Journal of Information Processing and Management
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Information accessibility as the base of the "reasonable accommodation" : In order to deliver information to all persons
Takenori NOGUCHI
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2015 Volume 58 Issue 4 Pages 259-270

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著者抄録

「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」が2016年4月に施行されると,行政機関等の公的機関には障害者への「合理的配慮」の提供が義務化される(民間の企業等は努力義務)。情報面での「合理的配慮」を的確に提供するためには,その基盤となる情報のアクセシビリティ向上に取り組まなければならない。情報のアクセシビリティ向上の取り組みは,古くからボランティアの力も借りながら行われてきたが,現状でもその取り組みは不十分である。情報の発信者は,自ら発信した情報のアクセシビリティの確保に責任をもつべきである。公的機関はもちろんのこと,民間の企業等においても,社会的責任の1つとして自ら発信する情報のアクセシビリティ向上を進めていく必要がある。

1. 求められる情報のアクセシビリティ向上

私たちは,さまざまな情報にアクセスするとき,視覚,聴覚,触覚などの感覚を活用する。これらの感覚を活用することが困難であると,情報へのアクセスも当然難しくなる。視覚などの感覚を活用することが困難なケースとしては,大きく(1)眼などの感覚器官そのものに何らかの障害ないし機能低下が生じているケースと,(2)感覚器官そのものには障害ないし機能低下はないものの,感受した情報の処理プロセスに障害ないし機能低下が生じているケースの2つが考えられる。前者については視覚障害や聴覚障害などであり,後者は知的障害や精神障害,学習障害などである。これらの状態は加齢に伴って高齢者になってから生じることも少なくない。

医学的診断を受けて障害者手帳注1)を保持している障害者と,障害者手帳は保持していないものの「障害による日常生活を送る上での生活のしづらさのある者」を合わせると,視覚障害などの身体障害者366.3万人,知的障害者54.7万人,精神障害者320.1万人の計741.1万人となり,これは国民の約6%に相当する1)。もちろん,これらの人すべてが情報へのアクセスに何らかの困難があるというわけではないが,大半の人が該当すると考えてよいだろう。加えて,高齢になって視覚機能などが低下した人なども合わせれば,国民の1割近くが情報へのアクセスに何らかの困難を感じる状態にあると考えられる。高齢化の進展に伴って今後もこの割合は高まっていくだろう。

こうした現状を踏まえるならば,すべての人が同等に情報にアクセスできるような配慮を官民ともに一層推進することが必要となる。言い換えれば,情報のアクセシビリティを高めることが必要である。

アクセシビリティとは,簡潔にいえば,“アクセスや利用のしやすさ”のことである。日本工業規格「高齢者・障害者等配慮設計指針―情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス―第1部:共通指針」(JIS X 8341-1:2010)では,アクセシビリティを「様々な能力をもつ最も幅広い層の人々に対する製品,サービス,環境又は施設(のインタラクティブシステム)のユーザビリティ」と定義している。ユーザビリティは,同じくJIS X 8341-1:2010では,「ある製品が,指定された利用者によって,指定された利用の状況下で,指定された目的を達成するために用いられる場合の,有効さ,効率及び利用者の満足度の度合い」と定義している2)

情報通信アクセス協議会とウェブアクセシビリティ基盤委員会は,「障害者をユーザ(利用者)として考えると,ユーザビリティは必然的に『アクセシビリティ』につながっていきます。『アクセシビリティ』は,ユーザの中でも障害者(及び障害を持つ高齢者)に焦点を当て,製品利用の効率や満足度よりも,そもそもその製品を利用できるか(あるいは,どの程度利用できるか)どうかに注目します」3)と解説している。

2016年4月に施行される「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」では,障害者に対する「合理的配慮」の提供が行政機関等の公的機関には義務化(民間の企業等では努力義務)されることになっており,情報のアクセシビリティ向上は情報面での「合理的配慮」提供の基盤として急務である。2015年2月に閣議決定された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」では,「障害者による円滑な情報の取得・利用・発信のための情報アクセシビリティの向上等」は「合理的配慮を的確に行うための環境の整備」と位置付け,「着実に進めることが必要」としている。

2. 「障害者の権利に関する条約」と「合理的配慮」

今日の社会政策の基本思想・理念の1つにノーマライゼーション(normalization)がある。ノーマライゼーションは,1960年代にデンマークのバンク-ミケルセン(Bank-Mikkelsen, N. E.)らが提唱したものであり,「障害をもつ人びとが特別のケアを受ける権利を享有しつつ,個人の生活においても社会のなかでの活動においても,可能なかぎり通常の仕方でその能力を発揮し,それをとおして社会の発展に貢献する道をひらく」ということであり,「障害者が他の市民と対等・平等に存在する社会こそノーマルな社会であるという思想」4)である。国連により「完全参加と平等」をスローガンに1981年に実施された「国際障害者年」以降,日本を含む多くの国々でノーマライゼーションは認知度を高めるとともに,各種の政策に取り入れられていった。

では,ノーマライゼーションを実現するためにはどうすればよいのだろうか。まずは,障害者の障害を本人の個人的な問題のみにとどめるとらえ方から,社会の側のバリアの問題へととらえ方の転換を図る必要がある。そうすることで,個人にどんな障害があっても社会のバリアが取り除かれれば,他の人々と対等・平等に社会参加できるようになる可能性が高まるからである。そのうえで,社会のさまざまなバリアを取り除く実践的方法論として,バリアフリー(barrier free)注2)やユニバーサルデザイン(universal design)注3)などが存在する。情報のアクセシビリティを高めるための方法論としても,バリアフリーとユニバーサルデザインは核をなすものである。

2006年12月に国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」(日本政府は2014年1月に批准)は,ノーマライゼーションの実現を強力に後押しする存在であることは間違いない。日本政府は,条約批准に向けた国内法整備として2013年6月に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(2016年4月施行)を制定したほか,既存法令の改正などの対応をとってきた。

「障害者の権利に関する条約」は,「全ての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し,保護し,及び確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的」(同条約第1条)とし,前文と50条の条文から構成されている。

同条約では,基本的な視点の1つとして,障害者への「合理的配慮」の提供をあげている。「合理的配慮」とは,「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し,又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって,特定の場合において必要とされるものであり,かつ,均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう」(同条約第2条)と定義されている。単なる「配慮」ではなく「合理的配慮」としているのは,「均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」という文言があるように,「たとえば技術的・経済的に判断して(要するに合理的に考えて)できうることという意味」5)からである。すでに述べたように,2016年4月施行の「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」では,公的機関には障害者に対する「合理的配慮」の提供を義務づけることになっている。“合理的に考えてできうること”であるにもかかわらず配慮を行わなかったら,「合理的配慮」の提供義務違反になりかねない。今から,どういった対応が可能なのか,各機関内で検討を進めておくことが重要である。

同条約では,第21条に「表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会」を規定していることにも注目したい。同条約では,締約国に対して「表現及び意見の自由(他の者との平等を基礎として情報及び考えを求め,受け,及び伝える自由を含む。)についての権利を行使することができることを確保するための全ての適当な措置をとる」ことを求めており,「この措置には,次のことによるものを含む」とする。すなわち,以下にあげる5点である。

(a)障害者に対し,様々な種類の障害に相応した利用しやすい様式及び機器により,適時に,かつ,追加の費用を伴わず,一般公衆向けの情報を提供すること。

(b)公的な活動において,手話,点字,補助的及び代替的な意思疎通並びに障害者が自ら選択する他の全ての利用しやすい意思疎通の手段,形態及び様式を用いることを受け入れ,及び容易にすること。

(c)一般公衆に対してサービス(インターネットによるものを含む。)を提供する民間の団体が情報及びサービスを障害者にとって利用しやすい又は使用可能な様式で提供するよう要請すること。

(d)マスメディア(インターネットを通じて情報を提供する者を含む。)がそのサービスを障害者にとって利用しやすいものとするよう奨励すること。

(e)手話の使用を認め,及び促進すること。

情報面での「合理的配慮」の提供のためには,まずはこれら諸点に官民ともに取り組むことが大切である6)

3. 情報のアクセシビリティをめぐる歴史

情報のアクセシビリティを高めるための取り組みは,これまでにも,さまざまに行われてきた。情報へのアクセスに困難な人の中でも,とりわけニーズが顕在化しやすい視覚障害者に対する取り組みを中心に主なものを概観したい。

3.1 点字化

視覚の代わりに触覚を活用して情報へのアクセスを確保する方法である。1825年にフランスのルイ・ブライユ(Louis Braille)がアルファベットの点字を考案した。日本語の点字は東京盲唖学校(現在の筑波大学附属視覚特別支援学校)の教諭だった石川倉次が考案し,1901年に官報に掲載された。点字器を用いた手作業での点訳が長く主流であったが,1980年代になると点字プリンターも登場する。なお,明治時代の初期,日本語の点字が考案される以前は,漢字やかな文字の形を紙などに凸状に浮き出させて触ってわかるようにした凸字も用いられていた。

3.2 音声化

視覚の代わりに聴覚を活用して情報へのアクセスを確保する方法である。この方法は洋の東西を問わず家族や周囲の人によって古くから行われてきた。公共的なサービスの1つとして行われるようになるのは,出版物などの文字情報を対面で音声化する「対面朗読サービス」を東京都立日比谷図書館が1970年に開始してからであり,以降,全国の図書館に普及していった。類似の対応は役所の窓口などでも行われるようになっていく。

情報メディアや機器を活用する方法としては,第一次世界大戦後の傷痍(しょうい)失明軍人の読書ツールとして米国でレコード形態のトーキング・ブックが開発されたことに始まる。このトーキング・ブックは,1937年にヘレン・ケラー(Helen Adams Keller)が来日した際,米国盲人協会から日本の中央盲人福祉協会に対して寄贈されて伝わる。日本でも第二次世界大戦中は,傷痍失明軍人の読書ツールとして,その普及が目指されていた7)

1950年代になると,オープンリール形態の録音図書の制作と提供が行われるようになり,その後,カセットテープ形態,さらに1990年代後半からはCD形態のデジタル録音図書=DAISY(Digital Accessible Information SYstem)に移行している8)。また,パーソナルコンピューターや各種電子機器が普及し始める1980年代から,スクリーンリーダーなどのTTS(Text to Speech:音声合成)によりテキストを音声読み上げする技術の開発研究と製品化も進展していった9)

3.3 拡大文字化

主に弱視者を対象に,残された視力を活用して情報へのアクセスを確保する方法である。まず取り組まれたのは,文字を大きく書き写して作る拡大写本という方法で,1968年に山梨ライトハウスで行われたのが最初である。1970年代後半になると,大きな活字で印刷された大活字本を出版する動きも出始める10)。また,拡大読書器を用いることで,出版物などの文字を拡大して読むことも可能となった(日本では1972年に東京都立中央図書館が導入したのが最初)。さらに,パーソナルコンピューターであれば,テキストを拡大することもできる。

3.1~3.3の取り組みの大部分は,歴史的には点訳者や音訳者などのボランティアの力によって支えられてきた。その状況は今なお変わっていない。

4. 情報のアクセシビリティをめぐる現状と課題

それでは,情報のアクセシビリティを高めるための取り組みの現状はどうなっているのだろうか。また,現状から見えてくる課題とは何であろうか。

4.1 出版物

4.1.1 印刷出版物

視覚機能の低下した高齢者を想定した大活字本の出版は増えつつあるが,全般的には出版社による印刷出版物のアクセシビリティ向上の取り組みは低調といってよい。ほぼすべての出版社が民間企業である以上,採算ベースを考慮せざるをえないためであろう。ただし,努力義務とはいえ「合理的配慮」の提供に向けて,アクセシビリティへの関心は今後徐々に高まっていくのではないかと思われる。

なお,現在,出版社が出版しているアクセシブルな印刷出版物の種類としては,点字本や雑誌,大活字本のほかに,点字付き絵本,さわる絵本,LLブック注4)などがある。いずれも,タイトルやジャンルはまだ限られている。

こうした印刷出版物の現状もあり,公共図書館などの図書館が「障害者サービス」注5)の一環として,ボランティアなどの力を借りて,点字本,拡大写本などに複製(変換)して希望する人に提供しているところがある。「著作権法」第37条第3項注6)では,図書館であれば,視覚障害者等のために著作権者の許諾なく前述の行為を行なえるとしている。しかし,規模や人員配置,ボランティア確保などの制約からどこの図書館でも実施できるわけではない。やはり,アクセシブルな印刷出版物そのものが増えることが望ましい。

4.1.2 オーディオブック

米国やドイツなどでは,オーディオブックの出版が一定の市場規模を持っている。筆者らが2014年10月にドイツで開かれた「フランクフルト・ブックフェア2014」において出展していたドイツの出版社にヒアリング調査したところ,各社とも,オーディオブック市場が堅調であると述べていた。ドイツでは「電子書籍よりもオーディオブックが人気」との報告もあり,「ここ12カ月,全人口の7%に当たる500万人近くの顧客がオーディオブックを購入している。現在,ドイツで展開されている事業の中でオーディオブックは最も熱気のある分野の1つだ」という11)

一方,日本では,オーディオブックを店頭で見かけることはほとんどない。1980年代を中心に大手出版社が一般の読者を対象にしてオーディオブックの販売に乗り出したものの,市場を拡大することはできなかった。日本では,印刷された書籍を黙読することイコール読書ととらえる傾向が強いことも影響しているのではないだろうか。ただし,新たな動きとして,大手出版社など16社がオーディオブック市場の拡大を目指して2015年4月に「日本オーディオブック協議会」を設立しており,今後の展開が注目される注7)

以上のような現状から,日本では,視覚障害者等のために,前述の「著作権法」第37条第3項の規定により図書館内で音訳者の手によってDAISYが作られている。なお,DAISYのデータは,現在では,日本点字図書館がシステムを管理して全国視覚障害者情報提供施設協会が運営する「サピエ」注8)や国立国会図書館の「視覚障害者等用データ収集および送信サービス」注9)を通して全国の図書館間で共有化されるようになっている。

4.1.3 電子出版物

2010年に何度目かの「電子書籍元年」を迎え,日本の出版界では電子出版への関心と期待が高まっている。ここでは,電子出版物のうち電子書籍に焦点を絞って述べる。

電子書籍に対しては,印刷された書籍での読書に困難のある視覚障害者等からも熱いまなざしが向けられている。文字の拡大や音声読み上げなどのアクセシビリティ機能を付加することができるからである。ところが,電子書籍のコンテンツ(データ形式),流通・提供システム(電子書店や電子図書館),使用する端末,OS,ビューアー(閲覧ソフト)などによって,利用できるアクセシビリティ機能の有無にばらつきが大きく,その整理も不十分なために,障害者にとってはわかりにくい状況にある12)

データ形式については,本文にテキストデータが含まれる形式のものとそうでない形式のものの2つに大別できる。後者は画像形式の電子書籍であり,電子書籍全体の3分の2を占めているが,TTSによる音声読み上げはできない。一方で,前者は音声読み上げが可能であり,EPUBなどが該当する。アクセシビリティを高める観点からは,前者の電子書籍の普及が望まれる。

流通・提供システムのアクセシビリティについては,公共図書館向けの電子書籍サービスシステムを例に考えたい。筆者らは,2014年に主要システムベンダー4社にアクセシビリティに関してのヒアリング調査を行った13)。その結果は,1のとおりである。

もっともアクセシビリティ機能の高いシステムはベンチャー企業のD社が開発したものであったが,導入実績は1館にとどまる。一方で,業界大手の企業のA社とB社が開発したシステムはほとんどアクセシビリティ機能を考慮していないものであった。A社のシステムは業界シェアがもっとも高く,7割以上を占めている。公共図書館の72%が電子書籍の文字の拡大機能に,62%が音声の読み上げ機能に期待しているとの調査結果14)もあり,公共図書館向けの電子書籍サービスシステムのアクセシビリティの現状はこうした公共図書館の期待とは相反するものとなっている。

端末やOSのアクセシビリティについても筆者らの行った研究の結果から考えたい。筆者らは,2014年にICT利用に慣れた全盲の視覚障害者を被験者として,携帯型汎用端末(スマートフォンやタブレットなど)(1)に搭載されているOSのうちシェアの高いiOSを搭載した端末と,Android OSを搭載した端末を用いて,インターネット上の電子書店で販売されている電子書籍を自立的に検索・購入・ダウンロードして音声で読み上げることができるかを検証した。その結果,いずれのOS・端末でも,すべての電子書籍コンテンツではないものの,検索・購入・ダウンロードしたものを音声で読み上げることはできた。しかし,操作性などで難点が多く,ICTに不慣れな人が自立的にアクセスすることは難しいと思われる15)

電子書籍のアクセシビリティを高めるためには,コンテンツ,流通・提供システム,端末,OS,ビューアーそれぞれにおいてアクセシビリティを高める必要があり,関連事業者間での連携や標準化が急務である。

表1 公共図書館向け電子書籍サービスシステムのアクセシビリティの状況
図1 タブレットでの拡大表示

4.2 公的機関の発信する情報

4.2.1 印刷媒体

私たちの日常生活にとって,市町村役場などの身近な公的機関が発信する各種情報へのアクセスは不可欠である。情報の種類は多岐にわたるが,このうち,重要度が高いと思われる印刷媒体での広報(市町村の広報紙など)と防災情報(「防災ハンドブック」「ハザードマップ」など)のアクセシビリティの現状について,筆者らが2014年に首都圏の市町村を対象に実施した調査注10)の結果からみてみたい。

広報については,2のような現状であった。4割以上の市町村が「音声版(テープ,CD)の作成・配布」を実施している。しかし,次いで多かった「テキストデータ版の作成・配布」や「点字版の作成・配布」は10%台にとどまっている。

また,防災情報の現状については,3のとおりである。もっとも多かったのが「外国語版の作成・配布」で17.2%の市町村で実施していた。言語の種類は英語が多く,次いで中国語,韓国・朝鮮語の順であった。また,「本文の意味理解を助けるピクトグラム(絵記号)注11)の挿入」をしている市町村が12.7%存在した。しかしながら,そのほかは,いずれも10%以下であり,「テキストデータ版の作成・配布」7.6%,「音声版(テープ,CD)の作成・配布」3.2%,「点字版の作成・配布」2.5%,「音声コード(SPコード)注12)の挿入」1.9%,「拡大文字版の作成・配布」0.6%であった。いざという時の生命に直結する重要な情報であるはずの防災情報が障害者や高齢者には十分に届いていない可能性が高く,大きな課題といえる。

図2 自治体の広報紙のアクセシビリティの状況
図3 自治体が印刷媒体で提供する防災情報のアクセシビリティの状況

4.2.2 Webサイト

公的機関が印刷媒体での情報発信とともに力を入れているのがWebサイトでの情報発信である。印刷媒体と同様に,Webサイトで発信する広報と防災情報のアクセシビリティの現状についても,調査した。

広報の現状を4に,防災情報の現状を5に示した。両者には同様の傾向がうかがえる。同一のWebサイト上での情報提供であるので,同様の傾向になるのは当たり前ではあるのだが,広報に比して防災情報の方がアクセシビリティの取り組みをしている割合はやや低めである。

前述の印刷媒体においても広報と防災情報では取り組みに差が見られたが,ここには広報は「広報課」,防災情報は「防災課」や「危機管理課」といった所管部署の違いも大きくかかわっているのではないだろうか。どの部署から発信される情報であってもアクセシビリティを高める取り組みが同じようになされるように,公的機関内での部署間の連携強化やアクセシビリティに関する指針の策定などが求められる。

なお,現在,日本の公的機関では,日本工業規格「高齢者・障害者等配慮設計指針―情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス―第3部:ウェブコンテンツ」(JIS X 8341-3:2010)に基づいてWebサイトのアクセシビリティを高める取り組みを進めつつある。総務省では,公的機関のWebサイトのアクセシビリティを高める取り組みの手順などを示した「みんなの公共サイト運用モデル改定版」を2010年度に策定・公表している16)

すべての公的機関のWebサイトがアクセシビリティを高めるのはもちろんのこと,民間の企業等のWebサイトにおいてもアクセシビリティを高める取り組みを積極的に進めることが望まれる。

図4 自治体のWebサイトを用いた広報のアクセシビリティの状況 
図5 自治体がWebサイトで提供する防災情報のアクセシビリティの状況

4.3 放送番組や電気通信機器など

ここまで述べてきたもののほかにも,放送番組や電気通信機器などのアクセシビリティを高めることも現状ではまだ課題となっている。総務省では,放送番組について,視聴覚障害者向け番組の放送努力義務化,字幕・解説放送普及目標の策定と進捗状況の公表など,電気通信機器について,「高齢者・障害者等に配慮した電気通信アクセシビリティガイドライン」,日本工業規格「高齢者・障害者等配慮設計指針―情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス―第4部:電気通信機器」(JIS X 8341-4)の策定・公表などを通して,民間事業者の自主的な取り組みを促進している16)

5. 情報のアクセシビリティのこれから

発信された情報そのものがアクセシブルなものでなかったとしても,ICTを駆使することで,視覚障害者等が自分でアクセシブルな方式の情報に変換することも可能となった。たとえば,印刷出版物をスキャニングして(いわゆる「自炊」して),TTSで読み上げるなどである。しかし,こうした方法は,それを使いこなせる人にとってはアクセシビリティ向上に資する便利なものとなるが,そうでない人にとっては逆に「情報格差」を生じ,広げることになりかねない。

やはり,情報の発信者自身が自ら発信した情報のアクセシビリティの確保に責任をもつべきである。「障害者の権利に関する条約」を批准し,「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」の施行を目前に控えたいま,このスタンスが大前提とならなければならない。

情報の発信者が公的機関の場合にはまもなく「合理的配慮」の提供が義務化される。しかし,世の中にあふれる多くの情報は民間の企業等から出版,放送,Webサイトなどを通して発信されている。民間の企業等には「合理的配慮」の提供は義務化されていない(努力義務にとどまる)とはいえ,情報のアクセシビリティを全体的に底上げするには,実は,民間の企業等の取り組みいかんにかかっているといっても過言ではない。そのためには,欧米のように,民間の企業等にまで法的な縛りを課すことも一案であるかもしれないが,まずは,各企業等が果たすべき社会的責任の1つとして自ら発信する情報のアクセシビリティ向上を位置付け,努力を進めてほしいものである。

執筆者略歴

  • 野口 武悟(のぐち たけのり)

栃木県生まれ。筑波大学大学院図書館情報メディア研究科博士課程修了,博士(図書館情報学)。現在,専修大学文学部教授,放送大学客員教授。専門は図書館情報学・情報アクセシビリティ。主な著書に『電子図書館・電子書籍貸出サービス:調査報告2014』(共編著,ポット出版,2014年),『特別支援教育研究文献要覧1979~2013』(共編,日外アソシエーツ,2014年)など。

本文の注1)~11)
注1)  身体障害者に対する身体障害者手帳のほかに,知的障害者に対する療育手帳,精神障害者に対する精神障害者保健福祉手帳がある。

注2)  既存のバリアを取り除くこと。

注3)  はじめからバリアを生じないように,また,多くの人が利用可能なようにデザインすること。対象者を障害者に限定するものではない。

注4)  LLブックのLLとはスウェーデン語のLattlast(やさしく読みやすい)の略である。つまり,「LLブック」=“やさしく読みやすい本”という意味である。“やさしく読みやすい本”といっても,小学生くらいまでの子どもを対象としたものではなく,知的障害などのある青年や成人を対象に,生活年齢に合った内容のものを提供しようとするものである。LLブック出版の取り組みは北欧で始まり,日本でも普及が進められている。

注5)  「障害者サービス」を実施する公共図書館の割合は,2010年度の国立国会図書館による調査では66.2%であった(国立国会図書館. 公共図書館における障害者サービスに関する調査研究. シード・プランニング, 2011, p. 5.)。

注6)  「著作権法」第37条第3項の規定は次の通りである。「視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者(以下この項及び第百二条第四項において「視覚障害者等」という。)の福祉に関する事業を行う者で政令で定めるものは,公表された著作物であつて,視覚によりその表現が認識される方式(視覚及び他の知覚により認識される方式を含む。)により公衆に提供され,又は提示されているもの(当該著作物以外の著作物で,当該著作物において複製されているものその他当該著作物と一体として公衆に提供され,又は提示されているものを含む。以下この項及び同条第四項において「視覚著作物」という。)について,専ら視覚障害者等で当該方式によつては当該視覚著作物を利用することが困難な者の用に供するために必要と認められる限度において,当該視覚著作物に係る文字を音声にすることその他当該視覚障害者等が利用するために必要な方式により,複製し,又は自動公衆送信(送信可能化を含む。)を行うことができる。ただし,当該視覚著作物について,著作権者又はその許諾を得た者若しくは第七十九条の出版権の設定を受けた者若しくはその複製許諾若しくは公衆送信許諾を得た者により,当該方式による公衆への提供又は提示が行われている場合は,この限りでない。」

注7)  日本オーディオブック協議会 http://www.otobank.co.jp/top/audiobook-council_press.pdf

注8)  「サピエ」(http://www.sapie.or.jp/)は,日本点字図書館がシステムを管理し,全国視覚障害者情報提供施設協会が運営するDAISYデータなどのネットワークである。

注9)  「視覚障害者等用データ収集および送信サービス」は国立国会図書館(http://www.ndl.go.jp)が提供するDAISYデータなどのネットワークで,注8)で述べた「サピエ」との連携をとっている。

注10)  首都圏の全343市町村を対象に2014年7月から8月にかけて郵送により質問紙調査を実施した。173市町村から回答があり,回収率は50.4%であった。なお,調査結果については,まだ論文化していないが,公益財団法人小田急財団2013年度研究成果発表会(2015年2月24日開催)において「多様な人々がアクセス可能な防災情報提供モデルの開発:首都圏の自治体を対象とした実態調査をふまえて」として口頭報告を行っている。今後,論文化する予定である。

注11)  ピクトグラム(絵記号)とは,本文の意味理解を助けるために挿入されるものである。非常口のサインに用いられているピクトグラムが好例である。日本工業規格(JIS)化されている。

本文の注12)
注12)  音声コード(SPコード)は,2次元コードである(下図)。QRコードに似ているが,SPコードはQRコードよりも情報量を多く収納でき,音声読み上げ装置でコードを読み取らせると,紙に印刷された文字と同じ内容を音声で読み上げることができる。日本年金機構の通知文書などに採用されている。

本文の注12)の画像
参考文献
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  • 13)   野口 武悟,  植村 八潮. 公共図書館における電子書籍サービスの現状と課題. 日本印刷学会誌. 2015, vol. 52, no. 1, p. 25-33.
  • 14)   植村 八潮,  野口 武悟編著, 電子出版制作・流通協議会著. 電子図書館・電子書籍貸出サービス:調査報告2014. ポット出版, 2014, p. 83-97.
  • 15)   野口 武悟,  中和 正彦,  成松 一郎,   植村八潮. 電子書籍のアクセシビリティに関する実証的研究(2):携帯型汎用端末による視覚障害者の自立的な読書の検討を中心に. 人文科学年報. 2015, no. 45, p. 187-199.
  • 16)  総務省. “情報バリアフリー環境の整備”. http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/b_free/b_free1.html, (accessed 2015-04-10).
 
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