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視点 人工知能スキーマ:人々は人工知能をどうとらえているか
西田 豊明
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60 巻 (2017) 1 号 p. 50-55

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人工知能についての合意された定義はない,とよくいわれる。実際,「人工知能研究者」「人工知能技術者」「人工知能学会」「人工知能学科」「人工知能研究所」をはじめとして,「人工知能」という科目や本や映画など,人工知能と銘打たれたものはあまたあるが,その背後にある「人工知能」のとらえ方は一致しているわけではない。本稿では,人工知能のとらえ方を「人工知能スキーマ」と呼び,それが専門家と非専門家でどのように異なるかを論考し,今後の議論の進め方について考察したい。

スキーマによる分析

人々は,実体験やメディア体験を通して概念を作り上げていく。本稿では参考文献1に従い,それをスキーマと呼ぶこととする。

AさんとBさんが,お店の前にいるあるロボットXを見かけたとしよう。AさんもBさんも先験的な知識をもっていてXがロボットだとわかったとすれば,AさんとBさんの頭の中には,すでにロボットという概念――「ロボットスキーマ」――がある程度存在して,それに基づいて,Xをロボットと認識したと考えられる。さらにこの新たな経験を通して,たとえば,「買い物ができるロボットがもうできているんだ」といった新たな気づきが得られ,AさんとBさんのロボットスキーマは更新される。

もちろん,AさんとBさんの頭の中にあるスキーマが同じであるとは限らないし,経験を通しての発展の仕方も異なるだろう。1のような状況では,Aさんは,Xがお店での注文や支払いなどのやり取りをちゃんとやりこなすことができるだけでなく,列並びもきちんとできていて買い物ロボットの能力の高さに感心するかもしれないが,ロボットに詳しいBさんは,動きのぎこちなさ,発話の単調さ,状況認識能力の低さなど,現状のロボット技術の限界を再認識するかもしれない。

スキーマの形成や更新は必ずしも実体験を通して行われるわけではなく,テレビ,映画,新聞,本といったメディアを通しても行われる。非専門家の場合は,そうしたメディアの消費と若干の日常会話などを通して,スキーマが形成されていく。メディア体験を中心とした客体としてのかかわりから形成されるスキーマは,漠然とした「イメージ」のようなものであり,ばらつきも多い。

専門家の場合は,主体的なかかわりに基づいてロボットスキーマが形成されている。たとえば,ロボットの専門家の場合,ロボット実現技術や発展の歴史の学習,少なからぬ回数のロボット作りと評価の体験,ロボットにかかわる研究発表などを通してロボットスキーマが形成されていく。目の前に置かれたものがきちんとしたロボットといえるかどうか判定しなければならないときは,専門家としての緻密で体系的なロボットスキーマを用いて,振る舞いを調べるだけでなく,必要とあれば解体して内部を詳細に吟味するであろう。研究開発の動向も非専門家よりは高い関心をもって追いかけているし,ロボットはこれからどうなるべきかという見通しや信念ももっている。その一方で,ロボットの技術面に関心を集中するあまり,周りの人たちがロボットにどのようなイメージを抱き,暮らしの中でどのように位置づけるかといった社会生活面への関心は希薄になるかもしれない。

図1 ロボットスキーマの形成

非専門家の人工知能スキーマ

人工知能を描いた映画は,人工知能を具現化してストーリーの中に組み込んで提示するので,非専門家の人工知能スキーマ形成に大きな影響を与えていると考えられる。人工知能映画に登場する人工知能のスキーマは,おおむね,2の中央と右の図でとらえられるだろう。

外見だけを見ると,映画「アンドリューNDR114」注1)に登場する「NDR114型アンドロイドアンドリュー」や映画「ブレードランナー」に登場する「レプリカント」のように見かけが人間とかなり近いものから,映画「2001年宇宙の旅」注2)に登場する「HAL 9000」や映画「her/世界でひとつの彼女」注3)の「サマンサ」のように,その本質はコンピューター上のプログラムであり,通常の意味での身体はもっていないという存在に至るまで,かなりの幅がある。この中間には,昆虫や動物のような姿をしたものや,人間とはかけ離れた姿をしたものもある。

他方,人工知能の核心がコンピューターのような人工的な手段で実現された「心」であるという認識は,おおむね一致している。「心」の中身はというと,千差万別である。映画に人工知能が脇役で登場するときは,感情をもたず,人間の指令や質問に的確に応答するアシスタントになっていることが多いように思える。映画における役割が大きくなるにつれ,人と同様の感情やパーソナリティーをもち,善悪のはざまをさまよったり,恋心を抱いたり,ふつうの人間よりも「美しい心」が芽生えたりする(先に取り上げた例の他には,映画「ロボット」注4)に登場する「チッティ」)。他方,HAL 9000のように反乱したり,映画「ターミネーター」注5)に登場する「スカイネット」のように自分を破壊しようとする人類の滅亡を図る役どころを与えられていることも多い。

知能や心は人に由来する。われわれがもつ「人間スキーマ」は人の知能や心の広がりは含まれているものの,そこにそれほどばらつきを感じないのは,われわれが日常的に多くの人間に接していて,その広がりを反映した堅固な人間スキーマが形成されているからだろう。これに対して,非専門家は人工知能スキーマが具現化された実体に接することはどちらかといえばまれであり,人工知能にかかわる新しいニュースに接するたびに修正を余儀なくされることも多いので,人工知能スキーマはばらつきが大きく,不安定であるといえる。

図2 人間のスキーマ,非専門家の人工知能のスキーマとそのバリエーション

専門家の人工知能スキーマ

人工知能の専門家は,おおむね3のような「人工知能ロボット」のスキーマをもち,その中に人工知能を位置づけていると考えられる。人工知能ロボットスキーマは2中央と右のスキーマを,技術的に詳細化したものであり,「人工知能エンジン」を搭載したコンピューターがセンサーから得られた情報を処理して,ロボットの身体を駆動するという構成になっている。その核心をになう人工知能エンジンは,センサーがとらえた情報がつくりだした像(人工知能劇場と呼ぶ。人工知能劇場に作り出される像は必ずしも現実をそのまま射影したものとは限らない)を受け取って,思考に相当する情報処理を行い,人工知能劇場の像を書き換えてアクチュエーター(駆動装置)を動作させる。

この人工知能スキーマは,今のまま研究開発を続ければ遠からぬ未来にたどり着くだろうと思っている仮説の全体像のようなものであり,具現化された実体を反映したものではない。通常は,それぞれの専門家は,この一部だけの技術開発にかかわっていると自らの活動を位置づけており,残りについては,仮説のまま残されている。

人工知能ロボットスキーマの概形は人工知能研究の早期からそう変わっていないと考えられるが,実現技術については研究の発展とともに変遷してきている2)

第1次の人工知能ブームが起きた1960年代は,コンピューターの筐体(きょうたい)は巨大で重く,その処理能力も極めて限定されていたので,人工知能エンジンの中の思考コンポーネント(構成要素)だけに焦点を絞り,コンピューターのデータ構造に簡単に対応づけられる対象――たとえば,ボードゲーム――を題材とせざるをえなかった。数値や数式として定量的に表現された解探索のコツを利用することで探索量を巧みに減らす「賢い探索」の研究が成果をあげた。

第2次の人工知能ブームが起きた1980年代は,現実世界の状況を定性的に反映した離散的な記号表現で「人工知能劇場の舞台」を構成し,「このような場合はこうだ」という形式の推論規則で表現された知識を利用して問題を解く人工知能エンジンの実用化が行われた。この方式では,現実世界の状況を解釈して人工知能劇場の離散的な記号表現に変換するところ,および人工知能エンジンの出力した人工知能劇場の離散的な記号表現を読み取って現実世界に働きかけるところは人間の仕事であった。また,離散的な記号表現に依存した手法では機械学習はよいパフォーマンスを出すことができなかった。そのため,人工知能の効用は限定的であった。

2010年前後から始まる第3次の人工知能ブームでは,視聴覚にかかわるパターン情報処理と機械学習の融合,およびセンサーとアクチュエーターを搭載したロボット技術の高度化が進み,3の人工知能のスキーマに含まれるコンポーネントが一通り実装された。コンピューターとインターネットの圧倒的な高性能化と安価なセンサーの普及によって,ビッグデータが出現したおかげである。機械学習でコンピューターに教える手間が激減したばかりか,品質も向上し,人工知能に教示するために必要なスキルのハードルも下がったので,多くの人の知が人工知能に流れ込む速度の大幅な向上をもたらした。特筆すべき点は,深層学習などのニューラルネットワークを用いた学習技術を取り入れて人間のトッププレーヤーの能力を上回るコンポーネントが出現したことである3)

注意しなければならないのは,3の人工知能スキーマの実現を目指した汎用(はんよう)人工知能の研究は進められているものの,これまで実現された人工知能はまだ「穴あきだらけ」であり,統合されて一体的な動きをするまでに至っていないことである。パターン認識,問題解決,機械学習等々のコンポーネントをつないでも,何でもこなせる,あるまとまった「人工知能システム」――仕事を与えたら,ネットから知識を集めたり,自分であれやこれや試みながら自律的に学習して,その仕事をこなせるようになる――といった人工知能システムはまだできていない。

図3 人工知能ロボットのスキーマ

会話システムのスキーマ

質問に応答して情報を提供したり機器を操作したりすることを目的とした対話システム――より狭義には自然言語インターフェース――は,3の「思考」コンポーネントにおける「言語」機能を強調することでとらえられるが,参加者の心の赴くままに自発的に発話する会話参加者のシミュレーションを目指した会話システム4)は様相が異なる。対話と会話の違いは,単に,参加者が2名か,それ以上かだけではない。

対話でははっきりと自他の分離が行われるが,会話の中では参加者が没頭するにつれて自他の分離すらも意識されなくなっていく。対話の分析では,対話が始まる前や終わった後のことは視野に入れないが,会話の分析では,参加者の立ち位置や姿勢も視野に入れるし,いわゆる焦点のない相互作用から焦点のある相互作用の間のトランジション(遷移)5)も視野に入れる。比喩やジョークは,対話においては本題にかかわる直接的な発言でないとして忌避すべきものかもしれないが,会話では気持ちや思いを伝えるための重要な手法である。

知能の高さではなく,人間らしさをシミュレーションで再現することを目指してきた会話システム研究では,4のような心のシミュレーションの実現を目指した取り組みが行われてきた。古典的には,Eliza6),最近では,りんな注6)やシャオアイス注7)が知られているが,3と同様に,まだこのスキーマは近未来の研究の構想も含んだ仮説を表したものであり,このスキーマに完全に合致したシステムが実現されるまでには至っていない。現在実現されている会話システムは,心の働きの一部を表面上模倣できているというレベルであり,現実世界をわれわれと同等に理解しているというレベルには程遠い。

図4 シミュレートされた心としての会話システムのスキーマ

人工知能の今,これから

かつてサールが,知能理解あるいは有用な応用を実現するためのツールとしての弱い人工知能を,知能そのものの実現としての強い人工知能と区別し,後者は実現不可能だと論じた7)ときから,ずいぶん年月が過ぎた。弱い人工知能の立場をとった大方の人工知能研究者たちが実現した人工知能システムと人間の情報処理能力の違いは次第に縮まり,かつては人間にしかできないだろうといわれた高度なパターン情報処理機能が実現されるに至った。

究極的に,34のスキーマに基づく人工知能が,「本当の知能」「本当の心」をもつに至り,人間との区別がつかなくなるかどうかは依然議論が必要である。他方,現実的にはこれらのスキーマの一部の具現化の振る舞いが人間の振る舞いに接近してきたこと,そして,特定の話題については人間のトッププレーヤーを凌駕する能力を示すに至ったことが原因となって,社会的な懸念も表明されるようになってきた8)。身体と身体能力の点ではロボットは生身の人間にはまだまだかなわないとしても,具現された人工知能コンポーネントが必ずしも人間のトッププレーヤーの能力を超えなくても,Google翻訳注8)のように多数の人間のパフォーマンスを上回るシステムが実現されたことのもたらすインパクトは大きい。これによって,危険な仕事やきつい仕事の義務から人間が解放され,人間がもっと創造的なことに打ち込めるようになる可能性がある反面,コストパフォーマンスのみ重視する経営者が,人間のかわりに人工知能コンポーネントを採用することが,大規模な失業を生じさせるかもしれない。

このような人工知能研究の進展を人間社会の幸福につなげるにはどうすればいいか,議論を重ねていく必要がある。非専門家・専門家を含んだ社会の人工知能スキーマ,専門家の人工知能スキーマ,実現された人工知能コンポーネントは,およそ5のような包含関係になっていると考えられる。今後は,専門家の人工知能スキーマの現状がよりよく社会に理解されるようにすること,専門家の人工知能スキーマの今後の発展が社会との対話に基づいて健全に発展していくことが望まれる。これらの問題については次回以降の記事で検討したい。

図5 人工知能スキーマと実体の包含関係

執筆者略歴

  • 西田 豊明(にしだ とよあき) nishida@i.kyoto-u.ac.jp

1993年奈良先端科学技術大学院大学教授,1999年東京大学大学院工学系研究科教授,2001年東京大学大学院 情報理工学系研究科教授を経て,2004年4月から京都大学大学院 情報学研究科教授。人工知能とインタラクションの研究に従事。会話情報学を提唱。理化学研究所・革新知能統合研究センター(AIP)・「人とAIのコミュニケーション」チームリーダー,総務省「AIネットワーク社会推進会議」構成員,日本学術会議連携会員(2006~)。情報処理学会フェロー。電子情報通信学会フェロー。

参考文献
  • 1)  Lakoff, George. Women, fire, and dangerous things: What categories reveal about the mind. The University of Chicago Press, 1987, 624p.
  • 2)  西田豊明. 人工知能研究半世紀の歩みと今後の課題. 情報管理. vol. 55, no. 7, p. 461-471, 2012. http://doi.org/10.1241/johokanri.55.461, (accessed 2017-02-06).
  • 3)  西田豊明. AIで何が変わるのか:AI, いまの実力. 月刊金融ジャーナル. 2016, no. 6, p. 98-101.
  • 4)  Nishida, Toyoaki; Nakazawa, Atsushi; Ohmoto, Yoshimasa; Mohammad, Yasser. Conversational informatics: A data-intensive approach with emphasis on nonverbal communication. Springer Japan, 2014, 344p. http://link.springer.com/book/10.1007%2F978-4-431-55040-2, (accessed 2017-02-06).
  • 5)  Goffman, Erving. Behavior in public places: Notes on the social organization of gatherings. The Free Press, 1963, 248p.
  • 6)  Weizenbaum, J. ELIZA: A computer program for the study of natural language communication between man and machine. Communications of the ACM. 1966, vol. 9, no. 1, p. 36-45.
  • 7)  Searle, John. Minds, brains, and computers. The Behavioral and Brain Sciences. 1980, no. 3, p. 349-356.
  • 8)  西田豊明. 人工知能の光と影(上):日米欧, 倫理問題対応急ぐ. 日本経済新聞. 2016-09-06, 朝刊, p. 26.
 
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