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Vol. 59 (2016) No. 12 p. 859-862

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http://doi.org/10.1241/johokanri.59.859

過去からのメディア論

過去からのメディア論 インターネット上の死者の記憶

インターネットには,死者の記憶が残る。

昨年亡くなった知人のFacebookアカウントに対して,誰かが誕生日のお祝いを投稿しているのを見た。ソーシャルメディアのアカウントの所有者・利用者が亡くなっても,そのアカウントの「友達」のすべてが,亡くなった事実を知っているわけでもない。

亡くなったアカウントに,お祝いの言葉を贈っても,おそらく誰も答えることがないだろう。私のように,わざわざ亡くなった事実を伝えることをためらう人がほとんどだろうから。そして,ためらった人の多くは,そのお祝いの言葉を見て,アカウントの所有者・利用者が不在である事実を意識させられたことだろう。

2015年10月31日には,突然の死から7年間消去されないままだったあるタレントのブログが閉じられた注1)。亡くなった後も公開が続いたこのブログには,死後7万件以上のインターネットユーザーからのコメントが投稿されたとされる。この場合は,亡くなった事実を知りながらも,インターネットユーザーがさまざまな理由から,亡くなったユーザーのブログに対してコメントを投稿し続けたものだ。

ソーシャルメディア上の記憶が亡くなった後も残り続けることには,よい面も悪い面もある。家族や友人・知人にとっては,亡くなった人々の記憶をとどめ,想起するためのよすがとなるかもしれない。一方で,残された人々の状況によっては,大切な人が亡くなった事実をことさらに意識させられ,後悔が募るという場合もあるかもしれない。

ソーシャルメディアのアカウントをそのまま放置するのではなく,遺族が申し出てアカウントを消去するなどの手続きももちろん可能である。また,死後そのアカウントをどのように扱うべきか,生前から決めておくこともできる。

正規のアカウント利用者の死後,生前に指定しておいた者,またはアカウント利用者の近親者であることを証明できる場合には,追悼用のアカウントに変更したり,そのアカウントの削除依頼ができるサービスが,複数のSNSやインターネットサービスで用意されている。

Facebookにおいては,死後のアカウント管理人を生前に指定できるほか,利用者の死後,死亡証明書等の書類を添えて申し込むことで近親者と証明できれば,利用者のアカウントを削除できる。死後のアカウント管理人の指定等については,「追悼アカウント」(https://www.facebook.com/help/1506822589577997/),死後のアカウントの削除については,「亡くなった方のアカウントに関する特別リクエスト」(https://www.facebook.com/help/contact/228813257197480)をそれぞれ参照。

Googleの場合,一定期間利用しない際にアカウントを削除できる「アカウント無効化管理ツール」(https://support.google.com/accounts/answer/3036546?hl=ja注2)を提供する。一定期間利用がないことを近親者・友人等の指定した者に知らせ,必要があれば通知後3か月間データのダウンロードをできるようにする機能もある。

Twitterには,死後近親者・友人等が故人のアカウントを削除できる機能がある。削除依頼を行うと,依頼者の身分証明書や故人の死亡証明書を送るなどの手続きを記したメールが届くので,その手続きに従って削除を行う。また,故人の家族あるいは法的資格を有する代理人が,亡くなった人に関連する動画や写真(故人の死亡の原因となった事故やその前後を撮影した動画等)を削除依頼する機能もある。(https://support.twitter.com/articles/20174907注3)

しかしながら,これらの機能について,利用者の家族等が熟知しているとは限らないし,多くの場合,利用者に起こった突然の事故・事件等の直後,ソーシャルメディアのアカウントや写真等の削除にまで残された家族・近親者の気が回るとは思えない注4)。また,ソーシャルメディアに限らず,事件・事故が起こると,マスメディアが被害者写真の掲載について,事件・事故直後の遺族に同意を求めるため殺到する状況が見受けられる。マスメディアが遺族に殺到すること自体が望ましいことではないように思われる。

将来的には,SNSにおける写真等を当人の死後どう利用すべきかすべきでないか,当人が生前に指定できるようなサービス等が必要かもしれない。また,死後の写真利用を好まないユーザーは,心拍等をモニタリングするウエアラブル機器とSNSのアカウントを連動させ,一定期間心拍が停止した場合アカウントの閲覧を停止し(電波の不達などの事故もありうるので),さらに条件が整えばアカウントを自動削除する等の機能は実装できるだろう。

インターネットに限らず,死者の著作権や,名誉・プライバシーに触れる情報は,どのように扱われているだろうか。

著作権に関しては,著作者本人の死後どのように扱うかルールが決まっている注5)

三島由紀夫から受け取った手紙を小説中に引用して公開したところ,遺族から著作者人格権(公表権)と著作権(複製権)の侵害として差し止めを請求する訴えを起こされた事件がある(東京高裁2000年5月23日判決)。この事件では,三島由紀夫の手紙は思想・感情の創作的表現,すなわち著作物と認められた。この手紙は受取人がそれまで所蔵し未公表であったことから,無許諾の公表は彼の公表権を侵害するものとした。

ところが,現在のところ,死者の名誉やプライバシーをどう扱うべきか共通理解は存在しない。前出の事例においては,実のところ三島由紀夫当人のプライバシー侵害と,遺族の名誉・追慕の感情が問題であったようにも思われるものの,死者のプライバシーや遺族の名誉・追慕感情を問題とするよりも,著作権・著作者人格権侵害で争った方がよいとの判断があったように思われる。

その一方で,歴史研究の立場からみると,死者の名誉やプライバシーに触れる情報であっても,歴史的事実を知るため,歴史記述を行うために重要な場合が少なくない。

2015年には,太宰治が佐藤春夫に芥川賞の受賞を懇願する手紙が見つかったと,報道された注6)。太宰が芥川賞を熱望し,芥川賞候補に作品が選ばれた際に,選考委員の佐藤春夫や井伏鱒二に受賞を懇願した事実はよく知られている。太宰が選考委員に懇願する手紙やはがきはすでに発見されていた。だから,新事実が明らかになったとはいえないものの,太宰の熱望をさらに証拠立てる点で興味深いものとされた。この手紙も太宰の内奥の心理を明らかにするものであるから,プライバシーにかかわる情報であるとみることもできる。

海外の事例をみると,ミッテラン元仏大統領(1916-1996)の死後のプライバシー問題が興味深い。

2016年10月には,同大統領の元愛人が,同大統領から送られた手紙1,200通以上を書簡集として出版するとのニュースがあった注7)。これらの手紙は,手紙の名宛て人の元愛人の女性と同大統領の3人の子どもの認可を受けて,出版されている(が,当然のことながら,ミッテラン大統領の許可は得ていない)。

一方で,1996年,同大統領のかかりつけ医だったギュブレ医師(Dr. Gubler)が,生前の同大統領の健康状態について出版した際には,未亡人と子どもたちが,プライバシー侵害と,遺族感情の毀損(きそん)を理由に,仮差し止めを目的とする行政処分申請を行った注8)

1981年の大統領選挙の際,ミッテランはすでに前立腺がんに侵されていた。このとき,治療のために雇われたのがギュブレ医師だった。彼は,医療チームを作ってがん治療に当たった。ところが,ミッテラン死去の前後,大統領は適切な治療を受けていなかったとするフランスの新聞Le Mondeの記事が現れ,ミッテランの医療チームに対する非難が高まった。ギュブレ医師は,この社会的非難に対する回答として,『Le Grand Secret(極秘情報)』と題して,生前のミッテランの健康状態を明らかにする書籍を出版した。

申請の翌日1996年1月18日には,パリ市長が著者のギュブレ医師と出版社Edition Plonに対して差し止めを命じたうえで,流通が継続した場合罰金1,000フランを科すとの命令を出した。この命令は,ある人のプライバシー権は,その死後であっても,親族にも及ぶという根拠から出されたものである。

出版社と著者は不服として訴えたものの,1996年3月13日パリ控訴裁判所の判決は,医師の守秘義務は患者の死後にも及ぶとして,当初の判決を支持した。1997年7月16日,破毀院(はきいん)(Court of Cassation)注9)も,同様に上告を退けた。

民事・刑事の訴訟においても,職業上の秘密の漏えいとプライバシー侵害を理由として,著者と出版社は出版の責任を問われ,罰金刑および差し止め・損害賠償を命じられた。出版社(とその代表)は,人権と基本的自由のための条約(European Convention on Human Rights)第10条の表現の自由を盾に最高裁まで争ったものの,結局プライバシー侵害の判断は覆らなかった。

出版社Edition Plonは,さらに,欧州人権裁判所に同条約10条の違反を理由に訴訟を起こしたものの,同様に主張は認められなかった。逆にインターネットに流布した電子書籍の差し止めを命じられた。

ミッテラン大統領の事例は,死者においてもプライバシーが成立し,遺族が訴訟を起こすことが可能であるという可能性を示しているようにも思われる。その一方で,安易に死者のプライバシーや名誉権を認めてしまうと,亡くなった人物の個人史に分け入ることで歴史的事実を探究し,さらに多面的な理解を得るというアプローチを拒むようにも思われる。

オランダでイスラム教の開祖ムハンマドの風刺画が発表された際には,サウジアラビアのジッダ在住の弁護士がムハンマドの9,000人の子孫を代表して,ムハンマドの名誉毀損裁判を起こすとの新聞報道もあった注10)。少なくともこのようなアイデアは,世俗化され,宗教的情熱を失った私たちには奇妙に映る。

ソーシャルメディアは,社会におけるコミュニケーションのインフラとして,今後ますます重要度を増していくと考えられる。そうすると,ソーシャルメディアには公開・非公開のさまざまな情報が蓄積していくことだろう。情報の公開とプライバシーや名誉の保護との均衡を考慮したうえで,インターネットに残る記憶も含めて,死者の情報をいかに扱うかのルール作りも考えていく必要があるように思われる。

本文の注

注1)  飯島愛ブログ,31日23時59分に閉鎖 7年間管理した両親に「ありがとう」が並ぶ. J-Castニュース. 2015年10月30日:http://www.j-cast.com/2015/10/30249437.html?p=all

注2)  企業・大学等が,Gmailをその組織のメンバー向けのメールサービスとして提供することがある。このような場合,このアカウントを利用するユーザーは,Googleのアカウント無効化ツールを利用できない。

注3)  以上の本文中URLはすべて2017年1月6日にアクセス。

注4)  2010年,米国の21歳の若者が亡くなった際には,両親がこの若者のソーシャルメディアアカウントに残るさまざまな情報を消去するため,裁判を起こさなくてはならなかった。参考文献1)を参照。

注5)  著作権保護期間は,原則的に,著作者の死後50年(死去の翌年1月1日起算)である(著作権法第51条)。著作者人格権は,遺族(配偶者・祖父母・両親・兄弟姉妹・子ども・孫)が,死去した著作者に代わって行使する(第60条,第116条)。

注6)  「太宰治が芥川賞懇願する手紙見つかる」. NHK「かぶん」ブログ. 2015年9月7日: http://www9.nhk.or.jp/kabun-blog/700/226725.html

注7)  "In François Mitterrand Letters, an Intimate Portrait of the Other Woman". New York Times. 2016-10-01 : http://www.nytimes.com/2016/10/18/books/in-francois-mitterrand-letters-an-intimate-portrait-of-the-other-woman.html?_r=0

注8)  以下の説明は,Editions Plon v. France, 42 Eur. Ct. H.R. (2004) に基づく。

注9)  フランスの司法系統における最上級審の裁判所。

注10)  Waterfield, Bruno. Defamation case over Prophet Mohammed cartoons 'to be held' in Britain. Telegraph, 2010-03-16, 4:22 PM : http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/europe/denmark/7457611/Defamation-case-over-Prophet-Mohammed-cartoons-to-be-held-in-Britain.html

参考文献

1)  Hopper, Jessica. "Digital Afterlife: What happens to your online accounts when you die?". NBC News. 2012-06-01. http://rockcenter.nbcnews.com/_news/2012/06/01/11995859-digital-afterlife-what-happens-to-your-online-accounts-when-you-die?lite, (accessed 2017-01-06).
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