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「デジタルキッズ」の誕生のために:学びの変化を目指すCANVASの取り組み
石戸 奈々子
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2016 年 59 巻 9 号 p. 616-623

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著者抄録

2002年に設立したNPO法人CANVASは,デジタル時代の子どもたちに,ワークショップなどの創る場,表現する場を提供し続け,これまでに約35万人の子どもたちが活動に参加している。「主体的で協働的で創造的な学びの場」を普及させるため,国内外の科学館や教育工学系の研究者,アーティストや自治体,企業らが集うプラットフォームとして活動を続けている。また,活動の一環としてCANVAS設立時から,プログラミング学習にも取り組んできた。現在,1,000年に一度の変革ともいえるデジタル革命を迎え,現代の子どもたちは,「今までにない仕事」を自らつくり出してゆく能力が求められている。CANVASは,プログラミング学習を通じ,論理的に考え,問題を解決する力,他者と協同し新しい価値を創造する力を養ってほしいと願っている。

1. はじめに

「2011年度に米国の小学校に入学した子どもたちの65%は,大学卒業時に今は存在していない職業に就くだろう」。

米デューク大学の研究者であるキャシー・デビッドソン氏の言葉である。知識を覚えたり,事務的な処理をしたりする仕事は,コンピューターにとって代わられてしまうというのである。

現代は,1,000年に一度の変革ともいえるデジタル革命を迎えている。社会は大きく変わろうとしている。学校で学んだ知識だけでは対応できず,誰も答えを教えてくれない,誰も答えを知らない世の中を子どもたちは生きている。 

これからの時代を生きていく子どもたちは,「人間にしかできない仕事」に就く必要がある。それだけではない。「今までにない仕事」を自らつくり出してゆく能力が求められている。

2. 求められる「学びの変化」

これまでは,より多くの知識を得ることに評価の重点が置かれ,学校は体系化された知識を伝える「伝達装置」として存在してきた。

米国の評論家・作家であり未来学者としても知られるアルビン・トフラー氏は,現在のような集合型の授業形式を「産業革命の産物」と称している。この授業形態は,工業型社会において優秀な労働者を多量に輩出することに適していた。教師のもっている知識が,一方向に多数の生徒へ伝達されるシステムは,均一化された知識を身につけた人材(労働者)を大量生産する,キャッチアップ型の工業型社会には効果的だった。

しかし,1990年代以降,変化が訪れた。経済がグローバル化し,国境を越えて人材が移動するようになり,さらにインターネットの出現によって,大量の情報が国境を越えて行き交う社会になった。情報があふれる社会では,たとえ多くの知識を得たとしても,それはすぐに陳腐化してしまう。異なる文化,異なる価値観からつくられる世界規模の共同体の中では,「あふれる情報の中から必要な情報を選択し,再構成して新しい価値を生み出す力」が求められるのだ。

今まで以上に「人間にしかできない能力」が求められる子どもたちへの学びの場は,大きく変化していかざるをえない。学びの変化なくして,新しい時代に対応することはできない。

3. CANVASの活動

2002年に設立したNPO法人CANVASは,デジタル時代の子どもたちに,創る場,表現する場(ワークショップ)を産官学連携で提供し続け,これまでに約35万人の子どもたちが活動に参加した。

「主体的で協働的で創造的な学びの場」を普及させるため,国内外の科学館や教育工学系の研究者,アーティストや自治体,企業などが集うプラットフォームとして活動を続けている。

具体的には,新しい技術に立脚した創作・表現活動について,国内・海外の実態を調査・分析するとともに,アニメづくり,音楽づくり,ロボットづくりなど,「アートとテクノロジーの融合」「アナログとデジタルの結合」「バーチャルとリアルの交差」を意識したワークショップを開発したり,全国各地で行われる子どもたちのクリエイティブ活動を支援したりするなど,国内外の団体・人と新しいネットワークを形成し,活動を行っている。

さまざまな活動を展開しているCANVASだが,本稿では「プログラミング学習」「ワークショップコレクション」を紹介し,その背景や趣旨をお伝えできればと思う。

4. プログラミング学習の背景

4.1 なぜ「プログラミング」なのか

CANVASは設立時から,ワークショップの一つにプログラミングを取り入れてきたが,なぜ子どもたちにプログラミングをする場を提供しているのかという質問をよく受ける。目的は子どもたちがコードを書けるようになることではない。重要なのは,プログラミング「を」学ぶことではなく,プログラミング「で」学ぶことだ。

情報化社会を生きる子どもたちに必要な力は,コンピューターには決して代替できない,創造力とコミュニケーション力である。それらを身につけるに当たり,プログラミングは非常に有効だ。このプロジェクトを通じ,論理的に考え,問題を解決する力,他者と協同し新しい価値を創造する力を養ってほしいと願っている。

設立当時からプログラミング教育の重要性を訴えてきたものの,以前はプログラミングは人気のないワークショップであった。が,ここにきて,プログラミング教育ブームの到来を感じる。テレビ,新聞,雑誌,さまざまなメディアにおいてプログラミングの記事を頻繁に目にするようになった。

4.2 国内外の動き

その理由はいくつかある。

まず,2013年6月に閣議決定された成長戦略では「義務教育段階からのプログラミング教育等のIT教育を推進する」と記載されている1)。同時に閣議決定された「世界最先端IT国家創造宣言」にも「初等・中等教育段階からプログラミング等のIT教育を,高等教育段階では産業界と教育現場との連携の強化を推進し,継続性を持ってIT人材を育成していく環境の整備と提供に取り組む」と記載された2)

また,新学習指導要領に基づき, 2012年から中学校の技術家庭科で「プログラムによる計測・制御」が必修になったこともプログラミング教育ブームの理由の1つといえるだろう3)

英国,ロシア,ハンガリーなどでは,すでに初等教育段階でプログラミングを必修にしている。米国もオバマ大統領がその重要性を訴え,向こう3年間でプログラミング教育に40億ドル(約4,400億円)を拠出することを発表した4)。プログラミングの公教育での必修化は世界的な流れになっている。

公教育以外でも,アイルランドではCoderDojoという子どもにプログラミングを教えるムーブメントが立ち上がり,世界63か国・1,000か所に普及している。米国ではCode.orgという団体がプログラミングの必修化を訴えるキャンペーンを展開している。

そして,2016年6月,文部科学省は,2020年から小学校においてプログラミング教育を導入する方針を示した。

4.3 基礎能力としてのコンピューター理解

CANVASが活動をスタートした当時はまだPC・ケータイ(携帯電話)とネットが普及するという「デジタル化」の段階であり,プログラミング教育を行うには,その後の「スマート化」=スマホ(スマートフォン)とソーシャルメディアの普及を待つ必要があった。いよいよスマートの次の「IoT」が現実になり,身の回りのものすべてがコンピューターにつながることが認知されて,プログラミング教育の必然性が認められたということだろう。

IoTやAIは,すべてのモノが命をもつという,人類が初めて直面する事態であり,産業にとどまらず,それ以上に,社会,暮らし,文化に変革をもたらしうるものだ。だからこそすべての人にとって重要な教育問題となる。コンピューターが他の領域と違うのは,コンピューターが,パソコンを超えて,あらゆるモノ,分野,環境に溶け込み,定着し,それらを制御するものとなっていることだ。仕事にも勉強にも買い物にも,コンピューターやネットが入ってくる。

生活・文化・社会・経済のあらゆる場面で,私たちの生活をコンピューターが支えており,そしてそれらのしくみはすべてプログラミングによって生まれている。

その基礎メカニズムを習得することは,車など他の道具とは重要性が格段に異なる。国語・算数と同様,どのような人にも必要な基礎能力なのだ。コンピューターに関する原理的な理解があるかないかによって,社会のありとあらゆる場面における対処能力が,大きく変わってくるはずだ。

5. CANVASのプログラミング学習

5.1 子ども向けプログラミング言語「スクラッチ」

CANVASにおいて子どもたちがプログラミングで使用しているのは,「スクラッチ」という子ども向けプログラミング言語である。スクラッチというのはMIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボが開発した子ども向けプログラミング言語で,キーボードからの文字入力を行うことなく,マウス操作でブロックをつなぐことで積み木のようにプログラムを作成することができる(1)。

子どもたちにも自由に扱えるようになったプログラミングだが,その先にある可能性は無限大だ。絵を描く,音楽をつくる,アニメーションをつくる,ゲームをつくる,動くグリーティングカードをつくり友達に送る,デジタルアートをつくる,シミュレーション作品をつくる。子どもたちが生み出した作品は実に多彩である。センサーやモーターなど外部の機械にプログラミングで指令を出すことにより,動くロボット,動くおもちゃをつくることもできる。

図1 プログラミングワークショップ

5.2 プロジェクトPEG:Googleの後援を受けて

さらに,CANVASはGoogleの後援により,2014年からプログラミングで学ぶ機会を本格的に全国の子どもたちに届けるプロジェクト「PEG(Programming education gathering)」を進めている。プログラミング教育の全国普及を目指したプラットフォームをつくっている。

このプロジェクトは,6~15歳の子どもを対象とし,手のひらサイズのコンピューター「ラズベリーパイ」5,000台を提供する。プログラミング環境としてスクラッチを使い,1年間で2万5,000人の子どもたちの参加,1,000人の先生方への研修を達成してきた。

プログラミング教育を全国に届けるに当たっては,カリキュラムおよび実践不足,指導者不足,環境未整備,地域の支援体制不足,ノウハウの共有不足という5つの課題がある。そこで,全国の約130の自治体・教育委員会・学校・教育関連団体とパートナーシップを構築し,その課題に応えるべく実践を行ってきた。

PEGが最も大事にしてきたのは「gathering」という地域ごとのコミュニティーだ。学校も,ミュージアムも,NPOも,家庭も,地域も,企業も,自治体も,みんなで集まり,力を合わせ,プログラミング学習の輪を広げていく運動をつくっていきたいと考えている。

愛知gathering, 横須賀gathering, 北九州gathering, 郡山gathering, 宮城gathering, 沖縄gatheringなど, 各地域でプログラミング学習に関心の高い方々が集まるgatheringがスタートしている。

5.3 「プログラミング的思考」を育む

このような動きの中,2016年,文部科学省は「小学校段階における論理的思考力や創造性,問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議」を立ち上げ,プログラミング教育の必修化に関する議論を開始した。筆者も本会議に委員として参加した。

議論の取りまとめとして発表された「小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について」という報告書5)には,いわゆる「第4次産業革命」を,産業にとどまらない社会・暮らし・文化に変革をもたらしうるものであるととらえ,そのうえで「将来どのような職業に就くとしても,時代を超えて普遍的に求められる力としての『プログラミング的思考』などを育むことであり,コーディングを覚えることが目的ではない」という方針が示された。

国語の時間があるからといってみんなが作家になるわけではない。音楽の授業があるからといってみんなが作曲家になるわけではない。同じように,プログラミングを導入したからといって,その目的はプログラマー育成にはならない。

情報技術が全領域のインフラになっている今,どのような仕事を選択するにしても生かすことができる基礎教養としてのプログラミングということに,しっかりと留意することが重要である。だからこそ,本報告書では,プログラミングに特化した新教科をつくるのではなく,既存の教科の中で取り組む方針を示している。まさに「プログラミング『で』学ぶ」モデルだ。

参考となるCANVASでの事例を挙げよう。東京都品川区立京陽小学校では,PEGの活動の一環で,全校児童約350人に「ラズベリーパイ」を配布し,国語・算数・理科等の教科授業でプログラミングを導入している(2)。

2014年7月,3年1組5時間目の理科の授業。この日の単元は「風やゴムのはたらき」の6回目。担任の先生は, 子どもたちに問いかけた。「輪ゴムを引っ張る長さや輪ゴムの本数を変えるとゴムの力はどうなるだろうか」。

子どもたちに求められたのは,まずは「予想」をするということ。前回の授業で, 輪ゴムを10センチ引っ張り,つくった車を動かす実験を行っている。その際に動いた630センチを基準とし,10センチより長く引っ張るとどうなるか,短く引っ張るとどうなるかを予想する。そして,スクラッチを使ったプログラミングによりそれを表現する。

授業の最後に,電子黒板に自分の予測を表現したスクラッチ画面を表示しながら,子どもたちは順番に自分の意見を発表した。「引っ張る長さを15センチにすると,650センチ進むと思います。理由は,ゴムを引く長さが長くなれば,進む距離は長くなるからです」。

先生がプログラムの組み方の復習を見せ始めると,「動きのカテゴリーにある『○歩動かす』を選んで,ブロックを合体させる!」「次は黄色いブロック!」など,先生に指示を出す子どもたち。先生が操作ミスをすると,うれしそうにすかさず「先生違います!」と声をあげる子どもたち。積極的に発言し,積極的に手を挙げ,前のめりで予想に取り組み,授業は終始活発に行われた。次回は,実際に輪ゴムを使って予想の検証をするという。

「ラズベリーパイのおかげで,お父さんががんばってくれたり,お母さんが説明を聞きに来てくれたりして,学校の結束が強まりました」と守田由紀子校長(当時)。公開授業にも,保護者や地域の方,近隣の小学校の先生の見学があり,学校,家庭,そして地域がプログラミング学習の導入をきっかけにつながっていく姿が見られた。

図2 京陽小学校の授業の様子

6. ワークショップ:プログラムとワークショップコレクション

ワークショッププログラムは,ワークショップコレクション,映像,音楽,サイエンス,食,身体表現,伝統芸能,電子工作,造形・絵画,言葉など幅広く,デジタルとアナログ,またそれらを融合したもの,地域に根ざしたもの,海外と交流するものなど,子どもたちにできるだけ多くの選択肢を提供できるように心がけている。

また,どのワークショップも,「かんじる→かんがえる→つくる→つたえる」のサイクルを大切にしている。「心で感じ,頭で考え,手で表現する(手で表現し,人に伝える)」。全身をフル稼働させて,創造力・表現力・コミュニケーション力を鍛える学びを提供しているのだ。

そして年に一度,全国にある子ども向けワークショップを一堂に集めた博覧会イベント「ワークショップコレクション」を開催している。産官学のさまざまなプレーヤーを巻き込み,全国から100を超えるワークショップが集まり,世界最大級の創作イベントとなっている(34)。

図3 ワークショップコレクションの様子1
図4 ワークショップコレクションの様子2

(1) デジタル技術を活用したワークショップ

NTTの研究所から生まれた,絵を描き,その絵を並べるだけでプログラミングが作れる画期的なツール「ビスケット」を使って,動く大きな絵を作る。お菓子の国,土の中,空。お父さん,お母さん,子どもたちが,自分だけの世界を表現し,大きなスクリーンに投影する。

NHKクリエイティブライブラリーも参加した。人気キャラクター「どーもくん」のミニアニメを作る。かわいい動物や美しい景色,宇宙や恐竜もある。プロのカメラマンが撮影した素材やCGを自由に組み合わせ制作した背景に,どーもくんを登場させる。気分はまるで番組プロデューサーである。

NECによる「アニメーションをつくっちゃおう!」では,毛糸や色紙など身近な素材を少しずつ動かしパチッと撮影する。コマ撮りアニメの完成だ。

他にもさまざまなデジタル技術を活用したワークショップがある。日本,オーストラリア,モンゴル……。世界中の子どもたちが,協同でバーチャル空間を作り,会話をし,一つにつながる。ARのオリジナルロボットを創作して,自分の体で操縦する。iPad2でオリジナル楽器を作る。パソコンでキャラクターを作ってゲームを作る。自分だけのWebブラウザを作る。デジタルで触覚を伝える。

(2) アナログ分野のワークショップ

もちろんデジタルだけではない。造形,絵画,サイエンス,電子工作,音楽,身体表現,映像,環境・自然と分野も幅広い。

ハギレで布製オリジナルマイバッグを作る。新聞紙で空想のタコを作る。マツボックリなど自然の素材をつかった造形。伝統工芸つまみ細工づくり。30年後の缶詰づくり。せんたくばさみで空間演出。オリジナルふりかけづくり。一眼レフカメラ用レンズづくり。音楽にあわせてペンキで大きな絵を描く。お芝居を通じて自分を表現する。蜜ろうでキャンドルをつくる。よしもと芸人と子どもたちがユニットを組み,一緒にネタを作り披露する。

一貫したテーマは,「つくる」である。ここで扱うワークショップはみな能動的に作り,見せ,コミュニケーションを取るタイプの活動である。創作・コミュニケーションの祭典といえる。

デジタル時代の新しい学びをファッションショーのようにポップに伝えられないか。それがワークショップコレクションの始まりだ。2004年1月の第1回開催時,来場者は500人。2013年3月の第9回には,来場者が2日で10万人に達した。新しい学びの場を求める保護者が増え,活動に対する需要が年々急激に高まっていることを実感する。

毎年,デジタルとアナログのバランスを考え,幅広い分野のワークショップが集まる。しかし,回を重ねるごとに全体に占めるデジタル系企画の割合が増えてきている。子どもたちのICTの利活用が進んでいる証しだろう。

そもそもワークショップコレクション自体がみんなで作り上げているプロジェクトだ。

学校の先生,大学関係者,ミュージアム関係者,アーティスト,各種研究者・技術者,ネット・テレビ・新聞・教育・ゲーム・通信などの企業,行政関係者,学生,おとうさん,おかあさん,おじいちゃん,おばあちゃん。そして主役の子どもたち。

来場者も,出展者・主催者の約2,000名のスタッフも,みんなで一つの空間を作り上げる。ワークショップコレクションは子どもたちの創造・表現活動の場であると同時に,ワークショップにかかわるすべての人たちが出会う場でもあるのだ。

2016年度はそのような状況を踏まえ,デジタルものづくりコーナーである「Making&Codingブース」を設置した。3Dプリンター,ドローン,ロボット,電子工作,プログラミング。最先端の遊びと学びに子どもたちは夢中だった。今後もSTEAM注1)分野の普及にさらに力をいれていく予定である。

7. 「デジタルキッズ」の誕生を願って

教育を強化する最重要アプローチは「情報化」である。

プログラミング学習やデジタルものづくりの広がりの背景には,タブレットやスマートフォンの普及により,保護者や子どもたちにとってコンピューターを使う感覚が日常的なものになり,その重要性が認識されるようになってきたことが挙げられる。

政府は,2020年に1人1台情報端末を持って学ぶ環境を整備することを目標に掲げ,総務省と文部科学省の連携により小中学校で実証研究を進めている。大阪市,東京都荒川区,佐賀県武雄市などいくつかの自治体ではすでに導入が始まり,またそれに呼応するように,民間の通信教育事業,塾などが続々とデジタル対応をし始めている。

2010年7月,次の世代の教育を考える出版,通信,メーカーその他さまざまな業界からなる「デジタル教科書教材協議会」(DiTT)注2)が設立された。筆者はDiTTの理事・事務局長も務めているが,12年間CANVASを通じて活動してきたことが学校教育の中でも行われるようになるのだととらえている。24時間つながる。世界とも結び付き,地域にも開かれる。一方的に知識を伝えるのではなく,学び合い,教え合う。映像でわかりやすく表示し,好奇心を刺激する。デジタルな力がようやく学校でも発揮されるようになるのだ。

今こそ「詰め込み・暗記型」の教育から,「思考や創造,表現を重視」する教育への変化をしなければならない。情報化はそれを可能とする。

これからの多元的で新しい社会を築いていくのは,子どもたちの世代だ。未来を想像し,創造するのは,生まれながらネットを駆使し,生まれながらデジタル社会に暮らすデジタルキッズたち。世界中の子どもたちがつながって,新しい表現や,豊かなコミュニケーションを生み出し,新しい世の中を築いていってほしい。

CANVASではこれまで,21世紀にふさわしい創造的な学びの場をつくるという活動に邁進してきた。その活動を通じて願っているのは,たくさんの「デジタルキッズ」が誕生することだ。

「デジタルキッズ」は単にテクノロジーを上手に使い倒す子どものことを指しているのではない。新しいテクノロジー「も」駆使し,世界中の多様な価値観・考え方の人たちと協働するコミュニケーション力と,新しい価値を想像する心と創造する力を兼ね備えた子どもたちのことだ。

そのために大人ができること,それは場を作ることだ。政府,地方自治体,企業関係者,博物館・科学館関係者,学校・教育関係者,大学等の研究者,アーティスト,すべての方々との連携により,子どもたちがフルスイングできる環境を創り出していきたい。

執筆者略歴

  • 石戸 奈々子(いしど ななこ) information@canvas.ws

NPO法人CANVAS理事長/株式会社デジタルえほん代表取締役/慶應義塾大学准教授。東京大学工学部卒業後,マサチューセッツ工科大学メディアラボ客員研究員を経て,子ども向け創造・表現活動を推進するNPO「CANVAS」を設立。これまでに開催したワークショップは3,000回,約35万人の子どもたちが参加。総務省情報通信審議会委員,デジタル教科書教材協議会理事などを兼務。

本文の注
注1)  STEAMとは,科学(Science),技術(Technology),工学(Engineering),アート(Art),数学(Mathematics)を融合した教育をいう。

注2)  デジタル教科書教材協議会:http://ditt.jp/

参考資料

  1. a)   石戸奈々子. 子どもの創造力スイッチ!:遊びと学びのひみつ基地 CANVASの実践. フィルムアート社, 2014, 271p.
  2. b)   石戸奈々子. デジタル教育宣言:スマホで遊ぶ子ども,学ぶ子どもの未来. KADOKAWA, 2014, 205p.

参考文献
 
© 2016 Japan Science and Technology Agency
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