情報管理
Online ISSN : 1347-1597
Print ISSN : 0021-7298
ISSN-L : 0021-7298
リレーエッセー
つながれインフォプロ 第27回
小村 愛美
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2016 年 58 巻 12 号 p. 929-931

詳細

はじめに

saveMLAK1)は,東日本大震災をきっかけに発足した情報サイトで,有志メンバーで構成するsaveMLAKプロジェクトが運営している。“MLAK”とはMuseum(博物館・美術館),Library(図書館),Archive(文書館),Kominkan(公民館)の頭文字であり,このWebサイトを起点に,東日本大震災やその後の災害で被害を受けた社会教育・文化施設の支援活動を行っている。東日本大震災から丸5年を迎える今,saveMLAKのこれまでを紹介し,これからについても記したい。

初期の活動と特徴

saveMLAKは,東日本大震災の発生から間もなく,Twitter上の呼びかけから始まった。当初は図書館・博物館・美術館・文書館・公民館それぞれの関係者が別個に,被災地にある各施設の被災情報を集めていたが,程なく統合して活動を開始した。活動の詳細については,すでに複数の文献2)4)が出ているため割愛するが,以下に2つの特徴を述べる。

まずは,発足当初から被災地に対する情報支援を活動の中心に据えていた点である。具体的には,被災した施設の情報をsaveMLAKのWebサイト上に集約する作業で,これによって被災状況をまず整理・把握することを可能にした。2011年当時は,被災地へ直接支援に赴く図書館関連企業等に有効に活用され,海外の機関にも提供された。また再利用可能なようにデータセットとしても公開されると,その有用性が評価され「Linked Open Data チャレンジ Japan 2011」のデータセット部門最優秀賞も受賞した5)。saveMLAKのWebサイトに集まった情報には,やがて被災施設以外の情報も加わり,「平成24年7月九州北部豪雨」や「平成27年9月関東・東北豪雨」など,その後の災害の情報も追加され,現在では2万5,000件を超えている。

2つめの特徴は,情報支援と同様に被災施設への中間・間接支援を中心に活動している点である。少数のメンバーが現地へ赴き,被災施設のスタッフの話をまず傾聴し,saveMLAKとして行える支援を調整して実行していく。具体的には,全壊した図書館と寄付団体の間を仲介して新施設の建設・開館へつなげたり,オープンソースの図書館業務システムを提供したり,学芸員や図書館員など一定の専門知識がある人を「専門技能ボランティア(プロボノ)」として被災施設に仲介派遣する,などである。ほかにも,公民館の受援者・支援者連絡調整会議に参画,博物館の被災文化財展示の開催を支援,文書館の関連学会での発表や史料ネット等関連団体への協力,などを行ってきた。

この,被災施設の話を聞いたうえで支援を調整する方法を「御用聞き」と呼んでいるが,支援対象の施設とは継続的に「御用聞き」を繰り返し,時間の経過とともに進む復興段階に合わせて,支援内容も変化させてきた。

図1 saveMLAKサイト

日常の運営活動

上述の支援活動を進めるには,日常的な運営にかかわる活動が欠かせないが,saveMLAKの参画メンバーは全国に散らばっているため,多くのICTツールを活用してメンバー間をつないでいる。月に1度のMeetupでは東京・大阪・福岡など複数の会場をSkypeでつないで行っている。Meetupの議事録や支援活動に関する連絡は,約280名が登録しているメーリングリストを使用する。

毎月の活動はWebサイトに掲載するニュースレター6)で発信している。月々の統計から支援活動の報告,イベント開催の広報など詳細に掲載しているので,現在では非常によい活動記録の集積となっている。このニュースレターや施設情報を含め,saveMLAKサイトの全てのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)の下に公開されている7)

そのほか,年次的な活動として毎年6月頃に活動報告会を開催,11月頃の図書館総合展ではフォーラムの開催,ブースやポスターセッションへの出展を行ってきた。その際にはUstream中継やTwitterを活用し,発信と記録の手段としてきた。

復興支援から防災プログラムの普及へ

2012年から取り組み,近年力を入れている活動に「震災訓練プログラムsaveMLAKメソッド」の普及がある。このメソッドは文化施設向けの震災対応シミュレーションで,減災アトリエ8)主宰の鈴木光氏の監修の下,saveMLAKプロジェクトが開発した。現在は図書館向けのものを中心に展開している。訓練を行う図書館に合わせたシミュレーションシナリオを,その都度作成するため,実際に起こりうる利用者層と被害状況を想定した緊迫感ある訓練が行えることが特徴である。

これまでに図書館の研修会などで,このメソッドを使ったワークショップを複数回開催した。またワークショップ開催の機会を増やすため,メソッドを運用できるファシリテーター育成講座を2014年に開催し,12名が受講,成果物も公開されている9)。この後,外部でのワークショップ開催実績は途絶えているが,受講生が各所属先で報告会やワークショップを開催した例がある。

図2 育成講座の様子(CC BY-SA Masao Takaku)

課題とこれから

活動も5年を越え,有志によるボランタリーな運営であるが故に,中核となるメンバーの固定化が課題となっている。この固定化によって個々人の負担が増し,活動の活発さと持続性に影響を与えていることは否めない。たとえば,メーリングリストのメール量の減少,図書館総合展への出展の減少などである。

東日本大震災関連の活動に限っていえば,被災自治体の復興が進み,saveMLAKが支援してきた施設も仮設開館から本格的な再開館へ移行しはじめ,支援の必要性が一段落しつつあるとみることもできるであろう。しかし復興の完了にはまだ長い時間を要するし,「東日本大震災を忘れていない」と表明し続けることは,被災地の人々・被災地外の人々双方にとって意味をもつことであり,saveMLAKが活動を続ける意義はあるであろうと考える。

また,東日本大震災後にも日本各地で多くの災害が発生しており,saveMLAKメソッドなど,将来の災害に備える活動は大きな意義をもつ。

saveMLAKの活動において「細くとも長い支援を」という言葉をよく共有する。前述の課題はありつつも,この言葉を意識しながら,これまでの支援活動とこれからの災害に備える活動を柱として続けていきたい。

執筆者略歴

  • 小村 愛美(こむら いつみ)

2009年,大阪大学附属図書館採用。神戸大学附属図書館を経て,現在は大阪大学附属図書館生命科学図書館にて勤務。saveMLAKの活動には2012年から参加。

参考文献
 
© 2016 Japan Science and Technology Agency
feedback
Top