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Vol. 59 (2016) No. 12 p. 863-866

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http://doi.org/10.1241/johokanri.59.863

集会報告

集会報告 国際シンポジウム「オープンサイエンスの潮流と図書館の役割」

  • 日程   2016年11月15日(火)
  • 場所   国立国会図書館東京本館(東京都千代田区)
  • 主催   国立国会図書館

本稿はクリエイティブ・コモンズ(CC0)ライセンスの下に提供する。詳しくはCC0 1.0 全世界:https://creativecommons.org/publicdomain/zero/1.0/deed.jaを参照。

1. はじめに

国立国会図書館では,2016年3月に「第四期国立国会図書館科学技術情報整備基本計画」を策定したが,この計画には「研究データの共有・保存に対する啓発活動」としてオープンサイエンスへの取り組みが含まれている。オープンサイエンスは今や国際的に大きな潮流になっており,取り組むにあたって図書館がどのような役割を果たすべきかを考えるために,この国際シンポジウムを企画した。

まずオープンサイエンスに関する欧州委員会の政策の動向とヨーロッパの研究図書館の対応の現状について,欧州研究図書館協会(以下,LIBER)のクリスティーナ・ホルミア=ポウタネン会長の講演,続いて日本の状況について,村山泰啓氏(情報通信研究機構 統合ビッグデータ研究センター研究統括)が概観した。後半では,ホルミア=ポウタネン氏,村山氏に,喜連川優氏(情報・システム研究機構 国立情報学研究所長)が加わって,「オープンサイエンスの潮流と図書館の役割」というテーマで鼎談(ていだん)が行われた。

2. 講演「ヨーロッパの研究図書館におけるオープンサイエンスへの取組について」

ホルミア=ポウタネン氏は,フィンランド国立図書館の図書館ネットワークサービス部長であり,LIBERの会長も務めている(1)。またこのたび設置された欧州委員会のOpen Science Policy Platformの委員としても活動している。氏は,まずLIBERがかかわっている欧州レベルの活動を説明し,続いてフィンランドのオープンサイエンスに言及した。

LIBERは欧州で最大の研究図書館ネットワークであり,1971年に創設された。現在,加盟館は世界40か国以上から420館を超える。2016年から2017年までのLIBERの戦略としては,3つの方向性があるという。まずオープンサイエンスを可能にすること,2番目が変化する学術を先導すること,3番目は革新的な研究を形成する強力なアドボカシー(政策提言)である。

LIBERがオープンサイエンスを重視しているのは,オープンサイエンスが研究の透明性の向上,より良質な研究,より高い水準の市民参加,そして科学的発見の加速をもたらすと考えているからである。LIBERは,2014年にオープンサイエンスを推進する声明を出しており,これまでの成果としては,研究データ作成のロードマップがある。

リーダーシップについて,LIBERではリーダーシップの技能開発が図書館の将来のニーズや課題に対する最良の方策と考え,2種類のリーダーシップセミナーを運営している。

アドボカシーにおける主なトピックとしては,著作権制度の改正,テキスト・データマイニング,オープンサイエンスがある。LIBERは欧州委員会や欧州議会に積極的に働きかけ,政治家に自らの見解を伝えているという。

次に氏は欧州委員会のオープンサイエンスへの取り組みを説明した。ヨーロッパにおけるオープンサイエンス支援体制への移行は徐々に進んできたそうである。欧州委員会はオープンサイエンス推進のために2014年に委員会を設立し,その報告書が2015年に公開された。欧州委員会の取り組みの1つ目は,Horizon 2020という欧州連合の研究イノベーション枠組み計画である。2つ目は,European Open Science Cloudである。3つ目は,Open Science Policy Platformである。

研究資金助成機関がもつ役割・権限はオープンサイエンスを推進するうえで強力な手段である。Horizon 2020は大規模な研究資金助成プログラムで,2015年からオープンサイエンスが義務化された。つまり,Horizon 2020によって資金が提供された研究の結果は必ずオープンにされなければならないということである。

European Open Science Cloudは既存の別々の研究基盤をひもづけることで,ヨーロッパの170万人の研究者や7,000万人の科学技術専門家たちに,分野や国境を超えてデータを保管・共有・再利用できる仮想環境を提供しようとするものである。

Open Science Policy Platformは,欧州委員会の専門家グループとして設立された。グループを構成するのはヨーロッパにおけるオープンサイエンスのステークホルダーを代表する25名の専門家であり,オープンサイエンス政策を今後どう立案し,実務上展開するのかなどについて欧州委員会に助言する。氏もその一員である。

続いて,氏はフィンランドでの取り組みに話を移した。フィンランド教育文化省は,オープンサイエンスの推進のために,2014年から2017年までの期間で,Open Science and Research Initiativeを開始した。この計画の目標は,フィンランドをオープンサイエンス,オープンリサーチの先進国にすることである。プロジェクトの範囲には科学出版物,研究データ,方法,トレーニングが含まれている。プロジェクトのもう一つの目的は,オープンサイエンスをどう実施すればよいかという実践的な知識を研究者に提供することである。フィンランドでは,図書館がオープンサイエンスに積極的に参加している。図書館の代表者はこのイニシアチブの一員であり,国によるオープンサイエンス研修の調整もフィンランド国立図書館が行っているそうである。

最後に,氏はオープンサイエンスを推進するうえでの図書館の役割の重要性を強調した。図書館は,オープンサイエンスに力を与えるという点で重要な役割を果たすことができるし,また果たすべきである。たとえば,オープンサイエンスについて啓発し,トレーニングの機会を提供することは,まだオープンサイエンスがよく知られていないため,重要である。データ管理ポリシーの実施の調整や基盤の整備も図書館が担うべき役割である。さらに氏は,オープンサイエンスは世界的な現象であるから,図書館はオープンサイエンスを推進するために国際的に連携しあうべきであると述べて,講演を終えた。


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図1 クリスティーナ・ホルミア=ポウタネン氏

3. 講演「オープンサイエンス推進の国際的枠組みと日本の近況」

次に,日本国内のオープンサイエンスの取り組みについて,村山泰啓氏が紹介した(2)。村山氏は内閣府の「国際的動向を踏まえたオープンサイエンスに関する検討会」の構成員などを務めてきた。また,国立国会図書館科学技術情報整備審議会の委員,先述のEuropean Open Science Cloudの欧州外委員でもある。

村山氏によれば,オープンサイエンスの議論では,研究データに注目が集まっている。2013年に開催されたG8の科学技術大臣会合が日本での活動の契機となった。この会合で出された共同声明を受けて,国内ではどう進めるかが内閣府で議論され,2015年3月に報告書がまとめられた。2016年5月にはG7科学技術大臣会合が茨城県つくば市で開催された。この会合における6つの課題の1つがオープンサイエンスであり,オープンサイエンス部会を設置するという合意がなされた。

村山氏は,データが科学技術を推進することを指摘した。たとえば近年盛んな量子暗号技術の研究の論文において80年前のアインシュタインの論文が理論的基礎として言及されている。これは,今の若手研究者が80年前の論文に自由にアクセスできるからこそ,イノベーションが可能になっているという例である。今後,研究データが保存されるようになれば,さらに80年後のイノベーションにつながるのではないかという。

次に氏はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)を紹介した。IPCC全体では3,000~4,000人の専門家が知識をまとめてコンセンサスを形成している。このように科学者コミュニティーで知識を共有して初めて,社会の中で活用される。研究成果を出版・保存しないと,科学のコンセンサス形成を行えず,有益な知見を社会に提供できない。その意味では,図書館は決して科学のサポーターではなく,科学の主体者の一員であるという。

今後生み出されるデータを将来のデータサービスにつなげるためには,識別子やメタデータによってデータを組織化し,相互に運用可能な体制を作ることが不可欠だが,これはまさに図書館がこれまで行ってきた仕事であるとし,私たちは知識やデータといった「科学情報」のブロックを積み上げてより堅実かつ発展可能な社会を築く必要があると村山氏は講演を締めくくった。


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図2 村山泰啓氏

4. 鼎談「オープンサイエンスの潮流と図書館の役割」

まず鼎談の冒頭において,喜連川氏が,国立情報学研究所の取り組みや氏自身の研究から,オープンサイエンスと図書館界について発表した。氏は国立情報学研究所(NII)所長,東京大学生産技術研究所教授であり,また科学技術情報整備審議会の委員でもある。

氏が所長を務めるNIIは研究だけでなく業務・サービスも行っており,JAIRO Cloudは大学の機関リポジトリをホストしている。これにより,小さな大学でも機関リポジトリのサービスを提供できる。今ではJAIRO Cloud上の機関リポジトリの数が,各大学自身が運営する機関リポジトリの数より多い。ここから,共通のインフラが効率的だという示唆が得られる。NIIでは,このJAIRO Cloudにデータを入れることを考えている。データは必ずしもオープン化されないが,オープン化されるデータとされないデータで別々のプラットフォームを作るのではなく,両者の基盤を結合する必要がある。NIIでは,米国のOpen Science Frameworkを基礎とし,機関リポジトリを使った研究データ基盤を各大学とともに作りたい。また,データキュレーションについては,IT専門家とデータをプラットフォーム化する専門家の協力が重要である。ツールを用いることで効率が上がるので,ツールを図書館員とともに作れるのかが今後の課題であるという。

氏は結論として,図書館員,それぞれの研究分野の科学者,コンピューター科学者がどのように協調するのかを考える必要があるとし,国際的な協力が重要だと述べた。

その後,オープンサイエンスを支える学術研究基盤,オープンサイエンスと図書館の役割について3氏で議論がなされた(3)。

モデレーターを務めた村山氏の質問に答えて,喜連川氏から,オープンサイエンスの推進はなるべく早く行う必要があるという認識が改めて示された。

また,データを保存するためのヨーロッパでの具体的な取り組みの現状についてフロアから質問があったが,ホルミア=ポウタネン氏によればフィンランドでもまだ具体化には至っていないそうである。研究データのメタデータを作ることが図書館に可能かどうか喜連川氏が問うたところ,ホルミア=ポウタネン氏は図書館が行う必要があるとの考えを示し,研究データ管理推進にあたって,事例やベストプラクティスの共有が有益だったことを紹介した。そのためにも研究者,図書館,IT関係者の連携が重要という点で3氏は一致した。

ホルミア=ポウタネン氏は,研究データ管理に関する研究者の啓発には図書館が中心的役割を果たすべきであり,研究者と図書館員が互いに学ぶことが重要だとした。村山氏も,図書館員は研究データ管理の全体設計を研究者に啓発するという立場にいると述べ,今後国立国会図書館が識別子やメタデータへの啓発を推進することへの期待を示した。

喜連川氏は,データをオープン化することも研究者の負担となることを指摘し,唯一の方法は,IT専門家,図書館員,科学者が協力してツールを作り,オープン化のコストを低くすることだと述べた。ホルミア=ポウタネン氏もこれに同意した。

ホルミア=ポウタネン氏は研究者のインセンティブが重要であり,データが再利用されたときに研究者が評価を得られるような枠組みが必要であるという。さらにはデータの提供を評価するように大学や研究機関の制度を見直す必要性について,3氏の間で議論された。


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図3 鼎談の様子

5. おわりに

今回のシンポジウムにおいては,図書館員と研究者の国際的な協力の必要性,システムやツールの整備の重要性など,登壇者の間で多くの点で一致がみられた。

なお,当日,参加者からの質問を多くいただいたが,時間の都合により,そのすべてに回答することはできなかった。この場を借りておわび申し上げる。

当日のプレゼンテーション資料と記録を国立国会図書館Webサイト注1)で公開しているので,詳細はそちらをご覧いただきたい。

(国立国会図書館 相原雅樹)

本文の注

注1)  国際シンポジウム「オープンサイエンスの潮流と図書館の役割」: http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/20161115symposium.html

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