情報管理
Online ISSN : 1347-1597
Print ISSN : 0021-7298
ISSN-L : 0021-7298
Scientific Data データの再利用を促進するオープンアクセス・オープンデータジャーナル
ヒリナスキエヴィッチ, イアン新谷 洋子
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2014 年 57 巻 9 号 p. 629-640

詳細
著者抄録

Nature Publishing Groupは,研究助成金機関のニーズに応えるため,また研究者,図書館員,データリポジトリ管理者,データ規格提唱者などのステークホルダーを対象とした調査の結果を踏まえて,まったく新しいデータジャーナルを開発した。それが2014年5月創刊の『Scientific Data』である。Scientific Dataでは,その特有の論文タイプとしてData Descriptorという新しい形式を採用している。Data Descriptorは,従来の科学論文の要素と機械可読メタデータとを組み合わせ,データの種類を問わない均一な検索,関連出版物とのリンク付け,さらにはデータマイニングが可能になるように考案されている。本稿ではオープンデータの重要性からScientific Dataの創刊に至る背景,Scientific Dataの特長とこれからの可能性について述べる。

本稿は,クリエイティブコモンズライセンスCC-BYを適用する。

1. はじめに

学術出版界でオープンアクセスでの論文出版が確立されるにしたがい,理工医学を取り扱う各STM(Scientific, Technical and Medical)出版社が,研究データをオープンアクセスとして提供するオープンデータの活動に一斉に取り組んでいる。公的資金が投じられた研究で得られたデータを,より有効に活用しようという政府機関の考えやオープンアクセスの義務化がこのような動きを後押ししており,また研究者の間でも研究データを公開することで他の研究者に再利用してもらい,さらなる発見を引き出そうという考えが生まれた。

その一方で,特にデータを生成する研究者にとっては効果的にデータを共有する仕組みが不足しており,またデータを公開するインセンティブがないという問題がある。科学研究の再現性と信頼性を高めるためには,データがただ存在しているだけでは不十分で,そうしたデータは発見しやすく,検索しやすく,理解しやすいものであるべきであり,また査読を通じてその有用性が検証されなければならない。このような再利用がしやすいデータへのニーズに取り組むために登場したのが,データセットの詳細な内容を発表するための新しいジャーナルと新しいタイプの論文,すなわちデータジャーナルとデータ論文である注1)

本稿ではデータジャーナルが出現した経緯を概観するとともに,Nature Publishing Group(NPG)が2014年に創刊したデータジャーナル『Scientific Data』,ならびにその主要な論文タイプであるData Descriptorについて紹介する。

2. オープンアクセスを超えて

データ出版関連のイノベーションの多くは,オープンアクセス出版を追い風としたオンライン出版に基づいて構築されてきた。オープンアクセス出版の商業化が始まったのは,2000年のことである。2014年現在,オープンアクセスジャーナルのディレクトリを提供するDOAJ(Directory of Open Access Journals)(http://doaj.org/)には,約1万以上のジャーナルが登録されており,また世界中の大学や研究助成機関(以下,助成機関)のオープンアクセス方針を記録しているROARMAP(http://roarmap.eprints.org/)には2014年9月現在,470を超える各国の研究成果のオープンアクセス出版を義務付ける規則が登録されている。査読を経た論文に自由なアクセスを提供するオープンアクセスジャーナルは,学術出版界,とりわけ理工医学(STM)出版界で持続可能かつ確立されたシステムとして,購読モデルのジャーナルを上回るスピードで拡大し続けている1)

研究成果は,オープンアクセスで出版することにより,他の研究者からのアクセスが容易になると同時に,効率的に再利用される可能性も高まる。なぜならば学術誌で発表されるオープンアクセス論文は,クリエイティブ・コモンズ・ライセンスに準拠して公開され,たとえばCC-BYを選択した場合には,自由な共有や再利用が認められているからである注2)。とはいえ,研究結果を十分に検証し,再現しやすくするには,論文をオープンアクセスにするだけでは不十分である。研究データ,ソースコードやプロトコルなど,研究の過程で生じた他の成果物もすべて,自由に利用できる形で公開する必要がある2)

実のところ「再現性のある研究とデータへのアクセス」という考え方自体は科学の基本概念の1つであり,新しいものではない。STM出版社の多くはこの10年間で,研究データへのよりよいアクセスを実現する取り組みを強化しており,科学の発展を推進するために,科学コミュニティーや助成機関を対象としたサービスを向上させてきた。そして,研究者,助成機関,図書館員,データリポジトリ管理者などのステークホルダーはすべて,研究データへのよりよいアクセス,リンクと,正しい引用を要求しており,これにより科学の進歩がもたらされると認識している3)。データの可視化や統合化,さらに豊富なデータにより出版論文を充実したコンテンツにすることは,ジャーナルの読者にとっても重要である。より再現性の高い研究を出版しようとする動向によって,新しい編集・出版方針4)5)が打ち出され,新しいタイプのコンテンツと出版プラットフォームの開発,そしてコンテンツライセンスの改変が促されることになったのである6)

ジャーナル掲載論文の補足情報としてデータへのアクセスを提供すること,またはリポジトリ上のデータに論文からリンクすることは,われわれが目指すべき研究データへのよりよいアクセスという目的に合致している。しかし,データへのアクセスによって再現性のある研究を可能にすることを目的とした場合,そうしたデータは,発見しやすく,検索しやすく,理解しやすいものであるべきであり,また査読を通じてその有用性が検証されなければならない。英国王立協会は,その画期的な報告書「オープンな事業としての科学(Science as an Open enterprise)」の中で,将来の研究に真に有用となるような形で利用可能な研究データのことを「知的にオープンなデータ(intelligently open data)」と表現した7)。再利用可能な方法でデータを公開しようという運動と,研究者が自らのデータを公開するインセンティブとが結びつき,「データジャーナル」が誕生した。データジャーナルは通常,研究データセットに関する説明記述を,査読を経て掲載する。こうしたタイプのデータジャーナルは過去5年間で相次いで誕生している。

3. ニーズ高まるデータジャーナル

データの共有は,個人,組織,学会にとって多くの利点がある一方で,障壁も多数存在する(1)。研究の出版と帰属を通じて得られるクレジット(世間に認められた功績)は,科学者個々人のキャリア形成にとって非常に重要であることはいうまでもない。帰属とクレジットは,業績の出所と研究の有用性を明確にし,研究のインパクトを把握する助けにもなる。一方で,データが共有されない原因としては,データが不適正に利用されてしまうことに対する懸念はもちろんのこと,データの出版でクレジットが得られるという認識の欠如が挙げられる8)。しかしながらデータジャーナルは,データセットの解説,またはデータセット自体を引用可能な出版物とすることで,データを公開するというインセンティブを研究者に与える。さらに,オープンなデータの公開は,助成金制度や所属研究機関へのデータ公開義務といった要件をクリアする手助けにもなるのだ。

表1 データ共有の利点と障壁

日本を含む各国政府は,イノベーションと成長を促進するために,オープンデータ政策の導入・推進にますます力を入れてきている9)10)。このため,データ生成者に対して,データを利用可能な形で公開すべきという要求が高まっている。最近では,助成機関と研究機関が,研究者にデータ共有義務を課す方針を示すようになってきた11)。データ共有という傾向は,もともと特定の科学分野から生じたものだ。生物学分野では,ゲノム研究コミュニティーが先頭に立って,データの共有,標準化,再利用の運動をリードし続けている。最初のヒトゲノム塩基配列解読プロジェクトでは,目標を達成するために多数の研究室が協働する必要があった。そして,この大規模な共同研究は,公開データへのアクセスなしには達成しえなかっただろう。他の科学分野でも,データの再利用とアーカイブ化を通じた研究に投資することで,素晴らしい研究プロジェクトの成功が見込める可能性がある。助成機関は,こうした目標の実現のために,データを共有し記述するインセンティブを科学者に提供しなければならず,さらに助成金による研究から生じたデータの量とその使われ方を評価するための基準と仕組みを開発しなければならない。

データリポジトリの中には,遺伝子発現情報データベース(Gene Expression Omnibus: GEO)に寄託された遺伝子配列データなどのように特定の科学領域や特定の種類のデータに特化したものもあれば,エジンバラ大学のリポジトリDataShare(http://datashare.is.ed.ac.uk/)など特定の機関に特化したものもある。また,figshare(http://figshare.com/)やDryad(http://datadryad.org/)のような総合的なデータリポジトリも存在する。これらのリポジトリは,ジャーナルや出版社と提携しており,数値データ,動画,テキストファイル,地理的位置情報,画像などさまざまな種類のデータを登録し,それらを論文とリンクさせている注3)

こうした,データそのものがジャーナル出版の目的となったものが,Scientific Dataをはじめとするデータジャーナルである。これらのデータは,さまざまなタイプの論文を掲載するジャーナルのコンテンツの一部,またはデータジャーナルの主要な部分となる。Elsevier,Springer,BioMed Central,Nature Publishing Groupなどの多くの大手出版社が,データジャーナルを刊行している12)。学術出版業界におけるこの新興領域については,より包括的なレビューを参照されたい13)

データをリポジトリに登録することで,コミュニティーや助成機関からのデータ共有への要求と期待はある程度満たすことができる。そして,データジャーナルやデータ論文は,さらなるサービスと利点をもたらす(1)。たとえばデータ論文は,ScopusやPubMedなどのデータベースに収載されることによって人の目に触れる可能性が高まる。そして,研究者はジャーナルにデータ論文が掲載されることでクレジットが得られる。さらに,審査過程を通じてデータのフォーマットや記述をよりよくするための助言が得られるので,データの有効性と再利用性の向上が見込まれる。冊子体ベースのジャーナルでは,データに関して記述する際の文字数や掲載できる補足データの数に限りがあることが多い。それに対してデータジャーナルの場合は,データを収集した背景,方法,技術などの詳細な情報を掲載するため,それらを参照することでデータのさらなる検証と再現を独自に行うことが可能となる14)。データジャーナルはまた,未公開のデータセットや未発表の実験を公開する手段にもなる。さらにデータジャーナルは,リポジトリと提携することでデータへのアクセシビリティと,その統合性が高められ,読者にとってよりよい体験が得られる。

図1 データ出版の概要

4. Scientific Data

Scientific Dataは,Nature Publishing Groupが創刊した,科学的に貴重なデータセットが記述された論文を出版するためのオンライン限定のオープンアクセスジャーナルである。Scientific Dataは,前述したデータジャーナルの理想的な形を模索する中で考案され,2014年5月に創刊された。Scientific Data特有の論文タイプであるData Descriptorは,データがより再発見,再解釈,再利用されやすいようにデザインされている。Data Descriptorは,従来の科学論文のように目的,対象,方法などを記述するコンテンツに加え,編集チームのキュレーションによって構造化された情報で構成される。構造化された情報は,タイプの異なるデータを横断した検索,データと文献のリンク付け,データマイニングが可能になるように考案されている15)

Scientific Dataのコンセプトはさまざまな要素から発展したものだが,中でも大きな要因となったのが,研究者,助成機関,図書館員,データリポジトリ管理者など複数のステークホルダーを対象にNPGが実施した調査から得られた定量・定性データだった。2011年に実施されたこの調査では387人(そのうち329人は,自然科学分野の現役の研究者)から回答を得たが,研究者の間では分野にかかわらずデータに関する協力的な文化が色濃く存在し,データセットを調べる習慣があることがわかった。また,Data Descriptorのコンセプトに好意的な結果を得た16)

5. Scientific Dataの特長

データセットを記述するためにデザインされた論文タイプ(データペーパー,データノートなど)が他誌でも出版され始めているが,Scientific Dataのアプローチにはいくつかの特長がある。Scientific Dataの基本原則は,以下のとおりである。

(1) クレジット(評価)

  • •   引用可能で,査読を経たData Descriptorによってデータセットの作成に対するクレジットを提供する。
  • •   従来の論文では著者とみなされないデータ作成者の貢献が評価され,著者として認知されるようにする。
  • •   一般公開されているデータセットと,それに関連するコードやワークフローなどを索引化し,引用できるようにする。

(2) 再利用

  • •   キュレーションによって標準化された実験メタデータをはじめ,データの解釈,再利用,再現に必要な情報を提供する。
  • •   データファイル,コード,ワークフローが保存されている1つ以上の信頼性の高いデータリソースへ確実にリンク付けする。
  • •   公開された研究データの再利用可能性が実証され,その認知度が高まるため,助成機関のデータ管理関連要件のかなりの部分が満たされる。
  • •   オープンライセンスで公開されるため,改変や二次的著作物の創作を可能にする。

(3) 品質

  • •   集中的な査読が実施され,Data Descriptorとそれに関連するデータセットの技術的品質と完全性の評価を行う。
  • •   さまざまな分野の専門家により構成された学術的な編集委員会によって基準が保持される。
  • •   査読は,関係する実験手法の経験がある1名以上の研究者とデータ規格の専門家1名によって行う。

(4) 発見

  • •   データの種類を問わない均一な検索により,研究者にとって必要なデータを発見しやすくする。
  • •   関連論文とリポジトリ上にあるデータの両方に検証済みのリンクが設定される。
  • •   さまざまなタイプのデータの中から関連するデータセットを見つけやすくすることで,統合的なデータ解析を促進する。

(5) オープン

  • •   実験の方法論,観察,データ収集の透明性を確保する。
  • •   理解,提携,協力を通じて学際的研究をはばむ障壁をなくす。
  • •   出版される論文のライセンスは,もっとも自由度の高いクリエイティブ・コモンズCC-BYを標準とし,データ自体はその再利用を最大限促進するための法的手段であるクリエイティブ・コモンズCC0に準拠する。

(6) サービス

  • •   NPG内部でのプロのキュレーションによって標準化されたコンテンツを生成し,データをより発見しやすくする。
  • •   著者は投稿時にfigshareまたはDryadにデータセットを登録できる(これにより該当分野に既存のリポジトリが存在しないタイプのデータでも,データセットの査読を確実・迅速に進められる)。
  • •   NPGの出版に関する技術と経験で,個々の研究者と技術者に合わせたインターフェースと組み合わせて,コンテンツの強力な検索,リンク,可視化を実現。
  • •   査読期間の短縮とData Descriptorの迅速な公開が可能なため,時機を逃さずデータが公開できる。

他のデータジャーナルと比べると,Scientific Dataは,その対象範囲の広さで群を抜いている。現在,生命科学と生物医学,環境科学,物理学の領域をカバーし,将来的にはさらなる分野への拡大を予定している。本誌は60以上のリポジトリを公認しているが,それらは永続性,アクセスのしやすさ,研究コミュニティーに広く認知されていること,非公開での査読と専門家によるキュレーションが可能という要件を満たしている17)。また,Scientific Dataを決定づけるもっとも際立った2つの特長は,(1)査読過程でデータ編集者による社内キュレーションを行う点,そして(2)コンピューター処理が可能な構造化された形式に,情報を落とし込んだ記載であり,そのためのファイル形式として,「ISA-Tab」形式が採用されていることだ18)

ISA-Tabは,データセットを生み出す調査(Investigation: I),試験(Study: S),分析(評価)(Assay: A)について,事前に定められた概念体系19)の中で標準化された方法で記述するために使用できる(2)。それゆえに,これらISA-Tabフォーマットのメタデータは,キュレーションやデータ解析の専門知識をもつユーザーにとっては,いくつかの科学領域をまたがるデータセットの検索や比較が容易になり,それによってさまざまな応用研究を可能にする。そのような技術に精通していないユーザーにとってISA-Tabファイルは,Data Descriptorとそれらが記述するデータセットを結び付ける「接着剤」のようなものである。

図2 Scientific DataとISA-Tabメタデータがデータ出版ワークフローのどの部分に用いられるのかNature Publishing Groupの承認により画像を再利用

6. Data Descriptorを解きほぐす

Data Descriptorにはデータの収集に用いた方法や,測定の品質を裏付ける技術的解析についての詳細な記述が含まれる一方,新たな科学的仮説の検証,新しい科学的知見の報告を目的とした詳細な分析,まったく新しい科学的手法の記述は含まれない。

Scientific Dataの出版方針では,Data Descriptorの中核となるすべてのデータセットを適切な外部リポジトリに提出することになっている。データがプライバシーに抵触する場合やバイオセーフティーを扱う場合など妥当な規制が必要な場合を除いて,著者はデータを制限なく公的に利用可能とすることに同意することになる。Data Descriptorは従来の研究論文を補完するものであり,他誌で分析されたことのあるデータセットを記述するために用いることが可能だ。または未公開のデータセットを記述するために用いることもできる。2014年9月現在,本ジャーナルで発表されたData Descriptorの3分の2以上が,未公開のデータセットに関する記述である。

Data Descriptorの論文形式は,本誌の編集諮問委員会からのフィードバックと,ブログを通じて広範なコミュニティーに語りかけ,コメントをもらうなどコミュニケーションを重ねて発展してきた。本誌が創刊する数週間前に,Data Descriptorのサンプル論文が公開された20)。Data Descriptorの論文構成にはさまざまな要素があるが,中でもデータセットの理解,再利用,再現のためのもっとも重要なものは,方法(Methods),技術的検証(Technical Validation),データレコード(Data Records),利用のためのノート(Usage Notes)というセクションである21)

7. データ引用

従来の参考文献と同様に,Data Descriptorにもデータ引用の一覧が含まれる。これは,研究出版における複数のステークホルダーによって署名されたデータ引用の原則に関する共同声明(Joint Declaration of Data Citation Principles)22)にのっとるものだが,本声明は科学コミュニケーションにおけるデータの重要性とデータ引用の必要性を重視し,出版社,研究者,データリポジトリが協力して最適なデータ引用の方法を確立することを目指している。NPGが出版する他のジャーナルもScientific Data同様にデータ引用のルールを適用する取り組みを行っている。データの引用は,データ出版の重要な部分である。データの引用は,科学と科学出版界においてすでに確立されている文化・技術的インフラを利用し,科学者は引用を通じて互いのアイデアにクレジットを与え,クリエイティブ・コモンズ・ライセンスに準拠することによる正当な方法で研究成果の再利用や再現を行うことができる。データセットには,ジャーナル論文に与えられるのと同様にDOI(Digital Object Identifier,インターネット上に設置されるドキュメントに恒久的に与えられるID[デジタルオブジェクト識別子])が付与され,論文引用を追跡するのと同様の仕組みを通じてデータの引用を調べることを可能にする23)。Web of ScienceデータベースとJournal Impact Factorの生みの親であるThomson Reutersが,2012年に新しい研究のためのリソースとしてData Citation Indexを発表した注4)。また,データセットに関する基盤強化を目指すコンソーシアムであるDataCiteが2009年からfigshareやさまざまなリポジトリ,他の科学リソースと提携してデータセットへのDOIの付加に取り組んでおり,学術コミュニケーションにおけるデータの貢献や正当性を高める動きが進んでいる。2014年8月にはData Citation IndexとDataCiteが協力関係を結ぶことが発表され,ますますデータの発見性が高まることが期待されている24)

8. 査読過程

Scientific Dataに掲載されるためには,Data Descriptorに記載されているデータが科学的な価値をもち,再利用される可能性があるものでなければならない。そこが査読と編集者によるデータキュレーションで審査されるポイントである。しかしScientific Dataは,読者の側からみたインパクトや重要性を出版基準とみなしていない。編集者と査読者はData Descriptorを次の4つの基準に則して審査を行う(詳細は査読者へのガイドライン25)参照)。

1. 実験の厳密さと技術的品質(実験方法は有効か)

2. 完全性(データを他者が再現し再利用できるか)

3. 一貫性(コミュニティーの報告基準に従っているか)

4. 整合性(データは適切なリポジトリに登録されているか)

Scientific Dataはインパクトの強い研究に由来するData Descriptorの投稿を歓迎する一方,データの規模や複雑さにかかわらず実にさまざまな種類のデータを出版するための場を提供している。参考文献26)27)のような,単一の実験や単一の研究室で生成されたデータセットも,2014年7月に掲載されたデューク・レムール・センターの約50年にわたる飼育動物データから得られた曲鼻猿亜目霊長類27分類群の生活史プロファイルのデータセット28)3)もジャーナルのコンテンツとして同列に扱われる。このデータを表したData Descriptorは公開以来6,000回以上閲覧されている(2014年9月20日現在)。

従来の研究論文とは別にデータだけを査読付きジャーナルに掲載するというコンセプトを初めて聞いた研究者からよく聞かれる質問は,データ出版が先行発表された研究とみなされてしまい,データから導かれた研究成果を他のジャーナルに投稿できなくなってしまうのではないか,というものだ。Nature関連誌29)やその他数多くのジャーナルにおいて,Data Descriptor出版後に改めて投稿しようとしている論文原稿がデータ解析の記述の域を越え,投稿先ジャーナルに適した新しく重要な科学的知見を報告するものであるかぎり,Data Descriptorの存在がその研究のもつ新規性を脅かすことはない。

図3 曲鼻猿亜目新生児の体重測定(Zehr M. et al.論文より)

9. Scientific Dataの現状と将来

2014年9月20日現在,Scientific Dataは生命科学と環境科学の幅広い領域で,進化に関するオープンデータに焦点を絞った論文コレクションを含めて,30報のData Descriptorを出版している。

公開済みのData Descriptorにはさまざまな種類のものがある。

  • •   以前にNature関連誌に掲載された論文に基づくもの30)
  • •   figshareで視覚化されたデータを添えて新たなデータセットとソースコードを公開したもの31)
  • •   数十年にわたって収集された未公開データを正式に発表したもの32)

また,創刊初期の掲載論文には,日本の研究者である南,上原らによるラットのmicroRNAに関する包括的なデータセット33)があり,このData Descriptorは4,000回以上閲覧されている(2014年9月20日現在)。

Scientific Dataはオープンアクセスジャーナルなので掲載にかかる費用は購読料金ではなく,APC(Article Processing Charge)で賄われる。2014年現在日本在住の著者には,採択された論文に対して10万4,000円が徴収される。これは,論文の長さや,図表や図表の数,著者が選択したクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの種類にかかわらず,1回限りの定額料金である。

通常はオープンにされないような価値あるデータセットをより多く公開し,高品質のデータ出版の基準を策定し,またデータセットの発見可能性と再利用性を高めること。そしてこれらにより科学文献全般の価値を高めることができれば,Scientific Dataが成功したと言えるだろう。本誌は生命科学・物理学・環境学分野内で扱われる論文と研究テーマが増えていくことに注目する一方,社会科学や臨床医学など,他の分野の著者からのフィードバックに応えていくことで,取り扱う範囲を拡大することも検討している。

オープンで再現できる研究データは最終結果ではなく,よりよい科学の実践とコミュニケーションの手段として認識されるべきだ。この意味でScientific Dataが科学出版エコシステムの中で重要な役割を担い,研究データをより使いやすいものに,すなわち再発見されやすく,再利用可能で,引用可能,かつ再現可能なものにしていくことが期待される。

本文の注
注1)  本稿では読みやすさを重視したためData Descriptorを「論文」,ならびにその出版形式を「論文タイプ」として便宜的に言及しているが,コンテンツのフォーマットをより正しく表記するのであれば,Data Descriptorは「論文」よりむしろ「データ記述」,論文タイプは「出版形式,発表形式」がふさわしい。

注2)  CC-BY:この条件下ではどのようなメディアやフォーマットでも資料を複製,再配布することができ,かつ資料の改変や別作品のベースにもできる。http://creativecommons.jp/tag/cc-by/

注3)  Scientific Dataでは,データセットはコミュニティーに認知されたデータリポジトリに登録することを推奨しており,そのようなリポジトリが存在しないデータセットについては,figshareまたはDryadへの登録を推奨している。

注4)  Data Citation Index. http://wokinfo.com/products_tools/multidisciplinary/dci/

参考資料

  1. a)   Christopher Lortie, The citation revolution will not be televised: the end of papers and the rise of data. http://blogs.lse.ac.uk/impactofsocialsciences/2014/09/05/citation-revolution-end-of-papers-rise-of-data/ , (accessed 2014-09-10).
  2. b)   HOW OPEN IS IT? Open Access Spectrum (OAS). http://www.plos.org/open-access/howopenisit/, (accessed 2014-09-10).
  3. c)   Tenopir, C; Allard, S; Douglass, K; Aydinoglu, A. U.; Wu L. et al. (2011) Data Sharing by Scientists: Practices and Perceptions. PLOS ONE. 2011, vol. 6, no. 6: e21101. http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0021101, (accessed 2014-09-10).
  4. d)   宮入暢子. オープンサイエンスと科学データの可能性. 情報管理. 2014, vol. 57, no. 2, p. 80-89.
  5. e)   佐藤翔. オープンアクセスの広がりと現在の争点. 情報管理. 2013, vol. 56, no. 7, p. 414-424.
  6. f)   高木聡一郎. 欧州におけるオープンデータ政策の最新動向. 情報管理. 2013, vol. 55, no. 10, p. 746-753.
  7. g)   林和弘. 新しい局面を迎えたオープンアクセスと日本のオープンアクセス義務化に向けて. 科学技術動向研究. 2014, no. 142, p. 25-31.
  8. h)   倉田敬子. Open Accessはどこまで進んだのか(2)オープンアクセスはいかに実現されてきたのか. SPARC Japan NewsLetter. 2012, no. 14, p. 5-8.

参考文献
 
© 2014 Japan Science and Technology Agency
feedback
Top