2016 年 59 巻 6 号 p. 418-420
夏の到来を感じる7月初旬,長崎市立図書館にて第33回医学情報サービス研究大会が開催された(図1)。通称MIS(ミス)と呼ばれ,全国各地で年1回開催されて夏の風物詩となったこの大会も33回目となった。長崎での開催は3回目だが,公共図書館が会場となるのはMIS史上初で,参加者は149名であった。
「生物医学図書館員研究会」「病院図書室研究会」「ライフサイエンス図書館員研究会」「日本端末研究会」の4団体の合同研究会として1984年に「第1回図書館情報サービス研究大会」が開催され,「研究発表,生涯教育,情報交換の広場として,発展」2)してきた。その後,1993年第10回大会から「医学情報サービス研究大会」へ名称変更し,より専門性を打ち出した研究会となった。MISの最大の特長は,「参加者が所属にかかわらず個人の専門家として自由に集まれることを優先し,特定の団体や機関からの後援は一切受けていない。大会実行委員と参加者によるインフォーマルで手作りの研究大会である」3)ことであろう。その都度組織された有志の実行委員会がご当地ならではの会を作り上げる。参加者も全国から集まり,ここでは業者も一参加者として,“Learning from each other!”を合言葉に,日ごろの研究成果を発表しディスカッションする,独立した個人の学び合いの場である。
毎年,実行委員会の発案によるロゴマークで趣向をこらしたオリジナルグッズが作られるのも楽しみの一つである。今年は長崎らしいアジサイ模様のTシャツや染め手ぬぐいなどが並んだ(図2)。夏の開催ということもあり,発表者もスーツよりカジュアルなスタイルが多かった。
会場の長崎市立図書館4)(図3)は,2008年1月に開館し,PFI(民間資金を利用して民間に施設整備と公共サービスの提供を委ねる)手法を活用して運営されている。蔵書収蔵数は80万冊で,現所蔵数は約63万冊あり,明るく開放的で,大きく見やすいサインシステム(案内標識)が印象的だった。土日の開催ということもあり,開館を待つ利用者の長い列に,市民に愛されている図書館を実感した。がん情報コーナーや介護生活応援コーナーなど,医療健康情報の提供が充実しているのも特徴である。今回は,生涯学習エリアの多目的ホールと研修室,新興善メモリアル内のホールと会議室を使用して開催された。
この場所には,かつて原子爆弾でけがを負った多くの人々が治療を受けた救護所となった新興善小学校があった。当時の様子を再現した「救護所メモリアル」が1階に設置されており,映像とともに記憶に残るアーカイブであった。
当日のプログラムを図4に示す。抄録はWebサイト1)を参照されたい。
記念講演は,わが国の西洋料理のパイオニアとして幕末から明治期に活躍した草野丈吉をテーマに,日本の食生活に関する古墳時代からの歴史をひもとく,食の街長崎ならではの壮大な内容であった。
今回の演題は,特に実務者による実務者のための研究会という性格がよく出ていたと思う。公共図書館の方の口演,若手の口演が多いのも頼もしく,実践成果のアウトリーチの場として機能していたと感じた。公共図書館での医療・健康情報提供は,がんや認知症など具体的な地域の課題解決に向けて充実しつつある印象を受けた。
今回は参加者が例年より少なめの149名ということもあり,会場が分割されずに1か所ですべての口演を聞くことができたのはメリットだった。ポスターセッションは3題あり,発表者と参加者がじっくりディスカッションする様子がみられた。
参加者企画は「語らんば!医療・健康情報サービス」と「EBMワークショップ:論文を効率よく読んでEBM実践しよう」の2つの企画があり,筆者は「EBMワークショップ」に参加した。参加者は約40名で,はじめに主催者からEBM:Evidence Based Medicine(根拠に基づく医療)の説明,疑問の定式化フォーマットPICOやRCT:Randomized Controlled Trial(ランダム化比較試験)の基本的な読み方のレクチャーを受けた後,10名程度のグループに分かれ,チューターの進行により,図書館情報学のRCTの英語論文を題材にワークショップを行った。筆者も病院図書室司書という仕事柄,毎日医学論文の検索結果に目を通しているが,抄録や結論をざっと読んで判断することが多く,RCT論文の図表や内容を批判的に吟味しながら読むことは貴重な体験だった。身近な図書館情報学がテーマの論文だったこともあり,英語に苦手意識があっても面白く「批判的吟味」のポイントが理解できたと思う。90分があっという間だった。今後は自分でも機会を作って抄読会を開催してみたい。
「語らんば!医療・健康情報サービス」は26名の参加者があり,公共図書館や病院患者図書室で医療健康情報を提供している担当者が多かった。ワールドカフェ方式で,「絵本」「災害」「選書」のテーマのテーブルを参加者が順番に移動し,それぞれ自由に語り合った。
初日夜には懇親会が行われ,長崎の1,000万ドルの夜景を一望できる山頂にある老舗旅館「矢太楼」へバスで移動した。長崎の名物料理がふんだんに供されて,所属を越えてインフォーマルな親睦を深めることができた。
初の公共図書館での開催ということで,準備や運営にご苦労が多かったことと思う。喜多芳明実行委員長,下田富美子事務局長はじめ,多忙な本務の傍ら企画や運営に携わられた実行委員の皆さまに心から感謝申し上げます。
次回は2017年8月26日(土),27日(日)に大阪府枚方市の関西医科大学枚方キャンパスで開催が予定されている。日本における七夕伝説の地での再会を楽しみにしたい。
(司書・ヘルスサイエンス情報専門員上級 佐藤正惠)