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集会報告
集会報告 リサーチ・アドミニストレーター(RA)協議会第1回年次大会
白石 淳子米陀 正英西 亮
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2015 年 58 巻 8 号 p. 647-648

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  • 日程   2015年9月1日(火)~2日(水)
  • 場所   信州大学長野(工学)キャンパス
  • 主催   リサーチ・アドミニストレーター協議会

1. はじめに

リサーチ・アドミニストレーター(RA)は,研究者の研究活動活性化のための環境整備,および大学等の研究開発マネジメント強化等の目的で,2011年から各大学や研究機関に設置が促進されている。これらRAのための全国的なネットワーク組織として,大学等の高等教育機関が主体となり,リサーチ・アドミニストレーター(RA)協議会が2015年3月に設立された。

RA協議会発足後の最初のイベントとして,RA協議会第1回年次大会注1)が開催されたので報告する。

2. 概要

第1回年次大会では,リサーチ・アドミニストレーションシステムのさらなる強化・発展と,これまでに培われてきたRAのスキルアップを通じて組織の研究力強化を図るべく,“リサーチ・アドミニストレーターのレベルアップから組織の研究力強化へ”をテーマに開催された。

2日間にわたる会期中,RA協議会特別セッションや関係省庁,企業等のセッション,大学セッション,ポスターセッションおよびオーラルセッション,企業ブース展示が行われた。初日はあいにくの雨天だったが次第に雨は弱まり,翌日には夏が戻ってきたかのような明るい日差しのもと,118機関,419名の参加者が集い,大変盛況であった。

3. 講演内容

(1) 「競争力を向上させるための大学分析~IRにおける研究者個人レベルまでの把握の重要性~」(モデレーター:エルゼビア・ジャパン株式会社)

本セッションでは,IR(Institutional Research)組織が各大学で整備され,利用できるデータの種類・範囲も広範になっている状況がテーマとして取り上げられた。researchmap(リサーチマップ)注2)についてJST(白石)からその概要と研究者情報整備への活用事例について発表し,IRの基礎と指標を用いた国内外の事例について大阪大学未来戦略機構戦略企画室の藤井翔太特任助教より講演があった。また,エルゼビアのデータベースサービスについて,清水毅志ソリューションマネージャーから講演があった。

researchmapについては,その歴史や概要,収録情報,利用方法などについて発表を行った。RAやIRの立場からも,researchmapの有用性や意義に興味を持っていただけたものと思う。

藤井特任助教からは,前半では英国の事例から,国自らによるデータの把握が大学のIR機能強化につながっていること,後半ではそれを踏まえて大阪大学がどのようにデータベースの統合調査を行っているか,またデータの可視化による意思決定や情報公開につなげようとしているかについて発表があった。具体的な事例は,大変参考になるものであった。

(2) 大学共同利用機関におけるURA注3)発IRの取り組み(モデレーター:情報・システム研究機構)

本セッションでは,統計数理研究所の本多啓介URAから,評価指標のデザインおよび研究課題の募集について紹介があった。

データに基づいた評価指標の1つとして,共著者ネットワークに基づく共同研究の貢献度をデザインし,統計数理研究所のデータを分析したところ,共同研究への貢献度が高い研究者は「研究指導者的な立場で」「大規模研究」「組織横断的」な研究を行っていること,また共著者ネットワークの分析結果から,その経年的な変化は組織の構造的変化を反映していると考えられるとの発表があった。統計数理研究所は,2016年度の公募型共同利用の重点型研究のテーマとして「学術文献データ分析の新たな統計科学的アプローチ」を採用し,研究機関・大学の研究成果分析の手法や研究活動の進展,効果を客観的に評価するための指標,およびIRに関する方法論等について統計科学的見地からの研究を推進するため,課題を募集するとの呼び掛けがあった。

また,評価指標が乱立しているのではないかという質問に対し,本多URAからは乱立ではなく目的に応じて使い分けることが必要で,さまざまな評価軸に応じて指標を組み合わせて評価するべきではないかという回答があった。上述の研究テーマの推進によって生まれるであろう評価指標に期待したい。

(3) 「コラボリーセッション:研究戦略立案のための研究力データ分析と外部資金獲得,JST情報資産の活用」(モデレーター:株式会社ジー・サーチ,科学技術振興機構 共催)

本セッションでは,アカデミア研究分野で高まるアジア・グローバル競争や文科省が推進する大学改革を受け,大学の研究推進/支援の「現場力」がますます重要となっていること,研究戦略の立案とその遂行のための重要なツールとして,1)論文抄録を用いた研究データ分析,2)外部資金の獲得のための環境整備,3)これら研究戦略立案のための基礎となるJSTの情報資産の活用法が発表された。

ジー・サーチからは,論文抄録を分析可能なツールOpen Knowledge Viewerが紹介された。実例として,医学分野の論文をシソーラス語でさらに細かく分解した例を挙げ,可視化し研究動向を把握することが外部資金獲得につながると発表があった。

また,研究機関向けの研究支援ツールとして,無料で利用できるコラボリーの新機能リリースについても発表があった。

JST(米陀)からは論文抄録をはじめとする情報資産の構成,Web of ScienceやScopusとの違いを説明し,有用性をアピールした。セッションの最後に,徳島大学 荒木寛幸特任准教授からJST情報資産を用いた産学マッチングシステムの紹介とともに,researchmapへの今後の期待が表明された。JSTの情報資産については,分析事例や,活用事例を通じて,今後さらなる活用の途を開拓したい。

4. おわりに

今回は,RA協議会第1回年次大会について報告した。RA協議会の前身であるRA(リサーチアドミニストレーション)研究会注4)は,2010年の第1回RA研究会以来,研究会を開催しており,2014年には第4回URAシンポジウム/第6回RA研究会合同大会として,文部科学省「リサーチ・アドミニストレーターを育成・確保するシステムの整備」事業採択機関注5)と合同で開催している。

第2回年次大会以降も予定されていると聞き及んでおり,今後の活動に期待したい。

(科学技術振興機構 白石淳子,米陀正英,西 亮)

 
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