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この本!~おすすめします~
この本! おすすめします 古生物学って何?
三角 太郎
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2016 年 59 巻 6 号 p. 421-424

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古生物学とはどのようなサイエンスなのか。唐突にこんな問いを投げかけても,「情報管理」と何の関係がある,と問い返されるだけだろう。筆者は理学部出身で地質学と古生物学を専攻したが,その後は20年近くも図書館司書として勤務しているごく普通の図書館員である。普段は理学を意識することはほとんどない。だが,この1,2年「オープンサイエンス」のおかげで,研究者の方と話す機会を何度もいただいている。理学からドロップアウトした身(理学研究科の修士を中退した)としては,妙な気分だが,そのような場にいくと,自分のルーツに理学,地質学と古生物学を感じることがよくある。

とはいっても地質学に古生物学である(地質学と古生物学の密接な関係を説明すると長くなるが,地質学を知らずに古生物学を研究するのは困難である)。研究データ関連でお世話になっている高層物理屋の某先生は,筆者の顔を見るとニヤニヤしながら「地質学は野蛮な学問」という。地質学は数理的に美しくないからだという。「その野蛮な学問がないと地球がどうできたのかわからないじゃないですか」と,ニヤニヤしながら,筆者も言い返す。いやしかし,地質学が数理的に美しくないというのはそのとおりだ。

カール・セーガンの『COSMOS』やボイジャーに憧れて理学部に入った。当然のように数学や物理が好きで,同級生もそんな連中ばかりだった。1,2年の教養部は座学中心だった。3年生になって,研究室に進んだら,ハンマーとヘルメットとクリノメーター(地質調査用のコンパス),野帳(野外調査用のノート)を渡されて,まずは野外実習の授業だった。いやもう大変だった。先生は沢をザブザブ歩き,崖にガシガシ登っていくが,ついていけたものではなかった。露頭(地層の露出部分)をスケッチしろと言われても,ただの崖にしか見えない。卒論ではフィールドワークが必須で,数キロ四方民家がない,ヒグマがウロウロしている山奥のフィールドに1人で放り込まれた。おかげで随分たくましくなったような気がするし,ある種の野蛮さも身に着けた気がする。

しかし講義は年代やら化石の名前やら記憶しなければならないことだらけで,あまり面白くなかった。サイエンスは数式で語るものだとイメージしていたし,理学部の研究は,もっとスマートなものだと思っていたのだが。データの精度も調査者の職人芸的なスキルに依存しており,何が主観で何が客観なのかがわからなくなってくる。これはサイエンスなんだろうか。考えているうちに,何がサイエンスなのか,わからなくなってきた。ポパー注1)等の科学論の本を読んだり,カオスとかフラクタルの本を読んだりもしたが,どうもピンとこなかった。そんなときに出会ったのが,今回紹介する1冊目の『古生物学の基礎』である。授業の中で,古生物学では一番いいテキストと紹介されて,図書館で借りて読んでみた。非常に面白かった。学生にとっては高額の本だったが,アルバイトをして購入した。

序文から引用すると「この本は,そのような課程の全部の内容を提供するように企画されたわけではない。むしろ教科課程の概念的な背景と,講義や実験ではほんの部分的にしか示されないか,または違った観点から扱われるような,欠くことのできない知識および考えを提供しようとするものである」(p. 7)。

目次を見ると「単元としての集団」「単元としての種」「高次分類単位への種のまとめ」「適応と機能形態」「進化と化石記録」等,どう考えてよいのかわからなかったことが取り上げられていた。

少し中を見てみると,第1章の「保存と化石記録」では「化石記録は過去の生命のほんのわずかのサンプルにすぎない。そのサンプルは無作為ではなく,いろいろな生物学的および地質学的要因によって大きく偏っている。したがって化石のどんな研究も,古生物学的資料のどんな利用も,その記録の長所および短所の明確な理解にもとづかなければならない。われわれは化石で何ができ,そして何ができないのかを学ばなければならない」(p. 13)。化石が過去に生きていた生物のごくごく一部でしかないのは容易に想像がつくと思う。その不完全な化石のデータで何ができ,何ができないのか。データと思考実験の突き合わせを執拗に積み重ねながら論証していく。この論証についていくのは大変だったが,しかし,この執拗な論証の積み重ねこそがサイエンスだ,と少しわかった気がした。数式は議論を明確にするためのツールであって本質ではない(と書くと言いすぎかもしれないが)。この本は,原著が1978年のものなのでデータ自体は古くなっているかもしれない注2)。だが,久々に本棚から引っ張りだしてきたが,やっぱり面白い。一般的には古生物学というと博物学的な記載のイメージが強いと思うが,そのベースにある考え方を学ぶためには,今でも有用ではないかと思う。この原稿を引き受けるにあたって,職場の図書館とか生協書籍部とか,大きめの書店の古生物学のコーナーを見てまわったが,この本ほど徹底的に原理を追究している本は見つけられなかった。

『古生物学の基礎』D.M.ラウプ, S.M.スタンレー著;花井哲郎ほか訳 どうぶつ社,1985年,品切重版未定 http://doubutsu-sha.com/tosho/hon_html/koseibutsu.html

2冊目は地形学の本,『写真と図でみる地形学』である。これは地形学の講義のテキストだった。1985年発行だが,今も,職場の生協書籍部にも並んでいるロングセラーである。

筆者は大学をドロップアウトしてから何年かはフリーターで,地質調査系のアルバイトで食いつないでいた。そのときに一番役にたったのが地形学の知識だった。この本はさまざまな地形の特徴を,空中写真と地形図を照合しながら解説していく作りになっていて,1冊読むと地形学の基本が押さえられる。この本のいいところは空中写真である。立体視できる形で空中写真が載せられており,講義も空中写真を立体視して,地形を判読しながら進められた。この空中写真を「読む」スキルが当時は必須だった。今はGoogle Mapや3Dマップなどさまざまなツールがあるが,当時は自分の頭の中で3D化するしかなかった。

最近,「ブラタモリ」というNHKの番組を楽しみにしている。タモリが日本の各地を訪ねて,その土地の歴史や地史を探るのだが,タモリの地形マニアぶりが楽しい。山地にせよ平地にせよ,1度の地質現象で形成されるものではなく,さまざまな歴史が積み重なったものであり,地質学とはその歴史の再構成である。地形は地質構造体の表面形態であり,地形の判読とは,形を読みとることが目的ではなく,その歴史を形から読み取ることである。歴史がわからないと,なぜ今そのような形になっているのかはわからないのだ。というわけで,地形学は,まさにブラタモリ的な世界になってくるわけである。

実際の調査では,フィールドに入る前に,文献調査をして,空中写真や地形図を見て地形学的にあたりをつける。まぁもうちょっと格好良くいうと作業仮説を立てる。それからフィールドに入り,その仮説を検証する。外れたら,あらためて作業仮説を立て直す。その繰り返しだった。繰り返すことにより,判読のスキル,作業仮説の精度がだんだんと上がっていった。自分でデータにあたって分析して,作業仮説を立てて,検証する,そのプロセスが染みついたのはフリーター時代だったかもしれない。

『写真と図でみる地形学』貝塚爽平,太田陽子,小畴尚ほか編 東京大学出版会,1985年,4,800円(税別) http://www.utp.or.jp/bd/4-13-062080-0.html#wrap

3冊目は『化石の研究法:採集から最新の解析法まで』で,これは1冊目とは対照的な本である。これは化石の研究方法のハンドブックで,さまざまな化石の研究手法が詰め込まれている。図書館員として働き始めて何年もたってからだが,その頃働いていた街のK屋書店の理工書のコーナーで見つけた。ハンドブックだから読み通すような本ではないし,読んだところで実際に研究をするわけでもない。が,見ているだけでも楽しい。料理のレシピ集を見て楽しむようなものだろうか。この化石はこういう風に研究するのか~とただ眺めているだけでも楽しい。参考文献も充実していて,文献をたどっていけば,主要なところはカバーできるだろう。

図書館員的には,参考文献がしっかりしているハンドブックが好ましい。その分野の知識がなくても,文献をたどって求める情報へナビゲートするのが図書館員のレファレンスサービスである。検索エンジンも多用してはいるのだが限界がある。図書館員側が知識のある分野なら,検索結果の個々の情報の質を判断できるのだが,知識のない分野ではそれが難しい。検索エンジンは個々の情報を収集してはくれるが体系化はしてくれない。そういうときには,まだまだ図書の方が頼りになる。

以上,3冊,本誌の読者が手にとったことがなさそうな本を,あえて選んでみた。何となくでも,少しでも興味をもっていただければ幸いである。

『化石の研究法:採集から最新の解析法まで』化石研究会編 共立出版,2000年,8,500円(税別) http://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320046351

執筆者略歴

  • 三角 太郎(みすみ たろう) misumit@chiba-u.jp

図書館司書。宇部工業高等専門学校,山口大学,山形大学の図書館を経て,2014年より千葉大学附属図書館勤務。現在,アカデミック・リンク・センターを担当。

本文の注
注1)  カール・ポパー。英国の哲学者。科学哲学の研究で知られる。

注2)  今回調べてみたら,お弟子さんが改訂版を出していた。Foote, Michael; Miller, Arnold I. Principles of paleontology. 2007, 3rd ed., W.H. Freeman.

 
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