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視点
視点 図書館再考
佐藤 和代
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2016 年 58 巻 11 号 p. 849-852

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2015年は図書館に関するニュースや話題が各所で目に留まった。

映画界においては理不尽な検閲から図書館の自由を守ることを題材とした「図書館戦争 THE LAST MISSION」(原作:有川浩『図書館戦争』)が公開され話題となった。

国立国会図書館の納本制度をめぐってのニュースでは,国立国会図書館法や納本制度を,初めて見聞きした方も多いのではないだろうか。

愛知県小牧市においては,図書館業務の民間委託の是非について住民投票が行われ,図書館の運営や選書の民間業務委託そのものにスポットが当たった。

一方,鎌倉市図書館がTwitterで発信した「学校が始まるのが死ぬほどつらい子は,学校を休んで図書館へいらっしゃい。」というつぶやきは社会的にも共感をもって迎えられた。

話題の善しあしは別として,図書館という媒体が,話題となり注目されているのは,「図書館」のもつ機能が変化し,その変化が表面に現れてきたからなのだろう。古くて新しい図書館の機能について,再考してみたい。

変わりつつある図書館学五法則

ランガナタンの「図書館学の五法則」は図書館情報学を専攻する学生は必ず履修する図書館の本質を示した法則である。

  • <ランガナタンの図書館学の五法則1)
  • 第一法則:Books are for use.(図書は利用するためのものである)
  • 第二法則:Every reader his or her book.(いずれの読者にもすべて,その人の本を)
  • 第三法則:Every book its reader.(いずれの図書にもすべて,その読者を)
  • 第四法則:Save the time of the reader.(図書館利用者の時間を節約せよ)
  • 第五法則:A library is a growing organism.(図書館は成長する有機体である)

ランガナタンが五法則を執筆・発表した1920~1930年代から約80年が経過し,社会や環境の変化に伴い,図書館に求められる機能も変化している。2014年にOCLCの研究開発部門であるOCLC Researchが公開したレポート“Reordering Ranganathan: Shifting user behaviors, shifting priorities”では,現在の図書館員が最優先とすべき事項の検証を目的に,五法則の順序変更と再解釈を行っている2)。以下に引用する。

  • <順序変更後の第一~四法則とその解釈>
  • 新・第一法則:Save the time of the reader.
  • 解釈:Embed library systems and services into users' existing workflows.(図書館システムとサービスを利用者の実際の情報行動に組み込め)
  • 新・第二法則:Every reader his or her book.
  • 解釈:Know your community and its needs.(所属するコミュニティとそのニーズを知れ)
  • 新・第三法則:Books are for use.
  • 解釈:Develop the physical and technical infrastructure needed to deliver physical and digital materials.(紙媒体や電子資料を提供する物理的,技術的なインフラを発展させよ)
  • 新・第四法則:Every book its reader.
  • 解釈:Increase the discoverability, access and use of resources within users' existing workflows.(情報行動の中で資料を発見しやすく,入手しやすく,使いやすくせよ)

第五法則は現代でも通じるもので,変更も再解釈もないとしている。

図書館の提供する機能変化

ランガナタンの五法則が執筆・発表された当時,図書館の機能は,①資料の収集,②保管,③整理,④提供を主としていた。それと比較すると新五法則は,資料(情報)の利用を促進するための環境や仕組み作りにシフトしている。加えて,「利用者の実際の情報行動」「所属するコミュニティとそのニーズ」などに表現されているように,その提供するサービスも利用者(群)に対するオンデマンド型に変化していることが理解できる。そして,紙媒体と同時に,電子的な情報へのアクセス手段も図書館が備えるべき標準インフラとして定義されているのである。

インターネットなどの発達により,情報は誰でも入手しやすくなり,ランガナタンの法則にあった「すべての利用者に情報を届ける」ことは比較的容易になった。情報の利用者が拡大するに伴い,現在の図書館のサービスも利用者の属性ごとに細分化され,特化していくのは必然なのかもしれない。

特に,公共図書館は,年齢や職業,目的も異なる多様なユーザーのニーズに応える必要が生じてきている。図書館は「調べる」ための手段の提供だけではなく,「体験」や「楽しむ」場としての機能も求められているといってもよいだろう。それだけに,そのニーズを具現化するためには,収集する資料の選書やレファレンス技能だけではなく,プレゼンテーションやICTに関するスキルも身に付けなければならないのが昨今の図書館員のようである。

新しい図書館の利用法

お茶の水女子大学が2016年度(平成28年度)から実施する新しいタイプのAO入試(新フンボルト入試)において,図書館を使ったユニークな試験を行うようである注1)。この試験では,1次試験においてAO受験者にレポートなどの課題を課し,その成績等を加味して1次選考を行い,2次選考では図書館を舞台に文献や資料を駆使しつつ自分の論をじっくり練り上げる過程を評価する試験となっている。知識量ではなく,知識の応用力を評価することを目的としている。

この試験のスタイルは図書館の新しい利用価値を広げることになるかもしれないと感じている。スポーツ選手にとっては,個々人のもつ技量をフィールドでテストされるのは当たり前と考えれば,図書館を学びのフィールドととらえ,学ぶ技量の腕試しがあってもよいと思う。一方で,その試験を支えるためには,図書館内の資料はもちろんのこと,データベースやそれを使いこなすためのマニュアルまで整備され,利用者が短時間で必要とする情報にたどり着けるようにすべてのツールが組織化されていないと,チャレンジャーである受験生は十分な能力を発揮できないまま試験が終了してしまう。見方を変えれば,ワンストップサーチが可能なように図書館の機能を構成することにより,ユーザーから「結果の出る図書館」と評価を得ることが可能になるのではないだろうか。ことわざに「弘法筆を選ばず」とあるが,プロになればなるほど「筆」にはこだわるのである。

図書館の未来

これまでの図書館に対する社会的評価を「図書館行政」として,過去の経費から観察してみた。社会教育費としての図書館経費はバブル期(1985(昭和60)年~1991(平成3)年頃)およびリーマン・ショック(2008(平成20)年)前を頂点として,約850億円減少し,現在は約2,753億円となっている。一方で,公民館,博物館の経費削減と比較すると,その経費削減の傾きは比較的小さい3)1)。

また,平成23年(2011年)産業連関表の部門別品目別国内生産額表によれば,「図書館(国公立)」は約2,436億円の国内生産額である4)。国民の生涯学習の場の経費としての是非やこの国内生産額の経済効果を述べるだけの知見はないが,地方公共団体の税収が減少し,社会福祉への投資のあり方が問われている社会環境において,図書館への投資は高い比率で行われており,それは社会の図書館に対する期待の反映でもあるのではないだろうか。

それでは,図書館の未来像とはどのようなものだろうか。

公共図書館の民間委託の質については賛否さまざまな意見が出ているが,企業の情報部門で勤務していた経験からいえば,コストの最適化を行う場合には,アウトソーシングも1つの手段と割り切ることも理解できる。

また,2015年から世田谷区立図書館が実施している「図書館カウンター」注2)のようなサービスも図書館サービスの新たなスタイルとして大都市圏では活用しやすい仕組みではないだろうか。情報がオープン化されている現在では,どこの図書館が蔵書として所蔵しているかはすぐに検索できる。スマホの検索結果から閲覧希望を出せば最寄り駅の図書館カウンターで資料が受け取れるサービスは,利用者にとってもフレンドリーであるし,図書館側にとっても資料の利用率を上げることができるといったメリットもある。

公共の施設である図書館の運営をアウトソーシングし,ブックカフェのような形態で運営することが革新であるのか,あるいは一過性の流行となるのかは,数年後の利用者の評価を待つことになるが,創業支援,子育て支援,生涯学習支援など社会が図書館に「調べる」以上の機能を求めていることは間違いない。

新旧図書館学五法則で第五法則「A library is a growing organism.(図書館は成長する有機体である)」は変わっていない。理想論であるかもしれないが,図書館で流通する情報の形が紙から電子に変化しても,または社会的なニーズが変化しても,図書館が社会やユーザーとつながっている有機体として運営されていれば,図書館を中心とした産業連関図が描けるようになるのかもしれない。

図1 施設別社会教育費の推移3)

執筆者略歴

  • 佐藤 和代(さとう かずよ)

1990年アサヒビール株式会社に入社。ライブラリー部門と知財部門を経験し,それぞれの部門で情報調査,知財業務に従事する。2002年7月~2003年7月には経団連レファレンスライブラリーで出向職員として勤務する。2014年9月からアサヒビール(株)研究開発戦略部にて知財業務に従事している。

本文の注
注1)  お茶の水女子大学. 2015年新フンボルト入試プレゼミナール 受講生を追加募集(申込締切8/10, 17:00) http://www.ocha.ac.jp/event/20150713.html

注2)  世田谷区立図書館 図書館カウンター:書架や閲覧スペースがなく,資料の予約,予約資料の貸出・返却を主に行う。2015年12月現在,二子玉川駅,三軒茶屋駅から徒歩5分以内の2か所を設置。 https://libweb.city.setagaya.tokyo.jp/index.shtml

参考文献
 
© 2016 Japan Science and Technology Agency
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