法情報を扱うインフォプロが集う場というのは,大小いくつか存在する。本連載第10回のロー・ライブラリアン研究会1)もその1つだろう。活動内容や方針など一様ではないだろうが,その中でも最大規模で,60年近くの伝統をもち活動を続けている団体に「法律図書館連絡会」がある。
去る10月24日,京都の同志社大学にて,法律図書館連絡会第57回総会が開催された。
法図連は,1955年に設立され,国立国会図書館,法務図書館,最高裁判所図書館などの公的機関,東京大学法学部研究室図書室,大阪大学大学院法学研究科資料室などの国公立大学,中央大学図書館,慶應義塾大学三田メディアセンターなどの私立大学,専門図書館などを加えた約70機関が加盟する団体である。
その目的は,相互に業務上の連携協同を図るとともに,関係分野における図書館技術の向上,法律図書館的機能の充実発展を期することにある。そして,目的達成の手段として,情報や資料・印刷物の交換,研究会・研修会等の開催,専門委員会での活動,これらを含めて会員相互の交流などが図られている。
では具体的に,どのような活動をしているのか。まずは,先の総会の内容からその一端を紹介したい。
第57回総会では,総会議事のほか,記念講演として同志社大学の「学びの行動を変え,学習成果を導く環境づくり」と題したラーニング・コモンズの試みの紹介や中級講座として「ヨーロッパ諸国の法情報調査入門」が実施された。また,昼休みの時間帯を利用して,同大学の図書館やラーニング・コモンズの施設見学,法律系資料やデータベースを扱う出版社等によるミニイベントも行われた。中級講座の後には,加盟館の出席者に加え,講演してくださった先生方,展示やイベントに参加してくれた出版社の方々なども交え,交流会を行い,文字通り相互の交流が図られた。
これら行事のいずれも,法律関連の資料や施設を有する機関やその職員であれば大変有益な情報をたくさん得られる場といえるであろう。
こうした総会は,近年では年に1回開催され,3回(年)のうち2回は東京を中心とする東日本,1回は京都や大阪を中心に西日本で行われている(表1)。
回 | 年 | 場所 |
1 | 1955 | 国立国会図書館 |
5 | 1956 | 内閣法制局図書館 |
10 | 1958 | 国立国会図書館 |
15 | 1967 | 中央大学 |
20 | 1977 | 早稲田大学 |
25 | 1982 | 慶應義塾大学 |
30 | 1987 | 国立国会図書館 |
35 | 1992 | 早稲田大学 |
40 | 1997 | 東京弁護士会・第二弁護士会合同図書館 |
45 | 2002 | 大阪大学 |
50 | 2007 | 法政大学 |
55 | 2012 | 國學院大學 |
57 | 2014 | 同志社大学 |
※誌面の都合上,第1回からの5回ごとと直近の開催場所のみ掲載。
※早稲田大学は現在未加盟。
法図連は総会,総会の運営等を行う幹事会のほか,専門委員会を設けており,その1つにビデオ制作委員会がある。
ビデオ制作委員会では,“法情報の調べ方”などの映像コンテンツ制作をはじめとする活動を行っている。また,実際に作成したコンテンツの活用方法などを指南する講習会なども企画・実施している。
1997年に『法学文献の調べ方 判例編』2)をVHSビデオで制作し,2007年には『わかりやすい法情報の調べ方』3)をDVDで制作した。こうした制作過程を振り返ると,法情報を調べるための資料や文献などのコンテンツも制作・提供する媒体(VHSからDVDへ)も時代によって変遷していることがとてもよくわかる。これからは,コンテンツはデータベース等電子資料の比重が大きくなり,制作はオンライン(インターネット)での提供が模索されるであろう。
しかし,現在においても,法学分野において,紙媒体の重要性が非常に高いことに変わりはない。また,2007年に制作したDVD(図1)では,オンラインのデータベースなども紹介しており,7年経った現在でもそこで指南されるリサーチ方法の有用性はまったく損なわれていない。2013年には,同DVDを弁護士会関係にも広報したところ,一定数購入していただいた。ちなみに現在でも商事法務から刊行しており,書店等から購入できる。
制作にあたっては,DVDでいえば,法図連に加盟する大学図書館等で法情報提供サービスを行うロー・ライブラリアン(の委員)が,撮影・編集等の技術的な部分だけを専門業者に依頼し,出演する図書館司書・教員・学生役などもすべて委員自らと委員の知人に依頼し,ストーリー構成やシナリオの作成から始まり,ほぼ手作りで最後まで仕上げていった4)。撮影前後には委員会を開いて集まり,構成や編集の大枠を決めていき,細部はメーリングリストを活用して活発なやり取りをしながら作り上げていった(図2)。
それゆえ,法律資料を専門とする図書館員ならではの視点や細やかな配慮が施された作品といえるのではないだろうか。
DVDの内容は,小田急線の高架化訴訟を題材に,大学生に対して図書館の司書,学生の先生が,いろいろな話をしながら,大学生の抱える法律問題を解決していく中で,法令や判例,辞典,法律文献,データベースなどのさまざまな法情報の探し方をリサーチの流れに沿って指南していくものとなっている5)。ステップを4段階に分けており,各ステップの概要を表2にまとめた。
私にとっては,このDVD制作に携われたことがその後の日常業務をはじめとするロー・ライブラリアンとしての大きな礎となっている。
総会や幹事会,ビデオ制作委員会のほかにも,法図連には定例研究会運営委員会(以下,定例研)や「法図連通信」等編集委員会といった専門委員会がある。
定例研では,毎年「法律図書館基礎講座」(以下,基礎講座)やビデオ制作委員会との共催で,適宜「法情報講習会企画・担当者向け研修」を実施したり,裁判傍聴や刑務所見学なども行っている。
そのほかにも,法図連では,創立50周年を記念した『法律図書館連絡会50年史(1955年-2005年)』6)や『法律図書館ユーザーズマニュアル』(第1版,全訂版)7),8)などの出版物も刊行している。また,Webサイトも開設している注1)。
私が法図連と初めてかかわりをもったのは,定例研の開催する基礎講座の受講だった。そのときは,1つの研修を受講したという印象にすぎなかった。
本格的にかかわりをもつのはその数年後で,ビデオ制作委員会への参加であった。そのとき,委員会では新しく“法情報の調べ方”の映像コンテンツを制作する企画が進みはじめたところで,制作を推進するための新たな人材を探しており,声を掛けていただいた。そして,先輩の委員の方々の法律資料に関する深い見識から多くのことを学び,温かな交流を育みながらDVDを一緒に刊行することができた。
節目節目で法図連を通じて素晴らしいロー・ライブラリアンの方と出会い,交流していくことで自己研鑽(けんさん)を図ることができ,日常業務にも大いに役立っている。
基礎講座を受講した5年後には,自分が今度は基礎講座の講師としてレクチャーするようになれた。ビデオ制作委員会でも,委員となってから3年後には委員長を拝命し現在に至っている。
最近になって,法図連全体の基幹的な役割を担う幹事会の幹事にもなり,先の総会において新規の企画を提案し,イベントを立ち上げた。こうした活動を媒体に知識や経験を非常に多く積めている感触を得ている。法図連の活動を通じて見識を深め,視野や交流を広げられていることは,法情報のインフォプロとして,ライブラリアンとして,大変有益であると感じている。
また,こうした活動に参加してとてもよいことは,そこでの経験を日常業務に還元していけることである。これまでも,法図連で培った知識や情報を日常業務に採り入れてきたが,今後もさらに生かしていきたい。
最後に,法律分野に興味や意欲をもつライブラリアンが活躍できる場が今後もっと増えていくことを願っている。
鈴木 敦(すずき あつし)
中央大学図書館都心キャンパス事務室ローライブラリー勤務。法律図書館連絡会幹事会幹事,同ビデオ制作委員会委員長。法令改正やその運用に携わった経験を生かし,ローライブラリーでの情報リテラシーや選書,レファレンス等に加え,法情報の調べ方等に関する公共図書館その他での講演や各種執筆なども行う。プライベートでは2児の成長を楽しみながら育児にいそしんでいる。