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リレーエッセー
つながれインフォプロ 第26回
市川 美智子榊原 佐知子近藤 千春
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2016 年 58 巻 10 号 p. 778-781

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第22回の本欄で小林隆志氏が「公共図書館は,公共図書館同士の連携だけでは提供しえなかった資料群を専門図書館と連携することで利用者に供することができる可能性が生まれる」「専門図書館の皆さまには,『どうぞ怖がらないで,堂々と全国の公共図書館をサポートする』と宣言していただきたい」「専門図書館と公共図書館の関係強化」と説いていた1)。本稿では,医療情報に関連した連携事例として,「図書館連携による健康支援事業めりーらいん」をご紹介する。業務のヒントとして役立てば幸いである。

「めりーらいん」の始まり

医師等から説明を受けている最中は理解できたつもりでいたけれども,時間がたつにつれ疑問が生じ,自身で調べ直したり,知人に相談したりという話をよく耳にする。最近はインターネットで調べる人が多いようだが,その情報量は膨大であるし,信頼性を評価することは容易ではない。「身近な図書館をもっと活用してほしい。図書館で得た知識や情報を基に,積極的に医療(治療)に参加してほしい」。このシンプルな思いが事の発端である。とはいえ愛知医科大学医学情報センター(図書館)は専門書中心の医学図書館であり,一般市民向けの資料はほとんど所蔵していない。そこで思いついたのが,公共図書館を巻き込むことだった。

2006年秋,愛知県尾張東部医療圏に位置する公共図書館のうち,当館からほど近い4館(尾張旭市立,瀬戸市立,長久手市中央,日進市立)に対し,「図書館の医療・健康情報を整備して一般市民にわかりやすく発信しよう」と働きかけを行った。私立医科大学と4市立図書館という異色の組み合わせにもかかわらず,全館が賛同してくださったことに,今でも大変感謝している。活動にあたり,事業名を「めりーらいん(ME-LI.LINE)」と名付けた。「医療(medicine)と図書館(library)が一本の線で結ばれますように」という願いが込められている。

発起館である当館が事務局を務めてはいるが,専門図書館である当館は裏方で,市民に身近な公共図書館が主役という構造になっている。そのことは,5館が協働で作成しているメディカルパス(調べ方ガイド:1)が,公共図書館の蔵書を中心に構成されていることと,図書・雑誌・Webサイトの探し方や図書館の利用案内を紹介する一般的なパスファインダーの機能に加え,市の相談窓口やサービス,あるいは病院情報など,地域住民の暮らしに密着した情報を提供していることからもおわかりいただけるであろう。

図1 メディカルパス http://www.aichi-med-u.ac.jp/micl/meliline/document/medicalpath25.pdf

一歩一歩

活動は8年目を迎えた。地域における認知度は残念ながら低い。けれども地道な努力が大きな成果を生むと信じて継続した結果,2015年10月現在で26種類のメディカルパスを提供するに至った。メディカルパスに掲載する資料を厳選する経験(2)を重ねることにより,公共図書館の資料の質は確実に向上し,年1・2回のイベント実施(3)も定着したといえる。また,年3回開催している連絡会は勉強会の場として機能しており,館種の異なる互いの専門性を学ぶ機会となっている。おのおのの詳細は割愛するが,関心をもたれた方はぜひ「めりーらいん」Webサイト注1)にアクセスしてほしい。

レファレンスの協力体制が整ったことは大きい。「低酸素脳症の孫の未来が知りたい」というレファレンスが公共図書館に寄せられた際には,当館はもちろんのこと,当館を経由して,こども病院の医学図書室にも調査を依頼し,医学,育児,教育や生活の情報についての,専門書,手記,児童書,市が発行するパンフレット等,さまざまな情報資源を提供することができた。

図書館は医療相談にお答えすることはできないが,複数の情報(選択肢)を提供することができる。情報があるからこそ,医療を提供する側も受ける側も,ベストな方針を決定できるはずだ。

図2 メディカルパスに掲載する図書の選定
図3 介助犬について知ろう!&車いす体験講座(2013年2月24日 於:尾張旭市)

ライフ・デザイン~主体的選択を社会で支える~

この例に限らず,「一歩踏み込んだ」「個別」のレファレンスを受けることは,今後増加する可能性がある。厚生労働省は2015年6月に,少子高齢社会に向けた保健医療の中長期政策「保健医療2035」2)を公表した。キャッチコピーは「2035年,日本は健康先進国へ。」だ。3つのビジョンが示されており,その1つに「ライフ・デザイン〜主体的選択を社会で支える〜」がある。少し長くなるが,内容の一部を抜粋してご紹介したい。

(1) 自ら最適な医療の選択に参加・協働する

・できる限り患者と医師の情報の非対称性を縮小し,患者自らが医療の不確実性も理解しつつ,医療従事者と協働して最適な医療の選択に参加できる基盤を作る(例:医療機関や医師ごとの技術や能力の多様性を患者が理解でき,自分に適したサービスを見出し,選択できる情報基盤と活用体制の整備・情報活用の補助を担うスタッフの育成)。

・これまで,医療サービスの利用者は,健康医療に関わる基礎知識の不足や受け身的な関わり方により,医療への過剰な期待や反応を持つ傾向があった。こうした点を是正するため,学校教育,医療従事者,行政,NPO及び保険者からの働きかけなどによってヘルスリテラシーを身につけるための支援をする。

・また,2035年には死者が毎年160万人を上回る時代注2)であることを踏まえると,「死」の在り方(quality of death)について,一人ひとりが考え,選択することも必要となる。特に終末期(人生の最終段階)について,意思能力のあるうちに事前指示(advance directive)として,自らの希望する医療やケア,療養場所に関して選択や意思表示をできるようにするといった,quality of deathの向上のための取組(望まない医療を受けないことや在宅療養の選択等)を進める。

当事業の連絡会等による学びと,メディカルパス提供やイベント実施は,「保健医療2035」の例にある「情報活用の補助を担うスタッフの育成」や「ヘルスリテラシー注3)を身につけるための支援」に沿った活動の1つととらえることができる。

これからも一歩ずつ

20年後に向けて各機関が今以上に連携を進める中で,図書館が地域医療を支援する機会も訪れるだろう。その日に備えて,めりーらいんの活動を長く継続し,地域に貢献し続けていきたい。

執筆者略歴

左から市川美智子氏,榊原佐知子氏,近藤千春氏

  • 市川 美智子(いちかわ みちこ)

「めりーらいん」と図書業務を主に担当。特定非営利活動法人日本医学図書館協会医療・健康情報委員会委員長。同協会ヘルスサイエンス情報専門員上級。

  • 榊原 佐知子(さかきばら さちこ)

2008年4月から「めりーらいん」チームに加わり現在に至る。主な担当業務は雑誌。ヘルスサイエンス情報専門員中級。

  • 近藤 千春(こんどう ちはる)

2011年,保育士から図書館司書へ転職。担当業務は多岐にわたる。2014年4月から「めりーらいん」チームに加わる。

本文の注
注1)  めりーらいん. http://www.aichi-med-u.ac.jp/micl/meliline/pc/index.html, (accessed 2015-10-25).

注2)  日本の将来推計人口(平成24年1月推計)によれば,2035年の死亡者数は約166万人と推計されている。「保健医療2035」2)より

注3)  ヘルスリテラシーとは,「健康情報を獲得し,理解し,評価し,活用するための知識,意欲,能力であり,それによって,日常生活におけるヘルスケア(医療),疾病予防,ヘルスプロモーションについて判断したり意思決定をしたりして,生涯を通じて生活の質を維持・向上させることができる力」3)である。

参考文献
 
© 2016 Japan Science and Technology Agency
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