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リレーエッセー
つながれインフォプロ 第29回 Project Lieと「図書館情報学チャンネル」の5年間
小野 永貴常川 真央
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2016 年 59 巻 5 号 p. 336-339

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Project Lie誕生の経緯

Project Lie(プロジェクト リー)1)は,図書館情報学(Library and Information Science) を工学的な領域(Library and Information Engineering)へ変えることを目標に,当時筑波大学生だった5人が2010年に立ち上げたプロジェクトである。

もともとは,第12回図書館総合展で初開催された「L-1グランプリ2010-若手ライブラリアンのためのワークショップ式登竜門」2)というコンペティション企画への出場応募を目的に,図書館総合展約4か月前に結集されたチームであった。メンバーは,リーダーである吉田光男の呼びかけによって,研究科・学類や学年の異なる精鋭5名注1)が集められた。メンバーの1人である佐藤翔の発言3)をきっかけに,「研究を実用に。図書館に自立を」というキャッチコピーが掲げられ,“学術研究と現場実践を結びつけることで図書館を向上する”という目標が設定された。

チーム結成から本番当日までの間,グランプリ獲得を目指してさまざまな準備を行い,特に後述する「図書館情報学チャンネル」4)5)というインターネットライブ番組を通して,メンバー間での議論を深めつつ対外的な情報発信を試みた。本番当日(1)は,この準備の甲斐があったのか,中間投票で第1位の人気を獲得したが,最終のプレゼンテーションでは思うように実力を発揮できず,残念ながら受賞には至らなかった。しかし,これらの活動を通して,図書館業界において工学的な視点を持つことの重要性をメンバー間で強く共有したことから,L-1グランプリ終了後もプロジェクトは存続することとなった。

図1 L-1グランプリ2010当日のワークショップの様子

図書館情報学チャンネル

Project Lieの主な活動内容は「図書館情報学チャンネル」と呼ばれるインターネットライブ番組の配信である。この番組は,毎週決まった曜日の夜にProject Lieのメンバーが出演し,その週に報道された図書館や図書館情報学に関するニュースを取り上げ,メンバーがコメンテーターとなって議論を行う様子を,映像生中継で全世界に発信している(2)。視聴者ともコミュニケーションをとりながら,わかりやすい解説を行いつつ新たな視点で切り込んでいくのが,本番組のコンセプトである。時折特集企画を組むこともあり,図書館情報学者や図書館系企業人などのゲストを招いてのインタビューや対談,話題の図書館の実地見学レビュー,図書館系イベント会場からのリアルタイムレポートなど,多様なコンテンツを配信してきた(3)。

お盆休みや年末年始であっても,5年以上にわたってほぼ1週も欠かすことなく毎週放送を続け,2016年7月15日に配信回数は300回を達成した。そのため,時に歴史的な事象を偶然記録することもあり,たとえば2011年3月11日は配信の準備をしていた矢先に東日本大震災が発生し,筑波大学附属図書館等の被災状況を最速で報道した(4)。このような図書館情報学業界に強く影響を及ぼした社会事象を後世に残すべく,年末最終放送では「図書館情報学10大ニュース大賞」と称してその1年間に取り上げたニュースを振り返り,メンバーから最も注目されたニュースを表彰するという企画も慣例化した。毎週1回の放送で10~30個程度のニュースを取り上げて1~1.5時間ほど放送しているため,これまで約300時間以上にわたって数千件のニュースに対する議論を積み重ねてきたことになる。非常に地道な活動であるが,これを通し,職種や立場,館種や年齢を超えた横断的な図書館情報学の情報共有の場を実現することで,研究と現場の距離を近づけ,工学的アプローチによる図書館向上への第一歩となると考え,継続を第一に努力している。

このような長期にわたる継続にあたっては,配信の効率化のための技術開発も行っており,特に以下の2点で番組形態の進化を遂げてきた。

1点目は配信環境の変化が挙げられる。従来は,筑波大学の特定の会場に集まって議論し,その様子を動画配信サービス「USTREAM」を用いて生中継していた(5)。しかし,多くのメンバーが社会人になり全国に散ったことにより,この集合型会議が困難となった。そこで,2015年4月からは遠隔会議を取り入れ,遠隔地にいても議論に参加できる中継体制を開始した。具体的には,「Google+ハングアウトオンエア」を用いて出演者全員がテレビ会議形式で参加し,「YouTube Live」経由で動画配信を行いつつ,「USTREAM」にも同じ映像を同時送出するシステムを独自開発した(現在は,USTREAMの仕様変更に伴い,YouTube Liveのみでの配信に移行している)(6)。これを通し,日本全国に分散する図書館関係者が,場所によらずフェアに議論できるという,新たな情報発信形態の実証も実現している。

2点目は番組構成体制の変化である。2015年頃までは,主にプロデューサーの小野永貴もしくは常川真央が,1週間分のニュースを手動で検索して番組プログラムを作成し,そのプログラムを直前にメンバーへ共有して議論するという形がとられていた。しかし,特定のメンバーへの負担が大きく継続性に乏しい形態であったため,この問題を解決すべく,ニュース収集とプログラム構成の半自動化を試みた。現在は,メンバーが日常的にソーシャルブックマーク(現在は「はてなブックマーク」)に登録したニュースを自動的に収集し,定型化された番組プログラムに埋め込んで出力するシステムを開発した。このシステムは,配信前日と配信当日にメンバーへリマインダーメールを自動送信する機能も有しているため,出演忘れを防止する効果もあらわれている。このような技術開発も継続的に行い,番組制作の負荷分散と効率化を実現してきたのが,本番組の特徴である。

図2 多数のニュースを議論している通常の配信映像例
図3 特集企画の放送例:屋外で実施された図書館情報学系学生主催イベントの取材放送
図4 東日本大震災時に有識者が集まり,図書館の被災状況について速報した際の様子
図5 初期の配信形態:USTREAMを使用した集合型会議放送
図6 現在の配信形態:Google+ハングアウトオンエアを使用した遠隔会議放送

Project Lieの役割

最後に,本プロジェクトは結果的に,図書館情報学系の若手人材育成にも寄与できていると確信している。当初は5人で始めた本プロジェクトも,この5年間で学部生2名,大学院生3名が新規メンバーとして加入した。全員が異なる領域を専門としているため,毎週の議論で異分野理解が促進され,メンバーのディスカッション能力が向上している。大学1年生から新メンバーを取り入れたこともあるが,この活動を通して自ら積極的に発言するまでに成長し,海外図書館の見学研修にも行き自主的に報告会をするなど,能力を伸ばしてきた。大学院生のメンバーも,この活動を通して異分野のメンバーと議論が深まり,新たな共同研究に至ったケースも複数ある6)8)。このように,専門性の高い“研究室のゼミ”とは異なる,学生主体の第2のゼミの機能も果たしてきた。その結果,5年の間には大学・大学院を卒業・修了するメンバーも複数いたが,本プロジェクトの出身者は複数名が表彰を受け,その後も日本全国に羽ばたき,Project Lieでの経験を生かして,全国の図書館の向上に第一線で尽力している。たとえば,国公私立大学の教員になった者,研究所のライブラリアンになった者,大手情報系企業のエンジニアになった者など,非常に意欲の高い若手図書館系人材を実社会に輩出してきた。このような成果は,本プロジェクト結成のきっかけとなった「L-1グランプリ」の開催目的に書かれた「今後,図書館業界で活動していく上で欠かせないリーダーシップやファシリテーション,アジェンダ設定やビジョン提示,パブリックスピーキングの能力と経験を養うことを目指す」という趣旨9)を,実現できているのではないだろうか。

地域を越えた異分野協働の継続的議論は,人的異動の多い図書館業界において容易ではないと考えられるが,今後の図書館でも重要になることは間違いない。そのロールモデルとして機能すべく,今後どのくらい続けられるか皆目見当がつかないが,可能な限り低コストで永く継続していきたいと考えている。

執筆者略歴

  • 小野 永貴(おの はるき)

1987年生まれ。筑波大学図書館情報専門学群在学中に学園祭の生中継に携わりつつ,専門では電子図書館システムを研究。大学院博士後期課程に進学しつつ,2011年よりお茶の水女子大学附属高等学校教諭として情報科教育や学校図書館支援を実践。2014年より千葉大学アカデミック・リンク・センター特任助教に着任し,大学生の学習支援や大学図書館の研究開発に従事。

  • 常川 真央(つねかわ まお)

1987年生まれ。2009年筑波大学図書館情報専門学群卒業。2014年に筑波大学博士後期課程図書館情報メディア研究科を修了。博士(図書館情報学)。2014年4月より,日本貿易振興機構アジア経済研究所図書館研究情報整備課にてシステム担当ライブラリアンとして勤務。趣味はビブリオバトルと短歌の作歌・鑑賞。

本文の注
注1)  メンバーのうち4人は,大学院図書館情報メディア研究科もしくは情報学群知識情報・図書館学類の学生であったが,リーダーの吉田光男は大学院システム情報工学研究科の所属であり,異分野協働のチーム構成であった。

参考文献
  • 1)  Project Lie. "Project Lie: Library and Information Engineering [図書館情報学チャンネル]". http://project-lie.org/, (accessed 2016-07-03).
  • 2)  国立国会図書館. “若手ライブラリアンらが図書館の未来を語る「L-1グランプリ」開催決定, 賞金は100万円”. カレントアウェアネス・ポータル. http://current.ndl.go.jp/node/16218, (accessed 2016-07-03).
  • 3)  min2fly. “min2fly on Twitter: あるいは@ceekzさんもよく言っている「engineering」的な図書館情報学。Scienceではなく, 現場で役に立つものを作る的な発想で, でも情報工学になってしまわない, 的な”. Twitter. https://twitter.com/min2fly/status/19585914148, (accessed 2016-07-03).
  • 4)  Project Lie. “図書館情報学チャンネル - YouTube”. https://www.youtube.com/channel/UC6sathYecCFHD8Eio5VVzZg, (accessed 2016-07-03).
  • 5)  Project Lie. “「図書館情報学チャンネル」放送室”. Hatena Blog. http://lis-channel.hatenablog.com/, (accessed 2016-07-03).
  • 6)  Sato, Sho; Yoshida, Mitsuo. "Usage log analysis of articles in six Japanese institutional repositories: Which region do users access articles from?". The 2010 CiSAP colloquium on Digital Library Research. Taipei, 2010-11-15. Department and Graduate Institute of Library and Information Science. http://hdl.handle.net/2241/106843, (accessed 2016-07-03).
  • 7)  Ono, Haruki; Tokumitsu, Ayako; Shimoyama, Kanako; Sato, Sho. "Inter-Library Usage Patterns among Japanese High School Students". 2015 Conference on Asia-Pacific Library and Information Education and Practice (A-LIEP). Manila, 2015-10-29. http://www.a-liep.com/, (accessed 2016-07-03).
  • 8)  小野永貴, 吉田光男. “学習指導案検索システムの構築を目指した電子指導案公開状況に関する調査”. 日本デジタル教科書学会2015年度年次大会. 北海道, 2015-08-11. http://js-dt.jp/_userdata/convention/convention2015.pdf, (accessed 2016-07-03).
  • 9)  岡本真. “プロデュースとは何か:企画・設計の思想と実践”. SlideShare. http://www.slideshare.net/arg_editor/umds20101217, (accessed 2016-07-03).
 
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