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地球環境情報統融合プログラムDIAS データ共有に基づく社会課題解決
北本 朝展川崎 昭如絹谷 弘子玉川 勝徳柴崎 亮介喜連川 優
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2015 年 58 巻 6 号 p. 413-421

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著者抄録

地球環境情報統融合プログラムDIASは,大規模かつ多様な地球観測データを中心に,社会経済データなどとも統融合することで,環境問題など社会課題の解決に有用な情報を国内外に提供することを目的とする。DIASは研究データの基盤システムを構築するだけでなく,基盤システム上のアプリケーション開発を主導するコミュニティを確立している点で,世界的にもまれなプロジェクトである。本稿ではまずDIASの概要を紹介し,DIASが基盤システム,アプリケーション開発,研究開発コミュニティという3つのシステムから構成されることを述べる。次にデータ共有の観点から,データアクセス,メタデータ,データポリシーに関するDIASの考え方をまとめる。そして,DIASが国際的な社会課題解決に貢献した例として,チュニジアを対象に行った気候変動予測に基づく洪水対策の立案に資するデータ統合解析を紹介する。最後にDIASの研究開発における今後の方向性について考える。

1. はじめに

地球規模または各地域の観測で得られたデータを収集し,永続的に蓄積するだけでなく,それらを社会経済情報などとも融合して解析することで,地球規模の環境問題や大規模自然災害等の脅威に対する危機管理に有益な情報へと変換すること。そして,その情報を国内外に提供するとともに,わが国の総合的な安全保障や国民の安全・安心の実現にも資すること。これが本稿で紹介するデータ統合・解析システムDIAS(Data Integration and Analysis System)の目的である。

まず2006年度から,第3期科学技術基本計画における国家基幹技術「海洋地球観測探査システム」の基幹要素として,文部科学省研究委託事業「データ統合・解析システム」の下で第Ⅰ期研究開発が進んだ。そして2011年度からは,同じく文部科学省研究委託事業「地球環境情報統融合プログラム(DIAS-P)」として,高度化と拡張が進んでいる。

国際的な観点からみると,DIASの役割は全球地球観測システム(Global Earth Observation System of Systems: GEOSS)への貢献であり,GEOSSに参加する世界各国のデータセンターとの接続も進めている。またDIASの成果は,科学技術ファンディング機関の会合であるベルモントフォーラムにおける,学際的・超学際的協働に必要な情報基盤(e-Infrastructure)の検討作業において,もっとも包括的な先進事例との評価を受けている。

2. DIASの全体像

2.1 DIASの概要

DIASは地球環境分野における科学知の創造に貢献するとともに,政策決定や産業界との協働企画・協働生産によるアプリケーションやツールの開発や,新たな公共的利益の創出や社会実装による地域問題の解決に資することを目的とする。1はこうした研究開発の全体像と,さまざまなステークホルダーとの関係を図示したものである。

2はDIASを構成する3つのシステムを示す。

  • (1)基盤システム:地球観測データや数値モデル,社会経済データなど,地球環境に関する膨大なデータを効果的に統融合する。
  • (2)アプリケーション開発:科学知の創出および地球環境や社会問題など具体的な問題解決を目的として,データ蓄積や検索,解析,可視化などの機能を基盤システム上に実装する。
  • (3)研究開発コミュニティ:地球環境にかかわる各分野の科学者と情報分野の科学者が,協働企画・協働生産の方針で研究開発を推進する。

これらのシステムが三位一体となって,学際的・超学際的に協働企画・協働生産しながら,社会課題解決志向型の研究開発を進める体制・コミュニティが確立している事例は,世界的にもほとんど類例がないといってよい。そこで以下では,このようなユニークなプロジェクトを実現する3つのシステムについて,システムごとに概観していきたい。

図1 DIASの全体像
図2 DIASを構成する3つのシステム

2.2 DIAS基盤システム

DIASは超大容量データのアーカイブと解析およびシミュレーションを行うため,合計25PBの超大容量ストレージ/解析空間と16コア×120ノード以上の解析クラスタをもつ(2014年9月現在)。また,各地のデータセンターやスーパーコンピューター保有機関との間で高速にデータを転送するため,国立情報学研究所(NII)の学術情報ネットワークSINETにも接続している。

堅牢(けんろう)なデータベースと巨大な解析空間を有するDIAS基盤システム上には,多分野からの莫大(ばくだい)な量の地球環境データが蓄積されているだけでなく,さまざまなデータ処理アプリケーションや解析ツールも用意されている。このような統合的データ基盤を活用することで,異なるデータ間の重ね合わせや関連分析が容易となり,個別研究では見えなかった新たな知やサービスが創出できるとの期待がある。また,ある目的で開発したツールが別の目的に再利用できるようになって,分野を越えた横展開への道も開けてくる。つまりDIAS基盤システムは,成長型のデータベースと解析空間に基づき,コミュニティの中でアプリケーションがスパイラル的に拡張・強化されていく構造を備えているといえる。

2.3 DIASアプリケーション開発

DIASアプリケーション・ツール群とは,科学知の創出および地球環境や地域社会など具体的な問題解決を目的とし,各分野の科学者と情報分野の科学者が協働企画・協働生産しながらデータ蓄積・検索,解析,可視化などの機能を実装した,基盤システム上のソフトウェアやサービスを指す。これらのアプリケーション・ツール群は,地球環境や地域環境に関するデータセットへのアクセスを容易にするだけでなく,ユーザーにとって関心のある時間や空間の範囲を指定する機能なども備えている。

たとえば,地球温暖化や気候変動などの環境問題における基礎的なデータセットである,気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel of Climate Change: IPCC)第5次評価報告書(AR5)における結合モデル相互比較プロジェクト(Coupled Model Intercomparison Project Phase 5: CMIP5)を取り上げてみたい。このデータは巨大かつ多次元であるため,従来は高度なデータ処理技術を要するユーザーしか扱うことができず,環境分野の研究者でも処理に困るというのが実情であった。しかしDIASで開発したアプリケーションを使うことで,時間・空間を指定した将来の気候予測データに対するアクセスと可視化が,どのユーザーでも簡便な画面操作だけで短時間に実行できるようになった。これにより,将来の気候変動予測データの利用が国内の研究機関や行政,民間でも可能となっただけでなく,フィリピンやインドネシア,チュニジアなどの政府開発援助(ODA)での利用を通して,気候変動分野の研究の推進と社会実装への貢献が国際的に広がるようになった。

アプリケーションの対象は,これまでのところ気候変動対策に関連した気象・水文系分野が多いが,今後は生物・生態系分野や,健康,農業,都市など多分野のデータを活用したアプリケーション・ツール群をスパイラル的に増加させ,複合的な問題解決や新しい研究領域の創出へとつなげていくことを考えている。アプリケーションに関するより詳細な情報は「DIAS利用ガイドブック」1)を参照いただきたい。

2.4 DIAS研究開発コミュニティ

DIASでは,情報分野の科学者と各分野の科学者とが議論しながら,研究開発を一体的に推進するコミュニティを形成している。DIAS基盤システムに最先端のICT技術を取り込み続けるには,情報科学者の貢献が不可欠である。一方,地球環境や地域社会の問題解決に実践的に取り組む各分野の科学者や研究機関の協力がなければ,DIASアプリケーションを社会課題解決に役立てることはできない。DIASの研究開発に参画する14機関の約90名が研究開発コミュニティの中心を担い,コミュニティベースの一体的な研究開発を進めている点が,DIASの大きな特徴といえる。

3. DIASにおけるデータ共有

3.1 データアクセス

DIASでは,研究開発コミュニティにおける研究者ニーズの把握に基づいて地球環境データの整備を進めているが,整備したデータやそれを利用したサービスへのアクセスは,研究開発コミュニティの外側にも開かれている。ただし一部を除けば完全にオープンなポリシーは採用しておらず,データやサービスを利用するにはまず利用者登録が必要となる場合が多い。2015年6月現在,システムには約900名を利用者として登録しているが,その内訳は大学・研究機関が約80%,行政機関が約10%である。また国外の利用者は約25%である。

3.2 メタデータ

DIASでは,地上観測データ78,衛星観測データ92,気象予測モデルデータ37,気候変動予測モデルデータ12,その他データ11の計230データを公開しており(2015年6月現在),これらのデータにはすべてメタデータを整備している。基本的にメタデータを入力するのはデータ提供者の役割である。メタデータ入力インターフェースから必要項目を入力すると,メタデータはXML形式で保存され,データセットドキュメンテーションとしてWebサイトでも閲覧可能となる。ただし,メタデータは入力すれば終わりというわけではなく,情報更新や表記統一等の品質管理については,DIAS管理者側の継続的な努力も必要となっている。

メタデータのスキーマとしては,地理空間情報の国際標準として広く普及しているISO19115のコアメタデータを採用し,データセットタイトル,問い合わせ先,地理空間範囲,概要などのメタデータ項目を利用している。また,ISO19115で定義されるメタデータ項目の標準的な意味に対して,DIAS内での運用において意味を詳細化する必要がある場合には,ISO19115メタデータ項目の意味を独自に限定または拡張して運用することもある。たとえば,データ利用規約の場合,DIASでは2つの利用規約,すなわちデータセット限定の利用規約とDIAS全体で共通する利用規約を扱う必要があるため,この2つの意味の使い分けが可能となるよう,データ利用規約に関するメタデータ項目の運用を工夫している。同様に,収録期間,キーワード,データ引用規約,関連Webサイトのリンク集などに関しても,こうした独自の運用を行っている。

これらのメタデータを対象とした検索機能として,DIASでは2つのサービスを提供する。第一に「DIASデータ俯瞰(ふかん)・検索システム」(http://www.diasjp.net/service/datasearch/)は,時空間検索やキーワード検索などの一般的な検索機能に加え,サイエンスキーワード・プラットフォーム・社会便益分野の3つの分類軸からもデータセットを検索する機能を提供する。第二に「相互流通支援ポータル」(http://www.diasjp.net/service/interoperability-portal/)は,DIASが公開するデータセットを対象として,場所・キーワード・人・組織を対象とした索引からの検索を可能とし,さらに関連情報をグラフ構造で可視化する機能も備えている。

こうした検索機能においては,外部データセンターとの連携も重要な課題となる。DIASは研究に必要なすべての地球環境データをアーカイブしているわけではないため,外部データセンターへのデータアクセスが必要となる場合もある。そうしたニーズに対応するため,2015年6月までに3か所の外部データセンターとの連携を開始し,外部データセンターのメタデータをDIASデータ俯瞰・検索システムから統合的に検索する機能を公開した。

外部データセンターとの連携にはいくつかの作業が必要である。第一に外部データセンターのメタデータをハーベストする作業,第二に外部データセンターの多様なメタデータスキーマを,DIASのスキーマと統一的に扱うための作業である。ここで必要となるスキーマの変換については,既存のブローカーカタログサービスを用いて変換する方法,およびセマンティックマッピングに基づくスキーマ変換ツールを個別に構築する方法,という2つの方向で研究を進めている。

なお,DIASデータ俯瞰・検索システムを用いたメタデータ検索の結果から,データをダウンロードするページに移動することが可能である。より詳しい情報は参考文献2)を参照いただきたい。

3.3 データポリシー

DIASのデータポリシーは,データ提供者の要望を優先したものであり,特定のデータポリシーの推奨は行っていない。また基盤システムにログイン機能を設けることで,データ利用規約や引用規約への同意を経たデータアクセスを提供するとともに,データ提供者が求める場合には,個別のデータ利用者からの利用申請に対する許可をデータアクセスの条件とする仕組みも導入している。このような利用申請は,データ提供者がデータの修正情報をデータ利用者と共有し,より安心してデータを利用できる環境の実現を目的としたものである。

近年のオープンサイエンスに向けた潮流の中で,よりオープンなデータアクセスへの要求が強まる傾向もあるが,DIASにはさまざまな背景をもつ研究データが蓄積されているため,一様にオープン化を進めることは困難である。研究データ特有の背景を考慮した多様なデータポリシーのモデル化は,オープンサイエンス時代における重要な研究課題になると考えている。

4. データ共有に基づく社会課題解決

4.1 社会課題解決

DIASにおける社会課題解決の例として,地球温暖化や気候変動に起因する環境問題の解決に向けた,国際的な取り組みを紹介する。

DIASでは,アジア水循環イニシアチブ(Asian Water Cycle Initiative: AWCI)の下で,アジア18か国の行政機関,研究機関と協働して,将来の気候変動予測データとその解析システムの共有を実施してきた。将来,アジア各国で雨の降り方がどう変化し,それによって洪水や渇水頻度がどう変化するかを解析し,将来の流域水管理計画の立案に資する情報を提供することが目的である。以下に具体的な手順を示す。

  • (1)各国でデモンストレーション流域を選定
  • (2)流域における長期の気象・水文データを収集
  • (3)水循環流出モデル(WEB-DHM)を用いたシミュレーション技術を開発
  • (4)対象地域に適した気候変動予測データを選定し,誤差(バイアス)補正方法3)4)を開発
  • (5)気候変動影響評価のためのデータ統合解析システム講習会を開催

すなわち,研究地域と対象を定め,地上観測・衛星観測・気候変動予測などの多様なデータを収集し,それらを対象としたデータ統合・解析技術を開発し,確立した技術を地域に還元する,という流れである。同様に,アフリカ水循環調整イニシアチブ(African Water Cycle Coordination Initiative: AfWCCI)の下でも,気候変動適用のための解析をアフリカ各国の行政機関,研究機関と進めている。

このように,アジアでは2005年以来,そしてアフリカでは2009年以来,地球観測を効果的に用いた洪水・渇水対策,水環境の改善,気候変化への適応に関するシステム開発や能力開発プログラムを展開してきた。そして2013年11月には,AWCIとAfWCCIの関係者約200名(3)が一堂に会する「アジアーアフリカ水循環シンポジウム」を東京で開催することで,アジア・アフリカの水問題をステークホルダーと一緒に考え,知識や経験を共有し,統合的な水資源管理と河川流域管理に向けた議論を深めることができた。

以下では,アフリカでの国際的な協働に基づく社会課題解決の例として,チュニジアの洪水流出解析と気候変動影響評価に関するプロジェクトをケーススタディーとして紹介する。

図3 アジアーアフリカ水循環シンポジウム参加者の集合写真

4.2 チュニジアプロジェクト

4.2.1 目的

チュニジア共和国はアフリカ大陸北部に位置し,長い間水不足による渇水に悩まされてきた一方で,近年は集中豪雨も頻発している。中でも2003年1月に発生したメジェルダ川の大洪水では,10名の死亡者と2万7,000人の避難者が発生したほか,湛水(たんすい)が1か月以上も続く事態となったため,農作物,家屋等への被害に加え,交通遮断など社会的・経済的にも甚大な損害が発生した。このような大規模洪水は,持続可能な開発を達成するうえでのリスク要因の1つとなっている。

そこで,東京大学は国際協力機構(JICA)の要請を受け,2012年に「気候変動影響を考慮した統合流域管理・洪水対策検討調査」を実施した。この調査は,メジェルダ川流域における洪水流出解析と,将来の気候変動による雨量・洪水パターンへの影響評価を目的としており,調査のさまざまな段階においてDIASを活用することとなった。

4.2.2 データ解析

第一に,メジェルダ川流域における1950年1月~2007年12月の長期の観測雨量データや気温,河川流量を入手し,フォーマットの整形および品質管理を経てデータを基盤システムに投入した。第二に,DIASにアーカイブしているデジタル標高データ(Digital Elevation Model: DEM)・地質・土壌・土地利用特性データや衛星観測データを用いて,メジェルダ川の流域特性をコンピューター上で再現した。第三に,水の流れを計算するモデルの構築支援を行った。第四に,このモデルに対して,DIASにアーカイブしている気候変動予測モデル(CMIP3)データを入力できるようにした。ただしこのデータを入力するには,出力要素や間隔,カレンダー,単位などが不統一の複数のデータを対象として,簡単な入力とマウス操作のみでデータの選択と誤差補正が高速に実行できるアプリケーションの開発が必要となった。そこで,大容量のディスク空間において,これらのデータを統融合解析するアプリケーションを開発し,高速かつ正確で高度な解析を効率的に進めることのできるシステムを実現した。

4.2.3 成果

過去57年間の雨量データ解析と流量解析を実施することで,メジェルダ川流域における河川改修計画に利用する雨量や水位(計画降雨,基本高水,計画洪水流量)を設定した。また,将来の気候変動の影響評価を行うことで,メジェルダ川流域では渇水の傾向が明瞭に生じることを示した。一方,豪雨や洪水については,データセットによって増加と減少の両方の傾向がみられ,CMIP3データの不確実性による影響が大きく現れることを示した。そして洪水の流下時間を考慮したダムの最適操作モデルを構築し解析することで,渇水対策と洪水対策とを両立させるために有効な方法を示した5)

DIASによるこれらの検討・解析結果が評価され,2014年7月17日に,「メジェルダ川洪水対策事業」の円借款貸付契約がJICAとチュニジア政府との間で結ばれ6),DIASの成果が国際貢献に大きく寄与することとなった。

5. おわりに

DIASは,地球環境情報の観測から,検索,解析,アーカイブ,共有まで,研究データのライフサイクルに全面的にかかわる研究活動を展開している点に特徴がある。データの観測やデータの管理などに特化した基盤システムには類例があるが,DIASのように基盤システムとアプリケーション開発と研究開発コミュニティが一体化したプラットフォームは類例がほとんどなく,ゆえに超学際的な研究データ共有のための1つのモデルになりうるといえる。

超学際的な社会課題解決という文脈では,学術研究の枠を超えて市民や行政・民間企業とも協働しながら,社会課題の解決策をともにデザインしていく姿勢も重要となる。たとえば,DIASは市民が参加してデータを収集・分析する活動,いわゆる市民科学(シチズン・サイエンス)に沿った活動も展開している。「セイヨウ情勢」(http://www.diasjp.net/service/seiyou/)では,市民参加型の外来種防除活動を北海道で展開しながら,外来種の分布状況を数年にわたってモニタリングしてきた。「いきモニ」(http://www.diasjp.net/service/ikimoni/)では,市民参加による生き物モニタリング調査を東京や北海道などで展開しながら,蝶(ちょう)などの種の分布に関するデータの収集と分析を続けている。こうした活動は,研究者だけでは不可能な多地点でのデータ収集を可能とするだけでなく,研究者と市民とが対話しながらデータと知識を共有することで,市民自身も勉強を通して知識を深めつつ,社会課題解決にともに参加する道を開く,という点にも大きな意義がある。さまざまなステークホルダーが社会課題への理解を深め,互いに力を合わせて解決に向かうには,こうした超学際的なデータ共有が不可欠な役割を果たすと考えられる。

このようにデータを基盤とした研究が多分野で活発化するにつれ,研究データの重要性に対する認識が高まるのと同時に,研究データに対する要求も高度化しつつある。そうした時代の要請に応えるには,研究データを提供する基盤も継続的に改善していくことが重要である。その1つの例として,DIASはジャパンリンクセンター(JaLC)が進める研究データへのDOI登録実験プロジェクトに参加し,研究データへの標準的な識別子(DOI)の付与に向けた検討を進めてきた。DOIなどを活用することで,データ提供者の努力に正当に報いるデータ引用の文化を普及させることは,研究データを長年にわたって蓄積してきたDIASにおいても本質的な課題である。

チュニジアのプロジェクトで紹介したように,データを根拠とした政策的な意思決定は,将来の災害の軽減などに決定的な役割を果たすものである。とはいえ,基盤システム・アプリケーション開発・研究開発コミュニティへの十分な投資が継続しなければ,こうした活動を長期的に維持していくことは困難である。学術界と社会とが共創しながら価値を生み出す超学際的な世界において,データを社会課題解決につなげる先駆的な事例としてDIASが社会に不可欠な役割を果たしていることが,本稿を通して少しでも伝われば幸いである。

謝辞

本研究は,文部科学省 地球環境情報統融合プログラム(DIAS-P)の支援を受けたものである。

執筆者略歴

  • 北本 朝展(きたもと あさのぶ)

国立情報学研究所コンテンツ科学研究系准教授。東京大学工学系研究科電子工学専攻修了。博士(工学)。大規模な実世界データから価値を創出する研究に興味をもち,地球環境データや災害データから人文科学データまで,幅広い分野におけるデータ統合・解析に取り組む。

  • 川崎 昭如(かわさき あきゆき)

東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻特任准教授。DIASの活用による公共的価値の創出およびその社会実装の促進,持続的運用が可能な実施体制の構想の取りまとめにかかわる。特に,水循環および水関連分野(環境・災害・経済)のデータ統融合と分野間連携による水問題解決の実践に関する研究に従事。

  • 絹谷 弘子(きぬたに ひろこ)

東京大学地球観測データ統融合連携研究機構特任助教。DIASが対象とするデータのメタデータの設計,システム構築,運用管理を担当する。DIASの情報基盤部分,特にユーザー管理,データ公開,データセンター間連携にかかる運用全般の窓口となる。

  • 玉川 勝徳(たまがわ かつのり)

東京大学地球観測データ統融合連携研究機構特任研究員。DIASのアジア,アフリカ地域における地上観測データ管理を担当する。また,国内においてはDIASでアーカイブするデータの関係省庁やプロジェクト研究者との窓口を担当している。

  • 柴崎 亮介(しばさき りょうすけ)

東京大学地球観測データ統融合連携研究機構機構長,空間情報科学研究センター教授。研究面ではDIASを利用した社会経済情報,人口情報の解析などを担当し,衛星観測データや衛星測位によるリアルタイム測位サービスなどを利用しながらアジアやアフリカ地域への展開を推進している。

  • 喜連川 優(きつれがわ まさる)

国立情報学研究所所長・東京大学教授。1997年東京大学生産技術研究所教授。2010~2013年東京大学地球観測データ統融合連携研究機構機構長。2013年国立情報学研究所所長。2013年6月~2015年5月情報処理学会会長。2009年ACM E. F. Codd Innovations Award受賞。2012年IEEE Fellow,同年 ACM Fellow,2013年紫綬褒章。

参考文献
 
© 2015 Japan Science and Technology Agency
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