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この本!~おすすめします~
この本! おすすめします 第4次産業革命と上手に付き合う方法
竹村 詠美
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2016 年 59 巻 7 号 p. 494-497

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2045年,機械の知能が人間の知能を超えるシンギュラリティが訪れるという予想は,メディアを通じてご存じの方も多いかと思う。今シンギュラリティに向かう前の準備段階として社会プロセスや産業構造が急速に変わるプレシンギュラリティ,第4次産業革命が起こり始めている。

競争軸のパラダイムシフト

現在,製造業,農業,医療,教育などあらゆる分野では,スーパーコンピューターのコストパフォーマンスが急激に向上したことを受け,ビッグデータ,機械学習や人工知能,ロボットなどを取り入れた,ソフトウェアを軸とする産業革命が始まっている。また,3D プリンティング,デジタルファブリケーション,センサー技術,クラウドコンピューティングの普及により,Fab ラボやクラウドソーシングでプロトタイプを作り,クラウドファンディングで資金調達をし,コワーキングスペースから未来を創造する会社を起こすなど,今までより劇的に素早く低コストでクリエイティブな力を社会の活力に活用できる土壌が整ってきた。このような,個人やスタートアップのイノベーティブなアイデアを企業が取り入れる仕組みとして,企業間を横断した,オープンイノベーションによる取り組みも広がってきている。

このようにチャンスが広がる一方で,Googleのロボット企業買収や,Teslaのようなソフトウェアを軸とする自動車メーカーの台頭,自動運転技術のソフトウェア・ハードウェア業界を超えた競争など,業界の垣根はみえづらくなり,競争はグローバルに混沌(こんとん)とした様相をみせている。また,IoTにより生活がすべてデータ化される未来では,人間を支援する存在であるべきコンピューターが,人間と共生できる存在であり続けるために,どう世界が協力して倫理的に管理していくかなど,正解のみえづらい問題が山積している。

このような激動の変化の時代にわれわれはどう対応していくべきか,というテーマに異なる切り口で応える3冊を紹介したい。

避けられない12のトレンド

まず1冊目の『〈インターネット〉の次に来るもの』。著者である『WIRED』誌の初代編集長,ケヴィン・ケリー氏は本書を通じて,「不可避」な12のデジタルによる変化のルーツについて語っている。「不可避なものを阻止しようとすれば,たいていはしっぺ返しに遭う」「それよりも目を開いて警戒しながらも利用することがずっと上手くいく」という意見には私もまったく同意する。

たとえば音楽や映像業界では,長年の違法コピー禁止の取り組みは功を奏さず,YouTubeやSpotifyなど,ユーザーに支持されるプラットフォームといかに上手に付き合い,事業として存続させていくかというフェーズに向かっている。金融業界では,よりオープンになるデータのセキュリティーに関して,ハッキングされるたびに後処理に追われる代わりに,ブロックチェーンという分散型台帳技術を使ったオープンな形で,セキュリティーを担保するという発想の転換が求められている。どの動きからも,流れに逆らうよりは不可避な流れを理解したうえでどうベストを尽くすかということが求められていることがわかる。

12の法則について詳しくは本書を手にとっていただきたいが,その中でも特筆して紹介しておきたい2つの法則,CognifyingとSharingを紹介したい。

1. Cognifying (コグニファイイング):IBMの人工知能,ワトソンが,2011年にクイズ番組「ジェパディ!」で優勝した。今まで人間でしか判断できないであろうと思われていた言葉遊びや,微妙な文化的ニュアンスが含まれた問題があふれる番組で人工知能が人間を凌駕(りょうが)して以来,将棋,囲碁のトップ棋士にも人工知能が勝つという未曾有(みぞう)の進歩が進んでいる。

ケリー氏は言う。「人工的な思考は本書に描く他のあらゆる破壊的変革を加速させる,未来の力の源となる。コグニファイしていくことは確実に不可避だと言える。なぜならそれはすでにおこっているからだ」。

われわれはこの流れに逆らうことはできない。それよりも,この大きな波にどのように乗るのか,自分なりのアプローチを考え,行動することが今求められている。著者は,「ロボットといかに協調して働けるかにかかっている」と唱えているが,インターネット上に分散する見えないスーパーパワー,人工知能とどう共同作業ができるかが一つの近未来スキルとなっていくことだろう。

2. Sharing(シェアリング):昨今,Airbnbを始めとするプラットフォームを利用した民泊や,ライドシェアのUberなどがシェアリングエコノミーとして話題となっている。自分のアイデアやスキルをインターネット上で共有することは,ネットワーク間のコミュニケーションに始まり,ファイル転送,掲示板,Linux OSなどのソフトウェアのオープンソースプロジェクト,ブログ,ソーシャルメディアやQ&Aへの投稿,Wikipediaに代表される知識共有,音楽や動画共有などまで,インターネットの登場以来,破竹の勢いで活発になっている。著者はこのようなシェアに始まり,協力,コラボレーション,集産主義と発展するデジタル社会主義の到来について,「生産手段を持った大衆が共通の目標に向かって働き,プロダクトを共有し,自分の労働を賃金の対価なく提供し,成果物をタダで享受していることを,新しい社会主義と呼ぶのに不自然な点はない」と述べている。

こういったソフトウェア上での社会プロセスの変化は,今までの中央集権的な働き方の常識を徐々にくつがえし,プレシンギュラリティの一つの大きな流れとして現れ始めている。たとえば,YouTube動画投稿で生計を立てているユーチューバーや,クラウドソーシングで仕事をしている人など,スーパーフリーランサーが続々と登場し,新しいコミューン的な働き方が増加する。いずれ優秀な人材を雇うためには,この不可避な流れを踏まえた働き方を編み出す必要に迫られることだろう。

『〈インターネット〉の次に来るもの:未来を決める12の法則』ケヴィン・ケリー著;服部桂訳 NHK出版,2016年,2,000円(税別) https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000817042016.html

新時代のリーダー像とは

大局がわかったあとは,具体的な組織論として,2冊目に『CEOからDEOへ』を紹介したい。本書は,Facebookのプロダクトデザインディレクターを務めるジュディース氏と,スタートアップ企業をデザイン面から支援するアイアランド氏の共著である。

この1冊で,テクノロジーが誘発する劇的な変化を深く理解することができるが,これからの企業の存続や繁栄のためには,この時代の変化に対応するリーダーシップスタイルや企業文化を構築しなくてはならない。第4次産業革命を迎える大変革の時代に対応するリーダーは,中央集権的なCEO(チーフエグゼクティブオフィサー)から,階層よりも,社内外の個人の自律性を生かすDEO(デザインエグゼクティブオフィサー)へと変革しなければならないことと,そのための具体的なステップについてわかりやすくまとめている。

なぜ組織のリーダーシップスタイルに変革が求められているのか。どうして今の中央集権的な組織体制では優秀な人材を社内に維持することが難しいのか,そんな疑問を感じながら読み進んだところ,外資系大手企業数社でのマネジメントや起業,ベンチャー経営といった私自身の今までの経験と照らしても納得のいく点が数多くあった。その中から3つの具体例を提示したい。

1つ目は,勝ちパターンがみえづらい時代には,旧来的な指標や過去の成功体験に基づいたアクションを評価するリーダーよりも,リスクをとって新しい試みに挑戦し,失敗から学び成功の確率を上げていくことを評価するリーダーが求められているということだ。スピード感をもって,創造性を生かした仕事をする人材をきちんと認め,時代の変化に柔軟に対応する組織力を育むことは危急の課題なのである。本書の掲載データで,スタンダード&プアーズ総合500種株価指数の銘柄となっている500社の会社の平均寿命が1937年に73年だったところが2010年には15年になったというのが,いかに時代の変化が企業の平均寿命を縮めているのかを物語っている。時代の変化に柔軟に対応すべきというのは多くのリーダーが認めるところであろうが,組織が大きくなると指揮系統の階層が複雑化し,一足飛びに変革することは難しくなるだろう。本書各章の終わりにあるエクササイズは,DEOになるためのステップを仕事とは限らない身近なところから始められるので,組織内の若手リーダーなどから挑戦してみてはいかがだろうか。

2つ目は,工業化時代のモノが生活を豊かにする源だった時代から,体験を通じて得られる精神的な豊かさがモノやサービスの購買判断基準になった今,リニアな生産プロセスではなく,顧客を含め組織を取り巻くエコシステム全体の相互作用に目を向け,システム思考により未来の戦略を編み出すことが求められているということである。これを実現するためには,組織はできるだけフラットで,リーダーが現場の状況をよく理解し,直観力を研ぎ澄ます必要がある。数値的指標のみで管理する方法では判断を見誤ってしまう。旧来のビジネススクールなどリーダー育成プログラムでは直観力やシステム思考が問われることはなかったが,俯瞰(ふかん)的に物事をとらえる力に論理性と直観力が必要なのは,私自身,ベンチャー経営をして痛感したポイントでもある。

3つ目は,米国ではミレニアル世代(2000年に20歳を迎えた世代以降),日本ではゆとり世代のやる気を引き出す方法は,それ以前の世代とまったく異なっているということである。ミレニアル世代は給与という代償の元,会社への盲目的な忠誠を誓わされることを好まない。逆に,組織のミッションや文化が合い,自己の成長が感じられる環境では,自律的にとても高い能力を発揮する。DEOは,旧来的な人材管理手法を使わず,社員の満足度や目標を起点としたメンタリングを取り入れることで,本人の自律性ややる気を引き出すのである。私もかつては会社で定義されたポジションごとのパフォーマンスマトリクスにとらわれすぎた人事管理を行った時期もあったが,近年の若手のトレーニングでは,その人自身の社内外で目指す姿を知り,どのように個々人のパフォーマンスを最大にするかという,よりコーチングに近い手法をとることでチーム全体としてよい結果を出せたという経験がある。管理ではなく,自ら動く力をどのように育むかがDEOに問われる力だと痛感するところである。

『CEOからDEOへ:「デザインするリーダー」になる方法』マリア・ジュディース,クリストファー・アイアランド著;坂東智子訳 ビー・エヌ・エヌ新社,2014年,2,600円(税別) http://www.bnn.co.jp/books/6956/

イノベーターを生む要因とは

最後に3冊目として,この激動の時代を生き抜くイノベーターの育ちを研究した『未来のイノベーターはどう育つのか』を紹介したい。本書は,現在Harvard Innovation Lab のレジデントエキスパートであり,教育者および研究者として教育改革に長年取り組んできたトニー・ワグナー氏の著作である。150名以上のイノベーターと親,メンター,そして企業経営者にインタビューをして書き上げられた。

デューク大学のキャシー・デイビッドソン教授の推計によると,65%の仕事は今日の小学生が大人になるころには現在存在していない仕事になると試算されている。第4次産業革命の今,大人にも未来の予測は困難であり,これからの子どもたちには記憶力や指示に忠実な力よりも,いかに変化の多い環境下で創造性を発揮できるかが求められている。

ワグナー氏は,どのように未来を切り開くイノベーターを育てることができるのか,という問いへの答えとして,遊びの大切さを挙げている。現代社会では,学校,お稽古,受験勉強など子どもたちは忙しい。今後英語の早期教育や,プログラミング教育が追加された場合,子どもたちの時間はさらに奪われてしまう可能性が高い。しかし本書は,イノベーターを育てるためには,自由な遊びと発見の時間をたっぷり与えることが重要であるといっている。早く答えを教えるのではなく,子どもが退屈し,考え,自ら行動を起こすことの積み重ねがイノベーター能力の育成につながるのである。

またイノベーターに共通する点として,目的と情熱によって世の中を変えたいと思っていることが挙げられている。スタートアップを立ち上げた経験から申し上げると,この2点ほど新規事業の成功にとって重要な素養はないと痛感している。イノベーションというのは直線的ではなく,必ずしも効率はよくない。プラン通りに進まないときに乗り越えるためには,飽くなき好奇心からくる目的意識や情熱は必須要素なのである。しかし,こういったCQ(好奇心指数)やPQ(情熱指数)はどのように育まれるのか。本書はその問いに関していくつかの示唆を与えている。一つは子どもが夢中になれる経験を積み,自分自身がハッピーであることで,世界に希望を見いだせる人間となることだそうだ。簡単そうに聞こえるが,2014年度版の「子ども・若者白書」は警鐘を鳴らす。13~15歳で自分自身に満足している子どもは62.5%で,20.7%の生徒は自分に長所があると感じていない。また半数の生徒が,うまくいくかわからないことに積極的に取り組んでいない。また目的意識という点でも,社会の問題に関与したい比率は44.3%と,いずれの設問においても諸外国より低い数値となっている。

子ども時代に好きなことに没頭する経験を多く重ね,自己肯定感を持つことで未来に希望を感じる子どもたちを一人でも多く育てることが,日本のイノベーターを増やす大切なヒントであり,第4次産業革命と上手に付き合える大人を育てていくことにつながるのではないか。本書を読んで,強くそう感じた。

『未来のイノベーターはどう育つのか:子供の可能性を伸ばすもの・つぶすもの』トニー・ワグナー著;藤原朝子訳 英治出版,2014年,1,900円(税別) http://www.eijipress.co.jp/book/book.php?epcode=2179

執筆者略歴

  • 竹村 詠美(たけむら えみ) info@futurecitizens.jp

21世紀教育や起業家教育に取り組むFuture Citizens代表。Peatix.com共同創業者兼アドバイザー。社会起業家向けアクセラレーター,Unreasonable Labs Japanや,21世紀教育を考えるコミュニティ,FutureEdu Tokyo共同創設者。現在,総務省情報通信審議会委員など,複数の委員を務める。Excite Japan,Amazon.co.jp,Disney Japanでのマネジメントや,McKinsey & Companyでの経営コンサルティングを通じ,20年近くインターネット/通信業界に浸っている未来志向ワーキングマザー。翻訳書に『つぶやき進化論:「140字」がGoogleを超える!』(共訳,イースト・プレス),著書に『Facebookマーケティングプロフェッショナルガイド』(共著,マイナビ)など。

 
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