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インフォプロによるビジネス調査-成功のカギと役立つコンテンツ 第9回 ヒアリングと自主企画調査
上野 佳恵
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2014 年 57 巻 9 号 p. 664-669

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これまで紹介してきた調べ方や情報源は,すでに世の中に存在している情報を探すための方法論である。しかしながら,ビジネス調査を行っていくと,情報がほとんど見つからない分野に出会うこともあるだろうし,既存の情報だけでは足りない,肝心の情報が欠けているという場合も出てくるはずである。そこから一歩踏み込んでさらに詳しい調査を行うには,自ら情報をつくり出すことが求められる。インフォプロに,このような実際の調査の実施・管理まで求められるケースは多くはないかもしれない。しかしながら,ヒアリングの実施手順や消費者調査の手法などは,ビジネス調査に携わるものが押さえておくべき基本知識の1つともいえる。

今回は,ビジネス調査において,自分たちで実際に調査を行う方法とその際に留意すべきことについて述べていきたい。

1. ない情報は「ない」

(1) 既存情報がないことの意味

具体的な調査の話に入る前に,既存情報が「ない」ということの意味を考えてみたい。市場調査レポートにせよ,消費者アンケートにせよ,それがまとめられているということは,ニーズがあるからこそである。時間と手間をかけて調査を実施してレポートを作っても,購入する企業がなくては話にならない。かけた費用のもとが取れると見込めるからこそ,調査が行われるのである。消費者調査にしても同じで,いくら低コストで実施できるからといって,企業や人々の関心がまったくないことについて,インターネット調査会社が自主的に調査を行って発表することは考えづらい。

そう考えると,「既存情報がない,見あたらない」という事実からも意味合いを読み取ることができる。たとえば,市場調査レポートがない=情報ニーズがないという理由・背景としては,市場に魅力がなく参入を考える企業がない,参入障壁が高く誰もが進出できる業界ではない,などが考えられる。市場がまだ新しく,確立されたものではないので調査をしようとしても困難である,という場合も考えられる。

(2) 既存情報の見極め

「ない」情報をいくら探しても見つかるはずはないのだが,これだけ多くの情報が溢れていると,どんな情報でもインターネットから引き出すことができ,世の中に存在しない情報はありえないのではないかという気がしてしまう。どこかに自分が探している情報はあるはずで,それを見つけられないのは,検索が足りなかったり,探し方がよくないためではないか,と考えてしまうのである。連載の最初に,ビジネス調査の難しさの1つとして「どこまでやればよいかがわからない」ことがあると述べたが,そう感じる背景には,この「ないはずはない」という意識が働くことも大きい。しかしながら,存在しない情報はどんなにWeb検索結果のページを探ったからといって出てくるものではない。これまで説明してきたような手順に沿って,漏れがないように情報源を見ていっても得られない情報は,「ない」と判断すべきである。

調査担当者として,情報が「ない」と宣言をするのはとても勇気がいることである。筆者も,「ないと言われたけれど○○で見つけました」と言われ,恥ずかしい思いをした経験もある。しかしながら,情報を集めるだけではなく,何があって何がないのか,どの程度までなら詳細な情報があるのか,何だったらあるのか,なぜないと考えられるのか,などを見極めることも,ビジネス調査の担当者に求められる大きな役割である。

コミュニケーション手段が発達し,知りたいことがあったら,何でもすぐに関係者に聞いてみればよい,インターネット調査で消費者アンケートを行えばよい,という考え方をする人も多くなっている。しかし,まず既存情報の見極めを行ったうえで,そこで手に入らない情報をどのような手段で入手していくかを検討し実施していく方が,結果的には効率的であるし,より価値の高い調査結果を得られることとなる。

2. ヒアリング

さて,調査の実施である。業界情報に関して,業界の専門新聞・雑誌まで含めるとかなり詳しい状況までわかることはすでに説明した。しかし,そうはいっても,すべての情報が記事になるわけではない。来年の業界の売り上げがどの程度伸びるかという見通しについて,業界関係者の間でさまざまな見方があったとしても,記事になるのはその中の一部にすぎない。また,統計情報や市場調査レポートなどで全体の市場規模やシェアは出てくるが,たとえば販売チャネルごとの市場シェアなど,より細分化されたデータが知りたいということも多いだろう。このように,既存情報では足りず,より詳しい情報,専門的な情報を得たいとなると,それに関連した知識がある人に話を聞く=ヒアリングを実施することになる。

(1) ヒアリングの種類

ヒアリングといっても,電話やメールなどで簡単なコメントをとるものから,面談で話を聞くものまで,さまざまなレベルがある。最近はメールで問い合わせを行うケースも多いだろうが,メールでは,書いてある文字以上のことは,こちらからも伝えられないし相手からも伝わってこない。電話であれば,相手のコメントに応じて話を展開していくことが可能になるし,声のトーンや間合いなどで,言葉以上のニュアンス的な部分も多少伝わってくる。さらに,対面すれば表情やしぐさからも多くのことをうかがい知ることができる。わずかな時間でも実際に相手に会って話を聞いた方が,得られる情報量は格段に多くなる。

(2) ヒアリングの準備

1に対面でのヒアリングの手順をまとめたので,主なポイントについてみていこう。

図1 ヒアリングの手順(対面ヒアリングを想定)

まず重要なのは,誰に話を聞くのかを決めることである。最初から相手が特定できる場合はよいが,たとえば,ある業界の問題点について詳しい人に話を聞きたいという場合などは,まずは相手選びが必要になる。もちろん,現場を知っている企業の担当者に話を聞くことができれば一番よいのだが,いきなり「○×業界についてお話をうかがいたい」と言っても,なかなか受けてもらえるものではない。そもそも,企業内の担当者が誰なのかを知ること自体,簡単なことではないだろう。まずは,業界全体の動向や会員企業の動きも把握している業界団体や,業界各社の動きを常に追っている業界新聞・雑誌の記者などを想定するとよい。そこから,企業の担当者を紹介してもらえることなどもある。

また,立場が違えば見方が異なるということも考えておいたほうがよい。たとえば,業界のリーダー的存在の企業とそれを追う立場の企業,大手企業と中小企業や新興企業などでは,問題の受け止め方も今後の市場性の見方も違ってくる。また,同じ企業の中でも,製造現場と営業,経営企画などの戦略部門では,ある製品の今後の売上見通しが異なるのも不思議ではない。

相手が決まればアポイントメントを取る。ヒアリングは,相手が好意で提供してくれる情報を得ようとするものであり,インターネット上に公開されている情報を簡単に引き出したり,対価を払って資料を購入したり,有料のデータベースサービスから情報を得るのとは事情が異なる。見ず知らずの人に忙しい時間を割いて喜んで話をしよう,という人はめったにいないだろう。

どうすればヒアリングを受けてもらえるのか。逆の立場で,自分がどんな場合だったら話をしてみようと思うかを考えてみるとよい。たとえば,「この人と話すと何か得られそうだ」「仕事には直接関係なさそうだがちょっと面白い話が聞けそうだ」など,何らかのメリットを見込める場合や,どうしてもコメントがほしいという必要性や,数ある企業の中でなぜ自分のところなのかが納得できる場合,熱心さが手に取るように伝わってくる場合などであろう。誠意と熱意をもって,できれば自分の側からも提供できる情報をもって依頼をする。

アポイントメントが取れたら,実施準備を行う。自分が聞きたいことを整理し,どのような順番で聞いていくかというストーリーラインやシナリオを作るのだが,併せて相手に関する情報収集も欠かせない。相手先の会社の最近の動向や社長のコメントなど,最新の記事などを見て知識を得ておくのは基本中の基本である。ヒアリング当日にその会社に関する記事があったとしたら,それは格好の切り口にもなる。

(3) ヒアリングの実施とまとめ

ヒアリングは,綿密なシナリオを作っていっても,そのとおりに事が運ばないのが常である。相手が思うように答えてくれなかったり,逆に話好きで違う方向にどんどん話が進んでいってしまったりすることもある。聞かなければならないことを抱えているというこちらの事情もあるが,ヒアリングの基本は,相手に気持ちよく話してもらうこと。話が脱線していっても,無理に話を戻したり相手の話をさえぎったりするべきではなく,一段落したところで「先ほどの○×に戻りますが…」などと引き戻していく。また,相手の話の中でわからないことがあれば,知ったかぶりをせずにその場で教えを乞う。業界が違えば,使う言葉からして異なり,1度聞いただけですべて理解できることの方がまれである。疑問があれば後から尋ねることもできるが,なるべくその場で解決しておいた方がよいだろう。

ヒアリングは,話を聞いて終わりではない。インタビューメモを,基本的にはその日のうちにまとめる。自分の備忘録として持っていればよいというケースもあるかもしれないが,たいていの場合はインタビューメモ自体も1つの情報として他者と共有することになるだろう。その際,相手から聞いた話を正確に,整理してまとめるだけではなく,それに対する自分の意見や,ヒアリング時に感じたことなども付記しておくと,情報としての価値はさらに高まる。

3. 消費者調査の実施

ヒアリングが,主に業界調査の際に活用されるのに対し,消費者動向について詳しく知りたいというときには,自分たちで企画した調査を実施することになる。「第6回 消費者動向情報」でも概要について触れたが,より詳細に調査の方法や実施にあたって,ポイントをみていこう。

消費者調査には,対象者の意識,態度,行動などを数値データとして収集する定量調査と,コメントや行動などから人々の意識や心理を探る定性調査がある。

(1) 定量調査の手法

定量調査は,数値データとしての信頼性を確保するために数百程度以上の回答数が必要とされ,また質問とそれに対する回答の選択肢をあらかじめ準備しなければならない。回答を集める手法によって訪問調査,電話調査,街頭調査,一定の人数を会場に集めて行うCentral Location Test,インターネット調査などがあり,それぞれの方法で一長一短がある。

たとえば,訪問調査は,偏りのない抽出方法によって対象となった家庭を調査員が訪問し面接して回答してもらうため,確実に対象者から回答が得られる,調査員が質問の意図などを伝えるため,偏りのない回答が得られる,などの利点がある。一方で,調査員が戸別訪問を行うため,多大な時間とコストが必要となる。さらに,最近では日中不在の家庭が多かったり,調査を拒否されてしまうなど,実施自体が困難なケースも増えている。一方,インターネット調査は,対象者にWebサイトに掲載した質問票に回答を入力してもらえば済むので,短時間で大量の回答を低コストで集めることができる。また,特定のサービスの利用者などといった対象者の絞り込みが行えることも特徴の1つである。注意しなければならないのは,対象者を選ぶ母集団はインターネット調査会社に登録しているユーザー(モニター)であり,インターネットユーザーでない人はそもそも対象に入らない。また各社が保有するモニターの属性や特徴に偏りがある点にも気をつけなければならない。

しかし,その簡便さから,今や定量調査といえばインターネット調査で行うもの,という時代にさえなってきている。しかしながら,ほかにも多くの調査手法があり,本来は目的や状況に応じて最適な手法を選ぶものである(1)。

表1 定量調査の手法と主な長所・短所

(2) 定量調査実施にあたっての留意点

また,定量調査は,調査票の設計,質問の仕方や選択肢の設け方によって回答が変わってくることにも留意しておく。たとえば,「太陽光発電装置を導入したいですか?」とだけ尋ねるのと,その前に「太陽光発電で余った電力についての買い取り制度について知っていますか?」という設問があった場合では,導入したいと答える人の数は異なるはずだ。選択肢も「導入したい」「わからない」「導入したくない」という三択と,それに「今は考えていないが近い将来導入したい」という選択肢を加えたものとでは,導入意向がある人の割合はかなり異なってくる。インターネット調査では,質問文や選択肢の作り方やその順番などをすべて自分たちで決めて実施することも可能であるが,調査会社の専門家のノウハウを利用した方が,より確実な調査結果を得ることができるのはいうまでもない。

(3) 定性調査

定量調査では,たとえばある商品に対する好感度を調べようと思った場合,好きか嫌いか,もしくはどの程度好きかという程度までしか回答は得られない。それをさらに,どこが好きなのか,なぜ嫌いなのかということまで掘り下げたり,どうすれば好きになってもらえるかを探ったりするのが定性調査である。

数人規模で対象者を集め,モデレーターと呼ばれる司会役の進行のもとに座談会形式でインタビューを行うフォーカスグループインタビューや1対1でより深い心理状況などを探るデプスインタビューなどがある。言葉だけではなくそのニュアンスや参加者の表情などからも多くの情報を得られたり,あらかじめ用意された質問だけではなく,その場での参加者の発言内容や反応に応じて,内容を追加したり変更したりできるのが特徴である。

先ほどの好感度のケースでいえば,一般的には定量調査で好感度を把握してから,定性調査で好感をもたれているポイントや,何があればより好感度が高まるかなどを探っていく順番となる。しかし,先に定性調査で人々の好みの傾向やその商品の好き嫌いのポイントになりそうな点を把握して,それを定量調査の質問項目の設計に生かしていくという手順も考えられる。

(4) 調査会社の利用

定量調査にせよ,定性調査にせよ,調査の実施にあたっては調査会社を利用することとなる。ここで問題となるのが,数ある中からどの調査会社を利用するのかということであり,筆者も「よい調査会社を紹介してほしい」と依頼されることも多い。しかしながら,調査会社を選ぶのは簡単なことではなく,大手のほうがよいとも限らないし,「ここがよかった」と紹介されたからといって自分たちの調査に適しているというわけでもない。

定量調査を行った後で定性調査も行う可能性があるとすれば,別々に依頼するより両方をカバーできる調査会社を選んだ方がよいだろう。郵送調査にするのか,インターネット調査で済ませるのか,比較検討することによって,訪問や郵送調査を得意とする会社,インターネット調査専業の会社などの候補が出てくる。インターネット調査会社には,モニターの集め方,登録モニターの数・年齢・地域分布など調査対象そのものと,結果の集計・分析サービスの内容にそれぞれの特徴がある。

ほとんどの調査会社は過去の調査実績を公表しているので,その内容や各社の調査・サービスラインナップを見て,調査会社を選び,見積りを出してもらう。この打ち合わせ・見積りの段階で,自分たちのニーズと合っているかと調査を一緒に進めていくにあたっての相性を図ればよい。インターネット調査であっても,質問文や選択肢の作り方や順番などの調査設計によって得られる結果が異なるということはすでに述べたとおりであるが,この調査設計の部分に調査会社のスキルが集約されていると言っても過言ではない。目的に応じた結果を得るための調査設計をどれくらい親身になってアドバイスをしてくれるのか,が調査会社を見極める一番のポイントになってくるといえよう。

詳細な調査設計には,調査によって何を明らかにしたいのかということはもちろん,調査結果を具体的にどのように活用したいのか,という明確なイメージも欠かせない。簡便にインターネット調査が行えるようになったからといって,「とりあえずインターネット調査をかけてみよう」ということでは,調査のための調査に終わってしまいかねない。どのような調査を行うにせよ,調査会社任せにするのではなく,自分たちが主体性をもって取り組むことが重要である。

4. 現場観察

近年,生活者の日常生活に入り込んでその行動を観察する,文化人類学において異民族を理解するために用いられているエスノグラフィーという行動観察手法が,定性調査の1つの手法として注目されている。情報というと,数値化されたデータやテキストを考えてしまいがちであるが,世の中のあらゆる事象は,見方によっては立派な情報となる。

街を歩いている人々の服装を定期的に観察していれば色やスタイルの流行がわかるし,コンビニエンスストアやスーパーマーケットの品ぞろえや商品の並べ方からは,売れ筋商品の特徴がつかめる。休日の公園に行けば,ランニングブームを目の当たりにできるし,ペット連れの人たちと会話を交わせばペットの高齢化の実態などもわかることだろう。インターネット上にあらゆる情報が集まるようになったといっても,“事件は現場で起きている”ことには変わりない。

インフォプロのビジネス調査に,現場観察まで求められることはめったにないとは思うが,現場観察というのは一次情報収集の手段の1つであり,ある意味調査の基本であるということは,押さえておいていただくとよいだろう。

さて,これまでは国内情報の収集と情報源について述べてきたが,次回は海外情報に目を向けてみよう。

 
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