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京都大学URAネットワークにおける研究資金獲得支援 情報の収集・提供・分析
天野 絵里子岡野 恵子稲石 奈津子今井 敬吾
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2015 年 58 巻 2 号 p. 83-91

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著者抄録

京都大学では,2011年度より研究推進に携わる専門職としてリサーチ・アドミニストレーター(University Research Administrator: URA)を任用し,学術研究支援室と8つの部局URA室,2つのユニット付きURAからなるURAネットワークを構築してきた。URAによる主要な研究推進業務の1つとして研究資金獲得支援があげられる。本稿では,URAネットワークで実施している科研費申請支援,人文・社会科学系(人社系)研究者のための支援,ICTを活用した情報の集約と分析について紹介する。また,支援業務の中で浮かび上がってきた,学内でのナレッジの共有,よりプロアクティブな支援の必要性,人社系研究支援の検討などの課題について述べる。

1. はじめに:京都大学のURAネットワーク

京都大学では,2011年度より研究推進に携わる専門職としてリサーチ・アドミニストレーター(URA)を任用し,URAシステムを整備してきた。現在,本部URAと呼ばれる学術研究支援室(KURA)注1)と,8つの地区の部局URA室,2つのユニット付きURAで合わせて約50名のURAが配置され(1),室同士,URA同士がネットワークとして機能することによって,本学の研究支援の基盤を形成している。このような組織体制は,URAを設置する国内の他の大学に類をみない,ユニークなものとなっている。

部局URA室は,キャンパスを8つに分けた地区ごとに配置されており,その地区にある部局(学部・研究科,研究所,センター等)の研究支援を担当している。主に担当部局の学問分野に近い研究を行っていた人材がURAとして採用されており,それぞれの分野の研究者のニーズに合わせた,きめ細かな支援を行っている。

KURAは,全学的な研究支援活動の企画・実施を担当している。たとえば,研究資金獲得支援の一環として「科研費申請書の教科書」を作成し研究者に配付したり,外部資金公募情報サイト「鎗(やり)」(詳細は後述)を提供したりしている。また,チーム型研究への助成プログラム『「知の越境」融合チーム研究プログラム』(SPIRITS: Supporting Program for Interaction-based Initiative Team Studies)の企画・運用を行っている。さらに,研究者と社会との対話イベント「アカデミックデイ」の開催や,本学の研究者を紹介する英文誌の編集やWebサイトの提供,大学の国際共同研究推進のための国際的な行事や海外拠点の運営なども支援している。

URAは,京都大学の基本理念や全学レベルの目標を実現・達成するため戦略的に配置された。なお京都大学の基本理念の1つは,「世界に卓越した知の創造」である。第2期中期目標・中期計画(2010~2015年度)においては,「教員が研究に専念できる環境整備」「学術・情報資源の充実による研究支援機能の強化」等を研究に関する目標としている。また,2013年に策定された国際戦略「2x by 2020」のもと,KURAの国際戦略部門をはじめ部局URAの主導で協定大学とのシンポジウムの開催やASEAN,EU拠点の運営支援を行っている。この国際化戦略については本稿では詳しく触れないが,大学の国際化を担う人材として,URAの役割は大きい。さらに重要な取り組みの1つとして,文部科学省から補助金を受けて実施されている研究大学強化促進事業がある。2014年度以降,この事業によりKURAの人員は大幅に拡充され,研究力強化に向けて異分野融合研究の促進や国際化,組織・制度の最適化など,「越境」をキーワードにさまざまな取り組みをスピード感をもって推進している(11)

その一方で,国立大学法人である本学へ交付される運営費交付金が年々削減される昨今,科学研究費補助金(科研費)や民間助成財団の助成金など競争的研究資金のさらなる獲得が,個々の研究者の研究推進はもとより,大学の運営のためにますます重要となってきている。研究資金獲得のサイクルは,公募に関する情報の収集と提供,個別の申請支援,資金の獲得状況や研究成果の集約と分析から成る。本学では,URAネットワークや,事務部門の研究推進課および部局の担当部署が研究資金獲得支援を行っており,今後,さらなる資金の獲得と,業務の効率化が望まれている。以下の章では,本学のURAネットワークの研究資金獲得支援について,科研費申請,人文・社会科学系(以下,人社系)に特化した支援,関連情報の集約と分析という3つの側面から紹介しながら,支援に必要な情報の管理や,学内でのナレッジの共有について述べる。

表1 京都大学URAネットワークにおけるURA配置数(2015年2月16日時点)
室名 URA数
本部 学術研究支援室(KURA) 24
部局URA室 北部学術研究支援室 3
本部構内(文系)URA室 3
本部構内(理系)URA室 2
吉田南URA室 2
医学URA室 1
南西地区URA室 4
工学研究科附属学術研究支援センター 2
宇治URA室 3
先端医工学研究ユニット 1
次世代研究創成ユニット 2
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図1 京都大学の研究力強化方針

2. URAによる科研費申請支援

2.1 URAと科研費を取り巻く状況

研究資金獲得にかかわる支援活動は,その獲得を境にして「プレアワード支援」と「ポストアワード支援」に大別される。科研費をはじめとする競争的研究資金獲得支援は前者にあたり,URAの業務における大きな柱となっている。

科研費は政府系の競争的資金の中で件数・額ともに最大のものであり,人文・社会科学から自然科学,基礎から応用までのすべての分野における研究者の自由な発想に基づく研究が採択の対象となる,大学全体にわたる研究費獲得の最大の機会となっている。大学としても,研究者自らが研究費を調達し,また間接経費による収入を得られることは極めて重要である。

研究者にとって科研費は,毎年同じ時期に公募がある安定性と,自身が取り組みたい研究の提案で比較的使い勝手のよい資金を得られる柔軟性から,実質的にこれを運営費の基盤としている研究室も多い。

URAにとって科研費申請において研究者を支援することは,研究者の最先端の研究,彼らが取り組みたいと考えている研究課題に触れられる絶好の機会である。また,支援を通じて研究者との関係構築ができ,科研費以外の支援などにもつながっていく。その結果として大学・研究者にとって前述のような重要性を有する科研費獲得に貢献したと認められれば,それはURAの存在意義を示すことにつながる。そして,研究費獲得,とりわけ間接経費の獲得は,URAの人件費および活動経費拠出の正当性を数値として見せやすい,「URAの成果」の1つとなっているといえよう。

2.2 URAによる情報収集と提供

科研費の獲得支援業務は,大きく「情報収集・提供」と「申請書作成支援」の2つに分けられる。前者は,申請に役立つと考えられる学内外のデータ収集・分析,早期対応の注意喚起,説明会やセミナーの開催,科研費の助成団体である日本学術振興会(JSPS)による公募説明会への参加や公募要領の読み込みから得られた重要事項の伝達,研究者からの質問への対応などから成る。

URAの配置以前も機関全体や各部局等での応募数,採択数,獲得総額といったデータが集められてきたが,今後はURAによる,さらに詳細な調査分析が望まれる。たとえば,研究者からよく出る質問に「どの種目(研究費総額のレベル)に応募してよいかわからない」というものがある。理想的には「自らが行いたい研究プロジェクトの規模に応じて」となるが,業績や分野の動向などの要因も無視できない。また,当該研究者の資金状況から,安全策を取るべきか,あるいは上のレベルにチャレンジしてみるかなどの判断も変わってくる。こうした情報収集は研究者個人には負担が大きすぎる。大学に対しては,科研費の獲得状況を俯瞰(ふかん)し,限りある支援リソースをどこに注ぐべきかの重要な判断材料を,また,JSPSに対しては,制度改善などの提言を行っていく際の根拠となる資料を提供できるであろう。

2.3 申請書作成支援

申請書作成支援においてURAに特に期待されているのは,研究者ないし専門職としてのバックグラウンドをもとに,申請書の研究プロジェクトとしてのストーリーや文章の論理構成に踏み込んだチェックを行うことである。誤字脱字や経費の計算間違い,公募要領に指定されたフォーマットや要求されている記載事項にのっとっているか等のチェックは,URAの配置以前でも事務部門で行われてきた。URAは,申請書全体として一貫し,読みやすく,わかりやすく,審査のポイントを押さえているかどうかを確認し,必要に応じて問題点を指摘し,加筆・修正を提案する。申請書作成支援のスキルは属人的な側面も大きい。申請書が読みやすいか・わかりやすいかの判断はそう難しくないものの,そこからさらに「なぜそうなのか」を分析し,言語化し,他人にわかりやすく伝えて相手から望ましい結果を引き出すのは簡単ではない。また,申請者との面談による対話も,書面に記載されている内容からだけではわからない当該研究の魅力を引き出したり,申請者自身の考えがより整理され新しいアイデアを生み出せたりといった効果の望める重要な作業である。研究アイデア自体の是非を議論することは少なく,URAチェックを経てわかりやすくなった書類を,専門分野の近い他の研究者などに読んでいただき,研究内容をより洗練させていくのが理想的である。

上記のような申請支援に関するナレッジを蓄積し,スキルをもつURAを育成するとともに,研究者自身にも伝授して現在の効果的ではあるが手間のかかる「支援希望者への個別対応」スタイルから離脱していくのも,今後の大きな課題である。ゆくゆくは,大学院生や若手研究者が科研費に限らず申請書の作成について体系的に学べる機会を提供し,添削などにより実践的な教育を受けてから研究者としての道を歩み出していけるようになればと考えている。そのための教材作成にもURAは一役買えるだろう。

3. 人社系研究者のための研究資金獲得支援

人社系研究者にとって,科研費以外に純粋に研究費として使用できる資金源として,民間助成財団の助成金のもつ意義が殊に大きく,研究者からのニーズもある。人社系研究者は,理系に比べると申請可能な府省庁系大型研究費が限られているという背景もある。

文学研究科や人文科学研究所など文系6部局を担当する本部構内(文系)URA室(以下,文系URA室)では,民間助成財団からの研究資金獲得の機会増進を目指し,

1)助成金獲得に向けた情報整備

2)応募ナレッジの共有

3)個別の申請支援

という3段階で助成金獲得支援を行うスキームを試行している。3)個別の申請支援は以前から実施していたが,これにつながる効果的な前段階を考案したものである。

3.1 助成金獲得に向けた情報整備

本学ではURA組織の設置に伴い,研究者が外部の研究資金へ申請する際の申請支援や,外部資金公募情報サイト「鎗」による情報の充実など,申請支援環境や研究資金源情報の整備が進行しつつある。特に公募情報に関しては,URA組織設置以前と比べ確実に利便性が向上したとされる。

「鎗」などによって整備された情報をもとに,部局の教員向けにさらに手を加え,文系URA室で独自に整備したものが「外部資金情報配信サービス」である。まずは,A:外部資金公募情報(「鎗」をベースにそれ以外の公募情報も加えたもの。人社系を対象とした民間助成財団中心)と,B:対象部局の研究者情報(研究科のWebサイト,パンフレット,大学の京都大学 教育研究活動データベース(以下,教育研究活動データベース),KAKEN[科学研究費助成事業データベース]の情報等,既存の情報を集約したもの)をデータベース(DB)化した。そして,定期的に外部資金の公募情報からキーワードを抽出し,DBを検索してマッチした研究者に公募情報を送付する。この方法は,同様のサービスで先行する工学研究科のURA室が採っていた方法を参照し,文系URA室でカスタマイズしたものである。このように他の部局URA室の効果的と思われる先行例に倣って試行できるのも,URAネットワークあってのものである。

3.2 応募ナレッジの共有

情報整備が進む一方で,ある助成財団関係者からはその財団への京大の申請件数は東大と並んで多いが,採択率は必ずしも高くない,という話も聞かれた。そこで現況で必要とされるのは,申請書の質を高め,助成金獲得率を向上させる効果的な方策であると考え,関連する学内の他の部局URA室とKURAとの連携により,若手研究者向けレクチャー「民間助成財団の助成金獲得に向けて」を立案し,実施した(2014年8月27日(水)28日(木)開催。参加者は2日間で延べ約80名)。プログラムは助成財団資料センターのプログラム・ディレクターによる「民間助成財団と助成金獲得に向けての留意点」,財団のプログラム・オフィサーから直接お聞きする「助成財団に教わる情報収集から申請まで」,URAによる「研究計画とプロジェクト・マネジメント」,実際に助成金を獲得した研究者による「助成金獲得の成功例と研究成果のアウトリーチ」といったレクチャーから成り,「研究助成への応募から成果の公開まで」の一貫した流れを効果的に把握できる企画である。

特に今回,助成財団への申請経験の浅い若手研究者をメインターゲットとしたが,若手研究者のみでなく,キャリアのある研究者にも有効な企画となるよう,また,理系・文系を問わず,研究者にとって企画・申請・運営面で役に立つ企画となることも考慮した。特に文系の研究者が理系の計画的なプロジェクト形成,運営を学ぶ機会となることを目指しているのが,本企画の特徴的な点である。

参加者のアンケートからは,助成財団の方々や助成金獲得経験のある研究者の話を直接聞けたことが効果的と感じられたようである。企画側としても,「研究者としてのPDCAサイクルの中で研究費獲得をとらえる」「自分がやりたいことをやるために,どう研究(自分)をマネジメントするか?」といった研究者の話など,企画意図を超えた素晴らしい知見を得ることができた。このようなナレッジを蓄積し,理系よりも確立されていない人社系の研究費獲得支援に生かしていきたい。

4. ICTを活用した情報集約と分析

4.1 京都大学外部資金公募情報サイト「鎗」

「鎗」は,2013年から学内限定で公開されている(2),外部研究資金の公募情報を一元的に管理するWebサイトである。また,そこに集約された情報や,研究者のアクセス状況を分析することによって,今後の研究資金獲得に資する結果が得られる。

従来,本学においては,外部資金情報は,さまざまな部課(大学本部の研究推進・産学連携・国際交流・教務,研究科の事務室等)から,個別に,メールや掲示により学内の研究者に伝達されていた。このため,一覧性・検索性や速報性に欠ける等の問題があった。「鎗」は,研究者による資金獲得の機会を増進することを狙いとして開発された。

「鎗」のWebサイトは,次の機能をもつ。

  • •   締切前の外部資金情報の一覧および検索(キーワード,分野,用途,助成金額等)
  • •   学内の複数の部課からの公募情報の登録
  • •   電子メールによる公募情報の配信

「鎗」の利用状況について,基本的な事項を2に示す。ユニークIPアドレスを合計すると全研究者数の半分以上のアクセスがある。ここで,フロア単位でIPアドレスが変化しうることを踏まえ,サブネット単位での算出などを考慮すると,アクセスした研究者の実数は約1/4~半数とみられる。すでに研究費を獲得している研究者は公募探索の動機が少ないと考えれば,研究費を必要とする大半の研究者が1度は「鎗」にアクセスしていると考えられる。一方これと比較してメール配信の登録数は低く,周知により伸びる余地があると考えられる。

「鎗」に登録されている外部資金の運営元は,省庁・公益財団・企業系に大別される。このうち財団法人系の資金情報の登録数が約半数を占め,もっとも多い。全体として医歯薬・理工系の公募が59%と多く,人社系に限定した公募は全体の約12%である。

また,「鎗」のアクセスを分析することで,研究者がどのような外部資金を求めているのか,その概略を知ることができる。「鎗」は,トップページ・検索結果ページ・公募詳細ページの3つで構成されている。このうち,検索結果ページのアクセス状況は,検索条件指定により大まかなニーズをある程度反映しており,公募詳細ページのアクセスは,本学の教員に人気のある公募,あるいはよく広報された公募がどのようなものであるかを示している。

検索全体の約1/3は,検索条件を指定せず単に最新の公募情報を求めて「鎗」にアクセスしている。検索条件を指定したアクセスのうち,約1/2は理工系と医歯薬・生命系に限定,約1/6は人社系に限定した検索であり,これは本学の人社系教員の概数に近い。人社系においても医歯薬・理工系と同等の資金情報の需要が感じられた。

一方,資金情報へのアクセス数や,ページの参照元(リファラー)から,次のことがわかった。

  • •   公益財団系の資金情報へのアクセスが65%を占め,登録数と比しても多い。本学の研究者は,政府系の資金情報は個別のルートで入手しており,「それ以外に使える資金」を探している教員が「鎗」にアクセスしていると考えられる。
  • •   京都大学教育研究振興財団,稲盛財団の公募情報へのアクセスがもっとも多い。これらは本学とのかかわりが深く,それゆえの知名度の高さがアクセス数に反映されている。
  • •   次に多いのが,医歯薬系の特定の助成情報へのアクセスである。また,参照元を分析すると,医学部の学内サイトからの直接リンク等が多くみられた。公募の需要・供給がともに多い分野であり,他の分野に比して日頃から多くの研究者が公募情報を探しているものと考えられる。

図2 京都大学外部資金公募情報サイト「鎗」
表2 「鎗」のアクセス統計(2014年6月~2015年2月)
アクセス人数(平日平均) 47.8人
一回あたり公募閲覧数 2.6ページ
ユニークIPアドレス(通算) 2,581
公募情報配信メールアドレス登録数 127人

※京都大学の常勤教員数は約3,500人である。

4.2 研究者データベースとの連携

教育研究活動データベース注2)は,本学に所属する研究者の研究活動・講義・資金獲得実績・受賞歴等の情報を掲載しており,本学の研究者に関する包括的なDBである。内容はWebサイトで公開されており,大学から社会一般への情報公開を担っている。このほか,研究推進支援の観点からも,研究者相互および産業界との連携機会の増加,研究力の分析,研究の将来を担う学生の獲得等の観点からも,このような研究者DBの活用が期待されている。

一方,研究成果である論文や書籍の書誌情報は,研究者が自ら手動で入力しなければならないが,多くの研究者が不完全な情報しか入力できていなかった。2014年,教育研究活動データベースの担当部局である情報環境機構は,各部局(研究科・センター等)が発行する年報を,最長で過去10年に遡(さかのぼ)って収集し,記載されている書誌情報等を教育研究活動データベースに入力した。KURAは,データ入力および整形・分類のためのソフトウェアを開発して提供している。

後の利活用を見据え,書誌情報の入力の際にはさまざまな外部DBを参照し,DOI(Digital Object Identifier)をはじめとした多様なID(識別子)を付与した。具体的には,世界最大級の書誌情報のDBであるWeb of ScienceやScopus,PubMed,J-GLOBAL,CiNiiおよび本学の機関リポジトリ KURENAI注3)を参照し,同一と推定される書誌情報をDOIや論文タイトルの類似度をもとに特定し,IDを付与した。これにより,DOIを経由した論文本文等のコンテンツへのリンクが可能になっただけでなく,外部DBとの連携により計量書誌学(bibliometrics)的な分析が可能になった。教育研究活動データベースは論文本文等のコンテンツを提供していないが,KURENAIには本文コンテンツがある。これらを相互にリンクするためのシステム開発も,情報環境機構およびKURENAIを運用する附属図書館との協働で進められている。さらに,著者名をキーに蔵書目録DB,KULINE注4)と連携させることも視野に入れている。図書は特に人社系の研究成果として重要であるため,図書情報がDB間で連携できれば図書館は蔵書目録の新たな価値を学内に示すことができ,URAは,研究力分析に必要なデータをさらに集約し,分析に生かすことが可能となる。教育研究活動データベースは,エビデンスに根ざした支援,また,支援業務の効率化のために今後ますます活用されていくであろう。

また2014年8月より,教育研究活動データベースは一部の書誌情報等について科学技術振興機構(JST)のresearchmapと連携している。研究者は,研究人生のうちで複数の研究機関で活動することが一般的であるが,そのような場合にもresearchmapを経由すればデータを容易に移動させることができ,研究者への利便性も兼ね備えている。

5. おわりに

研究資金獲得支援の成果はURAの評価に直結する要素の1つになりうる。本学では,URAの個別研究者への申請支援によって科研費の採択率が向上したという結果も出ている。しかしながら,厳密な比較対照実験ができない以上,「URAの支援による科研費採択率向上」という効果をはっきりとうたうことは難しい。ましてや全国の大学・研究機関の多くが本格的に科研費支援を行いつつあり,競争がより激しくなる中で明確な結果を出していくのはますます難しくなるだろう。先に述べたように申請書作成スキルをURA間で共有したり,研究者に伝えたりといった,よりプロアクティブな支援も行っていく必要がある。

また,人社系の研究者に対する申請支援に関しては,手法が確立されていないという大きな課題が残されている。本稿では,申請支援のグッドプラクティスの創成と蓄積を目指して,企画・実施したいくつかの支援策を紹介したが,人社系支援はもとより研究資金獲得支援のみではない。まずは支援のベースとなる外部資金獲得支援を固めたうえで,さらに人社系にとってどういった支援が必要で効果的なのか,またどのように当該分野を発展させられるのかということを考えながら支援を実施していきたい。その端緒として,大阪大学・筑波大学・京都大学の人社系URAの企画のもと,「人文・社会科学系研究推進に必要な共通基盤整備を考えよう」をテーマに「第1回人文・社会科学系研究推進フォーラム」(2014年12月22日(月))を開催したが,全国から80名余りのURA,研究支援者,研究者が集いグループディスカッションなどで意見交換し,単体の組織の課題でなく,広く人社系支援に関する問題意識を共有することができた2)。これを契機に今後も継続して開催を検討していきたいと考えている。

本稿では,URAネットワークを生かした研究資金獲得をめぐる情報の管理や,学内でのナレッジの共有について紹介した。研究大学強化促進事業の本学でのキーワードが「越境」であるように,URA自身もそれぞれの専門分野の知識と経験を生かしながら自らの殻を破り,縦割りになりがちな組織の壁を越えて協働を深めつつある。競争的研究資金の獲得は大学レベルでの喫緊の課題であるが,研究支援はそれにとどまらない。情報基盤を活用しながら,URAネットワークと個々のURAの専門性を発揮し,研究力強化に向け取り組んでいきたい。

執筆者略歴

  • 天野 絵里子(あまの えりこ)

1998年より京都大学附属図書館,九州大学附属図書館等で図書館職員として参考調査,学修支援などの業務を担当。2014年より京都大学学術研究支援室でリサーチ・アドミニストレーター(URA)として,図書館と連携しながら研究支援業務を行う。2015年同志社大学大学院総合政策科学研究科博士後期課程修了。博士(技術経営)。

  • 岡野 恵子(おかの けいこ)

2009年University of California, Berkeley, Department of Environmental Science, Policy, and ManagementにてPhD取得。2011年度および2012年度,派遣職員として明治大学にて科研費申請書作成支援業務を専門に担当。2013年1月から2015年3月まで京都大学南西地区URA室。2015年4月より横浜市立大学URA推進室特任助教(URA)。競争的資金獲得支援や国際共同研究契約関連業務などプレアワード支援を主に,海外研究機関との連絡調整や国際シンポジウム開催支援なども行う。

  • 稲石 奈津子(いないし なつこ)

セゾン文化財団にて,プログラム・オフィサーとして助成事業に従事した後,早稲田大学にて21世紀COE・グローバルCOEプログラムの研究支援業務に従事。2013年より京都大学の文系部局(文学研究科,教育学研究科,人文科学研究所,経済学研究科,経営管理大学院,経済研究所)を担当するURAとして,研究者に近い位置で研究支援に努めている。

  • 今井 敬吾(いまい けいご)

2009年名古屋大学大学院情報科学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(情報科学)。2009年同研究科附属組込みシステム研究センター研究員,2010年有限会社ITプランニング ソフトウェアエンジニア。2013年12月より,京都大学学術研究支援室に勤務。これまでWebアプリケーションやスマートフォン向けのソフトウェア開発に従事した。計算機システムによる研究推進支援全般に興味をもつ。

本文の注
注1)  京都大学学術研究支援室. http://www.kura.kyoto-u.ac.jp

注2)  京都大学教育研究活動データベース. https://kyouindb.iimc.kyoto-u.ac.jp/

注3)  京都大学学術情報リポジトリKURENAI. http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/

注4)  京都大学蔵書検索KULINE. http://kuline.kulib.kyoto-u.ac.jp/

参考文献
  • 1)  田中耕司. “京都大学の事例からURAの役割を考える”(研究戦略推進支援におけるURAの役割セッション発表資料). 第4回URAシンポジウム/第6回RA研究会合同大会. 札幌, 2014-09-18, 北海道大学. http://mvs.cris.hokudai.ac.jp/ura_sympo/poster/sessionpresentation/S-16/S-16-3_tanaka.pdf, (accessed 2015-02-27).
  • 2)  大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室URAチーム. “「第1回人社系研究推進フォーラム〜人文・社会科学系研究推進に必要な共通基盤整備を考えよう」開催報告”. 大阪大学URAメールマガジン. 2015-02-27, vol. 17. http://www.ura.osaka-u.ac.jp/uramagazine/vol_017.html, (accessed 2015-03-18).
 
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