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大学における研究関連求人の推移:JREC-IN Portal掲載の求人票に基づく分析
川島 浩誉山下 泰弘川井 千香子
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2016 年 59 巻 6 号 p. 384-392

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著者抄録

科学技術・学術政策研究所と科学技術振興機構(JST)情報企画部情報分析室は現在,相互協力に関する覚書およびJSTの所有する情報資産の利用に関する覚書に基づく共同研究を実施している。本稿では,その共同研究の一つである,JREC-IN Portal掲載の求人票に基づく大学における研究関連求人の推移の分析プロジェクトに関して紹介する。本分析は2つの目的をもっている。一つはこれまで総体的な分析対象とされてこなかったJREC-IN Portalの統計的性質を明らかにすること,もう一つはJREC-IN Portalの統計により研究関連求人市場の動向を示すことで当該人材の流動性の増進を促した近年の政策の帰結を明らかにすることである。本分析プロジェクトは現在進行中であり,結果の数値は最終的な研究成果公表において変わりうるものではあるが,現段階で得られた近年の研究関連求人の動向の一端を示す集計結果も本稿に示す。

1. 背景と問題意識

研究人材は研究活動の実施主体として最小の単位であり,研究機関や国・地域などはいわばその積み上げによって構成される二次的・三次的な単位である。したがって,研究人材の育成や確保は国・地域や機関における知識生産を決定づける要素の一つである。特に学術研究活動とそれを担う大学・公的研究機関においては,よき人材を確保するための求人活動は常に最重要課題の一つである。これを「人材」の側からみると,研究者あるいは研究関連実務者は研究関連の求人市場に身を置き,求職者としての活動によって自らのキャリアを形成していく。現在の日本においては,当該の求人は主として公募制度のもとにあり,国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が提供するキャリア支援サービスであるJREC-IN Portal1)3)や求人主体となる機関の公式Webサイトなどに掲載される求人情報に求職者が応じる形で市場が成立している。このため,当該市場における求人動向は,流動性の促進および産学連携コーディネーターやリサーチアドミニストレーターに代表される新しい職種の育成と導入など,人材のフローに関しての豊かな情報を含んでいる。しかしながら,求人票の形で公開される求人情報のデータは,長年の計量書誌学研究の蓄積によって構造化され,各種のツールやモデルを利用可能な学術論文データベースと異なり,これまで可用性の高いデータソースが存在しなかったことから,学術研究活動の状況の把握や政策形成のための研究の材料としては活用の実例に乏しいのが現状である。

大学や公的機関からの求人情報が一定の構造化された状態で集積されているデータソースの候補としては,前述のJREC-IN Portalが存在する。科学技術・学術政策研究所(NISTEP)によるJREC-IN Portalのデータの利用例について公表された報告書としては,三浦・佐藤の報告4)があるのみである。紀要・論文としては,小林5)が体育・スポーツに関する教員の公募件数を調べ,月別,職種別,学位の要件,担当科目などを集計している。浅田6)は教育行政学の求人について若手研究者の観点から,橋本ら7)は人文・社会系の研究者の求人状況について博士院生の観点から,木村8)は英語教員について学内業務における英語運用の観点から,集計や分析を行っている。しかし,これらの研究は扱ったデータの取得期間がいずれも1年以下のため,その時点でのスナップショットを得ることはできても,対象とした研究分野の人材のフローについて時系列的な変化を追うことができず,したがって,科学技術基本計画に代表される政策的な影響については考察することが難しい。つまり,学術関連人材の求人市場を公開された求人情報に基づいて複数年以上の時系列で分析した研究はいまだなされていない。

本稿では,以上の背景と問題意識に基づいて筆者らが行う,JREC-IN Portal掲載の求人票に基づく大学における研究関連求人の推移の分析プロジェクトについて紹介する。本プロジェクトの研究としての目的は,これまで総体的な分析対象とされてこなかったJREC-IN Portalの統計的性質を明らかにすることと,JREC-IN Portalの統計により研究関連求人市場の動向を示すことで当該人材の流動性の増進を促した近年の政策の帰結を明らかにすることである。次章,「2. 分析プロジェクトの枠組み」および次々章「3. 分析のデータソースとしてのJREC-IN Portal」では,本プロジェクトが研究としての目的を達成するために必要とした枠組みと,データを情報に変える過程で発生している困難について説明する。

なお,本稿では,2014年10月のリニューアル以降もしくはサービス開始の2001年から現在まで通貫した対象として言及する際は現在の名称であるJREC-IN Portalを用い,2014年9月以前について言及する際はリニューアル前の名称であるJREC-INと呼称することとする。

2. 分析プロジェクトの枠組み

この章では,稼働中の公的なサービスに累積されるデータを,サービスの本来の目的ではない科学技術政策の研究に用いるために,どのような枠組みを必要とし設定したかを概説する。

まず,本稿で紹介する分析プロジェクトは,NISTEPとJSTとの間で交わされた相互協力に関する覚書を根拠にしており,さらに,JSTがもつデータ資産を研究に活用するために,JSTの所有する情報資産の利用に関する覚書を取り交わすことで共同研究として発足した。現在,この2つの覚書により,NISTEPの複数の研究者がJSTのもつデータ資産を取り入れた調査研究の企画を進めている。それらの調査研究の中でも,本分析プロジェクトはその実施体制において2つの特徴がある。一つは,データの貸与と利用による一方通行の関係ではなくNISTEPとJSTの共同研究実施者の2名が研究者として等分の貢献をするものであることであり,もう一つは,研究で使用するデータを生み出しているサービスの担当者も議論に参加していることである。これらは扱うデータの性質に起因している。

すでに述べたように,本分析プロジェクトにおいて着目したJREC-IN Portalに関しては先行研究が少ないため具体的な分析例が乏しく,NISTEPにおいても求人票データを長期時系列で分析したものは少なくとも公表された報告書にはない。そのため,JREC-IN Portalに掲載された求人票データが過去の掲載分まで含めて利用が可能になったとしても,データの統計的性質以前の,必要な前処理や可能な集計方法から検討を始める必要がある。求人票の各項目のラベルの一貫性はどのような状況にあるか,データを入力する機関側の求人担当者はどのようなインストラクションに基づいて文言を定めているのか,など,そもそもこのデータはどのように生成されたものであるかが分析者にとっては必ずしも明らかではないのである。そのため,本分析プロジェクトでは,狭義の共同研究者2名の他に,JSTが提供するキャリア支援WebサービスとしてのJREC-IN Portalの現在の担当者である川井(本稿第3筆者)およびオブザーバーとして担当調査役である堀内美穂の,JST知識基盤情報部に所属する2名に議論への参加を依頼し,4名による打ち合わせによって進行している注1)

これにより,本分析プロジェクトにおいては3者がそれぞれの本来業務を追求する形になった。NISTEPとしては学術研究および政策形成に資するエビデンスの導出とそのための新たなデータソースの開拓を目的とし,JST知識基盤情報部としてはサービスの改善に資するフィードバックおよびこれまで認識されていなかったサービスの潜在的意義の探索を目的とし,JST情報企画部情報分析室は両者の橋渡しおよび共同研究によってJSTがもつデータ資産の可用性と価値を向上させることを目的とするものである。

以上が,本分析プロジェクトの枠組みである。

3. 分析のデータソースとしてのJREC-IN Portal

前章では,サービスに累積されるデータを本来の目的ではない科学技術政策研究に用いるために,研究者だけでなくデータの生成過程にかかわった実務者の知見を必要とした旨を述べた。この章では,それによって明らかになった,分析のデータソースとしてのJREC-IN Portalの性質について述べる。

研究関連人材を対象にした求人情報を提供するサービスとしてのJREC-IN Portalは,2001年10月にJREC-INの名称で開始された。壁谷ら3)によると,JREC-IN誕生の背景には,研究人材が研究開発にかかわる多様なキャリアパスを開拓することが求められていたことと,第1期科学技術基本計画によって急増した博士研究員(ポストドクター,ポスドク)人材のキャリアパスが喫緊の課題となっていたこととがある。当初は若手研究者のキャリア支援に主眼のあったJREC-INは,その後の,公募制度の定着や任期の定めのある雇用形態の拡大,産学連携コーディネーターやリサーチアドミニストレーターなどの研究関連人材の育成施策によって生まれた求人需要に応える形で拡大し,今日では事実上,日本の学術研究関連人材の求人情報を集約したサービスになっている。三浦・佐藤4)は,2003年2月から2004年1月までの1年間の公募情報を,JREC-IN掲載の求人票と,大学および公的研究機関の公式Webサイトに掲載された公募情報(ただし2003年の科学研究費補助金(科研費)採択件数が20件以上の機関に限定)の2通りで収集を試みた結果,取得した2,603件のうち,JREC-INには掲載がなく各機関のWebサイトのみで得られた情報は5件のみであったことを報告している。

2014年10月にはJREC-IN Portalとしてリニューアルされ,求職者側の情報登録機能の増強やWeb応募機能などの付与がなされている。ただし,求職者側のデータは取り扱いに極めて慎重な注意が必要な個人情報に該当するため,本分析プロジェクトでは完全に除外している。

このようなサービスとしての経緯により,求人票分析のデータソースとしてのJREC-IN Portalは以下の特徴をもつ。

まず,網羅性が高いと見込めることである。日本において学術研究関連の公募情報がほぼ一元化されていることは,求職者にとって便利であるだけでなく,科学計量学的観点においては蓄積されたデータが情報としての潜在的な価値をもつことを意味している。難があるとすれば,過去の求人票データに関しては各機関の公式Webサイトでの掲載状況はもはや検証不能であり網羅性を精緻に定量的に検証することができないという点である。このため,分析にあたっては基本統計量として,各年の求人票の件数だけでなく,JREC-IN Portalに求人票を掲載した機関数も集計した。

次に,掲載された求人票を構造化されたデータとして考えると,項目の時系列的な連続性が何度も失われているという問題がある。サービスとしての名前が変更されたリニューアルは前述の2014年10月のみであるが,求人票の入力項目に関しては市場の変化や社会的要請に応じて,逐次,項目の追加や統合が行われている。「機関種別」や「勤務地域」「職種」「勤務形態」「研究分野」等は当初から現在に至るまで,プルダウンで選択する独立項目となっているが,選択肢の増設や分類変更等が実施されたことにより,2001年から2016年まで一貫した理想的な時系列データであるとは言い難い。たとえば,「勤務形態」項目の中の任期の有無に関しての項目において,2014年から第3の区分「テニュアトラック注2)」が出現している。これは,2013年以前には実態としてのテニュアトラックが存在していなかったということではなく,2014年の改修において当該項目の入力選択肢に「テニュアトラック」が用意された,という事情による。この「テニュアトラック」のような選択肢の追加よりも,さらに分析と解釈を困難にするのは統合を伴う分類の変更である。学術研究関連人材において,特に重要となる集計上の分類は研究分野と職種である。研究分野に関しては,第3期科学技術基本計画における重点8分野に代表されるように,近年の科学技術政策で採用された分野別推進戦略は分野ごとの研究予算の配分と人材の需要に大きく影響を与えてきた。また,職種に関しては,任期の定めのある雇用形態の導入と拡大において,雇用の契約としての性質上,すでに定年制で雇用されている教員や研究者の契約を変更することは困難であり,以降に雇用される若手研究者を主な対象にせざるをえないことから,助教や研究員と教授やディレクターでは集計値の意味が異なる。しかし,JREC-IN Portalの歴史において,この分野と職種の分類は大きく変更されているのである。

まず,分野の変遷を表したものが1である。サービス開始時の分野分類はJSTの前身の一つである日本科学技術情報センター(JICST)で使用されていたものを基に,そこにはなかった人文・社会系分類を継ぎ足して細分化した分類である。その後,2005年に科研費の分類に基づき,芸術系分類を継ぎ足したものに変更された。以降,科研費側の変更に合わせる形で微修正がなされ,2014年のリニューアル時には,2013年の科研費分類に基づく変更がなされている。

次に,職種の変遷を表したものが2である。JREC-IN Portalでは「職種」という単語を,たとえば教員と職員の区別だけでなく,機関の長・教授・准教授・助教などのいわゆる職位も包含する意味で使用している。職種に関しては,特に2007年と2011年の改修において大きな変更があった。ここで困難なのは,少なくとも本分析プロジェクトが確認した限り,現在保持されているデータは,過去分に関しては分類の変更がなされる都度に遡及(そきゅう)して新しい分類に合わせて修正することを重ねたものであるということである。すなわち,一対一対応ではない遡及修正を重ねたため,各年当時の求人機関担当者が入力し求職者が眺めた求人票そのままのデータは復元できない。

このように,扱うデータが実験室実験や目的を絞って行われた社会調査から得られたものと異なることから,本分析プロジェクトは,このデータはどのように生成されたものなのか,ということの調査を含んでいる。情報という観点から本分析プロジェクトを考えると,研究という活用目的の設定によってこれまで埋もれていたデータの可用性を確立しデータを情報に変える取り組み,という側面ももっている。

表1 JREC-IN Portalの分野分類の変遷
表2 JREC-IN Portalの職種分類の変遷

4. 集計結果

この章では,近年の研究関連求人の動向の一端を示す集計結果を示す。現在進行形の研究であることから,結果の数値は最終的な研究成果公表において変わりうることを前提としていただきたい。

1は,JREC-IN Portalに掲載された求人票の件数を示したものである。求人主体の機関の種別も内訳として示した。JREC-INは2001年10月からのサービスであるため,2002年以降を示す。1の件数はJREC-IN Portalの公式Webサイトに「各種データ」として公開されている機関種別年度計とは必ずしも値が一致しない。これは,1件の求人票に複数の職種が登録されている場合に,公式Webサイトの集計値は整数カウント注3)を用いているため,機関種別の合計値が求人票の件数を意味しないことによる。

2は,掲載を行った求人主体の機関数を示したものである。1と同様に機関の種別も内訳として示した。

12で示した内訳の機関種別において「その他」とは,JREC-IN Portalにおける機関種別の,高等専門学校,専門学校(専修学校専門課程),その他教育機関,公設試験研究機関・地方自治体等,特殊法人・認可法人,公益法人,海外研究機関,国際機関,その他機関,を合わせたものである。

3は,国立大学・公立大学・私立大学における求人票件数の推移を表したものである。3aは雇用条件を常勤と非常勤に分けて集計した。3bは任期なし,任期あり,テニュアトラックに分けて集計した。第3の区分「テニュアトラック」は2014年から入力の際の選択肢として用意されたものである。そのため,まだ数が少なく,2014年に50件,2015年に206件である。3bの棒グラフ上では,任期ありとテニュアトラックを足したものを1つの棒とした。

4は2012年から2015年の国立大学・公立大学・私立大学における求人票件数の職種別・研究分野別の内訳である。現在のJREC-IN Portalにおける職種のうち,教授相当,准教授・常勤専任講師相当,助教相当,研究員・ポスドク相当,研究・教育補助者相当のみ抽出し集計した。JREC-IN Portalにおける求人票は入力の際に研究分野一覧表から最大3分野まで選択ができること,職種に関しても複数選択が可能であることから,分野や職種の合算値は意味をもたない。なお,この集計において研究員・ポスドク相当,研究・教育補助者相当の「テニュアトラック」区分は存在しなかった。

5は,研究・教育補助者相当,研究管理者相当,コミュニケーター相当に着目した,2012年から2015年の国公私立大学から出された研究職以外の求人票における任期の有無の割合である。

図1 JREC-IN Portalに掲載された求人票の件数の推移
図2 JREC-IN Portalに求人票を掲載した機関数の推移
図3 国公私立大学におけるJREC-IN Portal掲載の求人票件数の推移
図4 国公私立大学におけるJREC-IN Portal掲載の求人票件数の職種別・研究分野別の内訳(常勤職のみ,2012-2015年の合計)
図5 国公私立大学における研究職以外の任期の有無の割合(常勤職のみ,2012-2015年の合計)

5. 考察と今後の課題

まず,基本となる統計量として,1のJREC-IN Portalに掲載された求人票の件数の推移と2の求人票を掲載した機関数の推移を見ると,国立大学と公立大学に関しては,2001年のサービス開始後,程なくして掲載機関数は飽和しており,求人票の件数でも2008年,2009年以降はほぼ横ばいであることがわかる。一方,私立大学は求人主体として出現する掲載機関数が増加を続けており,これは,これまでJREC-IN Portalによる公募以外の方法で採用活動を行っていた大学がJREC-IN Portalを利用するようになり私立大学における利用率が増加しているのか,それとも,利用率はほぼ飽和状態で私立大学の新規設立によるものなのかは,各年に存在した大学を一覧できる外部データと比較し,割合の検討を行うことが必要であろう。近年,4年生大学への転換が進み機関数の絶対値は減少傾向にあるはずの短期大学が掲載機関数において上昇を見せているが,これに関しても,名称変更に伴う表記ゆれ等による疑似的なものではないことを検証する必要がある。

3に関しては,3aにて常勤・非常勤の内訳を見ると常勤の数が非常に多く,非常勤も増加しつつあるものの現状では非常勤講師などの公募はさほど多くないことがわかる。3bでは,任期ありの求人が著しい増加を続けている一方,任期なしの求人は2006年ごろに飽和しており,以降は微増もしくは横ばいである。

4を見ると,研究関連人材のキャリアパスにおいて大きく問題になった生物学分野は他の分野と比べて教授相当,准教授・常勤専任講師相当の求人件数が少ないわりに,研究員・ポスドクは工学に次いで2番目に多く,少数の研究リーダーが多数のメンバーを率いる構造を示唆している。また,公的研究機関をはじめとする大学以外の機関における求人は,大学とは分野の分布が異なることから,大学と公的研究機関を合わせた集計値を出すことでみえるものが変わる可能性がある。

5を見ると,リサーチ・アドミニストレーター(URA)や産学官連携コーディネーターを含む研究管理者相当は絶対数も少ないが任期の定めのない求人はごくわずかであること,科学コミュニケーターや広報を含むコミュニケーター相当は大学における求人が非常に少ないことが見て取れる。

ここに掲げた1から5が示唆するものは,研究者を取り巻く求人・雇用環境の急激な変化,特に不安定な雇用の増大である。今世紀初頭にはごく少数に限られていた任期の定めのある求人は2008年には過半数に達し,その後も増え続けている。さらに2014年からはJREC-IN Portal上の区分として「任期あり」「任期なし」に加えて「テニュアトラック」も追加された。テニュアトラックに関しては,実態としては審査を経て任期を外す雇用は従来から行われてきたが,JREC-IN Portal上では,任期ありの雇用の一形態として扱われてきたにすぎなかった。すでに2006年に文部科学省によるテニュアトラック導入モデル事業が始まっていたが,2011年に閣議決定された第4期科学技術基本計画の中で「テニュアトラック制の普及・定着」への言及があり,第4期科学技術基本計画の対象期間に本格的に推進されたことにより,2014年の項目としての設置に至っている。このように,計量分析上はデータ区分の追加や変更は時系列の一貫性の面から障害になるが,区分の追加や変更自体が求人環境の変化を示しているともいえる。

本稿345では収録の網羅性がある程度期待できる機関種別である国立大学・公立大学・私立大学に限定した集計値のみを示した。大学は,規模や立地,歴史などにより,自らに適合した役割を負っている。本分析プロジェクトでは,国公私の区別だけでなく,RU11注4)と地方国立大学,都市圏の大規模私立大学など,主に規模と立地の面から大学の位置付けをとらえ,それぞれの大学が必要とする人材像も追っており,今後この観点からの深掘りを進めていく予定である。さらに,JREC-IN Portalに含まれるそれ以外の機関,たとえば公的研究機関なども独立行政法人化以降大きく役割や雇用環境が変化しており,人材構造や研究者のキャリアにおける位置付け等の観点からの分析も重要となることを認識している。公的研究機関を含む大学以外の機関の集計値に関しても順次,今後の公表物に掲載する予定である。

最後に,本稿以外の本分析プロジェクトの成果公表について述べる。すでに行われたものとしては,2015年10月に研究・技術計画学会第30回年次学術大会にて分析プロジェクトの概略と部分的な集計結果を発表した9)。直近の公表予定としては,まず,2016年9月にスペインのバレンシアで開催される科学計量学の国際会議 STI Conference 2016注5)に,その時点での分析結果の報告を行う予定である。次に,2016年9月25日に発行予定のSTI Horizon 秋号注6)にもNISTEPとJSTの連携の取り組みとしての紹介記事を投稿することを予定している。STI Horizon 秋号には,本稿とは異なる図を掲載しているので,そちらもご参照いただきたい。最終的にはNISTEPの報告書として可能な限り網羅的な集計データを公表することで,本分析プロジェクトが政策形成に資するのみならずJREC-IN Portalのユーザーである研究者や関連人材のキャリア形成に少しでも役立つものとなれば幸いである。

執筆者略歴

  • 川島 浩誉(かわしま ひろたか) kwsmhr@nistep.go.jp

科学技術・学術政策研究所 研究員。早稲田大学理工学術院 助手,JST-RISTEX 科学技術イノベーション政策のための科学 研究開発プログラム ファンディングプログラムの運営に資する科学計量学プロジェクト研究員(東工大)を経て,2014年1月より現職。博士(工学)(早大)。専門は科学計量学・計量書誌学。

  • 山下 泰弘(やました やすひろ) yasuhiro.yamashita@jst.go.jp

国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)情報企画部情報分析室研究員。電気通信大学大学院情報システム学研究科助手,JST戦略的基礎研究推進部調査員,独立行政法人産業技術総合研究所 技術と社会研究センター特別研究員,科学技術政策研究所客員研究官,山形大学企画部准教授等を経て現職。専門は科学計量学。

  • 川井 千香子(かわい ちかこ) kawai@jst.go.jp

国立研究開発法人科学技術振興機構に勤務。初期の科学技術普及啓発事業に従事し,番組制作,科学館やボランティア等への事業を担当。その後,学術論文等のデータベース事業にて,企画・運営・営業に従事。2012年度より旧JREC-INを担当。2014年度のJREC-IN Portalへのリニューアル実施を経て,現在に至る。

本文の注
注1)  さらに,JREC-IN Portalの前任の担当者である理数学習推進部課長代理の根上純子から,過去に行われた改修の経緯や当時の議論に関して情報を得た。

注2)  テニュアトラックとは,主として若手研究者を対象とし,任期の定めが雇用条件に含まれるが,任期の終了前に任期の定めのない雇用へ移行するための審査が設置されている人事制度のこと。日本におけるテニュアトラック制に関しては,以下のURLに文部科学省による説明が掲載されている。http://www.jst.go.jp/tenure/about.html

注3)  整数カウントとは,選択肢の項目に対して複数回答が可能な場合,回答された複数の項目それぞれに1件を計上するカウント方法のこと。

注4)  RU11とは,北海道大学,東北大学,筑波大学,東京大学,早稲田大学,慶應義塾大学,東京工業大学,名古屋大学,京都大学,大阪大学,九州大学,の11大学による学術研究懇談会のこと。http://www.ru11.jp

注5)  21st International conference on science and technology indicators:http://www.sti2016.org

注6)  STI HorizonはNISTEPが発行する雑誌。http://www.nistep.go.jp/stih

参考文献
 
© 2016 Japan Science and Technology Agency
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