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情報界のトピックス
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2016 年 59 巻 7 号 p. 499-501

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新しい分野別プレプリントサーバー設立の動き

論文原稿(プレプリント)を学術雑誌への掲載前に公開し,早い段階で研究者間での情報交換を促進するプレプリントサーバーを新たに設立する動きが,各分野で続いている。8月15日,心理学のプレプリントサーバー「PsyArXiv」がβ版でのサービスを開始した。9月1日の時点で約50件のプレプリントが投稿されている。このサービスは,米国・バージニア州に本拠を置く非営利組織Center for Open Science(COS)が開発したOpen Science Framework(OSF)上で運用されている。また8月10日には米国化学会が,世界規模の化学プレプリントサーバー「ChemRxiv」を開発する意向を発表している。現在は,プレプリントサーバー立ち上げに先だって,サービス構築の取り組みへの参加に関心のある関係団体を募集している。

プレプリントサーバーは,1991年に設立された物理学・数学などを中心とする「arXiv」が有名だ。2013年には生物学分野のプレプリントサーバー「bioRxiv」が設立されるなど,他の分野にも広がりを見せている。2016年7月27日には工学系のプレプリントサーバー「engrXiv」もOSF上でサービスを開始している。「engrXiv」では,「研究成果だけでなく,そこにつながったツールやデータ,手法を共有することによって,工学研究における協力を促進し,再現性を高める」としている。

Google,見出しを自動生成するアルゴリズムを公開

米Googleは8月24日,ニュース記事の見出し文を自動生成するアルゴリズムを開発し,そのモデルコードを公開したと発表した。このモデルは,機械学習のソフトウェアライブラリー「TensorFlow」をベースとするもので,ニュース要約作成の研究でよく使われる「Annotated English Gigaword」というデータセットを用いて訓練が行われた。機械による要約作成には,元の文にある単語を切り出して使用する「抜粋的(Extractive)アプローチ」と,元の文にない単語を使って言い換える「要約的(Abstractive)アプローチ」がある。要約的なアプローチでは,たとえば,「australian wine exports hit a record 52.1 million liters worth 260 million dollars in september, the government statistics office reported on monday」(オーストラリアワインの輸出が9月に5,210万リットル(2億6,000万豪ドル相当)という記録を達成したと,政府統計局が月曜日に発表した)という記事に対して,「australian wine exports hit record high in september」(オーストラリアワインの輸出量が9月に過去最高を記録)という,原文にない表現を使った見出し文を作成している。

Amazon,途上国などに電子書籍端末を寄贈するプログラム開始

米Amazonは8月24日,本を入手しにくい世界中のコミュニティーに電子書籍端末を寄贈するプログラム「Kindle Reading Fund」を発表した。当初の活動はケニアでの電子書籍普及活動などで,すでにAmazonとの協力実績がある団体「Worldreader」と提携し,発展途上国での読書促進プログラムにKindle電子書籍端末などを寄贈する。また,世界各国・地域の学校や図書館にも電子書籍端末などを寄贈する。さらに,米国国内の病院や非営利団体への電子書籍端末の寄贈や,全米PTA(National PTA)との協力による読書プログラムなども予定している。Kindle Reading Fundのページでは,電子書籍端末の寄贈を受けたい団体などからの申し込みをメールで受け付けている。

Google Patents,日本を含む11か国の特許が検索可能に

米Googleは8月30日,Google特許検索サービス「Google Patents」の検索対象に,日本を含む11か国の特許を追加したと発表した。日本の他に追加されたのは,韓国,英国,スペイン,フランス,ベルギー,ロシア,オランダ,フィンランド,デンマーク,ルクセンブルク。4,100万件の特許が新たに検索対象になった。日本の特許は日本語で検索が可能。Google Patentsは,米国特許商標庁(USPTO)のみを対象として2006年にスタートし,その後2012年には欧州特許庁(EPO),2013年には世界知的所有権機関(WIPO)に対応している。今回の追加により,合計17か国の8,700万件以上が対象になっている。

「アジアで最もイノベーティブな大学ランキング」発表

ロイターは8月31日,「アジアで最もイノベーティブな大学ランキング」(Reuters Top 75: Asia's Most Innovative Universities)を発表した。これはトムソン・ロイターが保有する学術論文・特許情報に基づいて,科学の進歩,新技術の発明,グローバル経済の推進に最も貢献した教育機関を明らかにするもの。具体的な分析方法としては,特許情報では「特許数」「成功率」「グローバル性」「引用数」「1特許当たりの平均引用数」「引用率」,学術論文情報では「論文数」「特許からの引用平均数」「企業の発表論文からの平均被引用回数」「企業との共著論文数の割合」の10項目を評価軸としている。アジアで最もイノベーティブな大学に選ばれたのは韓国のKAIST(韓国科学技術院)で,東京大学,ソウル大学校と続いている。韓国と日本は同数の20校が75位までにランクインしている。中国で最もランキングが高かったのは精華大学の13位だった。

内閣府,人工知能に関する懇談会を開催

2016年1月に閣議決定された第5期科学技術基本計画では,4本柱の一つとして「Society 5.0」(世界に先駆けた「超スマート社会」の実現)を掲げている。人工知能(AI)は,この「超スマート社会」のサービスプラットフォームに必要となる基盤技術として,サーバーセキュリティー,IoTシステム構築,ビッグデータ解析などと並んで取り上げられている。内閣府では,この「Society 5.0」実現の鍵であるAIの研究開発および利活用を健全に進展させることをめざして,2016年5月から専門家による「人工知能と人間社会に関する懇談会」を開催している。7月末までにすでに3回開催された同懇談会では,検討項目として,1)倫理的論点(人間の尊厳を尊重したAIについて),2)法的論点(AIによる豊かな人間社会形成のための法的課題について),3)経済的論点(人工知能の経済的恩恵について),4)社会的論点(AIが受容される社会について),5)研究開発的論点などが挙げられている。今後は2016年度内のとりまとめを予定している。

クラウドファンディングを活用した翻訳出版システム立ち上げ

株式会社AZホールディングスは7月26日,クラウドファンディングシステムを活用して世界の本を翻訳出版するWebサービス「サウザンブックス」を開始した。従来の出版システムではニーズがありながら翻訳出版が難しかった海外の書籍を,サービス側が独自に選定,あるいは一般からの推薦により選んで翻訳出版するプロジェクトを立ち上げる。金原瑞人氏,三辺律子氏など著名な翻訳者が書籍の推薦者として参加している。一般の読者は,クラウドファンディングサービスを通して,すでに立ち上げられている翻訳出版プロジェクトに参加できるほか,読んでみたい未訳の本を推薦することもできる。読者は,プロジェクト成立時(クラウドファンディングの募集期間中に参加人数が集まったとき)のみ代金を支払い,完成後に本が届けられる。翻訳や制作は,実績ある編集者や翻訳者などのチームによって行うとしている。開始の時点では3つのプロジェクトで読者を募集している。なお,運営会社AZホールディングスは,コンセント,PIVOT,ビー・エヌ・エヌ新社,フィルムアート社,草冠の5つの株式会社を含むAZグループの持ち株会社である。

こうしたクラウドファンディングによる出版は,日本ではまだ新しい方法だが,米国では以前から行われている。米国の大手クラウドファンディングサイト「Kickstarter」は8月17日,出版関連プロジェクトのファンディング総額が累計1億ドル(約100億円)に達したと発表した。2009年4月から2016年8月までの期間で3万3,009件のプロジェクトが立ち上げられ,うち9,660件が目標額に達している。ジャンル別の内訳では,フィクションが8,009件と最も多く,ついでノンフィクション(7,170件),子ども向けの本(5,349件)と続いた。

月額980円で読み放題 日本版「Kindle Unlimited」提供スタート

Amazonは8月3日,電子書籍の定額読み放題サービス「Kindle Unlimited」を日本国内でスタートした。米国で2014年にスタートしていた同サービスは,日本では月額980円で書籍,コミック,雑誌を含む和書12万冊,洋書120万冊以上が読み放題になる。初回30日間の無料試用が可能。8月9日には,楽天が定額制(月額380円)の電子雑誌読み放題サービス「楽天マガジン」の提供を開始しており,Amazonを追う他社の今後の動きが注目されている。一方「Kindle Unlimited」では,サービス開始時に読み放題の対象となっていた人気タイトルが,その後対象から外れたとする報道もある(朝日新聞8月31日付記事)。報道では,想定以上の利用が続き,出版社に支払う利用料負担が大きくなったため,Amazonが人気タイトルをラインアップから除外していると指摘している。

 
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