2017 年 59 巻 11 号 p. 794
本書は,2005年の『Ambient Findability』,2010年の『Search Patterns』に続く,3冊目の著書の和訳で電子書籍でのみ出版された。すべて,情報アーキテクトでもある浅野氏が訳している。今回は著者からの直接依頼とのことで,著者の訳者への信頼を感じる。本稿をもって,この15年間のモービル氏の著作3冊すべての紹介を行うことになるが,本書には著者のWebデザインへの思いが詰まっている。激変する情報環境とその社会への影響について困惑しながらも,読者によりよい方向につながるヒントの提示を試みている。
この本の構成は,次のとおりである。
この章立てから,これが通常の情報技術の本ではないことがわかる。1章では,著者の住むミシガン州のスペリオル湖の島に,初めてテントを担いで4日間の一人旅をしたときのことが書かれている。ここでは島に住むオオカミとヘラジカの捕食関係を例に,私たちの生態系はすべて互いにリンクし,同時に深く錯綜(さくそう)しているとしている。実はこの「自然」の中に5章の「限界」を打ち破る答えがあることを最後に知ることになる。
著者はミシガン大学大学院で図書館情報学を学んだ。この知識をWebデザインに生かしているが,2章では図書館情報学の大切な命題である分類について説明している。その中で,階層関係をもつタクソノミーの限界とWebサービスで見直されたファセット分類の価値を述べている。ファセットはインドのマドラス大学初代図書館長であるランガナタンのコロン分類で使用された,階層にとらわれない柔軟な分類である。2016年,チェンナイの海岸に面したその大学図書館を訪問した私は,コロン分類表を掲げ,整然と並べられた歴史ある書架を見た。階層に対置した分類がカースト制のあったインドで作られたことは感慨深い。本書では「境界」の文字が28回も登場するが,著者は区別に必要な「境界」は実はあいまいであり,すべては錯綜しているとしている。
さて,3章ではリンクと分岐の必然性,4章では変革に必要な文化について理解し,最終章の限界へと続く。著者は図書館情報学の知識も生かして現代の錯綜する世界を説明し,つながりを意識することで限界を超え,たどるべき道(パス)を見つけられるとしている。
私自身は化学出身であるが,大学院で図書館情報学を学び直し,ある程度の知識を得た。そのような立場でこの本を読むと非常に力づけられたが,文学的な格調も感じられる本書は,何度か読み返さないと理解できないレトリックもある。しかし,この本によって情報をより高い場所から俯瞰してみることができれば,自分自身が抱える問題にも勇気をもって取り組んでいくことができると考える。
(『情報管理』編集委員 小河邦雄)