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Vol. 58 (2015) No. 6 p. 438-446

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http://doi.org/10.1241/johokanri.58.438

変体仮名のこれまでとこれから 情報交換のための標準化

著者抄録

変体仮名は平仮名の異体字であるが,現代の日常生活ではほとんど用いられていない。しかし,1947年以前には命名に使われ,戸籍など行政実務において変体仮名の文字コード標準化のニーズがある。一方,日本語文字・表記史や日本史学の学術用途においても,変体仮名をコンピューターで扱うニーズがある。そこで,活版印刷やデジタルフォントから集字し,学術情報交換用変体仮名セットを選定した。このセットには,変体仮名の機能的使い分けを表現するため,同字母異体も収録した。行政用途の変体仮名と合わせ,2015年10月にISO/IEC 10646規格への追加提案を予定している。

1. はじめに

国際文字コード規格であるISO/IEC 10646(Unicode)は,現時の世界諸言語の文字の収録がほぼ終わり,収録の対象が歴史的文字に向けられている。変体仮名もその1つであり,2009年にオランダの個人より,文化遺産的見地とオリエンタリズム的興味から,国際文字コード規格へ追加提案がなされている。

一方,日本国内において,コンピューターで変体仮名を扱いたいとする要望は根強くあり,メインフレームの時代から,ベンダー各社は規格外字として変体仮名を保有している。用途は人名表記(主に女性の名前)の行政処理である。そのため行政用変体仮名の国際文字コード規格への追加提案の動きも起こっている。

文化遺産としての継承と,行政処理での実務のほかに,コンピューターで変体仮名の利用を望む学術的要請もある。筆者の調査では,日本語文字・表記史研究での仮名字体の記述と,日本史学における一部の古文書翻刻(ほんこく)注1)で,変体仮名の文字コード標準化が望まれている。しかしながら,このような学術的要請を満たす変体仮名セットはまだないため,まずは変体仮名セットを選定することが必要である。

本稿では,そもそも「変体仮名」とは何かを解説し,変体仮名と文字コードのこれまでの歩みを概観し,学術情報交換に必要な変体仮名の選定方法と整理方法を述べる。

2. 「変体仮名」とは何か

現代の一般的な日本語表記では,仮名遣いの問題にかかわる,ハ/ワ,エ/ヘ,オ/ヲ,長音などをいささかの例外として,1つの音価に対して,平仮名としてはただ1つの字体のみが対応する体系が採られている。

しかしながら,このような表記法が一般化したのは,9世紀後半以来と考えられる平仮名の歴史の全体からすれば,ごく最近のことにすぎない。19世紀最末期までの約千年間にわたって,1つの音価に対して複数の字体を併用するのが平仮名の通常の在り方であった。「変体仮名」という言葉は,文字・表記史研究の世界においては,そうした複数字体を併存させる平仮名体系の在り方を指して使われたり,あるいは現在われわれが使っている1音価1字体の平仮名字体(これを「現行字体」という)以外の字体群を指す名称として使われたりする。以下では「変体仮名」を,後者の字体群を指す名称として話を進めたい。

長らく使われてきた「変体仮名」が,一般的な日本語表記から退場することになった大きな転換点は,まさに世紀の境目,1900(明治33)年に到来した。その年,時の文部省が,第3次「小学校令」(勅令第344号)の改正公布に伴って,初等教育の教授方法についての指針として定めた「小学校令施行規則」(文部省令第14号)の中で,「教授用仮名及び字体」として,小学校で教授されるべき平仮名字体を1音価1字体に定めた(第16条および第1号表)のである。これが先に述べた「現行字体」となった。

この規則自体は,あくまでも初等教育にかかわるものであって社会一般の日本語表記の在り方を規制したものではなかったし,さらに1908(明治41)年の文部省訓令第10号(「小学校令施行規則中教授用仮名及び字体,字音仮名遣並びに漢字に関する規定削除の趣旨」)によって,漢字の音読みの語の長音を「ー」で表記することとした,いわゆる「棒引き仮名遣い」などとともに,廃止されているから,現代においても,命名を除けば,変体仮名の使用を禁ずる根拠は何もないのである。

しかし,教育行政・法令以前に,すでに1887(明治20)年以降には,活版印刷の世界で変体仮名の使用が顕著に衰退しており,「小学校令施行規則」はそうした現状を後追いするものであったというのも事実であって,それが廃止されてもまったく大勢に影響を与えることなく,変体仮名はその後も日本語表記の多くの場面からは姿を消していくのである。現代において,変体仮名を読み書きできないことが社会生活の障害となることは,まずない。

ただし,それで変体仮名が完全に過去のものとなったかというと,そうともいえない。細々と使用が継続された面はあって,たとえば,第3次「小学校令」以降に教育を受けた世代である,戦後を代表する作家・三島由紀夫でも,その創作ノート等には多少の変体仮名を使用していることが見てとれる。そうした,変体仮名時代の名残の中に生きた世代を親とする人々,特に女性が,名前に変体仮名を使っていることがあるのはそのためでもある。さらに現代でも,和風の店舗の屋号・商標などに変体仮名が使用されることもあって,なお日本の文字文化の一端を担い続けている。

さて,平仮名が1音価1字体の体系へと脱皮したことは,情報伝達記号の合理化という点からすれば,至極当然のことと思われる。しかしそれならば,なぜ平仮名ははじめからそうした体系を取らなかったのだろうか,そしてその後も字体の整理は千年にもわたって進まなかったのだろうか。次にはその点について考えておきたい。

平仮名の起源は万葉仮名にある。万葉仮名とは,「形・音・義」の三要素を具有する文字である漢字の「義(=意味)」を捨象し,「形・音」のみを利用して日本語表記の手段としたものである。本来なら当然「義」の違いによって使い分けられるべき同音字・類音字は,万葉仮名としてはどれも等価なものとなる。その中からいずれか1字のみを選択するというような統一的な規制は前近代にはなしえなかったから,結果として万葉仮名では1音価に多くの用字が乱立することになる。平仮名は母体である万葉仮名のその性質を受け継いで,1音価複数字体の体系を取ることになったのである。実は,万葉仮名においても,その用途が広がるにつれて,使用する字体を次第に整理していく傾向にはあったのだが,それが完了する以前に,字形を崩すことで漢字と視覚的に差別化をはかる平仮名の発達が進行したということでもあった。

そしてまた,平仮名が生まれたのがその後約300年間にわたって比較的安定した社会体制が保持された平安時代の前期であったことも,その後の在り方を決定づける要因となった。一般的にみて,ある言語圏の識字構造に大きな変化が訪れるのは,社会変革の時期である。必要に迫られることで識字層が拡張するとともに,新たな使用者に適応して文字記号の合理化が進行する。ところが平仮名の場合,その誕生以降,長らく社会の安定期が続いた。そこでは情報記号としての合理化は進行せず,美的成熟にエネルギーが向けられた。平仮名字体は合理的に整理されることなく,むしろ増加されていったのである。

しかし,複数の記号があれば,何らかの機能分担をさせようとする意識が働くのも当然であって,またそれは,書き手の立場からしてみれば,同一音価の複数字体を戸惑いなく使いこなすための指標としても必要なものであった。そうした変体仮名の機能的使い分けに関しては,日本語文字・表記史研究において,これまでに数多くの事例が報告されている。たとえば,以下のようなものである。

(1)特定の語を特定の仮名字体によって表記する1)


(2)語頭/語中語尾/助詞,等の区分によって仮名字体を使い分ける2)4)


(3)同音節が隣り合う場合に,仮名字体を使い分ける(隣接回避)。

さらに,中世以降には,仮名字体の違いを音価の区別に利用する例も起こった。

(4)音価の区別を仮名字体によって表記し分ける5)7)


変体仮名の使用が一般的でなくなって以降,古典文学の翻刻であっても,現行の仮名字体のみで表記することが一般的になったが,変体仮名にこのような用途があることからすれば,それは原本がもっている重要な情報を取りこぼしている可能性が大いにあることがわかるであろう。しかも,(4)の直音-拗音(ようおん)の例でわかるように,そうした重要な情報伝達機能は,われわれにとっても別の字体と認識しやすい異字母から発した字体の間でだけではなく,字母の同じ仮名字体(この場合ともに「由」)の間にも観察されるのである。

次にあげるのは,江戸時代の噺本(はなしぼん)の例だが,われわれにとってはまったく同じようにも見える2つの「と」が,落とし噺のオチを示すという要の役割を担っている例である1)(句読点は筆者が補った)。


つまり,謡曲「井筒」の歌詞は「紀有常の娘と契り」であるのに,粗忽者が「紀有常の娘『とちぎり』」というように,「とちぎり」が名前だと勘違いしてそれを娘に付けた,という笑い話である。この噺には4度「とちぎり」という文字並びが出てくるが,初めの3回は語頭を表す仮名字体で書いて,珍妙ながらも名前であることを示しているが,最後は助詞を表す仮名字体で書いて,正しくは「と契り」なのに,というオチを導いているのである。これもまた,たとえ同じ字母から発していても,前近代の日本語表記のシステムの中では,変体仮名の使い分けが情報伝達に重要な機能を担う場合があったことを,よく表した事例である。

3. 変体仮名と文字コード

日本国内の文字コード規格には,JIS X 0208,JIS X 0212,JIS X 0213などがあるが,いずれも変体仮名を収録していない。しかし,最初の国内文字コード規格であるJIS X 0208(当初はJIS C 6226)が制定された1970~80年代には,メインフレームを扱う国内ベンダー各社は,固有文字(いわゆる外字)として,独自の拡張文字セットに変体仮名を収録していた。ベンダー各社のコードブックを参照すると,富士通は168字(『FUJITSU JEF 文字コード索引辞書』,1980年による),日本電気は152字(『日本電気標準文字セット辞書<拡張>』,1983年による),日立製作所は152字(『HITAC文字パターン辞書/コードブック』,1987年)を収録していることがわかる。変体仮名の拡張収録は,人名処理の実務用途を満たすためのものと推測される。

人名表記での変体仮名の扱いは,1948(昭和23)年1月1日施行された戸籍法施行規則第60条に定められている。第60条は子の名付けに使うことができる文字についての規則である。仮名については「三 片仮名又は平仮名(変体仮名を除く)」とあって,1948年1月1日以降の名付けには片仮名と平仮名を用いることとしている。そして,この条項から,1947年12月31日までは変体仮名の使用制限がなかったことがわかる。変体仮名を名にもつ1947年出生の人物ならば,2015年現在67~68歳である。戸籍法施行規則第5条では,除籍簿の保存期間を150年と規定しているので,戸籍行政では向こう約200年間,変体仮名をサポートし続けなければならないのである。

電算化戸籍で使用できる文字セットとして,法務省民事局は戸籍統一文字(平成16(2004)年4月1日付け法務省民一第928号民事局長通達)を定めている。戸籍統一文字には168字の変体仮名が収録されている。前述のベンダー固有文字に類似するレパートリーであり,メインフレーム以降,行政処理実務で使われていた変体仮名が,おおむねそのまま戸籍統一文字に収録されたものと考えられる。戸籍統一文字は人名を行政システムで処理する基盤と位置付けられるため,行政用途から変体仮名の文字コード標準化の要望が起こることになった。

では,これまでの文字コード標準化の中で,変体仮名はどのように扱われてきたのだろうか。かつて,国内文字コード規格の改定時において,変体仮名の追加収録が検討されたことがある。JIS X 0213:2000規格票8)の解説(p. 512)には,変体仮名の収録を断念した経緯が記されている。以下に引用する。

 ※JIS X 0213:2000の解説
 4.4.5 変体仮名 変体仮名は,少数例ながら,書道の教科書などから採取され,採録の要望も出されていた。
 しかしながら,文字セットとしての変体仮名のレパートリの確定が非常に困難であると判断されたことと,採取例などに基づき,幾つかの変体仮名を追加することを想定した場合でも,“図形文字として十分に同定可能な安定した字形を示すこと”,“変体仮名とそのもとになった漢字の草書体とを明確に区別すること”などが困難であり,採録規準を満たせないと判断されたことから,変体仮名は,採録しないこととした。

この記述から,変体仮名の文字コード標準化に際しては,仮名として標準的な,あるいは代表的な字形を設定しなければならないことがわかる。

一方,国際文字コード規格ISO/IEC 10646では,2009年2月に変体仮名の追加提案が行われている(WG2 N3698)。漢字検索ソフト「今昔文字鏡」収録の変体仮名213字が提案文字セットであり,オランダの個人による提案である。当時,ISO /IEC 10646を所管する国際委員会から日本(情報処理学会情報規格調査会に設置されたSC2専門委員会)に対して,この提案に対する意見が求められた。日本は,戸籍などの行政処理実務で変体仮名の文字コード標準化の要望があるが,高度電子政府に利用する文字情報基盤については検討中であると回答した。そのため,ISO /IEC 10646への変体仮名追加の審議は中断されている。

4. 学術情報交換用変体仮名セットの選定と整理

一般に,文字コード標準化のための文字セットは,解釈に揺れのない安定した集合で,かつ,多数の使用者が合意できる集合でなくてはならない。日本語文字・表記史研究や日本史学(古文書学)を中心とした学術用途であっても同様である。とりわけJIS X 0213:2000規格票で指摘されるような「図形文字として十分に同定可能な安定した字形」が,研究者間で合意できる水準にあることと,それらを集合の要素としたレパートリーが,日本語文字・表記史研究や日本史学(古文書学)の用途を満たすことが重要である。

そこで,学術情報交換用変体仮名セットの選定では,活版印刷以降の活字およびデジタルフォントの変体仮名を集め,仮名字典類での採録状況を勘案して,基礎セットを作成することにした注2)。変体仮名というと,書道手本となるような古筆(こひつ)の仮名を思い浮かべるであろうが,字形変化が大きい筆写文字よりも,パターン化されて揺れの幅が小さい活字やデジタルフォントの方が,字形がより安定しているため,主たる選字の対象とした。以下の6種である。

(1)精興社変体仮名 134字

(2)中西印刷変体仮名 154字

(3)築地活版五号明朝体活字変体仮名(明治27年)〔府川充男『聚珍録 第三編仮名』(三省堂,2005年)による〕 115字

(4)教科書活字(明治25年・明治27年)〔板倉雅宣『教科書体変遷史』(朗文堂,2003年)による〕明治25年:49字 明治27年:50字

(5)今昔文字鏡変体仮名 380字

(6)Koin変体仮名〔http://www10.plala.or.jp/koin/koinhentaigana.html〕 335字

(1)と(2)は東京大学史料編纂(へんさん)所の『大日本古文書』『大日本古記録』注3)の印刷会社が保有する変体仮名セットであり,日本史学での用途をおおよそ満たすものと推測される。(3)は近代活版印刷の活字デザインが安定したとされる時期の活字変体仮名である。(4)は明治期読本に用いられた変体仮名で,初学者が利用する教科書という性質から,基本的な変体仮名であると考えられる。(5)と(6)は研究者の利用が多い現代の変体仮名フォントである。なお,これらの変体仮名セットには,濁点や半濁点付きの変体仮名も含まれるが,学術用途での優先順位は低いものと判断し,今回は除外することにした。

さらに,活字やデジタルフォントの変体仮名に加えて,仮名字体研究論考12種注4)の字体表に出現する変体仮名と,『大日本古文書』『大日本古記録』の編纂で必要な変体仮名(前述の(1)(2)に含まれていない仮名)を追加した。

このようにして集字した個々の変体仮名を字形の類似でまとめ,字形群の文字と仮名字典類との照合を行った。参照した仮名字典類は次の5点である。いずれも用例出典を明示している仮名辞典類であり,典拠のある変体仮名を選定するための照合作業である。

(1)『変体仮名の手引(改訂増補25版)』(中野幸一編,武蔵野書院,2009年)

(2)『字典かな(新装版)』(笠間影印叢刊刊行会編,笠間書院,2003年)

(3)『かな名跡大字典』(筒井茂徳編,角川書店,1981年)

(4)『かな連綿字典』(竹田悦堂監修・佐野榮輝編,雄山閣出版,1990-1992年)

(5)『用例かな大字典』(中田易直他編,柏書房,1978年)

このような過程を経て選定した変体仮名は全部で264字(字体)である。1に学術情報交換用変体仮名セットを示す。

学術情報交換用変体仮名セットは,47の音価,215の字母,264の字体で構成されるが,音価-字母-字体の3層に整理して示している。

第1層の「音価」は,過去の時代の音価を反映したものではない。あくまで現代の平仮名のバリエーションに対応する形で設定したもので,「あ」から「を」までの47種を設定し注5),五十音順に配列した。

第2層の「字母」は,変体仮名の字源に当たる漢字のことである。変体仮名を扱う際には,字母を崩したものであるという意識をもって説明されることが,現代の平仮名よりも顕著である。たとえば,次の変体仮名については,字母「可」を崩したものであるという説明がなされることがしばしばである。


そこで,1では,( )内に215種の変体仮名字母を示している。また,1つの音価に対して,複数の字母が存在する場合がほとんどであるが,その場合は,字母を部首画数順に配列した。


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表1 学術情報交換用変体仮名セット

第3層は字体である。変体仮名は,同字母であっても複数の異なる字体(同字母異体)をもっている。2章で述べたとおり,同字母異体は,書記行為中での機能分担の事実が認められる。そこで,本セットでは必要と認められる同字母異体を含むこととし,変体仮名使用の実態に即し必要に応じて,同一の字源に対して複数の字体を設定した場合がある(字母「字」,字母「於」など)。

また,古典では,1つの字母(または字体)が複数の音価に使われる場合がある。そのような場合は,どちらか一方の音価として掲出している。たとえば,字母が「夜」の変体仮名は,音価/ヤ/にも音価/ヨ/にも使われることがあるが,本セットでは音価/ヤ/の方にだけ示した。このことは,符号化実装の際の課題となるであろう。なお,複数音価の字母は次のとおりである。


5. おわりに

変体仮名は,日本語用文字の中で,文字コード標準化が着手されていない最後のレパートリーである。今回,学術情報交換用変体仮名を選定し終えたことで,中断していた国際文字コード規格ISO/IEC 10646への変体仮名追加の審議が再開される運びである。

2015年10月に,日本から,変体仮名の追加提案を新たに行うことが予定されている。日本からのISO/IEC 10646への提案は,もちろん初めてのことであり,近年の漢字追加提案と同様に,文字情報基盤整備事業9)10)の一環として実施される。

また,日本提案変体仮名は,行政用変体仮名(戸籍統一文字)168字と,学術情報交換用変体仮名264字との和をとったレパートリーとなる見込みである。行政用途と学術用途との両面を考慮したものである。

今後,変体仮名の文字コード標準化について,レパートリーだけでなく,符号化の方法を含めて,国内外で議論されていくことであろう。それらの議論を踏まえ,よりよい形でISO/IEC 10646に変体仮名が収録されることを期待するものである。

執筆者略歴

  • 高田 智和(たかだ ともかず)

国立国語研究所准教授。専門は日本語学。主な著作に『日本語文字・表記の難しさとおもしろさ』(編著,彩流社,2014年)など。

  • 矢田 勉(やだ つとむ)

大阪大学大学院文学研究科准教授。専門は日本語学。主な著作に『国語文字・表記史の研究』(汲古書院,2012年)など。

  • 斎藤 達哉(さいとう たつや)

専修大学文学部教授。専門は日本語学。主な著作に「仮名文の文字調査―源氏物語花散里六八本の仮名字母と漢字―」(『専修国文』91,2012年)など。

本文の注

注1)  翻刻とは,写本や版本の文章を,現代通用の文字・字体を用いた文章に書き改めることである。原文にない句読点を補う,仮名書きを漢字表記に改めるなど,文字の置き換えだけでなく,翻刻者の解釈を伴うこともある。

注2)  学術情報交換用変体仮名セットの選定とそのための基礎調査研究は,国立国語研究所共同研究プロジェクト「文字環境のモデル化と社会言語科学への応用」(2009年10月~)において実施したものである。変体仮名検討グループは,銭谷真人(国語研),小助川貞次(富山大),當山日出夫(立命館大),矢田,斎藤,高田。

注3)  和歌や仮名消息の翻刻で変体仮名が使われる。

注4)  池田亀鑑『古典の批判的処置に関する研究』(岩波書店,1941年),山田俊雄『日本語の歴史 別巻 言語史研究入門』(平凡社,1976年),浜田啓介「板行の仮名字体―その収歛的傾向について―」(『国語学』118,1979年),築島裕『日本語の世界 5 仮名』(中央公論社,1981年),玉村禎郎「『春色梅兒誉美』における仮名の用字法」(『国語文字史の研究 2』,和泉書院,1994年),松下なるみ「平仮名の字体と字源」(『漢字百科大事典』,明治書院,1996年),久保田篤「『浮世風呂』の平仮名の用字法」(『成蹊国文』30,1997年),内田宗一「黄表紙・洒落本の仮名字体」(『国語文字史の研究 4』,和泉書院,1998年),内田宗一「『偐紫田舎源氏』の仮名字体―作者自筆稿本と板本の比較考察」(『待兼山論叢文学篇』32,1998年),内田宗一「馬琴作合巻『金比羅船利生纜』の仮名字体」(『国語文字史の研究 5』,和泉書院,2000年),久保田篤「江戸板本の表記の多様性―洒落本『傾城買二筋道』の場合」(『成蹊国文』42,2009年)

注5)  「ん」は,ムまたはモを表す仮名字体の中から,後に撥音を表記する字体として機能分化したもので,これ以外の変体仮名が存在しないので第1層には「ん」を除いた47種を用いた。

参考文献

1)  矢田勉. 国語文字・表記史の研究. 汲古書院. 2012. 825p.
2)  迫野虔徳. 定家の「仮名もじ遣」. 語文研究. 1974, no. 37, p. 39-46.
3)  安田章. 仮名文字遣と国語史研究. 三省堂. 2009. 312p.
4)  伊坂淳一. 藤原俊成の用字法・試論―自筆本『廣田社歌合』における機能的用字法―(I)(II). 学苑. 1988, no. 577, 578, p. 179-189, 59-71.
5)  鈴木真喜男. 「地」のかな―定家自筆本における―. 国語研究. 1958, no. 8, p. 59-65.
6)  長谷川千秋. 直音と拗音を書き分ける仮名文字遣. 国語国文. 1997, vol. 66, no. 7, p. 36-52.
7)  蔵野嗣久. 天正狂言本の「つ」の仮名について. 安田女子大学紀要. 1973, no. 3, p. 39-43.
8)  日本工業標準調査会. 7ビット及び8ビットの2バイト情報交換用符号化拡張漢字集合 JIS X 0213:2000. 日本規格協会. 2000. 541p.
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