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集会報告
集会報告 ISWC2016:第15回 International Semantic Web Conference
加藤 文彦
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2017 年 59 巻 11 号 p. 784-787

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  • 日程   2016年10月17日(月)~21日(金)
  • 場所   神戸国際会議場(兵庫県神戸市)
  • 主催   Semantic Web Science Association, Linked Open Data Initiative

1. はじめに

セマンティックWeb分野におけるトップの国際会議であるISWC (International Semantic Web Conference)注1)が,2016年10月17日から21日までの5日間,神戸国際会議場で開催された。日本で開催されるのは2004年の広島以来2回目である。この会議には世界中からトップクラスのセマンティックWeb研究者が参加しており,5日間にわたり研究発表やワークショップ等を行う。最初の2日間はチュートリアルやワークショップ,ドクトラルコンソーシアムが行われ,その後の3日間が本会議となっている。今年の参加者は400名以上であり,日本からの参加者は80名程度いたそうである。筆者はローカルオーガナイザーの一人として参加した。

2. 初日と2日目

チュートリアルは講義形式のセッションであり,その分野における最先端の研究者が,基礎から応用まで内容を紹介するのが一般的である。さらに,代表的なツールやアプリケーションについてハンズオン(体験学習)をすることもある。今年はオントロジーのデザインパターンやSPARQLクエリのベンチマーク,リンク発見等,5つのチュートリアルが開催された。

ワークショップは特定の興味分野についての研究中の内容などを持ち寄り,情報共有や議論,コミュニティー作りをする場となっている。今回はリンクトデータやオントロジー,自然言語処理,統計,ビジネス等,16のワークショップが行われた。

ドクトラルコンソーシアムは,博士課程の学生のためのセッションである。各自の研究について口頭発表とポスター発表を行い,それに対してトップレベルの研究者たちが指導するという教育目的のセッションである。

3. 基調講演

本会議では,基調講演,口頭発表,ポスター&デモ発表等さまざまなセッションがある。

本会議の毎朝最初のセッションは基調講演となっており,Kathleen McKeown氏,Christian Bizer氏,Hiroaki Kitano氏の3名による講演があった。

Christian Bizer氏の講演(1)では,現在はリンクトデータとHTML埋め込みデータという2つの形で,セマンティックWeb構想の一端が垣間見えるようになっているという話があった。LOD (Linked Open Data)クラウド1)のデータセット数は2016年の調査では2,740になっており,2014年の1,091と比べても急速に増加している2)。HTMLへのデータ埋め込みは,Web Data Commons3)で調査した1,441万のドメイン中272万のドメインで使われており,Guhaらの研究4)では少なくとも1,200万のWebサイトでSchema.orgが利用されている。主に製品やホテルといったビジネスでの基本データを表すのに使われており,ショッピングWebサイトではイーベイやウォルマート等,旅行系Webサイトでは大手はほぼ採用している状態である。形式としてはこの1年でJSON-LDが急激に増加しているといった,さまざまな興味深い調査報告が紹介されていた。

なお,基調講演や一部のセッションについてはVideoLectures.Netで映像が公開されている注2)ので,興味があれば参照されたい。

図1 基調講演(Christian Bizer氏)

4. 口頭発表

ISWCの口頭発表の特徴は,通常の論文発表以外に,研究コミュニティーにとって重要なデータセットやアプリケーション,ツール等について成果発表の機会を与えているところである。これらは通常の論文発表とは異なる基準で査読される。今年はResearch Track,Resources Track,Applications Track,Journal Trackという4部門の発表募集があった。

Research Trackは通常の研究論文発表のことである。212件の投稿があり,39件が採択された(採択率18.4%)。国別の投稿件数ではドイツが圧倒的に多かった。

Resources Trackでは,研究コミュニティーに寄与するリソース共有についての口頭発表を募集していた。代表的なリソース例はデータセットやオントロジー,サービス,ベンチマーク等であるが,オントロジーデザインパターンやワークフロー,方法論等も対象である。Resources Trackは,価値,再利用性,設計と技術品質,可用性という4項目で査読されることになっており,各項目について細かな要件がある。71件の投稿があり,24件が採択された(採択率33.8%)。

Applications Trackでは,実際に利用されているアプリケーション,ビジネス事例,実世界に展開できそうなプロトタイプ等を募集していた。Applications Trackに投稿する論文では,開発の動機,セマンティック技術への貢献,実際の利用例,それにより得た知見,実装の詳細等を表明する必要がある。43件の投稿があり,12件が採択された(27.9%)。

Journal Trackは,論文誌に採択された著者に口頭発表の機会を与える試みである。今年対象となったのは2015年から2016年4月までに発行された論文であり,過去にISWCやESWC (Extended Semantic Web Conference)で発表されていないものである。著者の自薦応募後,編集委員が投票で選出する。今年はJournal of Web SemanticsとSemantic Web Journalというこの分野における2大ジャーナルから6件ずつ,計12件の論文が採択された。

セッションの時間はテーマごとに設定され,部門にこだわらずテーマに合わせた口頭発表が行われた(2)。テーマはリンクトデータ,オントロジー,推論,クエリ,検索,自然言語処理,知識グラフ,スマートプラネットなど多岐にわたる。

論文の傾向としていえるのは,オントロジーという単語を含んでいるものが再度増えてきていることである。当初のセマンティックWeb研究はトップダウン的なアプローチが多く,オントロジーも推論の面が強調されていた。それに対してこの10年で台頭してきたリンクトデータは,推論等は置いておき,まずデータをWebに載せることで他の人も使えるようにして,つなげられるところを各自勝手につないでいくというボトムアップ的なアプローチであった。現在はそれらのデータを改善し,よりよいつなぎ方をして組織化するための手段として,オントロジーが見直されているのではないかと考えられる。

たとえばリンクトデータのセッションで印象に残ったのは,Ontology Design Patterns (ODPs)5)6)のように,これまでオントロジー設計のベストプラクティスとして蓄積されてきたものが活用されていることである。ISWCの論文や研究者情報をまとめていたSemantic Web Dog Food7)で使用されているSemantic Web Conference Ontologyについて設計を見直して改良をしたScholarlyData8)や,イタリアの農業関係のプロジェクトであるFOOD9)など, いずれもODPs等を適用して構築したと述べている。

図2 セッションの様子

5. ポスター&デモ

ポスター&デモセッションは研究者同士が今行っている研究について議論するための場であり,3日目の夜に行われた。ポスター55件とデモ47件,計102件の発表があった(3)。

ISWCにおけるポスター&デモセッションの特徴は,開催前にマッドネスセッション(Minute Madness)が設けられていることである。そこではポスター&デモセッションの著者が45秒で各自のアピールをする。マッドネスの時間は何をしてもよいことになっており,普通は発表の内容についてライトニングトークをするのだが,中には楽器を吹いたり,チャンバラをやったりと好き勝手にやる人たちもいて,ISWCコミュニティーの懐の深い側面を垣間見ることができた。

ポスター&デモセッションでは,査読者による賞の他に,参加者の投票による賞が設けられている。参加者は発表者らと議論した後に,事前に配布された専用ページから投票する。各種賞についてはAwardsのページ注3)に公開されているので参照されたい。

図3 ポスター&デモ会場

6. バンケット

バンケットは4日目の夜に行われた。国際会議の目的の一つは研究者同士の交流であり,バンケットはその一つである。ISWCの運営組織であるSemantic Web Science Association (SWSA)や神戸市長等からあいさつがあった後,食事をしながら他の参加者と交流をした。イベントとしては聴衆参加型のチャンバラショーがあり,盛り上がった。

7. 併設イベント

ISWC2016の併設イベントとしては,KOBE×BARCELONA World Data Viz Challenge 201610)とオープンデータシンポジウム201611)が神戸国際会議場で行われた。ISWCとの併設ということで,セマンティックWebとも関係の深いオープンデータがキーワードとなっている。

神戸市が主催してバルセロナ市との連携で行ったWorld Data Viz Challenge 2016は,まちづくりでのICT活用をテーマにしたデータ可視化の国際ワークショップである。都市が抱える課題を主にオープンデータを活用して可視化した作品について,参加者が発表を行った。

オープンデータシンポジウム2016は,一般社団法人オープン&ビッグデータ活用・地方創生推進機構(VLED: Vitalizing Local Economy Organization by Open Data & Big Data)が主催して,2012年から毎年開催しているシンポジウムである。こちらでも,都市やスポーツ等さまざまな分野でのデータ活用についての紹介があった。

8. おわりに

次回のISWC2017は,オーストリアのウィーンで2017年10月21日から25日まで開催される予定である。もし興味をもっていただけたら,ぜひ来年のISWCに論文投稿をしていただければ幸いである。

(国立情報学研究所 加藤文彦)

本文の注
注1)  The 15th International Semantic Web Conference 2016 (ISWC2016): http://iswc2016.semanticweb.org

注2)  "15th International Semantic Web Conference (ISWC), Kobe, 2016". VideoLectures.Net.: http://videolectures.net/iswc2016_kobe/

注3)  "Awards". The 15th International Semantic Web Conference 2016 (ISWC2016): http://iswc2016.semanticweb.org/pages/program/awards.html

参考文献
 
© 2017 Japan Science and Technology Agency
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