念を表明した18)

集団訴訟の和解が有効になるには裁判所の承認が必要である。2009年10月7日,マンハッタンの連邦地裁判事Denny Chinは,この和解は不適当であるとして,11月9日までに修正案を提出するよう求めた19)。11月13日に提出された修正案20)では,Googleによる公開対象から米国外の著作物が除かれたため,わが国での関心は急速にしぼんだ。この修正案についても,司法省が再度懸念を表明している21)

その後,2010年2月には公聴会が開かれるなどの動きの後,2011年3月22日に連邦地裁の判断が示された22)。連邦地裁は和解案を認めず,和解案の見直しを指示した。その論拠として,孤児著作物(著作権の存続期間が満了しているかどうか不明,または著作権が存続しているが著作権者と連絡がつかない著作物)問題は連邦議会で法解決を行うべきこと,今回の和解事項は訴訟の目的を越えている,また学術著作者は利害が異なり集団訴訟に含めることはおかしい,などの点を指摘した。その後新しい和解案の検討も行われたが,2012年10月4日に,米国出版社協会は一方的にGoogleと和解してしまい23),米国作家組合のみが元の訴訟の当事者として残された。2013年11月14日にDenny Chin判事は,Googleの書籍電子化と検索提供はフェアユースであるとの判断を示し,米国作家組合は敗訴した24)25)。米国作家組合は控訴し26),裁判は継続しているが,大勢は決まったものとみられている。

なお,この問題については日本書籍出版協会が和訳を含めて資料を公開している27)

4. HathiTrustの歴史

4.1 HathiTrustの誕生

ミシガン大学は,2004年にGoogle Booksプロジェクトに参加し,書籍電子化を開始した。前述したように,契約ではGoogleが電子化したデータを大学に提供するので,そのデータを保存するためのシステムを開発することが必要となった。また当時12大学(シカゴ,イリノイ,インディアナ,アイオワ,ミシガン,ミシガン州立,ミネソタ,ノースウェスタン,オハイオ州立,ペンシルバニア州立,パーデュー,ウィスコンシン・マディソン)からなる大学協力委員会(Committee on Institutional Cooperation: CIC)は,2006年にGoogleと契約したが,やはり保存のためのシステムの必要性を認識した。数百万冊の電子書籍を保存するような大規模なアーカイブは前例がなく,非常にコストがかかることが予想されたため,CICはミシガン大学と話し合い,協同のアーカイブを設立しようということとなった。

HathiTrustは2008年10月13日に,電子書籍のアーカイブとして設立された28)。設立時のメンバーは上記CICとカリフォルニア大学システムに属する11図書館である。その時点では,Google Booksプロジェクトで電子化した200万冊の書籍(7億5,000万ページ)がその対象であった。そのうち16%がパブリックドメインとされている。

翌2009年の11月には,ミシガン大学の開発した電子書籍の全文検索エンジンHathiTrust Digital Libraryが公開された。この時点では,すでに460万冊の書籍が収録されている29)

4.2 米国作家組合の告訴

2011年5月,ミシガン大学は孤児著作物の同定プロジェクトを開始した30)。米国の著作権法によれば,1923年以前に出版された著作物はすべてパブリックドメインであるが,その後に出版された著作物は死後70年のルールが適用される。そこで1923~1963年の間の10万タイトルについて,著作権の存続期間が満了しているか否かをチェックすることにした。

ところが,同年9月12日に,米国作家組合がHathi Trustに対して著作権侵害訴訟を起こした。理由としては,HathiTrustがGoogleから700万冊の電子書籍を,著作権者の許諾を得ずに入手してリポジトリに入れたこと,またミシガン大学が「孤児著作物」と認定した書籍を大学構成員にダウンロードさせる計画を発表したことをあげている(HathiTrustの声明より31))。これは,Googleと米国作家組合との集団訴訟の和解が裁判所から拒否されたことが原因とみられる。HathiTrustは,デジタル化は書物保存のための図書館の通常の活動の1つであること,孤児著作物のチェックも同様であること,HathiTrustのメンバー館がGoogleなどに電子化を依頼したことは,米国著作権法第107条に規定されているフェアユースに相当し,合法であること,などを主張した。

この裁判はGoogle Booksプロジェクト本体の裁判と並行して進んだが,前述の和解を破棄する判決の流れに乗り,2012年10月10日に,ニューヨーク南地区連邦地方裁判所のBaer判事はHathiTrustがデジタル化した書籍を検索提供することは,米国著作権法の第107条に規定されるフェアユースに当たり,著作権団体側による著作権侵害の主張を否定するとの判決を下した32)。米国作家組合は控訴したが,2014年6月10日,連邦第二巡回区控訴裁判所(United States Court of Appeals for the Federal Circuit: CAFC)は,米国著作権法の第107条に規定されるフェアユースに当たり,著作権団体側による著作権侵害の主張を否定するとの判断をした33)。図書館は米国では非常に尊敬されているので,米国作家組合がHathiTrustを控訴したことにより,多くの支持を失ったとみられる。

4.3 その後のHathiTrust

当初は参加大学でExecutive Committeeを構成して運営していたが,参加大学が増えたので,方針を見直すことにし,2011年10月にConstitutional Conventionを開催した。これには52機関が参加した34)。ここで決められた方針には,

(1)連邦政府文書の保管

(2)12機関からなる理事会の設置

(3)Executive Committeeの設置

(4)新規プロジェクトの推進

  • などがある。

この会議の直前に米国作家組合からの訴訟があり,一部動揺もあったが,結果として結束が強まることになったとのことである。その後も毎年10以上の新規会員があり,2014年5月現在108となっている。

パブリックドメインコンテンツは約397万点あるが,そのうち約130万点は米国のみでアクセスできる。パブリックドメインは主として1923年以前のもので,コンテンツは外部から誰でもアクセスできる。ただし,Googleが電子化したコンテンツは閲覧できるが,非会員はダウンロードできない。著作権が存続しているコンテンツについては,対応する冊子体を持っている図書館はアクセスできるが,その他の図書館は見ることができない。その図書館が冊子体を廃棄しても,アクセス権は残る。

4.4 会員

HathiTrustは,法律的には法人または団体ではなく,大学・研究図書館の協同事業(a partnership of major research institutions and libraries)である35)。ミシガン大学のサービスと称する場合36)もあるが,その費用は会費で賄っている。

会費は,2013年から新しい方式に改定された。パブリックドメインの費用として年間9,000ドル,著作権が存続しているコンテンツについては15セント/巻であり,これを所蔵図書館で分割するので,5館がこの冊子をもっていれば3セントとなる。この方式によれば,最初から参加している大きな図書館と,後から参加した小さい図書館の間の不公平感が少ない37)

書籍のマッチングはOCLC番号を使っているが,海外会員の場合,OCLCの会員でないので,マッチングができない。また著作権制度が異なっているため,海外会員については,著作権が存続しているコンテンツに関しては無料としている。

慶應義塾大学は,2014年4月に8万点のデータをHathiTrustに預けることを発表した。同大学は非会員なので,データにアクセスする権利はないが,アーカイブとして利用することになったようである38)

海外の会員は多くないが,カナダに4機関,スペインのマドリード・コンプルテンセ大学,オーストラリアのクイーンズランド大学などがある。

海外のコンテンツは英語でないことも多いが,HathiTrustの理事会は,そうしたコンテンツが増えることを歓迎している。

5. HathiTrustのコンテンツとシステム

5.1 Google Booksプロジェクトのコンテンツ

HathiTrustは電子コンテンツのアーカイブである。コンテンツの多くはGoogle Booksプロジェクトによる。実際Google Booksプロジェクトの米国のパートナーのほとんどがHathiTrustに参加している。収録コンテンツ数は,2010年に1,000万点,2012年1月に2,000万点となった。コンテンツの利用統計はGoogle Analyticsを用いて集計し,会員には詳細なレポートを提供している。

Googleから受け取ったデータは複数の図書館の書籍が含まれるので,結果として約6%の重複があるとのことである。この重複を除去するのは容易ではなく,今のところ考えていないようである。書籍によっては,書誌事項が一致しても厳密には重複ではないものや,同じ本でも,書き込みがあって歴史的に重要と考えられるものもあるので,重複除去しないメリットもあると考えられる。中には,19世紀の手書きの書き込みを研究しているグループも存在するからである。

Googleが電子化したものは,最初に高解像度でスキャンされており,その後にプログラムで,クリーニングや傾き補正などを行っている。これは自動的に行われるため,その過程でさまざまな問題が発生していたが,Googleは継続的にプログラムを改良してデータ品質を向上させてきた。現在はかなり品質が向上している。HathiTrustでは常に最新のデータを上書き更新している。

Google由来のコンテンツについて,品質チェックした研究がある。ミシガン大学のConwayは,アーカイブに適さない深刻なエラーを8タイプに分類し,これらの頻度を調べている39)。カンザス大学のMcEathronは地質学の書籍180タイトル (4万7,287ページ)をチェックしたところ,エラーは全ページの2.5%であったが,全タイトルの63%はどこかにエラーが含まれていた40)

なお,HathiTrustでは,大学出版局が発行する書籍や雑誌をオープンアクセスで預かることも行っている37)

5.2 その他のコンテンツ

その他のコンテンツとしては,Internet Archiveが電子化したものや,HathiTrustが独自に電子化したものもある。会員は安全で長期的な保存を行ってくれることを歓迎している。Internet Archiveで保存している図書館も,保険としてHathiTrustを利用している。Internet Archiveは非常によい仕事をしているが,図書館ではないので,図書館はHathiTrustの方を信頼しているようである。

また,連邦政府の文書は,数は500点と少ないがアクセス数は非常に多いとのことである。

5.3 コンテンツの利用

コンテンツの利用形態は,コンテンツごとに異なる37)

(1) Googleが電子化したパブリックドメイン資料

誰でもWebで閲覧できる。各所有図書館の利用者は自由にダウンロード可能。

(2) Internet Archiveが電子化したパブリックドメイン資料

誰でもWebで閲覧,かつ自由にダウンロード可能。

(3) 著作権の残存する資料

各所有図書館の利用者は閲覧可能。

さらに,視覚障害者に対しての閲覧サービスも開始している。

5.4 HathiTrustのシステム

HathiTrustのシステムについてはYorkの記事が詳しい41)。サーバーはミシガン大学とインディアナ大学の2か所にあり,その他2か所にテープ・アーカイブがある。国外にバックアップを置くことも検討している。システムはOpen Archival Information System(OAIS)のフレームワークにのっとっている42)。また研究図書館センター(Center for Research Libraries: CRL)が行っている信頼できるデジタル・リポジトリ認証(Trustworthy Repositories Audit & Certification: TRAC)35)に準拠している。画像形式は,JPEG,JPEG2000,ITU G4 TIFFである。さらにOCRのテキストも保管している。コンテンツのメタデータはMETS(Metadata Encoding and Transmission Standard)ファイル43)で保存されている。

メタデータはGoogleからでなく,コンテンツを所有する図書館から入手している。その際OCLC番号を同定に用いているので,後述する慶應義塾大学のデータではうまくいかない。

HathiTrustのメタデータを入手する方法は,OAI-PMH(Open Archives Initiative Protocol for Metadata Harvesting)によるハーベスト,タブ区切りファイル(Hathifiles),Data APIの3つがある。

5.5 孤児著作物のチェック

保有するコンテンツの著作権管理は,余計なトラブルに巻き込まれないためにも重要でもある。HathiTrustでは,博物館・図書館サービス振興機構(Institute of Museum and Library Services: IMLS)などの資金を得て,著作権確認管理システム(Copyright Review Management System: CRMS)を構築し,メンバー15~20館の協力により,電子化された書籍の著作権情報を確認している41)。1923~1963年の間は,著作権は登録制で,定期的に著作権の更新が必要であった。これが更新されていなければ,パブリックドメインである。こうして約42万4,000点をチェックしたところ,そのうち約22万点がパブリックドメインと確認できたとのことである33)

また,書誌事項不確定性(Bibliographic indeterminacy)プロジェクトも立ち上げ,書誌事項の間違いをチェックしている。

5.6 研究活動

HathiTrustは2012年に研究センターを開設し,所蔵するコンテンツの活用に関していくつかの研究活動を行っている。現在イリノイ大学とインディアナ大学も協力しており,その三者で費用を分担している。パブリックドメインのコンテンツを利用し,どのようにサブセットを抽出するか,メタデータをどうするかなどを検討している。

そもそもGoogleの和解案の中で,コンテンツの利用のために少なくとも2件の研究プロジェクトを行うことが決められており,HathiTrustはその1つであった36)。和解案はつぶれたが,この研究プロジェクトは生き残った。HathiTrustが提供するデータマイニングのAPIについてはPlaleらが解説している44)

その他のプロジェクトとしては,次のようなものがある。

(1) 冊子体アーカイブ (Print Monograph Archive)プロジェクト

これは冊子体を恒久保存するプロジェクトである。OCLCのMalpasの調査45)によれば,重複する冊子を協同で外部保存すれば費用対効果がよい。HathiTrustの冊子体アーカイブ・プロジェクト46)はこの報告を参考にしている。HathiTrustがアーカイブを用意し,会員図書館が協同で利用する。

(2) デジタル保存ネットワーク (Digital Preservation Network)構想

これはアーカイブ機関のネットワークで,分散型のダークアーカイブである。HathiTrustも会員となっている47)

6. アーカイブ・ネットワークとHathiTrust

HathiTrustは2013年6月に米国デジタル公共図書館(Digital Public Library of America: DPLA)のパートナーとなった48)。DPLAについては筆者の報告を参照されたい49)。現在HathiTrustはDPLAに約270万点のコンテンツをAPIで提供している。また,ディスカバリー・サービスEBSCO Discovery Service(EDS)からはHathiTrustの全文が検索できるようになっている50)。このように,HathiTrustはさまざまなアーカイブのネットワークに組み込まれている。

7. おわりに

HathiTrustはGoogle Booksプロジェクトの落とし子であるが,すでに世界最大規模のアーカイブになっている。GoogleはGoogle Booksをアーカイブであると主張するかもしれないが,Google Booksはアーカイブの要件,すなわち永続性,透明性,アクセス可能性などが保証されておらず,企業の方針によっていつ閉鎖されてもおかしくない(たとえばGoogle News Archiveは2011年に突然閉鎖された51))。すなわち,米国大学図書館は一企業のプロジェクトから恒久的なアーカイブを構築することに成功したのである。

実際,文献などを見ても,HathiTrustはコンテンツのメタデータの管理や画像データの品質管理をかなり精力的に行っていることがわかる。Googleも類似の努力を行っていると思われるが,図書館が行うのと,企業が行うのでは,目的や方向性が異なる。

Google Booksプロジェクトについては賛否両論がある。図書館に金がないからといって悪魔に魂を売るのか,というような極論も行われた。筆者などもHathiTrustはGoogleの付属物ではないかという印象をもっていた。しかし実際に訪問してみると,大学図書館はGoogleという一企業と上手につきあって,成果を引き出したことがわかる。そのしたたかさは,日本の大学図書館も学ぶところがあろう。

HathiTrustが提供するAPIにより,米国デジタル公共図書館やEBSCO Discovery Serviceからもコンテンツの全文が検索できる。リンクト・データも含め,このようなデータベースの相互乗り入れが今後ますます重要になると思われる。

最後に,いろいろな情報を提供してくださったHathiTrustのMike Furlough,Jeremy Yorkの両氏に感謝の意を表したい。

参考文献
 
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