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リレーエッセー
つながれインフォプロ 第24回
山崎 美和
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2015 年 58 巻 8 号 p. 640-642

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はじめに ミュージアムの中のライブラリー

ミュージアム(博物館や美術館,動物園や水族館の総称とする)のライブラリー(図書館,図書室,図書コーナー,情報センターなどの総称とする)を利用された経験をお持ちだろうか?

そもそもミュージアム内にライブラリーがあることすらご存じない方も多く,実は筆者も,自分がかかわるまではまったく認識していなかった。国立国会図書館すら持っていない独自の資料を所蔵している館も多く,研究者や関連分野に従事する人,マスコミ,大学生のレポート作成,学校の総合学習や夏休みの自由研究などに利用されている(1)。

博物館法の第3条3に「一般公衆に対して,博物館資料の利用に関し必要な説明,助言,指導等を行い,又は研究室,実験室,工作室,図書室等を設置してこれを利用させること。」とある注1)。実際には,一般公開を行い,人も配置している充実したライブラリーもあれば,図書や電子ライブラリーを置いているだけの無人コーナー,非公開で内部学芸員の調査研究専用の図書室もある。

一般公開・非公開を含め,ミュージアムのライブラリーに正規の専任職員が配置されるとは限らず,学芸員が兼任あるいは非常勤職員やアルバイトのみのところもある。

ミュージアムでの展示・収蔵品としての図書とライブラリーの図書は,同じ本でも利用方法の違いから,装備・修復保存等の管理方法が異なる。たとえば,資料には直接ラベル等を貼らず,展示や調査研究以外では桐や中性紙の保存箱に入れるミュージアムの保管方法は,特例を除けば随時利用されるライブラリーには不向きだ。修復方法も極力原装を保ちたいミュージアムと,多くの閲覧に耐えうる強度を求めがちなライブラリーでは異なる。そのため,一口に資料管理担当といっても,学芸員と司書とでは,情報が共有できないことがある。

一方で,資料が展示品にもなる可能性を持つライブラリーでは,一般的な図書館の管理方法では不都合があって参考にできないときもある。したがって,正職員であってもワンパーソン・ライブラリーゆえに,館内で業務相談をする相手がおらず,適切なアドバイスを得られず,孤軍奮闘しているケースが多々ある。

図1 印刷博物館ライブラリー。向かって左が閲覧室。右には資料検索等もできる情報コーナーがある。

ミュージアムライブラリーの会とは

前述のような場合に相談相手として頼りになるのが「ミュージアムライブラリーの会」だ。この会は,ミュージアムに勤務する司書や資料担当者らが,現場で日々遭遇する諸問題について相談し,有益な情報を気軽に交換できる場を提供するとともに,ゆるやかなネットワークづくりを目的として設立された。今ではここを「駆け込み寺」と表現するメンバーもいる。

アート・ドキュメンテーション学会(Japan Art Documentation Society,JADS)の美術館図書室SIG(Special Interest Group)注2)を母体としているが,ミュージアムのジャンルや,正規・非正規職員,学会の会員資格等は問わず,原則としてミュージアムライブラリーに関わっている(いた)ことを条件としている。

当会では,地方在住でも参加しやすいように,メーリング・リスト(以下ML)上の情報交換を活動の主体とし,年に数回の見学会や研修会などのオフ会を開催している(会費等は無料)。

メンバーは,現在国内外に約100名,国公私立や企業ミュージアムの約50館が参加している。基本的には個人参加のため,退職時に後任者に引き継がれないことも多く,参加館には変動がある。ミュージアム内の図書担当者(司書,学芸員)が主だが,資料保存修復や著作権等に関しては,その道のプロが会員やオブザーバーとして参加し,商売抜きで簡単な助言をしてくれる。

設立の経緯と活動歴

「ミュージアムライブラリーの会」注3)は,2001年4月アート・ドキュメンテーション研究会(現JADS)において,東京国立近代美術館の水谷長志氏の発案で誕生した,美術館図書室SIGに端を発する。筆者自身,1999~2000年にかけて,博物館設立準備室でライブラリーの立ち上げに携わり,大学図書館・公共図書館での経験はあるものの,博物館図書室については情報不足を痛感していたので,すぐに賛同し発足に携わった。

発足時は美術館図書室のための会だったが,美術にも深い関係を持つ重要な分野の博物館等の司書を勧誘しても,「うちは美術館ではないから」と断られていたため,2004年1月名称をジャンルを問わない「ミュージアム・ライブラリーの会」とした。

Yahoo!GroupsでMLを作り,北海道から九州まで,既存館だけでなく,設立準備中や開館直後の美術館で図書管理も兼任する学芸員なども加わって,日々の業務上の相談をしている。資料の分類,装備,図書館用品の選定,図書室のリニューアルや引っ越しの際の留意点,レファレンスなど日々直面するさまざまな問題を投稿すれば,経験者から回答を得られる。それらは他館の事例として上司への説得材料にもなる。

MLでの話題は,選書や資料の廃棄,修復保存や著作権関連の話題で盛り上がりやすく,海外勤務のメンバーからはその国の事例が報告されるケースもあり,興味深い。

オフ会では,他館の見学会,保存修復やSNS等の勉強会,スタッフ教育や,図書館総合展等参加セミナーなどについての情報交換会ほかを年に2,3回開催している(23)。開催が関東に偏ってしまうのが残念だが,有休を取り遠方から参加する人もいて,有益な交流の機会になっている。

そのほか,2002年2月,JADS本体の研究会「めざせ!ミュージアムのライブラリアン」では,登壇者を含めSIGとして全面協力し,2010年11月には図書館総合展のポスターセッションにも参加するなど公の場で発表する機会も得た。ある程度予想はしていたが,図書館関係者の間でも,ミュージアムライブラリーの存在が知られていないことを痛感した。また,立ち寄られた方の多くが,会の目的を「ミュージアムとライブラリーの連携」と誤解していたため,名称から「・」を取り,「ミュージアムライブラリーの会」に変更し現在に至る。2013年末には会員約110名となり,ミュージアムの司書・学芸員約50機関85名,その他図書館ほか25名となる。

2014年4月,Yahoo!Groupsのサービス終了に伴い,MLをGoogle Groupsに移行した。その際,あらためて希望者のみの参加に切り替えたため,多少人数が減ったが,口コミで少しずつメンバーが増えている。現在は,まだ「知る人ぞ知る」状態なので,広報が今後の課題である。

図2 東京修復保存センター見学・研修会(2011年12月)
図3 国立国会図書館講師派遣による資料保存研修(2012年6月)

おわりに

ここ数年,書籍や雑誌等でミュージアムライブラリーが紹介されるようになり,少しずつ一般への認知度も高まっているように思う。

小さくて,大したことがないように思えるライブラリーもあるかもしれないが,思わぬお宝資料に出会えるケースも多いので,特定の分野を調べようと思うときは,ぜひ,ミュージアムの中のライブラリーを訪れてほしい。

執筆者略歴

  • 山崎 美和(やまざき みわ)

図書館情報大学卒。大学図書館,公共図書館を経て,1999年1月凸版印刷(株)印刷博物館設立準備室・百年史編纂室入室。2000~2015年3月印刷博物館ライブラリー勤務。2015年4月より現職。

本文の注
注2)  アート・ドキュメンテーション学会美術館図書室SIG

http://www.jads.org/guide/muselib2015.pdf

注3)  山﨑美和. 美術館図書室SIG代表交代に当たって. アート・ドキュメンテーション通信. 2015, no. 105, p. 9-11. ※ミュージアムライブラリーの会(美術館図書室SIG)の15年間の活動記録が掲載されている。

 
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