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INFOPRO2015特別講演
INFOPRO2015特別講演 ウェブ世論と著作権の新たなリスク
福井 健策
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2016 年 59 巻 2 号 p. 75-88

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著者抄録

2015年の旧五輪エンブレム論争を振り返り,ポイントとなった「著作権侵害成立の条件」「著作物とは何か」「自由に使える情報とは何か」などを,実際の判例をまじえながらわかりやすく解説する。さらに旧五輪エンブレム論争でWeb世論が短期間で炎上した理由をさぐり,日本の知的財産権の現状と今後の課題を,TPPを含め浮き彫りにする。本稿は2015年12月10日に科学技術振興機構東京本部で開催された第12回情報プロフェッショナルシンポジウムの特別講演を,編集事務局で編集したものである。

「第12回情報プロフェッショナルシンポジウム(INFOPRO2015)」の開催報告は,『情報の科学と技術』vol. 66 no. 5に掲載されている。

旧五輪エンブレム論争

本日は,旧五輪エンブレムの騒動から始めたいと思います。2013年9月,2020年のオリンピック会場に東京が選ばれました。2015年7月24日に五輪エンブレムが発表されましたが,そのわずか1週間後(7月31日)に,オリビエ・ドビさんが自分のデザインしたベルギー・リエージュ劇場のロゴと五輪エンブレムがそっくりだということで,使用差し止めを申し立てる事件がありました(1)。

これがWeb上で非常に大きな話題となり,結局は最終的に取り下げを余儀なくされたのです。リエージュ劇場のロゴは商標登録をしていなかったため,商標権がなく,著作権侵害のクレームになりました。しかし,私が行ったどの講演で多数決を取ってみても,「このエンブレムは著作権侵害とは思わない」という方が90%以上と大多数でした。私も著作権侵害には当たらないのではと,インタビューで必ず答えています。知的財産権の専門家で,著作権侵害だろうという意見は,ほとんどなかったと思います。

ではこの五輪エンブレムが,なぜ撤回に追い込まれたのか。著作権の理解が広がる前に,不祥事が次々と明らかになる,いわば炎上の連鎖に見舞われたのですね。

ドビさんの次に起こった事件は,サントリーのトートバッグ(8月13日一部取り下げ)でした。佐野さんがつくったデザインが,既存のデザインにそっくりと,やっぱりWeb発で指摘されました。これはまずいと,佐野さん・組織委員会側は釈明の記者会見を開きました(8月28日)。もともとは形が異なりもっと似ていなかったという,五輪エンブレムの原案を,ここで示したんです。つまり,「元が似ていなかったということは,ドビさんを真似(まね)るつもりがなかった証拠だ」という考えから原案を示しました。ところが,これがさらなる炎上の材料になってしまったのです。

2の左が佐野さんの五輪エンブレムの原案です。ごらんのとおり,丸みがなく,日の丸は下に落ちています。余談ですが,どうやら日の丸の落ちているところが一部の方に極めて評判が悪かったらしいです(笑)。

原案の公表がまずかった理由は,Webで似ているものをすぐに探されちゃったことです。ヤン・チヒョルト(産業デザインの分野で著名な大御所)展が行われたときのポスターが,2中央です。似た「丸」がポスターにも確かにあるんですね。よく見つけてくると舌を巻いた方もいらしたと思うのですが,今回の五輪エンブレム論争が明らかにしたことの1つは,ネット民の類いまれなる情報収集能力です。

さらに,五輪エンブレムの展開例として組織委員会が示した空港写真(2右)が,あるカメラマンのブログ内写真の流用だった。確かに著作権的にはちょっと黒です。よって,周辺に言い訳ができない事態がここでも生まれてしまったのです。

グレーなところで炎上が始まり,言い訳をできない情報が周辺にそろっていく。どんどん世論の状況が悪化していく。最初はWeb上だけだったのが,一般のメディアも報道していく。トートバッグの取り下げ,五輪エンブレムの原案の公表,ここまで五輪エンブレム発表からわずか1か月足らずです。もうもたなくなって五輪エンブレムを白紙撤回したのは原案公表後,わずか4日後。こんな経緯をたどったわけです。

著作権的にはセーフかもしれないけれど,国民のお祭りですので,あそこまでスキャンダルにまみれてしまうと,五輪エンブレムとしてはもたないという組織委員会の判断もわからんではない。この話は終わっていますが,今日のテーマに深くかかわりますので,この例を基に,なぜ著作権的にセーフと考えられるかというお話をしていきたいと思います。

図1 旧五輪エンブレム論争(1)
図2 旧五輪エンブレム論争(2)

著作権侵害が成立するための条件

著作権侵害が成立するための条件は,3つあります。どんなケースもこの3条件をすべて満たさないと,著作権侵害の責任は生じません。

  • (1)対象(リエージュ劇場のロゴ)が,著作物であること

相手が著作物でなければ,著作権の話はそこで終わりです。

  • (2)対象と五輪エンブレムが,実質的に類似していること

この「実質的に」というのは,相当似ているレベルだと理解していただいてよいでしょう。

  • (3)ドビさんのデザインを,佐野さんが見たことの証明(依拠性)

偶然の一致は侵害に当たりません。証明が難しいため,通常は状況証拠を提供します。たとえば,ベルギーのリエージュ劇場ロゴはとても評判がよく,デザイン賞を取ったことがある。あるいは,Webサイトで公表されてアクセスが多い。あるいは,佐野さんはベルギーが好きでよく行っていたなど,一つひとつ有利な情報です。逆に,佐野さん側は,反証を述べていくでしょう。「こんなデザイン,全然知られてないよ」「私,1回もベルギーへ行ったことないです」などなど。

(1),(2)は,客観的に決まります。まず(1),(2)で勝負します。もう一度申しあげると,前述の3条件が全部そろって初めて著作権侵害なんです。その主張・立証責任は,全部,原告側,つまりリエージュ劇場側が負っています。もし,佐野さん側が(3)だけでも否定できれば,それで勝ちです。

「著作物」とは何か。「自由に使える情報」とは何か

もう少し詳しく,「著作物」って一体どんな情報かみていきましょう。

著作権の対象になる情報を「著作物」といいます。人が創作したといえる表現は全部,著作物です。ですから,文章でも,音楽でも,映像でも,デザインでも構わない。でも創作性がないもの,これは駄目です。

「創作性」とは何か。「オリジナルである」とはどういうことか。これは哲学的な問いかけです。抽象的ですので,わかりにくい。でも逆からみる,つまり「何が著作物に当たらない情報か」を考えると,結構わかりやすいです。

この知識は,結構使いでがあります。というのも著作物に当たらない情報は,「基本的に自由に使える情報」だからです。商標権や肖像権,他の権利が生じている場合もありますが,自由に使える可能性がグーッと上がります。「著作物」というのはあまねく世の中にあるものであり,「著作権」というのは大変強い権利なんです。だから,対象情報が「著作物」に当たるか当たらないかで,大きくその後の道筋が変わるといっても過言ではありません。「著作物」だったら,許可がないと,ほぼほぼ公にはもう使えません。

どんなものが「自由に使える情報か」というと,大きく5つ挙げられます。

(1) ありふれた・定石的な表現

小説全体が著作物でも,そこから定石的な一文を抜き出すのは可能です。他人のもっている情報からある情報を抜き出して利用しようとするときに,著作物かどうかは,それが創作的な表現か否かで決まるんです。だからありふれたものだったら,借りて構いません。

(2) 事実・データ

事実やデータは著作物ではないのです。2015年の日本における交通事故での24時間以内の死者数。あるいは歴史上の人物の発言。これらの事実・データは厳然と起きたことであり,誰かの創作ではありません。その事実を調べるためにどれほど額に汗を流そうとも,どれほど高額の投資が行われようとも,原則として著作物には当たりません。公表データである以上は,基本的にほとんど自由利用が可能です。

公表データに,よく「禁無断転載」とか「無断流用を禁ず」とありますが,これは希望の表明です。「できれば禁無断転載」「できれば一言断ってほしい」みたいなね。でも,ここから生のデータを吸い上げるのは基本的に自由です。

もし防ごうと思うのならば,1つには秘匿する(公開情報にしない)ことです。もう1つは,利用規約のような契約を交わすことです。知的財産権で縛れないかわりに,「同意」をクリックしないとデータには触れられないなど,契約で縛っているのをよく見かけます。この契約は,有効です。

(3) アイデアやコンセプト(企画案・ルール・法則・方法論)

アイデアや表現の根本の着想(コンセプト等)は,著作権では守れません。だから,自由に借りてよい。この論文の基本的な着想はすごく面白い,自分も同じ着想で研究をして論文を書こう,これは構いません。アイデアの自由利用で,文章表現を借りなければ大丈夫といわれると,違和感があるかもしれません。ですが,著作権とはそういう考えです。よいアイデアだったら自由に使わせて,よりよい作品が生まれることを期待します。

もしそのアイデアを投資保護するために,一定期間権利で守りたいならば,特許などの他の知的財産権制度を利用してください。その代わり,特許には限界があります。まず登録が必要で,登録した国・地域でごく短い一定期間しか守られません。著作権は全世界で自動的に100年近く守られます。もう1つ特許には重要な条件,情報の公開が義務付けられています。公開することとトレードオフで,一定期間の独占を与える。これが特許制度の根幹です。

知的財産権は常に,人々が自由にその情報にアクセスしてさらなるイノベーションを行える自由と,オリジナルでその情報を編み出した人の保護,この2つのバランスを考えます。著作権のような強い権利は,その代わり権利の対象を絞る。逆に特許はアイデアという広範なものを守る代わりに,権利の対象や条件を厳しくします。こんなふうにして,法は情報の保護と利用の自由とのバランスを取っているんです。

(4) タイトルや名称(原則として)

(5) 実用品のデザイン(原則として)

既製服,めがね,ペットボトルなど。これらはみんな著作物ではありません。

「これはまだありふれた表現ではないでしょう」「それはアイデアを超えた具体的な表現でしょう」と,著作物の範囲を広げれば,オリジナルの保護には手厚くなるけれど,その代わり情報流通の自由は狭くなります。だから,「情報流通の自由」と「オリジナルの保護」。両者のバランスをどう取るかが,その時代の社会で最も重要な選択になります。

シンプルなマークはどこまで似れば,著作権侵害か(類似性)

前述のように著作物というものが決まってくるのですが,基本的に著作物に当たらないといわれるものに,シンプルなマークがあります。シンプルなマークは,組み合わせが有限なので独占させると世の中で使えない情報ばかりになってしまう。5つの輪の五輪マークも日本で裁判を行い,裁判所は著作物には当たらないと判断しました。その理由は,「ありふれている」から。思い切りましたね,裁判所。でも,確かにそうです。著作権というのは全世界で守られますから,世界73億人の中で過去にそういうマークを描いた人が1人でもいれば,その人に著作権が生じちゃう。色の異なる5つの輪の組み合わせなんてどれも,73億人の1人ぐらいは過去に描いた可能性がある。だから,そんなものは著作物とは考えないというわけです。なるほど,考え方としてはわかります(3)。

著作物であることは意外とハードルが高く,今回のリエージュ劇場のロゴも著作物には当たらないという専門家もいる。仮に当たるとしても,そういうシンプルなマークの場合には,実質的な類似性を厳しく見るんです。丸写しは著作権侵害だけど,ちょっとイメージが似ている程度では著作権侵害じゃないというように。ギリギリで認めるから,その代わりに類似性は厳しく判断する。そこでバランスを取るんです。

「類似性」について,裁判所のハードルはどのくらい高いかというと,比較的単純な図案の場合には割と厳しくしています。最近の裁判で争われた限界事例を紹介しましょう(46)。

博士イラスト事件(4)。左が,原告の博士です。右が被告の博士です。どうですか,皆さん。これは黒だろうと思う方。黒という方が多いですね。

裁判所はこれ,白だったんです。どうした,東京地裁。これはさすがに私もちょっとのけぞりました。裁判所いわく,「かなりありふれている。博士って大体こうだよ」と(笑)。博士はこういうひげを付け,こんな帽子をかぶり,大体,下膨れですよ,顔は(笑)。つまり,「博士をイメージさせるありふれた要素ばかりだから,そういう共通点は著作権侵害とはいわない。むしろ違いに目をやるべきだ」と,地裁は言ったんですね。知財部の専門裁判官ですから,今の流れから大きく逸脱した判決は出しません。確かに批判はありましたけれども,要するにこの辺が限界なんです。かなりハードルは高い。

5は,国際的に裁判になった事例です。左がオランダ発の世界的に著名なキャラクター,ディック・ブルーナさんのミッフィーです。ウサちゃん。右はサンリオが誇るハローキティのお友達キャシーです。1955年生まれの,世界で有名なミッフィーですから,知らないなんてありえない。キャシーは有罪か無罪かって裁判をやったんです。

どっちもウサギが服着て直立している。通常,ウサギは服を着て直立はしません(笑)。それがしているんですから,似ているっちゃ似ているんです。どっちも目が点です。どっちもワンピース,どっちも丸えり,どっちも足がパンみたい(笑)。確かに似ている。こういうシンプルなマークでそんなことを言い出したら,ウサギの擬人化はほとんどブルーナ側に独占されかねないわけです。

著作物と認める代わりに,ちょっとイメージが似ている程度では,侵害にはなかなかしない。ですから,わずかな違いに重要な相違を見いだしていきます。体形の違いもあるけれども,ミッフィーの「×」の箇所を見てください。ミッフィーは鼻がなくて口がバッテンだと思っている方は多いですね。違います。「×」の上部の「∨」は鼻なんです。下の「∧」は口なんです。でもキャッシーは,鼻があるけど口がない。そんなところに相違を見つけていきます。この裁判は結局和解で解決したので,判決は出ていません注1)

さあ五輪エンブレムに戻り,考えてみましょう(1)。リエージュ劇場のロゴは,私はギリギリで著作物と認めていいと思います。著作物だとギリギリで認めたものですので,恐らくは酷似しているといえるものだけが著作権侵害に当たるでしょう。これを「薄い著作権の理論」といいます。ギリギリで著作性を認めるものは,その代わり権利も薄いという,シン(thin)・コピーライトの理論です。

そうすると,佐野さんのマークとリエージュ劇場のロゴとの実質的類似性はやっぱりないでしょう。色味が違う。赤い丸がない。当時,中央の棒脇のすき間があるかないかを指摘した人もいて,佐野さん総たたきみたいなWeb世論の状況では,「何言ってるんだ,すき間があるかないかなんて関係ないよ」って一蹴されていましたけども,恐らく実際の裁判でこのすき間は重視されると思います。印象がだいぶ異なりますから。そう考えると,侵害はないでしょう。ロゴを見たか否かには至らず(前述の(3)),(1),(2)で切れてしまう,「類似性だけで切る」という言い方をよくします。

図3 ロゴは著作物に当たるか
図4 どこまで似れば,著作権侵害か(1)
図5 どこまで似れば,著作権侵害か(2)
図6 どこまで似れば,著作権侵害か(3)

法的評価と,社会の反応とのずれ

ではなぜ,世論では著作権の侵害という意見が目立ち,早々の撤回へと追い込まれたのでしょうか。Web世論の話に入っていきたいと思います。

法的評価と社会の反応がずれてしまうということは,実際によくあります。今回も大いにずれていたようです。人々の反応は,少なくとも直後の反応としては黒が目立つ,でも,法的な評価は恐らく白である。法的評価と社会の反応のずれの原因は何でしょう。

(1) 「ずれて当然」ということ

著作権侵害は違法であり,刑事罰があるんです。最高で懲役10年の刑事罰,あるいは1,000万円以下の罰金注2)。とても重いです。これは比較法的にみても,あるいは国内法の比較においても重いです。例えていうと,日本では路上でマリファナを売るよりも,著作権侵害の方が法的には重いんです。

皆さんの中で,著作権侵害をしたことがない方は一人もいらっしゃらないでしょう。毎日侵害しているかもしれません。Facebook上の写真が,総数で何枚か想像できますか。実は2010年にFacebookが発表した数字は500億枚です。以後,公式な数字は未発表のはずですが,恐らく1,000億枚は超えていると思います。大変な数です。ほぼすべて著作物です。こんなにわれわれの周りには著作物があふれているので,完全に法に触れずに暮らすのは難しい。その法定刑が最高懲役10年。これは示唆に富んでいます。

それゆえ,簡単に著作物侵害です,と違法の評価はできないのです。どんなに世の中にとって重要な情報であっても,人類の未来を変えるような本であっても,「著作権侵害だ」と言われた瞬間に,世の中で,その存在は許されない。まさに学問の自由,表現の自由,報道の自由に直結しますから,そのハードルは当然高いんです。

じゃあ,著作権侵害に至らないものは,すべて倫理的にも褒(ほ)めそやされるべきかといったら,そうじゃないですね。違法の評価を受けない,表現禁止のレベルには達していないだけであって,著作権侵害ではないかもしれないけれど,「私はその論文はNGだと思います」と言う自由は当然あるわけです。つまり,論評や市場の評価にゆだねられた広大な領域がそこにはあるわけです。よって,人々の論評と著作権侵害という法的な評価は,ずれても一向に構わない。「パクリだと思う」という論評だって,発言して構わない,ただし公正に行うならば。

しかし今回の五輪エンブレム論争でみられたように,著作権侵害の話をしているようで,実は単にスタンスの論争にすり替わっていることがあります。Web上の発言などを中心に,法的な評価と他の問題が適度にまざり,社会を混乱させる言論へと変わってしまうのです。

(2) 「経験量の差」による影響

デザイン業界の方は総じて,佐野さんの五輪エンブレムは特に問題なしという意見でした。「あれぐらいの類似ってざらにあるよね」という反応だった。ところが,一般の方(一部かもしれないけど)に,「あんなに似ることはありえない」という反応が結構あったようです。つまりデザインの現場に身を置き,偶然の一致って実は結構あるのを知っているか,こんなに似ること自体,世の中的にはありえないだろうと感じていたかで,だいぶ反応が違ってしまった気がします。

(3) 新事実の続出

五輪エンブレムの当否とは関係がない周辺の不利な情報が,驚くほどよいタイミングで,どんどん出てきました。最初のWeb炎上が1週間で鎮静化に向かい始めた頃に,新しい事実が発覚する。「発覚」じゃなくて,「投入」している節があるのです。つまり,火の手がちょっと下がり始めた頃に燃料が投入される。そうすると,キャンプファイアの火を焚(た)きつけているように,抜群のタイミングでどんどんと新事実が投入されて,炎上へと向かってしまう。

(4) Web世論への対応を誤った

残念ながら組織委員会は,そういうWeb世論への対応を誤ったようです。その結果,五輪エンブレムの選考プロセスや佐野さんの人間性に焦点が移り,根本の五輪エンブレムの当否問題ときちんと切り離すことができずに,もう取り下げるしかないところまで追い込まれてしまった。国家すらその流れを止めることはできなかった。押し流されてしまったことが,今回とても特徴的でした。

Web世論という新しいリスク

Web世論は特に炎上しやすく,極論や過激な議論に走りやすいといわれるようです。確かにそんな気もします。それでは,炎上多発の要因を探っていきましょう。

(1) ソーシャル化・発信容易性・拡散性

Web空間の特質として,ソーシャル性でお互い双方向で結び付きやすい,発信が容易で,しかも拡散性が高いということが挙げられます。従来も個人が何かを告発する,あるいは極端なことを発言するということはありました。しかし,世の中にはなかなか広まらなかった。今や誰でもポッと発言すれば,瞬時に万単位でリツイートされうる。10万人,100万人の目に触れてしまうのです。1億総発信時代です。それゆえ,必然的に劇場化を招きます。みんなが私をみている。「受けたー」というあの喜びです。

(2) 匿名性や非対面性(相手と面と向かっていない)

対面していると,当然人間は相手に遠慮します。直接対面していなくても,名前や素性がわかってしまうと,ちょっと遠慮します。匿名で,しかも相手が目の前にいなければ,人間は遠慮がないので過激になります。そのうえ日本はソーシャルメディアを中心に匿名性が極めて高い国です。特にTwitterは,日本の匿名率が80.6%,米国は43.5%です注3)

(3) 情報の断片化

Twitterはリツイートをされ世の中に広まっていく。10万,100万と広がる過程で容易に情報は断片化します。私が社会問題について140字の3つのツイートで意見をつぶやいたとします。そのうち1番目と3番目は20リツイートぐらいにとどまったけれど,2番目だけすごく面白かったらしく1,000リツイートされたとします。つまり大半の人はこの真ん中のツイートしか見ていないんです。私は1番目のツイートで条件を付けたかもしれない,留保をしたかもしれない。でもそれは捨象されます。あるいは他人が何か一言加えたために,元の文の一部を削られたかもしれない。こんなことは容易に起こります。むしろそれに慣れており,元はどうだったのか,全体として何がいいたかったのかについて,受け手はそこまで関心がないのかもしれません。

(4) 「信用性の担保装置」の欠落

信用性の担保的な装置の例が,伝聞情報の取り扱いです。伝聞情報と直接情報は,その信用性において大きく価値が異なっています。既存メディアに所属する記者などは,恐らくキャリアの早い時期にその訓練を受けると思います。法律家も受けます。たとえば刑事裁判においてはどんなに決定的なことが書かれていても,伝聞証拠はルール上,基本的に証拠採用されないぐらい,信用性が低い。なぜならば,人が聞いて伝える過程で誤りや意図がたやすく混入するからです。また利害関係者の発言と,第三者の発言では信用性が異なる,これも当然のことです。そういう訓練を受けたうえで情報発信をしていれば,ある程度信用性は保たれるはずです。

しかしTwitterなどのソーシャルメディア上の情報に対しては,信用性の担保があまり考えられていないですね。これは利害関係者の発言だからあんまり信用できないとか,伝聞だから信用できないという意識をしていません。「ネタとして面白いか」。ここに関心をいだきます。いわば「ネタ化」です。「井戸端会議のメディア化」と呼べるかもしれません。

(5) 評価・言動の過激化

情報のフィルタリングも,行われます。Facebookであればこの人は友達,Twitterでいえばこの人をフォロー,この人をブロックしますね。そうすると,自分の周りの情報は,知らぬ間に自分の考えに近い人に寄っていきます。皆が自分と同じ意見だと思い込む結果,物事の評価や言動が過剰化します。しかも劇場化していますから,派手なことをいわないと目立てない。「みんなそうなら,俺は,もう一歩進んじゃえ」と。こんなことも起きやすい。

(6) 受容者の「リテラシー」

どうもわれわれ自身が,Web世論との付き合い方がまだよくわかっていない。中でも政治家や官僚はどうもWebの反応が心配でしょうがないらしい。冗談めかして言っているけど,あれはかなり本気でしょう。たとえば,自分が実名でWeb上の炎上にさらされたらすごく嫌だ。そこでは情報はゆがめられ,めちゃくちゃにされかねないというイメージもあって,どうしてもWeb世論を過大評価しがちです。逆に,自分のFacebookではみんな「いいね」といっている,みたいに肯定的な観点からも過大評価が生まれます。

Web世論の影響が大きいことはもう誰も否定できませんが,たとえば「皆がそう言っている」ようにみえるとき,それが全体の5%なのか0.01%なのか,まだちゃんと計測されていないんです。大手のメディアが,「インターネットで批判されている」とか,「大変話題です」という見出しを書くときに,彼らはその実数が何人なのかという概算すら恐らくしていない。ここにもリテラシーが必要ですね。

(7) 炎上の主導者は,ほんの数名

「佐野さん,ありえない,あれパクリ,あれ黒でしょう」と言っていた人は,結局何人いたのでしょう。炎上の首謀者は,通常,数名の匿名ユーザーだという情報があります。せいぜい多くて数十名。その人たちが繰り返し発言しているというのです。

ユーザーが画面上にコメントを流せるのが人気の「ニコニコ動画」。ある程度盛り上がり,動画上に白いコメントが多数飛び交っている,弾幕という状況が意外と楽しいんです。たたかれやすそうな人が出てくると,もう批判のコメント一色になり,荒れます。ひどいときはコメントで真っ白になります。ヘイトスピーチ的な,差別的,あるいはデマ的な雑言がウワーッと飛び交い,目に余るほど荒れてしまう。そうすると,運営者のドワンゴは時にその人物のアカウントを排除し,コメントを流せないようにします。ドワンゴの川上会長によると,3名か4名のアカウントを排除すると,驚くほど画面が穏やかになるそうです。つまり,特定の人々が繰り返し大量にコメントしていたのですね。

Webサイトを活用した情報の民主化,これは素晴らしいことです。そのメリットを生かしながら,どうリスクをコントロールするかが,今,問われています。この対処を間違えると,オリンピック組織委員会が裁判の結論まで行かせてもらえなかったように,裁判で著作権侵害じゃないから勝てるといっても,意味のないことになりかねないのです。法的な評価が無意味といっているのではありません。Web世論は当然,専門的な議論の影響を受けながら動きますから,法的な評価は必要だし,その正しい知識も必要ですが,どうもそれだけでは終わらないリスク管理の時代に入っている気がします。

TPPの「非親告罪化」と,逆監視社会

さらに油を注ぎそうなのがTPPです。TPPに,著作権侵害の「非親告罪化」というメニューがあります。米国の要求で,これはもう大筋合意で入ることが決まりました注4)。「親告罪」とは,権利者の告訴がない場合,起訴・処罰できないということです。世の中の大抵の侵害というのは,あまりに軽微なため,告訴されないんです。時には泣き寝入りにつながってよくないけれど,これでバランスを取っているといわれてきました。そこに米国の要望で非親告罪化が入ってしまった。

有名漫画の1コマをトレースしたクリエーターが検証にさらされても(一次創作(7)),これまでは謝罪をするケースや,中には無視して突っ走っちゃう場合もあった。しかしこれからは,悪意の第三者が検証をし,告発したら,それだけで警察が動かざるをえないんじゃないか。権利者がまあいいかと思って告訴しない場合でも,起訴・処罰されうるという制度です。著作権侵害は,最高で懲役10年または1,000万円以下の罰金です。それが科されかねないかと心配になる。

たとえばトレースしたことが明らかな作品があってネットでさらされている。「これって犯罪の証拠だよね」「警察は何で動かないの」って言われたら,「あそこに路上駐車しているけど,何で警察は取り締まらないの」と言うのと同じですね,理屈上は。法定刑は路上駐車よりはるかに重いですから,動かざるをえないかもしれない。しかも,著作権侵害を取り締まるのが伝統的に好きな警察もありますから,実際に動くかもしれません。語られるのは,万人が個人を監視する「逆監視社会」のイメージです。

一次創作だけではなく,パロディーなどの二次創作も危ないといわれています。「おそ松さん」ってご存じでしょうか(8)。赤塚不二夫の「おそ松くん」がリメークされ,「おそ松さん」というアニメになって2015年10月から放送されています注5)。非常にセンスが高いアニメとして,人気です。それがパロディーネタ満載です。第1話では,チビ太が巨人化して出て来たりしました。つまり,「進撃の巨人」に対するパロディーなんです。DVD化するときに,この1話は差し替えになりました。使われた権利者は何十社といたので,その権利者の誰が怒ったかは公式に発表されていません。ですから,私も知りません,公式には。もう一体どの巨人からクレームが来たのか全然わからない(笑)。やり過ぎると,「おそ松さん」のようにたたかれるけれど,今,大抵は何とかなっています。

わけても,コミックマーケット(コミケ)は夏冬それぞれ50万人以上の動員を誇る,世界最大規模の購入型の来場イベントです。そこで売られる同人誌は,75%以上が既存の漫画,アニメ,ゲームなどのパロディーです。よって,厳密にいうと著作権侵害のものが大半です。ですがほとんど怒られたり,訴えられたりすることはありません。「ファンがやっていることだし,取り締まりまではしなくていいよ」という感じです。「作品によっては眉をひそめてるけどね」って。いわばこれが大人と子どもの,あるいは若者文化との健全なバランスですよね。それがクールジャパン,オタク文化の広い裾野を形成し,今,日本文化の強みをつくっているといわれています。それが危ないと。これからは第三者通報により取り締まり対象になるかもしれないと思ったら,もう萎縮するでしょう。しかもコミケでは,販売(商売)をしていますからね。

だから「コミケ終了」「TPPは危ない」と言われ,政府はかなり釈明に追われたんです。早い段階で甘利前大臣が国会で,「コミケなどの二次創作は守ります」って答弁したほどですからね。安倍首相も言っていました。

さらに厳密にいえば,ユーザー発信による著作権侵害なんてざらにあります。ディズニーの「アナと雪の女王」に合わせて歌う動画はたくさんアップされています。最も人気が高かったのは,博多弁バージョンで360万再生です。みんな歌って盛り上がって映画館へと向かうんです。「アナと雪の女王」はアニメ映画史上,最大の興行収入を稼いだけれど,ディズニーは今回初めて,ユーザー動画投稿を事実上黙認していました。最大の興行収入にはその点が間違いなく寄与していたでしょう。さらにディズニーは,「シング・アロング(Sing-Along)上映」といって,映画館で一緒に歌おうという参加型にかじを切ってすらいる。これを萎縮させて,誰が得するのでしょうか。いちいち個人ユーザーがディズニーと正式なライセンス交渉をして,許可を得たうえで動画をアップするか。するわけがないです。

大量デジタル化ビジネスの停滞も,心配です。これまでは権利処理に関しては80点主義ぐらいでやっていました。ほぼほぼ権利者に迷惑がかからなければ,まあイイヤでやっていた。真面目に100点主義でやれば,権利処理コストの方がベネフィットよりも高くなってしまうので,あきらめる方(かた)が大半でしょう。パロディーも,世の中のビジネス利用もそう。今はロングテールの時代です。つまり1作で100万点売れるコンテンツではなく,わずかなユーザーしか個別に招き寄せないかもしれないけど,デジタル化で大量の作品を提供することが可能になったので,一つひとつからわずかずつ利益を得ていけば,全体としてビジネスになる時代です。Web世論で炎上してしまう,まして非親告罪化と組み合わさったら,こうしたロングテールビジネスは停滞してしまう,こんなことも危惧されています。

こんなこともあって,政府は非親告罪化による萎縮を防止するための対策を約束しています注6)

図7 トレース疑惑検証のWebサイトの例
図8 アニメ「おそ松さん」幻の第1話

TPPの,「法定賠償金」

さらにTPPには,「法定賠償金」というメニューも加わりました。これは権利者が怒って損害賠償請求をする場合です。訴えられやすくなったのです。従来,著作権侵害で訴訟を起こすと費用倒れを起こしやすかった。皆さんの書かれた書籍が勝手に30部コピーされ資料で使われているとします。訴えた場合,30部の無断コピーの賠償金はいくらでしょうか。せいぜい数千円から数万円です。損害賠償請求をしても従来は実損害の分しか賠償金が認められなかったので,いくらでもない。

じゃあ訴訟を起こすための弁護士費用はというと,大変申しわけないけど,どんなに能率的にやっても数十万円はかかります。そうすると,要するに泣き寝入りになっちゃうんです。日本では著作権侵害はまあいいやというお目こぼしもあったけれど,お目こぼししたくないケースなのに泣き寝入りせざるをえない場合がありました。

ところが米国には「法定賠償金」という,実損害の証明がなくても,裁判所がペナルティー的に賠償を決められる制度があります。わざとやった場合は,1作品で15万ドルまで(最高額)の賠償金を命ずることができる。なんと1,800万円。高いですねえ。

かつて日本経済新聞社の新聞記事を無断で英訳して,Web上に20本上げたと認定された事件がありました。米国の裁判所は記事1本につき,法定賠償金1万ドルを命じました。仮に1ドルを120円として計算すると,20本で2,400万円です。これは,弁護士的にはいい商売になります。

導入されれば,泣き寝入りは減るでしょう。しかし,半面,知財訴訟は増加するでしょう。米国で賠償金の高額化が社会問題化している主因は,この法定賠償金です。米国で見直し論が出ているときに,日本ではTPPで導入が大筋合意されました。いい面もありますが,表現の萎縮などにつながる恐れもあります。ちなみに,政府もTPPによるダウンサイドは意識しているので,この法定賠償金にも慎重な対応を検討中です注7)

今後の課題

最後に今後の課題をご紹介しましょう。

(1) TPPでは,国内法がこれからの焦点

国内法の中で,情報流通を過度に萎縮させず,だからといってオリジナルの権利者が十分守られるような,そういう大きな知恵が必要になります。TPPの国内法対応は要注目だと思います注8)

(2) 著作権のリフォーム論議

デジタル化され,Web上に流通するコンテンツの量は何十倍,何百倍,何千倍にも増加しました。一つひとつの権利処理はとても大変です。そこでもっと権利をクリアしやすく,情報を流通しやすくしないといけないと,「著作権のリフォーム論議」が世界で本格化しています。各国・地域の議会でも検討しており,日本でもTPP対応と関連して活発化すると予測されています。すでに,文化審議会や内閣知財本部等で議論が始まり,私も後者などの委員として参加しています。フェア・ユースといわれるような柔軟な著作権の例外規定,あるいは作品や権利を登録して,誰でも権利情報をデータベースで検索でき許可を得やすくする制度の検討が必要ですね(任意の登録制)。

(3) オーファン・ワークス対策

国内外の各種研究で,過去の作品の50%かそれ以上は,探しても最終的に権利者が見つからないといわれています。「オーファン・ワークス(孤児作品・孤児著作物)」と呼ばれ,世界的な大問題です。探す努力をし尽くしても権利者が見つからない場合は,非営利の活動や学術目的なら使用可能にするなど,オーファン・ワークスの対処が著作権リフォーム議論での重要課題になると思います。この1年ぐらいが多分勝負ですね。

(4) 契約と権利の明確化

民間でも,契約や権利を意識せざるをえない場面が増えてきます。非親告罪化やWeb世論など,権利問題がこれほどハイリスクになってきたら,契約書も交わさなくてはならない。そこには契約を巡る知識も熟練も必要です。

(5) 権利情報データベース・集中管理の促進

任意の登録制と関連しますが,権利の情報が集まっているような民間のデータベースの促進も必要です。行き着く先はバーチャルな「スーパーJASRAC(JASRAC:一般社団法人日本音楽著作権協会)」です。たとえば音楽は音楽,漫画は漫画,文芸は文芸の権利データベースが個別にある。でも全部ネットワーク化され,横断検索ができる。ある作品を検索すれば,関連する権利情報が複数のデータベースを経て,サーッと出てくる。願わくば利用手続きまで自動でできれば,いうことないですね。

(6) パブリックライセンス

個別に許可なんか取らせなくてもいいという作品は,世の中にたくさんあります。われわれの事務所では,法律や知的財産権などのテーマについて,メンバーが毎月コラムをWebサイトに掲載しています。このコラムはコピー許可を取らなくても構わないんです。われわれがいい人だからではなく,そこで稼ぐビジネスモデルではないからです。むしろ多くの人に見てもらい,この弁護士のアドバイスが欲しいと思ってもらう方が重要です。

このように一定の条件に従ってくれるなら,「みんな自由に使ってOK」という考えの人は多いです。最初からそれを作品に表示しておこうというのが,パブリックライセンス(9)です。世界的に最も有名なのが「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)」ですね。今,全世界で11億のコンテンツにCCライセンスのマークが使われているそうです。作者,クリエーターが作品を発表するときに,4つの単純なマークの組み合わせを表示し,そのマークの条件に従えば,誰でも使っていいんです。

全世界の30以上の政府が公式採用し,大きなビジネスでもサービスでも随分使われています。有名なのはWikipediaです。全記事にCCライセンスが付いています。それが記事の編集に参加する際の条件です。ですから,「Wikipediaからコピペは禁止だぞ,やったら著作権侵害だからね」という先生がいますが,これ,間違っています。Wikipediaは著作権侵害になりえないコンテンツです。

さっきの権利者不明問題への対策にも,CCライセンスは効果があります。マークを付記して作品を公表すれば,たとえ私が行方不明になっても著作権は関係なし,相続問題も関係ないです。マークに従ってみんなが使えるからです。結構いいですね。

図9 パブリックライセンス

(7) 知識は力

仕組みも大事だけども,やはり最後は「知識は力」というところでまとめられると思います。人々が著作権についての知識をもつことが何よりのセーフガードだと思うんです。怖い怖いと萎縮させる知識ではなく,これなら使えるんだ,そういう視点からの知識です。

著作権の知識をもっと身につけていかなければいけない。少なくとも文学,芸術,メディア系の学部においては,著作権講義の必修化を検討せざるをえない状況だと思います。中学校や高校でも,文科省の旗振りで,著作権の授業を一部ではやっているようです。しかし,ただのNG集になりがちです。「これをやると泥棒になる,だからやるな」という内容ですね。そんなのは絶対駄目ですよ。べからず集も必要だけど,同時に「これは大丈夫だよ」「これは使えるよ」ということを教えなきゃ駄目です。「使えることと使えないことのバランスが知的財産権の命」なのです。Webの影響や,Web世論の実証的な研究,リテラシーの普及と並んで,よき著作権講義の必修化を推し進めていくことが,重要だと思います。

本日はご清聴,どうもありがとうございました。

図10 公演中の福井氏

講演者略歴

  • 福井 健策(ふくい けんさく)

弁護士/ニューヨーク州弁護士。骨董通り法律事務所 for the Arts 代表パートナー。日本大学藝術学部客員教授。think C 世話人。国会図書館審議会,内閣知財本部ほか委員を務め,著書に『著作権とは何か――文化と創造のゆくえ』『著作権の世紀――変わる「情報の独占制度」』『誰が「知」を独占するのか――デジタルアーカイブ戦争』(集英社新書),『18歳の著作権入門』(ちくまプリマー新書)など多数。

本文の注
注1)  実は,この裁判が争われている最中に東日本大震災が起きました。その災禍に胸を痛めたブルーナ側がサンリオに,「お互いに無駄な争いをやめて,その分節約した弁護士費用を被災地に寄付しよう」と提案。サンリオもこれに乗って,めでたく裁判は和解で終了します。

……いい話ですね。当時も「粋な解決」なんて報道されました。もっとも実はこの和解に際してサンリオは,「キャシーの新製品を今後売らない」と表明しています。被災地支援でもきっちり言い分は通す。ミッフィーは意外と交渉上手だったかもしれませんね。

(出典:CNET Japan 18歳からの著作権入門:どこまで似れば盗作なのか ~だってウサギなんだから http://japan.cnet.com/sp/copyright_study/35049667/2/

注2)  著作権侵害は最高で懲役10年,あるいは1,000万円以下の罰金,またはその両方が科される。法人の罰金額は最高3億円。刑事罰はめったに発動されず,発動しても実刑にはならない場合が多い。悪質な海賊版業者が逮捕された場合,勾留満期頃に100万円ほどの罰金を支払って出てくる。

注3)  総務省 情報通信白書平成26年版

注4)  その後,2016年2月4日正式調印。

注5)  おそ松さん:http://osomatsusan.com/

注6)  その後,2016年2月に,(1)市販作品の利用,(2)原作のままの利用(≒二次創作を除く),(3)権利者の利益を不当に害する場合,に限定して非親告罪化する旨の改正概要を文化庁が公表。

注7)  前記の概要公表で,著作権法114条3項の規定(通常の使用料相当額を賠償請求可能)について,当該作品について権利者団体の使用料規定がある場合,該当額を請求できる点を明記するという,相当に限定的な改正にとどめる方針を提示。

注8)  前述のとおり,2016年3月現在一定のセーフガード案が公表されており,方向性を評価できる。ただし,同時に,条約上は不要な前倒しの国内法制定が既定路線と報じられている。

 
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