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ジャパンナレッジの挑戦:電子レファレンスツールの可能性
田中 政司
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2016 年 59 巻 3 号 p. 172-180

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著者抄録

ジャパンナレッジは事典・辞書を中心に日本語コンテンツを検索・閲覧できるデータベースサービスである。サービス開始から15年が経過し,大学や公共図書館を中心に世界約800の機関で利用されるサービスに成長した。本稿では,ビジネス的な側面からみたサービスの取り組みと経緯を紹介しつつ,今後,サービスが目指す方向性について紹介する。

1. はじめに

ジャパンナレッジは,株式会社ネットアドバンスが提供する事典・辞書を中心とする日本語データベースサービスである。サービスを開始した2001年当時,日本の学術市場において「日本語データベース」というマーケットはほとんどといっていいほど存在していなかった。当然,契約機関数も伸び悩み,サービス開始から数年間はビジネス的にも厳しい時期が続いた。サービスを開始して5,6年が経過したころから,日本語データベースという市場が徐々に形をみせ始めた。そしてここ数年の間に,データベースという枠組みを超え,電子書籍も巻き込んで,より大きな「eリソース(電子資料)」という市場を形成しつつあるのはご存じのとおりである。そうした流れを受け,ジャパンナレッジのサービスも当初の事典・辞書から,電子書籍,電子雑誌的なコンテンツを取り込みながら規模とサービスを拡大させてきた。

本稿では,ジャパンナレッジという一つのサービスの取り組みと軌跡を紹介しつつ,事典・辞書データベースの可能性について紹介する。

2. ジャパンナレッジのサービス内容・特長

はじめに,ジャパンナレッジのサービス内容を説明する。

ジャパンナレッジは,50を超える事典・辞書,叢書(そうしょ)類などを一括検索するインターネット・データベースだ。数種類の大型百科事典をはじめ,歴史事典,中型から大型の国語辞典,漢字字典,各種外国語辞典,用語辞典のほか,1,000冊を超す叢書類,経済誌,経済記事などを一括で検索できる,いわばレファレンスのためのデータベースになっている。

利用できる具体的な収録コンテンツ名注1)を以下に一部列挙したい。

  • •   日本大百科全書(ニッポニカ)(小学館)
  • •   改訂新版 世界大百科事典(平凡社)
  • •   国史大辞典(吉川弘文館)
  • •   日本歴史地名大系(平凡社)
  • •   Encyclopedia of Japan(講談社)
  • •   字通(平凡社)
  • •   日本国語大辞典 第二版(小学館)
  • •   ランダムハウス英和大辞典 第2版(小学館)
  • •   ロベール仏和大辞典(小学館)
  • •   独和大辞典 第2版(小学館)
  • •   コウビルド米語版 英英和辞典(ハーパーコリンズ社)
  • •   現代用語の基礎知識(自由国民社)
  • •   法律用語辞典 第4版(有斐閣)
  • •   日本人名大辞典(講談社)
  • •   世界文学大事典(集英社)
  • •   例文 仏教語大辞典(小学館)
  • •   週刊エコノミスト(毎日新聞出版)
  • •   新版 歌舞伎事典(平凡社)
  • •   東洋文庫(平凡社)
  • •   文庫クセジュベストセレクション(白水社)

2015年,レファレンスの専門家である図書館司書によって,資料調査に役立つ資料の調査が行われた。その調査の「参考図書の部」で選ばれた資料のトップ10のうち5つの事典・辞書がジャパンナレッジに収録されている注2)。また,事典・辞書では補いきれないものについては,雑誌や叢書を登載し,人文系の幅広い領域をカバーしているのが特長だ。

特定のキーワードでこれらのコンテンツを一括検索することで,全コンテンツにおける該当内容が一覧表示され,そのキーワードそのものの説明を得たり,また,関連する記事を得ることで調査のテーマを広げたりすることが容易にできる作りになっている。

事典・辞書が数多く登載されているため,研究者や学生は論文の執筆時に使うことも多い。PC上で利用するため,論文への引用が容易にできるのも,紙の辞書や電子辞書にはない利点といってもいい。たとえば,特定のコンテンツから引用を行う際には,自動的に引用元が付与される機能も有している。これは,もともと研究者の負担軽減のために準備した機能であるが,昨今のいわゆる「コピペ問題」を抑止する効果も副次的には果たす結果となった。

また,さまざまなジャンルの事典が登載されているため,思考の整理やマインド・マップ作りに活用している利用者もいる。たとえば,「平賀源内」というキーワードで,登載コンテンツを全文検索してみると400件以上の記事がヒットする。記事には,源内の発明品のほか,源内がかかわった地名や事物,関係性の高い人物などが含まれ,思考の経路や想像を広げてくれる。

このように,ジャパンナレッジは自分の机の上に図書館をもってきたような感覚を体験できるデータベースといえる。

3. ジャパンナレッジのビジネスモデル

次に,ジャパンナレッジのサービスの概要を紹介する。

ジャパンナレッジは,事典・辞書を中心とする50以上のコンテンツを一括検索できるレファレンス・データベースである。サービスには法人向け(ジャパンナレッジLib)と個人向け(ジャパンナレッジPersonal)があり,現在,ビジネスとしての主力は法人サービスになっている。

法人向けは,大学,中学・高校,企業,公共図書館などの機関向けにサービスが提供され,利用できるコンテンツや同時アクセス数によって利用料金が変動する。一方,個人向けのサービスは法人利用に比べリーズナブルな料金設定となっており,毎月書籍1冊程度の利用料で約50の事典・辞書を検索・閲覧することができる注1)

事典・辞書データベースは購読型(サブスクリプション型)であるが,法人向けサービスにはJKBooksという買い切り型の商品も用意されている。JKBooksは,利用したいコンテンツのデータベース購入代金(1回限り)を支払うと利用できる商品だ。こちらは専門性が高く,かつ,更新がほとんどない,雑誌のバックファイルや叢書データなどをデータベース化した商品になる。

先に述べたように,サービスの主力は法人向け商品だ。法人利用と個人利用の全売り上げに占める割合はそれぞれ84%,16%となっている。必然的にコンテンツの投入や開発の力点も法人向けサービスに置かれている。

さて,2004年ごろからインターネット上に無料で利用できる辞書Webサイトがいくつか生まれた。こうした無料の事典・辞書Webサイトとの差別化を図るため,ジャパンナレッジに登載されるコンテンツをある時期より,比較的小規模の辞書から専門性が高いものにシフトさせてきた。そして,多くの専門家がジャパンナレッジを利用することで,さらに専門性の高いコンテンツが指向され,同じ事典・辞書であってもより詳しく大型のものを収録する傾向が強まってきている。

こうした流れを受けて,個人会員の属性にも変化がみられるようになった。サービス開始当時は趣味や教養としての利用がかなりの割合を占めていたのだが,現在では,職業的な利用が大半を占めるようになってきている。教育関係従事者,大学院生を含む学生,作家,編集者,翻訳家など,職業的必要性からジャパンナレッジを利用される会員が70%を超え,法人利用とかなりの割合で重なった利用者であることが見て取れる(1)。

図1 個人会員属性

4. サービス開始時の日本のデータベースの状況

ジャパンナレッジは2016年でサービス開始から16年目を迎える。サービスを開始した2001年当時,インターネット上で利用できる事典・辞書は,平凡社の「世界大百科事典」を利用できる「ネットで百科」がサービスを行っているくらいだった。

英語版のWikipediaが誕生したのも2001年の初めだったが,日本では存在すらほとんど知られていなかった。そうした時代に,コンテンツ・アグリゲーターとして,複合的に事典や辞書を組み合わせてネット上で検索・閲覧できるサービスを始めたという点では,ジャパンナレッジは先駆的な取り組みであった。

先に述べたように,現在ジャパンナレッジは,収益の大部分が法人顧客,つまり,大学図書館や公共図書館,各種研究機関,企業などから得られるものとなっており,中でも大学図書館を中心とする学術マーケットがその最も大きなドメインである。

2001年のサービス開始時点では,学術マーケットに向けて提供されている日本語のデータベースは非常に限られたものしかなく,先に挙げた「ネットで百科」のほかは,「nichigai/web」「Digital News Archives for Library(朝日新聞記事データベース)」「医学中央雑誌」といったものが,大手の販売代理店で取り扱われているのみであった。

現在,インターネット上で入手可能な大学図書館の資料費の実態調査(大学図書館実態調査,現・学術情報基盤実態調査)は2002年度のものまでさかのぼることが可能であるが,残念なことにこの時点では,調査の費目が紙媒体と電子資料とに分かれておらず,電子資料費が図書館全体の費用に占める割合が把握できない。電子資料が費目に登場するのは2005年度であるが,電子ジャーナルの区分が追加されているだけで,データベースや電子書籍といった費目はまだみえない。同資料にデータベース,電子書籍の区分が登場するのは実に2011年度の統計からとなっている。

ちなみに,その2011年当時,データベース費用の,図書館資料費に占める割合は7.4%,電子書籍はわずか0.9%にすぎない注3)

さて,資料に電子資料の費目がみえない理由は,2000年代の初頭において,電子資料の市場が,大学図書館の費用全体からみて非常に小さいもので,統計データとして有用な意味をもつには至っていなかったということだろう。2005年ごろから電子ジャーナルが,2010年ごろからそのほかの電子資料の存在が意識され始めた,もしくは,全体の予算の中で無視できない額の費目になってきたからだと考えられる。

そうした電子資料の黎明(れいめい)期にジャパンナレッジはサービスを開始したわけだが,当然ながら当初想定していた顧客は学術マーケットではなく個人の利用者だった。電子辞書の市場が約300億円規模だった当時,そのうちの一部がネットに置き換わるであろうという予測と,コンテンツの中身をアップデートできるというネット辞書の特性を考え,新たな市場を創出できるのではないかという読みがあった。

そもそも事典・辞書は,内容の改訂作業が必須のコンテンツだ。しかし,紙媒体では頻繁に内容を更新していくのは難しい。編集の側からしても,膨大な項目の管理,内容の改訂を行ううえでデジタル化されている方が効率がよい。効率的かつ継続的な改訂作業を行ううえで,電子化,オンライン化は避けられなかったという事情もあった。

一方,インターネットの接続環境も大きな変化を迎えていた。新興の回線事業者がADSL事業に参入し,当時,月額5,000~6,000円だったブロードバンド利用料金が一気に半額近くに下がったのもこのころだった。

そうした状況の中,関係者の大きな期待をもって2001年4月にサービスがスタートしたのだが,残念ながら,想定していたほど個人向けジャパンナレッジの利用者は伸びなかった。サービス開始から3か月間の無料期間中はかなりの利用者がWebサイトを訪れた。しかし,有料サービスを開始した7月,利用者は激減し,数か月を経過しても数百人程度の会員数で四苦八苦している状況が続いた。さまざまな広告宣伝やプロモーションを仕掛けてみたが,会員数を劇的に増加させることはできなかった。

当時,個人向けジャパンナレッジの利用料は月額1,500円。利用できるコンテンツは「日本大百科全書」,「大辞泉」(中型国語辞典),「プログレッシブ英和中辞典」,「プログレッシブ和英中辞典」,「データパル」(IT用語事典)という限られた事典・辞書類のみで,画面も個人の利用者を意識したポップなデザインになっていた。

ちなみに,ちょうど同じころ,CD-ROM版「日本大百科全書 ライト版」(日本大百科全書+国語大辞典)が9,800円で販売されていたことを考えると,コンテンツの中身が定期的にアップデートされるとはいえ,1年間の利用料が1万8,000円になるジャパンナレッジは,いささか割高な印象をもたれていたのではないかと思われる。

また,2000年初頭は,電子辞書の市場もまだまだ活発であり,電子辞書各社はコンテンツの獲得と新商品を続々と市場に投入していた時期だった。ADSLの料金が大きく下がったとはいうものの,ネット環境は現在に比べて非常に貧弱なもので,モバイル端末での利用は想定されておらず,あくまでもPCでの利用が前提のサービスだった。インフラだけをとってみても,ネット上での事典・辞書利用という市場は,この時点では時期尚早だったといえるのかもしれない。現に,電子辞書の市場規模がピークの483億円を記録するのは2007年で,その後,徐々に縮小していくことになる注4)

5. 個人顧客から法人顧客への転機

サービスを開始する前年の2000年の冬に京都のある大学から1本の電話を受けた。

「『日本大百科全書』をネットで配信するサービスを始めると聞いたのだが,これは大学でも利用できるのか」。

法人サービスのメニューは一応用意していたものの,大学市場に期待をかけていなかったため,当時の担当者は半信半疑でその大学の図書館司書を訪ねた。その司書は,学術市場における事典・辞書の重要性と,学生や研究者がレファレンス資料をネット上で利用して研究を行う環境の価値をいち早く理解されており,機能やコンテンツについて熱心な質問を受けた。結果,その司書が勤務されている同志社大学がジャパンナレッジの1番目の法人のお客さまになった。

この司書は,関西を中心に,ネット上で利用できる事典・辞書の有用性を多く講演されており,そのおかげもあって,ジャパンナレッジの導入は関東よりも先に関西を中心に進んでいくことになる。

さらに,もう一つ,ジャパンナレッジの普及には興味深い特徴があった。それは海外での導入の動きだ。関西地区を中心とした導入が一段落したころ,2004年から2005年にかけて,日本の主要大学よりも前に,北米の研究大学(リサーチ・ユニバーシティ)でジャパンナレッジの導入が一気に進んだ。

2006年4月当時,日本の大学での契約機関数が160であるのに対し,北米では実に約30の研究大学で法人向けジャパンナレッジの契約が結ばれている。

当時,北米の司書は日本資料の電子化を強く待ち望み,学会の場などで熱意をもってアピールを繰り返していた。それにもかかわらず,日本での電子化は遅々として進まず,彼らはその状況にかなりの焦燥感をもっていた。ちょうどそういう時期に,出版各社のレファレンス資料を電子化したジャパンナレッジが目に留まったのだろうか,日本資料に関する情報交換のメーリングリストでジャパンナレッジが紹介され,高い評価を受けたようだった。

当時,大手新聞データベースでは著作権などの問題もあり,海外への展開に消極的であった。それに対し,ジャパンナレッジは英語での利用規約の整備,海外学会への参加を行うなど,積極的な姿勢をみせたことで,NCC(North American Coordinating Council on Japanese Library Resources:北米日本研究資料調整協議会)注5)による強力な後押しもあり,導入が一気に進むことになったのだった。

この一連の北米におけるジャパンナレッジの普及は,日本の市場での普及にも大きな影響を与えたと考えている。それは2005~2007年の機関の導入数に如実に表れている(2)。

2004年から2007年まで,毎年80~110機関が増加し,特にそれまで伸び悩んでいた東京を含む首都圏近郊の大学での契約が大きく進んだ。

この時期,北米の大学司書の方々が日本で講演を行う機会が頻繁にあり,その際,北米における日本資料の購読状況の中でジャパンナレッジが多く取り上げられた。そうした動きもジャパンナレッジの評価を高めるきっかけになったと推測している。

その後,欧州や東アジアでも導入が進み,海外の市場は売上比率で全体の15%を占めるまでに成長した。売上比率もさることながら,海外の市場が数字以上に意味が大きいのは,彼らが市場の声をリードする立場にあることだ。よく,北米の図書館は日本の数年~5年先を行っているといわれる。北米で議論されていることや流行の技術・商品はその後,ほぼ間違いなく日本にもたらされる。

また,司書や研究者は発表や講演の機会も多く,情報発信という意味でも,重要な役割をもっている。機能的な問題点についても適切な指摘を受けることが多く,商品力アップに多大なる貢献をしていただいた。海外の利用者は単なる商売上の顧客というよりも,緊張感をもったビジネスパートナーという側面ももっているのである。

図2 ジャパンナレッジ導入機関数の推移

6. 現在のサービスの広がり

サービス開始から16年目を迎え,法人向けジャパンナレッジは一定の評価を得ることができた。利用機関の詳細は次のようになっている。主要な顧客は国内の大学で,契約件数全体のちょうど半分を占めている。

大学 :357校

公共図書館:123館

中学・高等学校:75校

企業 :33社

海外機関:110機関

そのほか研究機関など: 16機関

この数字の割合を表にすると3になる。

現在,日本の大学の数を750校程度と考えると,導入率は全国で47.6%になる。しかしながら,導入率には地域による偏りが大きく,東京,大阪,愛知,京都の4都府県だけで全体の約60%を占める。

公共図書館については,ここ数年,微増傾向が続き大きな変化は見受けられない。一方,中学・高等学校での導入が目立って増えてきた。特に都市部の私立校,大学の付属校など比較的予算が潤沢であろうと思われる学校での導入が進んでいる。ICTのインフラがここ数年,急速に整いつつある一方で,コンテンツの整備が追い付いていないため,調べ学習など広い分野で活用できる事典・辞書の需要が伸びていることが原因だろうと考えている。

また,前章でも説明したように,海外機関での契約が多いのもジャパンナレッジの大きな特長の一つだ。主な利用者は北米と欧州の日本研究を行っている大学で,そのほか台湾,オセアニアなどでも多く利用されており,近年では中国での契約も徐々に出始めてきている。

図3 法人利用の機関別契約数

7. 利用率を上げるために

ビジネスを進めていくうえで一番気を使うのは商品の利用率だ。特に事典や辞書が主たるコンテンツであるため,どれだけ多くの利用者に頻繁に利用されているかが契約更新/契約内容の拡大の生命線となる。この点は,一部の研究者に専門的な研究内容を提供する論文や雑誌資料と大きく異なる点だ。

利用率を向上させるためには,基本的には

1. 魅力的なコンテンツを登載すること

2. 利用者にとっての認知度を上げること

3. 外部サービスとの連携

  • といった点が重要になってくる。

「1. 魅力的なコンテンツを登載すること」について,ジャパンナレッジは日本でも数少ないコンテンツ・アグリゲーターという立場で活動してきた点にその特徴があるように思う。株式会社ネットアドバンスは,小学館という一出版社の子会社であるが,ジャパンナレッジが登載するコンテンツは小学館だけではなく,出版各社からえりすぐられた,定評のあるコンテンツがそろっている。

事典・辞書の登載については,基本的には利用者からのリクエストや希望をベースに社内の専門部署で協議される。図書館での利用頻度の高いレファレンス資料については定期的な調査を基に,利用者からのヒアリングも行い,コンテンツの選択を行っていく。

一方,買い切り型商品であるJKBooksは,研究者や研究機関のリクエストのほか,コンテンツ自体の重要度(過去の販売実績や研究者の評価)などから,ビジネスとしての採算性を加味してコンテンツの選択を行っている。JKBooksのラインアップは,「太陽」「文芸倶楽部 明治篇」「風俗画報」「群書類従(正・続・続々)」「東洋経済新報/週刊東洋経済デジタルアーカイブズ」といった,比較的,専門性の高いコンテンツが現在の主流になっている。

これら買い切り型商品JKBooksを,購読型(サブスクリプション型)である事典・辞書データベースのプラットフォーム上で一緒に利用できるのも,ジャパンナレッジの大きな特長といえる。比較的,学生に利用者が多い事典・辞書データベースと,専門性の高い研究者向け商品を同一のプラットフォームで利用することで,専門資料を読みながらわからない語句を辞書で調べたり,言葉の意味を調べている途中で,より詳細な資料を発見したりすることができる。独立したプラットフォームで単独のコンテンツを利用するよりも,シナジーを発揮するケースが多く,このシナジーが徐々に利用率の向上に寄与し始めてきた。

「2. 利用者にとっての認知度を上げること」について大きな効果が見込めるのが,各機関で開催される利用ガイダンスでの説明となる。しかし,近年では大学での契約データベース数の増大などで,単一のデータベースに十分な時間を割くことができなくなってきている。そのため,YouTubeに使い方動画を掲載する,紙の利用ガイドを作成して各機関に配布するなどの対応を取っている。また,ここ数年で導入が一気に進んだディスカバリーサービス(学術資料・情報検索システム)への対応にも早くから取り組んできた。OPAC(オンライン蔵書目録)用書誌データの整備なども同時に行うことで,資料の「発見性」向上を図っている。

さて,利用率の向上を考えるうえで,最も効率がよく,また今後最も重要になると考えているのが「3. 外部サービスとの連携」だ。特に,国立の機関や大学で運用されている学術用途の電子資料との連携は,ジャパンナレッジにとって非常に重要な意味をもつ。相互リンクによる利用率の向上はいうまでもなく,外部機関のもつ膨大な1次資料と組み合わされることで,知の世界を広げることができると同時に,それら膨大な情報知識の窓口としてジャパンナレッジが活用されることが期待されるからだ。

ここ2年ほどの間に実現できた具体的な例としては,

A. 2014年4月 国立国会図書館NDLサーチとの連携注6)

B. 2015年4月 国立国語研究所 日本語歴史コーパスと連携注7)

C. 2015年12月 SAT大正新脩大藏經(たいしょうしんしゅうだいぞうきょう)テキストデータベースとの連携注8)注9)

  • が挙げられる。

8. ジャパンナレッジが目指すもの

ジャパンナレッジのサービスを今後も価値あるものとするための条件としては,大きく分けて3つあると考えられる。

(1)無料データベースとの連携

(2)個人向けジャパンナレッジとの連携

(3)コンテンツの拡充

(1),(2)に関してはすでに成功ケースがある。前章末に「C.」として挙げた「SAT大正新脩大藏經テキストデータベース」の例がそれである。

有料のデータベースであるジャパンナレッジと無料で公開されているSAT大正新脩大藏經テキストデータベースとの連携はうまくいかないのでは,と心配する声が一部である中,2015年12月に両データベースは相互連携を開始。特に海外の研究者や図書館から高い評価を得ることができた。この連携は,SAT大正新脩大藏經テキストデータベースに表示された本文部分をマウスでハイライトすると,その語句に該当する語釈を法人向けジャパンナレッジに登載されている「例文 仏教語大辞典」から引っ張り出して別窓に表示するというものだ。利用者から高い評価を得,その後,個人向けジャパンナレッジとの連携も実現した。さらに進んで,逆に,法人向け,個人向けジャパンナレッジの「例文 仏教語大辞典」の本文ページから,その語句が含まれる「SAT 大正新脩大藏經テキストデータベース」へのリンクを設けるなど,相互検索へと進化している。

この「(2)個人向けジャパンナレッジとの連携」こそが,大藏經テキストデータベースの開発者がより強く望んでいたことであったし,著者もその可能性の大きさにあらためて気づかされた。比較的安価な料金で利用できる個人向けジャパンナレッジとの連携は,機関に属していない在野の研究者にも新たな研究の門戸を開くことになる。人文系の研究の予算が取りづらくなっている昨今,個人でも研究を続けていける環境を提供する意義は大きい。

もちろん,連携によって得られる「(3)コンテンツの拡充」も大きなメリットだ。サービス提供者側にとっては,連携によってコンテンツの一部を自分たちのコンテンツのように利用できることになる。特にジャパンナレッジのようなレファレンス要素の強いデータベースにとってこの点は大きな魅力だ。そもそも事典・辞書は世に存在する事象を集約したものである。あらゆる資料の窓口としてこれほど最適なものはない。

ジャパンナレッジは今後もより積極的に他サービス,他機関との連携を強めていく。そうすることで,ますます複雑化,多様化する電子コンテンツ分野におけるレファレンスサイトという位置を確立し,筆者らが追い求めてきた「百科空間」を実現していきたいと考えている。

執筆者略歴

  • 田中 政司(たなか まさし) m-tanaka@netadvance.co.jp

「ジャパンナレッジ」を運営する株式会社ネットアドバンス ビジネスセンター長。2001年のサービス開始時からジャパンナレッジの開発・運営に携わる。現在,営業部門長としてジャパンナレッジ事業の営業全般を担当。

本文の注
注1)  ジャパンナレッジの料金・収録コンテンツ詳細

・法人向け料金:http://japanknowledge.com/library/price.html

・個人向け料金:http://japanknowledge.com/personal/price.html

・収録コンテンツ一覧:http://japanknowledge.com/contents/

注2)  図書館員が選んだレファレンスツール2015:http://www.nichigai.co.jp/cgi-bin/ref2015_result.cgi

注3)  e-Stat 政府統計の総合窓口 学術情報基盤実態調査 平成23年度 大学図書館編 個別事項7 経費 1図書館資料費 より

注4)  『事務機械の需要予測 2009年~2010年』(ビジネス機械・情報システム産業協会 2008.12)

注6)  国立国会図書館サーチ(NDLサーチ):http://iss.ndl.go.jp/

注7)  国立国語研究所 日本語歴史コーパス:http://pj.ninjal.ac.jp/corpus_center/

注8)  SAT大正新脩大藏經テキストデータベース:http://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/SAT/

注9)  永崎研宣. SAT大蔵経テキストデータベース:人文学におけるオープンデータの活用に向けて. 情報管理. 2015, vol. 58, no. 6, p. 422-437. http://doi.org/10.1241/johokanri.58.422

 
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