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サービスデザインの時代:顧客価値に基づくこれからの事業開発アプローチ
長谷川 敦士
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2016 年 59 巻 7 号 p. 441-448

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著者抄録

サービスデザインとは,生活者の価値観の変化に伴って,ビジネスの本質がモノから体験にシフトしたことによって生まれた,新しい事業開発の手法である。従来のモノを主体にした考え方(グッズドミナントロジック)に対して,サービスを中心にした事業の考え方はサービスドミナントロジックと呼ばれている。サービスデザインはユーザー中心,共創,体験の連続性,物的証拠,全体的な視点,といった「サービスデザイン思考」を基に構成される。Airbnbなどの新しい事業体は,事業の企画だけでなく,組織運営にまでサービスデザイン思考を導入している。これからの事業開発において,サービスデザインアプローチは重要性を増していくと考えられる。

1. はじめに

昨今,事業開発や公共サービスの分野において「サービスデザイン」と呼ばれるアプローチが取り入れられるようになった。日本ではまだまだこれからの分野であるが,コンサルティング会社であるアクセンチュアが,サービスデザイン専門のエージェンシー(デザイン会社)・Fjord社を買収するなど,サービスデザインをめぐる動きが活発になっている。

本稿ではこのサービスデザインというアプローチを紹介するとともに,生まれてきた時代背景と今後の発展の可能性について議論する。

2. サービスデザインの概要と生まれてきた背景

2.1 サービスデザインの概要

サービスデザインとは,その名のとおり,サービスをデザインする手法や考え方である。しかしながら,ここでいうサービスとは,日本で一般に考えられている「サービス」とは少し異なっている。いわゆる「サービス」といえば,たとえばホテルや飲食店などの接客業を想起することが多いであろう。これらの「サービス」とは「モノ」ではなく,役務を提供するという意味でサービス業という言い方がされている。逆にいえば,役務の提供ではない物品の販売を行う業態があり,それに対してサービス業という業態がある,という考え方である。

この考え方は,20世紀の産業の発達に伴って浸透してきたものである。1は,米国のコンサルティング会社であるGartner社のKerry Bodine氏が提示した,産業における優位性価値の推移である。20世紀初頭は,「製品の品質」が最も重要とされる「製造の時代(Age of Manufacturing)」と位置付けられる。それが,ある程度の品質が得られる1960年代になると,いかに一般家庭にまで届けられるかが優位性をもつ「流通の時代(Age of Distribution)」となる。ここでは,流通網や販売店チェーンなどが事業において重要な要因となっていた。1990年代に入ると,流通網は一通り整備され,いかに消費者認知を獲得するかが重要となる「情報の時代(Age of Information)」となった。それが,2010年代,つまり現在,ネットの普及とそれによるロングテール対応型への小売業の変化により,産業において最も重視すべきなのは個々の顧客の多様性であり,いかにその文脈に沿うかが事業の成否を左右するようになったという。これを,Kerry Bodine氏は「顧客の時代(Age of the Customer)」と呼んだ。

この時代の流れに伴って,これまで「モノを作って売る」業態であった,サービス業以外のすべての業態は,顧客の志向に合わせて事業を行うことを余儀なくされている。これは,「すべての産業のサービス化」という現象として認識されている。このすべての産業のサービス化というお題は,単に製造業がサービス化するということではない。企業にとって,物品の販売を前提にしたこれまでの企業論理から,サービス提供を前提にした企業論理への転換を求められる,視座の変革といえるものなのである。このことは,「グッズドミナントロジック(Goods-Dominant Logic,以下G-Dロジック)」から「サービスドミナントロジック(Service-Dominant Logic,以下S-Dロジック)」への転換,と表現される。

図1 市場の変化

2.2 G-Dロジック時代のマーケティング

G-Dロジックとは,「モノ(Goods)」が「支配的な(Dominant)」「論理(Logic)」というその名が示すとおり,企業において「モノの生産と販売」を基に事業を構築していく考え方である。G-Dロジックの下では,企業活動は供給者,生産者,流通・配送という流れを経て消費者にモノを届けることとなる。ここでは暗に,消費者に何を届けるかという価値はあくまで生産者が決めるものであるという関係性が前提となる。その結果,このG-Dロジックの下では,多くのマーケティング活動は「いかに製品の価値を消費者に認識してもらうか」という,限定されたものとなってしまう。当然ながら製品の開発自体もマーケティング活動の一環であるが,製品開発と製品の購入とは企業活動として分断が生じてしまう。

かつて,マーケティングの大家セオドア・レビット氏は,その著書の中で「顧客は“ドリル”が欲しいのではなく,“ねじの穴”が欲しいのだ」という言葉を紹介している1)。この言葉は,今でもさまざまなところで引用されているが,現在においても本質を表しているといえよう。

ドリルを買った人は,多くの場合,ドリル自体のスペックや見た目に興味があるわけではなく,ドリルによって家の壁に穴を開け,その穴を使って壁に時計を掛けたい,といった「ドリルを使った結果自体」を求めているものである。このように,通常,製品を求める目的は,モノ自体ではなく,そこから得られる便益なのである。この便益とは,消費や使用によって得られる結果のこともあれば,直接そういった結果を得られなくとも「利用する体験」自体のこともある。またはさらにその結果としての,自己実現やセルフブランディングといったことかもしれない。いずれにせよ,製品を,自分の文脈によってどのようにとらえるか,というところで価値が生じるのである。この「価値」は「文脈価値(value in context)」と呼ばれる。文脈価値は,企業が単独で生み出せるものではなく,あくまで購入者・使用者の文脈に依存する。

通常,多くの企業活動はG-Dロジックによって事業をとらえ,実施している。この場合,企業は顧客の求めているものがどういった価値であれ,提供するものはあくまで商品であり,その商品をなるべく多く売ることで利益を上げるというビジネスを行うことになる。もちろん,顧客に合わせた商品開発は行われるが,企業と顧客の間では販売というタイミングにおいて価値交換が行われるため,企業の視点としては,利用よりも販売が優先されることになる。また,販売する製品の提供者と受け手との関係性を前提としており,いくら「顧客志向」を標榜(ひょうぼう)したとしてもあくまで提供者目線という限界がある。

2.3 S-Dロジックから考えるマーケティング活動

こういった背景を踏まえて,顧客の利用体験=サービスを中心として経済活動をとらえ直す「S-Dロジック」という考え方が生まれてきた。

S-Dロジックとは,2004年にスティーブン・L・バーゴ氏とロバート・F・ラッシュ氏によって,Journal of Marketing誌に発表された,「Evolving to a new dominant logic for marketing(マーケティングの新しい支配的論理の進化)」という論文2)によって初めて提唱された概念である。

この論文では,マーケティングの概念を,「製品を中心とする発想=G-Dロジック」から,「顧客との価値創造によるサービスを中心とする発想であるS-Dロジック」へ切り替える必要があるという提案が行われている。

S-Dロジックにおける「サービス」とは,従来のいわゆるサービス業のサービスという意味ではなく,すべての企業活動はサービスであるという定義に基づくサービスである。原著では,従来のサービスはservicesと複数形で表現し,S-Dロジックでいうところのサービスはserviceと単数形で表現することで区別している注1)2)3)

ここでのサービスは,一方的に企業から顧客へ提供されるものではなく,企業と顧客との相互作用によって初めて成立するものと定義されている。また企業と顧客の関係性も,G-Dロジックでは,売買という形でモノと金銭が交換されるのに対して,S-Dロジックでは,サービス全体の利用価値を顧客と事業者と相互に創造するものとなっている(1)。

G-Dロジック(前節)で述べたように,価値というものは顧客(利用者)の文脈によっている。つまり,価値というものは企業側から一方的に提供することはできない。企業ができることは,価値を提案すること(value proposition)だけであり,それが顧客の文脈に沿っていればそこに価値が生まれることになる。このことは,「価値は共創される(value is co-created)」と表現される。こういった原則に基づいて,企業活動を考え,実施していくのがS-Dロジックである。

表1 G-DロジックとS-Dロジック

2.4 サービスデザインの必要性

事業において,製品スペックではなく文脈価値が重視されるようになるに従い,組織運営においてのS-Dロジックが注目されてきた。S-Dロジックは,顧客の時代における企業活動を根底から変えていくものであるといえる。また,前述のように特に製造業中心からサービス業中心にシフトする産業構造の変化に伴い,社会的な重要性が高まっている。

サービスデザインは,こういった時代背景とリンクしながら,1990年代以降からデザインの領域として研究が進められてきた分野である。サービスデザインは1980年代にマーケティングやマネジメントの分野で,サービスを可視化するサービスブループリントなどを用いるサービス研究が行われてきたことに端を発する。その後,後述する人間中心設計(Human Centered Design: HCD)やデザイン思考(design thinking)などと結び付き,サービスデザインというアプローチとして一般化しつつある。

サービスデザインは,こういった時代背景を踏まえて,これまでの「サービス業」だけではなく,これからの事業一般を生み出すためのアプローチとして注目されている。日本ではまだサービスデザインを専門とする会社や組織は少ないが,欧米ではサービスデザイン専門の会社は増えており,またコンサルティング会社や事業会社がそういったサービスデザイン専門会社を買収するような事案も増えてきている4)。今後,日本でもこういった流れは加速することが予測される。

3. サービスデザインのアプローチ:サービスデザイン思考

では,ここから具体的なサービスデザインのアプローチを紹介しよう。まず,サービスデザインを考えるうえでの5つの視点「サービスデザイン思考」を示そう。

サービスデザイン思考とは,書籍『This is Service Design Thinking.: Basics-Tools-Cases』5)で紹介された,サービスデザインを実践する際の基本となる視点である。

サービスデザイン思考は,以下の5つの項目で構成される。

1. ユーザー中心(user-centered):サービスはユーザーの立場に立って企画される

2. 共創(co-creative):すべてのステークホルダーがプロセスにかかわる

3. 体験の連続性(sequencing):サービスは相互に関係する活動の連続として設計される

4. 物的証拠(evidencing):無形なサービスを物理的な人工物によって可視化する

5. 全体的な視点(holistic):サービスの環境全体をよく考慮する

以下,一つひとつの要素を紹介しよう。

3.1 ユーザー中心(user-centered)

サービスは,基本的に利用者(ユーザー)が存在して初めて成立する。そのために,デザインの手法としては,ユーザー中心設計(User Centered Design: UCD)と呼ばれる手法を土台としたアプローチで設計を行う。ユーザー中心設計は,一般化されて人間中心設計という名称でISO9241-210としてもプロセスが定義されている。そのプロセスの概要は,

1. ユーザーを観察して利用状況を把握する

2. ユーザーの要求事項を明示化する

3. 要求を解決する設計案を作成する

4. 設計が要求を満たしているか評価する

という4つのステップに基づいてプロジェクトを設計する,というものである。さらに評価から,要求が満たされていないことが判明した場合には,プロセスをさかのぼって観察,要求抽出,設計の見直し,という手続きを取ることになる。

サービスデザインはこのUCDないしはHCDのプロセスを基本にしている。HCDは国際的にも標準的なアプローチとして知られ,著名なデザインコンサルティング会社IDEOが標準プロセスとして採用していることでも有名である。

サービスデザインの実施においては,まずこのユーザーを中心にとらえて課題解決に望むアプローチが基本となるのである。

3.2 共創(co-creative)

前述のS-Dロジックでも述べたように,サービスは提供側が一方的に押しつけても成立しない。このため,サービスデザインにおいては,事業側とユーザー,あるいはそれ以外にも関係するステークホルダー間において,共創することが必要となる。共創のためには,ステークホルダーが自分の関与するメリット(インセンティブ)を感じなければならない。逆にいえば,全ステークホルダーにインセンティブがあれば,サービスエコシステム(生態系)はうまく回りだす。

いずれにせよ,サービスデザインにおいては,この共創の観点が必須となる。

3.3 体験の連続性(sequencing)

ユーザーがサービスを利用するとき,そのサービスだけでユーザーの生活が完結することはありえず,サービス利用前後において,ユーザーは何か別のことを行っていたり,別のサービスを利用していたりすると考えられる。特にサービス利用前のユーザーの状況は,先に述べた文脈価値を導くものであり,視点としては必須のものとなる。サービスを設計する際には,自分たちが提供するサービスのことだけでなく,ユーザーの立場に立って,自社サービス以外のユーザーの体験を想定する必要がある。

特にこのユーザーの体験を連続的にとらえ,その全体像を可視化したものは,カスタマージャーニーマップ(Customer Journey Map: CJM)と呼ばれている。CJMは,現在マーケティング業界などで広く用いられるようになったが,もともとサービスデザインの領域において生み出された手法である。

このCJMなどを用いて,ユーザーのサービス利用体験を広くとらえて検討し,一連の体験として考慮することがサービス設計には必須となる。

3.4 物的証拠(evidencing)

サービスとは基本的に概念的であり,触れられない(intangible)ものである。しかしながら,ユーザーはそのサービスの価値や意味を触れられる(tangible)モノから得ることになる。コーヒーショップを例に挙げると,味や香りなどコーヒーそのもの,カップ,チェアやテーブルの使い心地などから,その店独特の雰囲気や心地良さが作られている。ユーザーはそこで提供されるサービスを,これらのモノを通じて体験するわけだ。

つまり,サービスを提供する側は,ユーザーが触れるモノを通じてのみ,サービスの概念をユーザーに伝えることができる。これは当然といえるが,意外と軽視されていることである。どれだけ崇高なサービスコンセプトをもってしても,ユーザーが触れるモノの質感が期待にそぐわなければ,ユーザーにその価値を伝えることはできない。

いくらサービスコンセプトを説明したとしても,ユーザーはそれを感じることはできない。ユーザーには実際に体験する証拠(evidence)が必要なのである。

3.5 全体的な視点(holistic)

ここまで述べてきたように,サービスは,事業者だけで成立させられるものではない。サービスが成立するためには,サービス生態系(service ecosystem)全体を俯瞰し,巻き込むことが必要となる。これは全体的(holistic)な視点,と呼ばれる。

サービスデザインにおいては,サービス生態系全体を見渡し,どういった価値のつながり(value chain)があるのかを正しく把握することが必要となる。また,従来は,企業は原料を仕入れ,顧客に提供するという,生態系の中で一方向を向いた価値の伝搬を担っていた。しかしながら,後述のAirbnb(エアビーアンドビー)やUber(ウーバー)といった企業のように,サービスの利用者はもちろん,サービスを提供するリソースも市場から調達するような,マルチユーザー型のサービスが増えてきている。こういった可能性を取り込むためにも,サービスデザインにおいて全体的な視点が欠かせなくなっている。

ここで紹介したサービスデザイン思考は具体的な手法ではないが,サービスデザインを考えるうえでは必須のものである。具体的に事業開発を行う際には,この思考法をもとに,最適なプロセスを検討する必要がある。しかしながら,方法論だけ適用しても優れたサービスを生み出すことは難しい。以下に,先進的なサービスをサービスデザイン的視点で読み解いてみよう。

4. サービスデザインと新しいサービスの姿:Airbnbのサービスデザイン

Airbnb(https://www.airbnb.com/)は,いわゆる民泊を斡旋(あっせん)するためのプラットフォームである。宿泊をしたい人は,目的とするエリアにて,ホテルを探すようにAirbnbサービスを用いて宿泊先を探し,予約を行う。Airbnbでは,「暮らすように旅しよう」というタグライン(標語)が掲げられている。これは,Airbnbで提供される宿泊先が,基本的に個人の一軒家や部屋だからである。つまり,Airbnbのもう一つのユーザーは,家を貸す人となる。貸し出される部屋は,不在にしている部屋もあれば,最近ではAirbnbで貸すためにわざわざ家を買ったり借りたりする人も増えている。

Airbnbはただ家の検索機能を提供するだけでなく,最近では貸し手に対して,場所と部屋の基本スペックを入力するとどの程度の家賃設定が適切かを提示する機能などを提供している。貸し手はこの情報を基にすることで,適正価格で家を貸すことができるようになる。Airbnbは,日本をはじめとする各国・地域において,既存のホテル業界と競合する存在であるため,規制の対象になるなどの問題を起こしている。しかしながら,そこまで問題視されるということは,それだけ影響力があるということであり,Airbnbが新しい経済圏(エコシステム)を切り開いたことは事実といえよう。

こういったAirbnbであるが,サービスデザインの観点から面白い実態を知ることができる。それは,Airbnb社の人材育成に関してのプログラムだ。Airbnbは,事業の開始から何度かの方向転換(ピボット)を経て現在のサービスモデルに至っている。そして,現在Airbnb社では,いわゆる人事部に相当するEmployee Experience(社員経験)という部門がある。この部門が考えているAirbnb社内での人材のモデルは2のようになる。

ここでは,人材モデルとして,Airbnbを知らない人,知っている人,使っている人(コミュニティーメンバー),家を貸している人,そしてスーパーホスト/スーパーファンというロイヤリティー(忠誠度)が高いユーザーというグラデーションで,ユーザー関与(commitment)の時間発展として描かれている。そして興味深いのはその一番右側のユーザー関与つまり一番高い位置に社員が置かれているのである。これはつまり,Airbnbでは,顧客であるユーザーの延長線上に社員が位置付けられているということである。

このように社員を位置付けているため,Airbnbでは,社員にまずAirbnbを用いて宿泊を行う経験を推奨し,さらにその先には自分の家や部屋をAirbnbを用いて貸すことを勧めているという。そして,さらにその先には地元のコミュニティーイベントへの参加も推奨しているという。これは,Airbnbを用いて家を貸すと,近隣から怪しまれたり,いやがられたりすることが多いことに起因している。つまり,Airbnbを用いて家を借りたり貸したりといったことはもとより,その結果として起こる近隣との関係性までも体験しなければ,Airbnbが何であるかを理解することはできず,その理解なくしてはAirbnbのメンバーとしてサービスを作っていくことに関与できない,ということなのである。

ここでは,宿泊者とホストによって共創されるサービスのあり方に,さらに社員も関与して新しい方向性を見いだしていくという,先に述べたサービスデザイン思考の考え方が垣間見られる。また,ユーザーだけでなく,社員の考え方自体もサービスに取り入れるという意味で,全体的な視点からのアプローチと考えることができる。さらにいえば,こういったアプローチこそがS-Dロジックに基づく企業経営といえるのである。

図2 Airbnb社における人材モデル

5. まとめ:サービスデザインの時代

ここまで,S-Dロジックという考え方とそこで求められるサービスデザイン思考,そしてその実例としてのAirbnbでのアプローチを紹介した。

既存のすべての企業がこういったアプローチへ急激に舵を切れるわけではないが,段階的に考え方を取り入れていくことは可能であろう。このサービスデザインアプローチは時代の要請であり,これからますます重要性が見いだされていくと考えられる。

S-Dロジックによれば,サービスの実現は企業の中の一部門が担当するものではなく,企業全体で取り組むべきミッションとなる。そして,S-Dロジックの下では,企業と顧客との関係性は変化し,企業は社会との関係性やサービス生態系全体を常に考えながら事業を運営していくことになる。当然ながら,営業部門やマーケティング部門だけでなく,管理部門や間接部門もサービス実現のための組織運営を担っていくこととなる。組織全体の新しい課題設定が求められる時代がサービスデザインの時代といえるであろう。

執筆者略歴

  • 長谷川 敦士 Ph. D.(はせがわ あつし) hase@concentinc.jp

株式会社コンセント 代表取締役社長。インフォメーションアーキテクト。1973年山形県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士),専門は認知科学。2000年より「理解のデザイナー」インフォメーションアーキテクトとして活動を始める。2002年株式会社コンセント設立,代表を務める。現在は,デザインの方法論を活用してこれからの事業開発を行う「サービスデザイン」を探求・実践している。グローバルなサービスデザイン組織であるService Design NetworkにおいてNational Chapter Boardおよび日本支部共同代表を務める。NPO法人 人間中心設計推進機構 副理事長。

本文の注
注1)  原著では,S-Dロジックにおけるサービスの定義は「オペラントリソースの活用」と定義されている。

参考文献
  • 1)  レビット, セオドア著; 土岐坤訳. マーケティング発想法. ダイヤモンド社, 1971, 490p.
  • 2)  Vargo, Stephen L.; Lusch, Robert F. Evolving to a new dominant logic for marketing. Journal of Marketing. 2004, vol. 68, no. 1, p.1-17. http://dx.doi.org/10.1509/jmkg.68.1.1.24036 (accessed 2016-07-20).
  • 3)  ラッシュ, R. F.; バーゴ, S. L.著; 井上崇通監訳; 庄司真人, 田口尚史訳. サービス・ドミナント・ロジックの発想と応用. 同文舘出版, 2016, 280p.
  • 4)  Maeda, J. "Design in tech report 2016". KPCB. http://www.kpcb.com/blog/design-in-tech-report-2016, (accessed 2016-07-20).
  • 5)  スティックドーン, マーク; シュナイダー, ヤコブ編著; 郷司陽子訳; 長谷川敦士, 武山政直, 渡邉康太郎 日本語版監修. This is Service Design Thinking.: Basics-Tools-Cases:領域横断的アプローチによるビジネスモデルの設計. ビー・エヌ・エヌ新社, 2013, 383p.
 
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