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この本!~おすすめします~
この本! おすすめします 私の人生の節目で出会った本
山本 順一
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2015 年 58 巻 8 号 p. 649-651

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はじめに

本誌の編集事務局から「共通するテーマのもとに1冊から数冊の本を選んで紹介してほしい」との依頼を受けたのは8月のお盆の頃。編集者の意図と期待に沿うものとは思われず,また特定の分野やテーマに収斂(しゅうれん)するはずもないが,私の人生遍歴の節目で遭遇し,いや応なしにしっかり読み込まざるをえなかった書籍を何冊か紹介することにしたい。

学部卒業から大学院へ

私が大学を卒業したのは1973(昭和48)年,キャンパスは荒れ,学生証と引き換えに卒業証書を受け取った。大学院に進学したが,行政法を専攻したきっかけは学部時代にお世話になった恩師の存在が大きいが,珍しくこの分野に興味をもたせてくれたのが,『行政法入門』1)で,この書物はいまもなお内容を最新のものへと改めながら版を重ねている。小著ではあるが,国民にとっての「行政」の意味を見事に語りかける。修士論文は,当時流行の「環境権」を取り上げたが,そのテーマを深めさせてくれた書物が『環境の保護:市民のための法的戦略』2)で,博士論文は未完のままで終わったが,博士課程での公共信託法理の研究にも導いてくれた。

「水商売」に従事

1979(昭和54)年,自分の能力に自信がもてず,将来が不安に感じられ,大学院に籍を置いたまま,その頃アルバイトで親しんでいたシンクタンク業界に転じた。財団法人日本システム開発研究所(後身が現在一般財団法人として存在するがシンクタンク部門は廃止されている)での5年間は,業界でいう「水商売」(河川工事等の委託調査研究)に親しんだ。具体的には,流域管理計画作成業務で,主として島根県の斐伊川流域と新潟県の関川流域をフィールドとした。そこでは,『建設省河川砂防技術基準(案)調査編・計画編』3)を座右の書とし,通勤電車の中では毎年改訂刊行されていた『日本の河川』4)を熟読し,その頃は日本全国の109の一級水系の概要をそらんじることができた(今はそのおおかたを忘れてしまっている)。

図書館情報大学大学院に

1984(昭和59)年,体調も思わしくなく,「転地療養」の意味も含めて,その年に創設された図書館情報大学の大学院修士課程に入学した。コンピューターの勉強でもしようかと入った同大学院であったが,入学直後に読み,私の図書館情報学研究のスタイルの形成に大きな影響を与えたのが『図書館の話』(第4版)5)である。行政に対する民主主義的統制を意識していた私にとって,フィラデルフィア図書館会社やボストン公共図書館等に関する記述が新鮮に思え,以後の研究方向を決定づけたように感じている。私にとって2度目の修士論文に取り組もうとするときに付属図書館で図らずも出会ったのが『Library law and legislation in the United States』6)である。この本は現在の私の比較図書館法研究のベースの一部を形づくっている。図書館情報大学大学院で出会ったこの本は,やがて『アメリカ図書館法』として翻訳が刊行されることになる。

『アメリカ図書館法』アレックス・レイデンソン著;藤野幸雄監訳;山本順一訳 日本図書館協会,1988年,2,500円(税別) http://www.jla.or.jp/publications//tabid/87/pdid/p11-0000000044/Default.aspx

女子短大設立業務

1986(昭和61)年3月,図書館情報大学大学院修士課程を修了した後,私は横浜にある学校法人堀井学園の法人事務局職員に転じた。その背景には,後に図書館情報大学第3代学長に就任することになる藤川正信先生が,堀井学園が新設に向けて動いていた女子短大の初代学長予定者とされていたことがある。藤川先生の命を受け(ときどきは逆らいながら),新設しようとする女子短大(当初は「横浜国際女学院短期大学」と命名していたが,この名称は当時の文部省大学設置事務担当職員に葬り去られた)の準備室で教員組織とカリキュラムづくりに励んだ。そのときのバイブルが『大学・短大の設置基準と設立実務 別冊:設立(変更)認可申請のための実務マニュアル』7)と『私学必携』8)である。毎月1回,予約を取ったうえで,理事長と私を含む関係準備室職員チームがバイブルに沿って作成した書類を携えて,文部省の担当部署を訪れ,行政指導を受けたことが思い出される。

図書館情報学の教員に

図書館情報大学長となった藤川先生ではなく,元文部官僚の犬丸直先生が初代学長に座り,名称も情報処理学科を擁する横浜創英短期大学となり,めでたく1989(平成元)年にオープンした(現在は,横浜創英大学となっている)。私は,短大創設が決まったその前年の1988(昭和63)年,藤川先生が学長を務める図書館情報大学に助手として戻っていた。その後,教員として,レファレンスサービスの演習(当時の科目名称は「参考調査論演習」)や,最初は藤野幸雄先生のお手伝いで,まもなく単独で「図書館情報社会論」という図書館情報学の総論科目を担当するようになった。

1997(平成9)年から翌年にかけて,私は在外研修でアメリカ議会図書館に滞在することになった。その頃には,私は図書館情報学から知的財産法,サイバー・ロー(Cyber Law)へと守備範囲を拡大しようとしていた。すでに師事してきた藤野幸雄先生の巧みな誘導もあって,図書館資料と著作権の問題の重要性を意識するようになっていた私が,ここで出会った本の1冊が『The Copyright Primer for Librarians and Educators』9)である。この書物は,連邦著作権法の中でも,図書館での著作物の取り扱いを定めた108条,判例の積み重ねにより形成されてきたフェアユースの法理を規定する107条等についてわかりやすく書かれており,日本の著作権法,特に31条や38条と対比しつつ,考えを深めることができた。一般的な著作権法の書物とは異なり,図書館固有の視点から書かれたこの書物に触れることができ,自分自身の存在意義を確認させてもらえたように感じた。

2002年に図書館情報大学は筑波大学に吸収合併され,私は図書館情報メディア研究科に配置されることになった。6年後の2008年,現在の勤務校である桃山学院大学に移ることになった。経営学部の教員として司書課程や大学院等を担当して5年,2013年から1年間,今度はアリゾナ大学のライブラリースクール,情報資源図書館学研究科(School of Information Resources and Library Science)に訪問研究者(visiting scholar)として研修する機会が得られた。月に1度の割合でアメリカ国内の研修旅行を計画・実施する一方,朝の9時ごろから夕方の5時ごろまで与えられた研究室で中央図書館やロースクールの図書館から借り出した書物を読みながら,日本国内からの依頼原稿等を片付けたり,帰国後の学部・大学院等の授業の準備に努めたりした。その合間に書き溜めた原稿の一部で,帰国後,『図書館概論:デジタル・ネットワーク社会に生きる市民の基礎知識』が発行されることになった。この拙い書物には,河川を含む環境問題や大学設置事務関係の事柄には触れられていないが,行政法,著作権法を含む知的財産権法など,私が大学卒業後,運命の女神に導かれて学んできたことの多くが盛り込まれている。

『図書館概論 デジタル・ネットワーク社会に生きる市民の基礎知識』山本順一著 ミネルヴァ書房,2015年,3,000円(税別) https://www.minervashobo.co.jp/book/b194033.html

執筆者略歴

  • 山本 順一(やまもと じゅんいち)

1949年兵庫県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程単位取得退学。図書館情報大学大学院修士課程修了。図書館情報大学助教授,同教授,筑波大学大学院図書館情報メディア研究科教授を経て,2008年4月より桃山学院大学経営学部・経営学研究科教授。

参考文献
  • 1)   今村 成和. 行政法入門. 有斐閣, 1966, 243p.
  • 2)   サックス,  J. L.;  山川 洋一郎,  高橋 一修訳. 環境の保護:市民のための法的戦略. 岩波書店, 1974, 294p.
  • 3)  日本河川協会編. 建設省河川砂防技術基準(案)調査編・計画編. 日本河川協会, 1976.
  • 4)  河川行政研究会編. 日本の河川. 建設広報協議会, 1978, 513p.
  • 5)   森 耕一. 図書館の話. 第4版. 至誠堂, 1981, 318p.
  • 6)   Ladenson,  Alex. Library law and legislation in the United States. Scarecrow Press, 1982, 191p.
  • 7)  地域科学研究会編. 大学・短大の設置基準と設立実務 別冊:設立(変更)認可申請のための実務マニュアル. 追補版. 地域科学研究会, 1987, 68p.
  • 8)  文部省高等教育局私学部編. 私学必携. 第4次改訂, 第一法規, 1986.
  • 9)   Bruwelheide,  Janis H. The Copyright Primer for Librarians and Educators. 2nd ed., American Library Association, 1995, 151p.
 
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