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図書紹介 『ドイツに学ぶ科学技術政策』
小岩井 忠道
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2016 年 59 巻 2 号 p. 142

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  • 『ドイツに学ぶ科学技術政策』
  • 永野博著
  • 近代科学社,2016年,A5変型,246p.,2,700円(税別)
  • ISBN 978-4-7649-0497-2

3月に「イノベーションをけん引する国立研究機関ランキングTop25」というランキングが公表された。「トムソン・ロイター」の持つ学術論文と特許情報が基になっている。2位にフラウンホーファー応用研究促進協会,11位にヘルムホルツ協会,15位にマックス・プランク科学振興協会と,ドイツの3機関が入っている。

2015年9月に国際交流基金やベルリン日独センターなどが共催した日独シンポジウム「ダイバーシティが創る卓越性~学術界における女性・若手研究者の進出~」が都内で開かれ,人材育成,特に女性研究者の育成に関する取り組みについて,日独双方の研究者たちが意見を交わした。

科学技術政策や人材育成に関する国内の議論にも,ドイツ政府が進める「インダストリー4.0(第4次産業革命)」が頻繁に登場する。ドイツの科学技術政策に対する関心の高まりを示すものだろう。

こうした時期にぴったりの本が,最も適任の人によって書かれた。著者は,科学技術庁,文部科学省で科学技術政策にかかわってきた元科学技術官僚で,現在でも経済協力開発機構(OECD)グローバル・サイエンス・フォーラム議長を務めるなど内外の科学技術政策に詳しい。ドイツには,学生時代,アーヘン工科大学に1学期間聴講生で滞在したのを手始めに,科学技術庁時代に2年間ミュンヘン大学に留学,さらにボンの日本大使館に3年間科学技術担当書記官として勤務した経験をもつ。

この本は,ドイツの科学技術政策について,第二次世界大戦前から現在までの変遷,特徴的なシステム,若手人材の育成,日本への示唆,とさまざまな観点から紹介,考察している。フラウンホーファー応用研究促進協会,ヘルムホルツ協会,マックス・プランク科学振興協会の役割についての記述も,当然ながら詳しい。

日本との違いはどうか。著者によると,これら3つの公的機関は大学院生の教育にも大きな役割を果たしているという。博士号を授与する機能は大学が所有しており,人材育成に公的研究機関と大学との補完関係がうまく機能している,ということだ。具体的には,次のように紹介されている。

フラウンホーファー応用研究促進協会に雇用されている2万2,000人中,6,000人は大学院生と学生(ドイツは大学の授業料はなく,大学院生には給料が支払われる)。協会は66の研究所を持ち,すべて大学のそばに設置されている。研究所に雇われた大学院生は,協会が企業などから委託された研究プロジェクトに参加し,博士論文は週末や勤務時間外に書く。学生たちは委託研究を発注した企業の人たちと,日常的に直接議論できるうちに起業家的な発想も身に付け,実際に産業界から歓迎される人材に成長する,という。

マックス・プランク科学振興協会では,「グループリーダー」制度で採用された若手研究者に毎年35万ユーロの研究費が支給され,5年間,一切の研究進展を任される。

こうした実態を紹介された後で,後書きにある著者の次のような指摘を読めば,大抵の読者は「納得!」となるのではないだろうか。

「(日本とドイツは)政策としてそれほど変わらないことを打ち出しているとしても,ドイツはそれを時間がかかっても着実に実行していく。これに対し日本は,審議会を数年ごとに開いて立派な内容の提言,政策を繰り返しつくり,公表しながら,それを実現していかない」。

(科学技術振興機構 中国総合研究交流センター 小岩井忠道)

 
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