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「国立国会図書館デジタルコレクション」のOAIS参照モデルへの準拠状況:「近代デジタルライブラリー」からの転換
木目沢 司
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2015 年 58 巻 9 号 p. 683-693

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著者抄録

国立国会図書館は2002年,「近代デジタルライブラリー」を公開し,デジタル化した図書のインターネットでの提供を開始した。以後,所蔵資料のデジタル化,デジタル化された他機関所蔵資料の収集等を継続的に実施するとともに,2013年からはインターネットで公開されている「電子書籍・電子雑誌」の収集も行っている。これら多種多様な資料の収集・保存・提供は現在,2011年に公開した「国立国会図書館デジタルコレクション」が担っている。本稿では,「近代デジタルライブラリー」から「国立国会図書館デジタルコレクション」へ至る開発の経緯を述べるとともに,OAIS参照モデルの機能要件の観点から,「国立国会図書館デジタルコレクション」における長期保存の現状および課題について説明する。

1. はじめに

国立国会図書館(以下,NDL)では,所蔵する図書・雑誌等をデジタル化した大量のデジタル化資料を保有している。また,2013年からは,インターネットで公開された電子書籍・電子雑誌も収集している(ただし,現在収集しているものはDRMが付与されていないものなどに限定している注1))。これらのデジタル資料の収集・保存・提供の機能を担ってきたのが,2002年に公開した「近代デジタルライブラリー」(以下,「近デジ」)と,2011年に公開した「国立国会図書館デジタルコレクション」(以下,「デジコレ」)である。2015年現在,両者のシステムは統合されており,近デジはインターネットで公開可能な図書・雑誌に限定して検索・閲覧できるインターフェースとして,デジコレはNDL内でのみ利用できる資料も含めた全資料を検索・閲覧できるインターフェースとして,サービスを行っている。この近デジのサービスは2016年に終了し,以後はデジコレに一本化する予定である。

このシステム変更の背景には,NDLにおけるデジタル資料の量的な拡大および質的な多様化,さらには長期保存に向けた取り組みがある。デジタル資料の長期的な保存については,各国・地域が取り組むべき重要な課題として認識されており,NDLでもそれを意識して,システムの開発を進めてきた。とりわけ,デジタル情報の長期保存システムの参照モデルとして,受入・保存・提供・保存計画・運用統括・アクセス等の機能要素を規定した国際標準「Open Archival Information System(OAIS)参照モデル」(ISO 14721: 2012)を参考にしてきた。本稿では,近デジからデジコレへの開発経緯とOAIS参照モデルの機能要素を参照しつつ,デジコレの機能について説明する。

2. 近デジとデジコレ

2.1 近デジ開発の経緯

NDLでは,1991年8月に「国立国会図書館関西館(仮称)設立に関する第二次基本構想」1)を策定し,21世紀における国立図書館として,電子文献の提供,メディア変換等の電子図書館的な機能の実現を構想した。1994年には情報処理振興事業協会(IPA,現・情報処理推進機構)と共同して,電子図書館実証試験プロジェクトを行った。このプロジェクトでは,NDLが所蔵する貴重書,明治期刊行図書のデジタル化を行い,電子図書館のプロトタイプを構築した。デジタル化した貴重書は,2000年に「貴重書画像データベース」として,デジタル化した明治期刊行図書は2002年に近デジとしてインターネット公開された。2003年には国際子ども図書館で所蔵する児童書を閲覧できる「児童書デジタル・ライブラリー」も提供を開始した注2)

2.2 デジコレ開発の経緯

2009年までは,著作権調査を行い著作権保護期間満了が確認できた資料,著作権者から利用許諾を得た資料,および文化庁長官の裁定を受けた資料だけを対象として,デジタル化およびインターネットへの公開を行ってきたが,2009年の著作権法改正(著作権法第31条第2項の追加)により,著作権保護期間内の資料についても原本保存のためのデジタル化,およびNDLの施設内での提供を行うことが可能となった。また,同年度には大規模なデジタル化予算も計上され,200万点を超える資料のデジタル化を行ったため,これらの収集・保存・提供を担うシステムが必要となった。

当時の近デジではストレージの拡張性が不十分だったこと,録音資料である歴史的音源2)の収集とストリーミングによる配信機能も必要となったこと等から,近デジの機能改修で対応することは困難であった。またNDLでは電子書籍・電子雑誌の収集・保存・提供のため,DSpace3)をベースとしたシステムを開発しており,さらに貴重書画像データベース,児童書デジタル・ライブラリーも同時期に更新時期を迎えていたが,これらのシステムを個別に運用し維持していくことが費用面および業務面で負担となっていた。

そこで,大量かつ多様な資料種別・フォーマットのデジタル資料を収集保存し,資料別の提供画面を柔軟に設定することを可能とするシステムとして,2011年にデジコレを開発し,先行する各システムを統合した。

デジコレではさらに,2012年にDigital Accessible Information SYstem(DAISY)規格4)の資料を視覚障害者等へ配信する機能,2013年に電子書籍・電子雑誌の公開者自身がデジコレへコンテンツとメタデータを提供する機能,2014年に電子版の博士論文の収集を行う機能,「図書館向けデジタル化資料送信サービス」(図書館送信サービス)注3)など,新規サービスに対応するための機能拡張開発を,大規模な開発ではなく部分的な追加改修で実現してきた。これは4章で説明するように,機能拡張の柔軟性を考慮してデジコレを設計したことが奏功したものと考えている。

デジコレはしばらく正式なサービス名称がなかった注4)が,2014年1月に「国立国会図書館デジタルコレクション」としてトップページとともにリニューアル(1)し,サービスを行っている。

図1 国立国会図書館デジタルコレクション(http://dl.ndl.go.jp/)

2.3 近デジの終了

近デジは2012年にシステム的にはデジコレに統合されたが,NDLのデジタル化資料を提供するサービスとして一定の社会的認知を得ていたことから,デジタル化した図書・雑誌をインターネット公開するサービスとして,その名称と専用ページを残すこととした。しかし,古典籍,博士論文等,近デジの収録範囲外のインターネット公開資料が増加し,インターネット公開という枠組みで資料を案内するためには,デジコレもあわせて案内する必要が生じていること,2014年1月のリニューアル後,デジコレが当館の電子図書館サービスの中核を担う存在となってきていること等から,2016年5月末に近デジを終了し,NDLのデジタル化資料の提供サービスは,デジコレに統一する予定である。

3. OAISの概要とデジコレ

本章では,デジコレがどのような設計思想に基づいて,大量で多様な資料種別・フォーマットのデジタル資料を収集・保存・提供する仕組みになっているかを,OAIS参照モデルと比較しつつ説明する。

OAIS参照モデル5)は,デジタル情報の長期保存アーカイブシステムに関する枠組みであり,2003年に国際標準規格ISO 14721: 2003として承認され,2012年に改訂版ISO 14721: 2012として公表されている。実際のところ,欧米の大規模図書館等では,OAIS参照モデルに基づいてアーカイブシステムの構築や分析が継続的に行われている。

3.1 長期保存システムに関係する外部エンティティ

OAIS参照モデルでは,長期保存アーカイブシステムに関係するエンティティ(人,組織,システム)として,コンテンツを作成・提供する「提供者」,OAIS参照モデルに準拠した長期保存アーカイブシステムそのものである「アーカイブ」,長期保存の政策,戦略決定などの高レベルの意思決定を行う「管理者」,保存されたコンテンツを利用する「利用者」を定義している。

デジコレでも同様に,コンテンツ提供者(NDL自身や,他機関・他システム),検索や閲覧等によりコンテンツを利用する利用者(個人,他機関,他システム)が存在する。NDLは政策レベルの検討・判断を行っており,OAIS参照モデルの管理者に相当する役割を担っている(2)。

図2 長期保存システムに関係する外部エンティティ(OAISとデジコレ)

3.2 情報パッケージ

OAIS参照モデルでは,保存対象とするデジタル情報を情報パッケージとして扱う。情報パッケージは,「内容情報」と「保存記述情報」を「パッケージ情報」でまとめたものである。内容情報はデータそのものとそれを表現するために必要な情報からなり,保存記述情報は,コンテンツを識別する「参照情報」,コンテンツの作成理由等の履歴を記録する「来歴情報」,コンテンツに改変が加えられていないことを確認するための「固定性情報」等の,保存に必要なメタデータからなる。このひとまとまりの情報パッケージが,書誌的記述に相当するメタデータで記述されるという構成になっている(3)。

OAIS参照モデルではアーカイブに保存された情報パッケージを検索するための記述情報を情報パッケージの外で管理する。情報パッケージは,「提出用情報パッケージ」(SIP)として長期保存システムに受け入れられ,「保存用情報パッケージ」(AIP)として保存される。利用者や他のシステムへは,「配布用情報パッケージ」(DIP)の形式で提供される。

図3 OAIS参照モデルによる情報パッケージの概念

3.2.1 デジコレの情報パッケージ

デジコレでは,AIPを単一のアーカイブファイルにまとめた形式では保存していない。デジタル化資料の画像ファイル(コンテンツ)は,ファイル単位で保存用ストレージ内に保管されるが,保存記述情報やパッケージ情報(画像ファイルの表示順などの構成情報等)に該当する情報は,保存用ストレージの外にあるリレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)に記録している。これは,パッケージ情報や保存記述情報へのアクセス性と情報パッケージの変更の柔軟性を考慮したためである(4.4データ管理も参照)。

OAIS参照モデルでも,情報パッケージは論理的な概念として説明されており,必ずしも単一の物理ファイルの形式でAIPを実装しなければならないわけではない。デジコレは外部システムに対して単一のアーカイブファイルとして情報パッケージを出力することも可能であり,概念的には情報パッケージとしてデジタル情報を保存していると言える(4)。

図4 デジコレの情報パッケージの実装

3.2.2 情報パッケージおよびコンテンツの版管理

OAIS参照モデルでは,フォーマット変換によるマイグレーション等を行った場合,元のAIPを置き換えた別のAIPとして,「AIPバージョン」により管理するよう定義されている。また改訂が加えられた場合も,元のAIPとは別のAIPとして,「AIPエディション」により管理するよう定義されている。デジコレでも,受入時と異なるフォーマットで保存する場合や,将来的にマイグレーション(情報パッケージの形式を変換するパッケージの再作成や,コンテンツ自体のフォーマット変換)等を行う場合,また改訂版を新たに受け入れた場合に,元の版と関連づけて管理する機能を実装している。

3.3 長期保存システムが果たすべき責務

OAIS参照モデルでは,長期保存システムが果たすべき責務として,コンテンツ提供者との交渉による適切な情報の受入,長期保存を確実にするために必要な権限の確保,アーカイブに係る主要な関係者(指定コミュニティー(designated community))の確定,指定コミュニティーが保存された情報を他の情報源に拠(よ)らず理解できるようにすることなどが定義されている。NDLでは,所蔵資料のデジタル化,電子書籍・電子雑誌の収集・保存を法制度に基づき実施しており,長期保存に必要な権限を有している。NDLの場合,サービス対象は国会議員を始め行政・司法各部門,日本国民一般,さらには海外の利用者と多岐にわたることから,特定の指定コミュニティーは想定しない。収集したデジタル資料には,紙媒体の図書資料に相当する書誌データが付与されており,またデジコレの閲覧機能により,専門的な知識を要することなく,閲覧することが可能である。

4. OAIS参照モデルの各機能エンティティとデジコレによる実装方法

4.1 機能モデル

OAIS参照モデルでは,SIPの形式や内容をチェックし,AIPに変換する「受入」,AIPをストレージ装置などで保存する「保管」,AIPの保管場所や検索要求への応答を返すために必要な情報を管理する「データ管理」,日常のシステム監視,提供者,利用者等外部との調整を行う「運用統括」,長期保存に係るリスクを監視し対策を立てる「保存計画」,コンテンツの利用者からの要求に応えて,適切な検索結果や,コンテンツを提供する「アクセス」の6つのエンティティを定義している(5)。

図5 デジコレの機能モデル

4.2 受入

受入では,提供者からのコンテンツ等の提出を受け,品質確認やAIP生成などの処理を行う。デジコレでは,大量のデジタル化資料については,一括登録機能を利用して受入を行う。具体的には,デジタル化資料が格納された外付けハードディスク等の媒体を通じて収集する方法である。このほか,電子書籍・電子雑誌をクローラー(収集ロボット)により収集する機能や,ウェブブラウザ等で送信(アップロード)することで収集する機能も有する。ブラウザでのアップロードにおいては,資料の種別ごとに登録するメタデータ項目を設定できるようになっている。電子書籍・電子雑誌や博士論文については,提供者用アカウントの発行により,各機関の職員自身で登録することができる。

デジコレでは,受け入れた資料の数量やコンテンツとメタデータのチェックを職員用の業務画面で行う。また,ファイルフォーマットの識別やメタデータの必須項目のチェックはシステム的に自動的に行う。

デジコレではAIP生成として,受け入れた画像のフォーマットにより保存や提供に適した形式に変換する処理を行う。たとえばTIFF形式の画像ファイルはJPEG 2000形式に変換している。

保存記述情報として,PREMISバージョン2.26)を参考に保存に関するメタデータを記録している。固定性情報としてメッセージダイジェスト,デジコレへの登録日時や作業者ID等の来歴情報やファイルフォーマット等を記録する。

参照情報としては,コンテンツのアクセス先のURLが変更されても,永続的にアクセスすることを可能とするため,永続的識別子をinfo URI形式で付与している注5)6)。

図6 永続的識別子の例(info URI形式)

なおNDLは,国際的な識別子であるDOI登録機関として認定されたジャパンリンクセンター(JaLC)に参加しており,デジコレで収集した資料の一部(博士論文,古典籍資料,NDL刊行物)にDigital Object Identifier(DOI)を付与している。NDLに割り当てられたDOI-prefix「10.11501」の後に,永続的識別子の一連番号部分を組み合わせた形式で付与している。これらの資料については,たとえば,ブラウザで7のように入力することで,デジコレの画面に遷移し,アクセスすることが可能である。

図7 DOIを使用したURLの例

検索のための記述情報については,デジタル化時に作成した情報等に加え,書誌情報をNDLの統合検索システムである国立国会図書館サーチ(NDLサーチ)7)から取得して追加している。メタデータフォーマットは国立国会図書館ダブリンコアメタデータ記述(DC-NDL)8)を拡張したものを使用している注6)。さらに受け入れたコンテンツに対し,図書,雑誌,古典籍資料,電子書籍・電子雑誌等のコレクションの分類を,メタデータ,受入方法,提供者の種別等から判断して付与している。

4.3 保管

受入からデータを受け取り保管するストレージ装置の方式は,増設の度にその当時の技術状況に応じて選択してきた。価格や容量だけではなく,アーカイブシステムとしての信頼性や読み取り・書き込み性能,拡張性も重視し,開発初期の2010年度にはNAS装置を,2011年度以降は分散ファイルシステムを採用し,ペタバイトクラスのストレージシステムを構築している。

4.4 データ管理

デジコレではデータ管理にRDBMSを使用し,記述情報,提供制限情報,権利情報などを管理している。さらにどのベンダーのストレージ装置でも筐体(きょうたい)単位で増設可能なように,コンテンツの保存場所を,ストレージの機能に頼らず追加増設可能な設計としている(記憶装置管理)。ストレージ装置とその配下のボリューム名をRDBMSで管理することにより,ファイル共有型のストレージであれば,どんな機種でも増設することができる。

デジコレでは,収集したデジタル資料の資料単位(デジタル化した図書資料であれば1冊の図書を構成する画像ファイルの集まり)で管理し,資料単位のメタデータとして検索のための記述情報を登録している。RDBMSへのメタデータの実装では,メタデータスキーマの各項目をそのまま定義するのではなく,項目の追加が容易にできるように,項目とその値を格納するフィールドからなる汎用的なテーブル設計としている。また,メタデータスキーマの変更や追加に柔軟に対応できるように,メタデータスキーマ自体を管理するテーブルも設けている。さらに,資料単位と資料種別を関連づけることで,各資料単位に対し,所属するコレクションを複数定義することができる。

3.2.1で説明したように,パッケージ情報,保存記述情報はRDBMS内のメタデータテーブルのフィールドに,XML形式で保存している。これにより,資料単位内のファイル構成の変更に対しては,データベースの構造に影響を与えることなく,アプリケーションの改修で対応可能な設計となっている。

4.5 運用統括

提供者との調整(コンテンツの提出(収集)契約交渉やアカウント情報の管理等),標準および方針策定等は職員が行い,システム構成管理やログ・統計情報の収集は監視ツール等を活用して行っている。

4.6 アクセス

アクセスでは,利用者から検索要求(問い合わせ)に対して,記述情報から生成した検索インデックスを用いて検索結果を応答する。コンテンツの送信(応答配達)では,権利情報,提供制限情報を利用して,閲覧制御(インターネット公開/NDL施設内限定公開/図書館送信,等)を行っている。

デジコレでは,デジタル化資料をJPEG 2000形式で保存している。JPEG 2000は,JPEGに比べ圧縮率を高くしても画像の劣化が少なく,ストレージ容量の削減に有効だが,一般的なブラウザでは閲覧することができない。そこで,画像閲覧リクエストのたびに,デジコレのサーバー側で,ファイル形式をJPEGに変換して画像を送信している。JPEG 2000の場合,表示領域のみを変換・送信すればよいため,全領域を送信する必要があるJPEGに比べ高速に画像を送信することができる。また,リクエストのたびにJPEGやPDFに変換して画像をダウンロードする機能も提供している。

録音・動画資料については,ストリーミング配信機能を用いている。DAISY資料については,視覚障害者等に限定して,ストリーミング配信と,ファイルダウンロードの機能を提供している。

このようにデジコレでは,保存したコンテンツを用途に適したフォーマットに変換して提供する機能を持っている。AIP内のコンテンツに別のフォーマットを採用した場合でも,この機能を置き換える形でサーバー側で変換する処理を組み込むことにより,提供に適したフォーマットで送信することが可能である。

4.7 保存計画

デジコレでは,再生環境やファイルフォーマットの旧式化等に対処する保存計画に関する機能は,システム的には実装していない。現在,デジコレに保存しているデジタル資料のファイルフォーマットは,ほとんどが一般に普及しているものであるが,将来,マイグレーションを行う必要が生じた場合には,変換処理等に相当のコストが生じる恐れがある。また,DRMが付与されている電子書籍や,特殊なアプリケーションがなければ利用できないような資料も保存していく場合には,長期利用が可能なフォーマットで受入が可能かなど,提供者側との調整が必要となる。

このほか,マイグレーションが困難なファイルフォーマットについて長期利用を実現するためには,再生アプリケーションの保存や,その利用方法に係る情報の保存も必要になる。さらに再生アプリケーションの長期利用を実現するためには,それを動かす環境(ハードウェア,OS等)も保存しておかなければならないなど,いくつもの次元で保存を行う必要がある。このような情報への対策の1つとして,疑似的に別の環境を再現する「エミュレーション」が知られており,OAIS参照モデルでも記述されている。デジコレではエミュレーションの機能は実装していないが,将来,このようなファイルを収集・保存していく場合は必要となる。

以上のように保存計画については課題が多数残っている。

5. デジタルアーカイブの相互運用

OAIS参照モデルでは,地理的に分散したアーカイブシステム間で協力して保存を行う相互運用の方法や戦略についても記述されている。この章では,デジコレに関係するアーカイブシステム間の相互運用の事例を紹介する。

5.1 機関リポジトリからの電子版博士論文の収集

デジコレでは,JAIRO9)からOAI-PMHで収集したメタデータ内のコンテンツへのリンク情報を利用して,JAIRO Cloudおよび各機関リポジトリから電子版博士論文を収集し保存している(8)。これは国立情報学研究所,科学技術振興機構との共同により実現したものである。

図8 機関リポジトリからの電子版博士論文の収集

5.2 アーカイブの連携

複数のアーカイブから収集した記述情報を統合した「共通カタログ」機能を提供することで,デジタル情報の発見と利用の促進を図ることが可能となる。NDLでは,デジコレや他機関のアーカイブからメタデータを収集して統合検索を行うNDLサーチを運用している。ただし現時点で連携できているのは,日本国内に存在する多数のアーカイブシステムの一部である。今後,より多くのアーカイブと連携し,アーカイブに保存されたコンテンツをより発見しやすくすることで,各コンテンツの利用を促進する必要がある。NDLはこのための計画として「国立国会図書館サーチ連携拡張に係る実施計画」10)を策定し,2015年4月に公開した。今後この計画に沿って,アーカイブの連携を拡大していく予定である。

6. おわりに

本稿ではデジコレの機能をOAIS参照モデルに基づいて説明した。保存計画などシステムとしては実装されていない機能もあるが,OAIS参照モデルは実装ではなく機能要件を規定したものであり,デジコレを運用する組織(NDL)を含めれば,ほぼOAISに準じた機能を果たしていると言える。

NDLは2011年,「第三期科学技術情報整備基本計画」11)を策定し,多種多様な電子情報資源を集約し,国全体として新たな知の創造と活用の循環を実現する「知識インフラ」構築の一翼を担うとした。2013年3月に,あらゆる形式の災害の記録を後世に残し,今後の防災に役立てるために構築した「東日本大震災アーカイブ(ひなぎく)」12)は,今後,国として残すべきあらゆる電子情報の収集と活用を目指す知識インフラの先行事例でもある。今後,国全体で文化資産のアーカイブの網羅性を確保できるようにするために,アーカイブの共通基盤の仕様等を提示し,恒久的な保存基盤を有するナショナルアーカイブを推進する必要がある13)

これを実現するためには,アーカイブ間の相互運用が不可欠であり,それを円滑に行うために,OAIS参照モデルには規定されていない実装レベルの標準が必要である。たとえばメタデータ交換について,図書館界ではOAI-PMHが普及してきているが,前章5.1の例を実現するために少なからずシステム改修が必要であったように,汎用的に使用できるデジタル情報交換のための標準として確立しているとまでは言えない。近年では,メタデータのみでなく,コンテンツそのものの交換と同期の実現を目指した標準の策定が進められている14)。今後この方面の研究開発の進展により,様々なアーカイブシステム間の相互運用が実現し,デジタル情報の長期保存の安全性をより高めていくことが望まれる。

謝辞

デジコレは国立国会図書館関西館電子図書館課で開発・運用を行っており,本稿は著者が同課在籍時の経験をもとに,同課職員の助言を得て執筆した。また,OAIS参照モデルの用語の日本語訳として,首都大学東京学術情報基盤センター教授・栗山正光氏の文献15)を参照させていただき,また同氏から貴重なアドバイスをいただいた。深く感謝申し上げる。

執筆者略歴

  • 木目沢 司(きめざわ つかさ)

1989年北海道大学大学院工学研究科修了後,複数の民間企業でシステム開発を経験。2006年,国立国会図書館入館。関西館電子図書館課にて,デジタルアーカイブシステムの開発に従事。2012年より関西館電子図書館課長。2014年から電子情報部電子情報サービス課長として国立国会図書館のシステム開発全般に従事。

本文の注
注1)  特定のコード(ISBN,ISSN,DOI)が付与されているか,または特定のフォーマット(PDF,EPUB,DAISY)で作成されているかのいずれかであって,無償かつDRMのないもののみを収集している。詳細は“http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/online/detail.html”を参照。

注2)  これらのシステムのトップページ等は,国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)(http://warp.da.ndl.go.jp/)に保存されている。WARPの詳細検索画面において,「ページURL」を指定(貴重書画像データベースは“rarebook.ndl.go.jp”,近代デジタルライブラリーは“kindai.ndl.go.jp”,児童書デジタル・ライブラリーは“kodomo4.kodomo.go.jp”)して検索することで,過去のページを見ることができる。

注3)  国立国会図書館がデジタル化した資料のうち,絶版等の理由で入手が困難な資料について,公共図書館・大学図書館等(国立国会図書館の承認を受けた図書館に限る)にデジタル画像を送信し,各図書館で画像の閲覧等ができるサービス。

注4)  Webサイトのタイトルでは「国立国会図書館のデジタル化資料」,「国立国会図書館デジタル化資料」と表記していたが,正式なサービス名称ではなかった。

注5)  RFC4452として標準化されている。info:の次はnamespaceであり,NISOが管理していた。NDLも“ndljp”でnamespaceの取得を申請していたが,受理されないまま2010年に,NISOがnamespaceの割り当てを停止してしまった。そのため,info:ndljpは国際的に一意な識別子とは言えなくなってしまった。ただし,NDL内では一連番号の発行を管理しているため,NDL内のシステムでは一意性を確保している。なお,“pid”はPersistent Identifierの略である。

注6)  国立国会図書館ダブリンコアメタデータ記述(DC-NDL)を拡張したDCNDL_PORTA。

参考文献
 
© 2015 Japan Science and Technology Agency
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