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視点 ネットのダークマター,海賊版はもう止まらないのか?
福井 健策
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2018 年 60 巻 10 号 p. 735-738

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本稿の著作権は著者が保持し,クリエイティブ・コモンズ 表示 - 改変禁止 3.0 非移植(CC BY-ND 3.0)ライセンスの下に提供する。

リーチサイトとオンライン海賊版の現状

恐らく,これまでで最も実情に踏み込んだ一般向けの記事だろう。何かといえば,リーチサイト「はるか夢の址(あと)」の9府県合同捜査本部による関係者逮捕とオンライン海賊版をめぐる,週刊プレイボーイ(週プレ)Web版の記事である1)

「リーチサイト」とは,海賊版へのリンクを紹介するWebサイトの総称だ。いわばリンク集。国内に100とも200ともいわれる。特に「はるか夢の址」とその運営母体「紅籍会(こうせきかい)」は国内では最大最悪と呼ばれ,記事によればここ経由での海賊版視聴は月間1,300万回,ダウンロード数は年間2億冊,被害推計額は730億円とされる。被害推計額は,仮にダウンロード数に正規版のコミック価格を掛け合わせて算出したのであれば,もっと緻密に検証する必要があろう。とはいえ,その規模はちょっと背筋が寒くなるほどだ。「これがまん延しているなら,少年ジャンプの売り上げが最盛期650万部からついに200万部を切ったのもうなずけるよな」と感じる方もいるだろう。

そして,いかにも週プレ文体の記事だが,ここで語られる実態や危機感は筆者の現場での感覚ともほぼ近い。

さてリーチサイト,ただのリンク集になんでそんなに大騒ぎするのか? 仕組みをみてみよう。

無論,コミックスは著作物なのでこれをスキャンしてネットに上げ,誰でも読めるように公開すれば著作権侵害だ。たいていの国・地域でそうなっている。無論そういうストレート型の海賊版もある。2017年前半の話題だった「フリーブックス」などはこのスタイルで,身元を隠して海外サーバーから5万冊ともいわれるコミックスが読み放題とされた。これはこれで大問題だが,もっと巧妙なことを考える連中もいる。「サイバーロッカー」を利用する方法だ。これはオンラインのストレージサイトだが,そこに海賊版をアップして公開するのである。投稿者は身元を隠してコンテンツをアップでき,ストレージサイトの運営者は単に場を提供しているだけだとして直接侵害への責任を負わない,というわけだ。ただこの場合,サイバーロッカー側は海賊版のアップロードに関与していない建前だからこそ免責されるのであり,個別の海賊版タイトルをおおっぴらに宣伝・表示などできない。そこでリーチサイトが,ユーザーに海賊版タイトルの場所を教えてくれるというわけだ(1)。

リーチサイト自体は,海賊版にリンクを張った「だけ」である。リンクは,自らは人の著作物をコピーも送信もしないから著作権侵害にはあたらない,というのが長年世界共通の理解だった。それはそうだ。「リンクの自由」はネット社会にとってかなり根源的な自由である。リンク先が侵害コンテンツだというくらいで,リンクを張った側も侵害に連座するようでは大変なことになる。リーチサイトはいわばこれを悪用して,場所を教えているだけだから無罪,という立場なのだ。しかし実際には,リーチサイトが場所を教えなければユーザーは海賊版にたどり着けず,サイバーロッカー経由での海賊版ビジネスは成立しない。

ではサイバーロッカーはどうやって稼ぐのか?実は試してみると無料会員はまずまともなスピードでは海賊版をダウンロードできず,まあ,楽しむことは難しい。ところが月1,000円などで有料会員になれば,これが実にサクサクとコンテンツをダウンロードできるというわけだ。かつて関係者が国際逮捕された「Megaupload」というサイバーロッカーなどは,実に170億円の収入を上げていたと報道された。そして彼らは有料会員を増やすべく,たくさんダウンロードされたコンテンツをアップしたユーザーに報奨金を払うのである。そんなコンテンツは海賊版が多いに決まっているのだが,そこは知らないというわけだ。海賊版をアップする側はこの報奨金が目当てだから,たくさんダウンロードしてほしい。だから海賊版をアップすると,自ら匿名でそのリンクをリーチサイトに載せる。つまり,リーチサイト運営者は限りなく海賊版をアップしている本人である可能性が高いのだ。見事な三位一体ぶりである。

図1 リーチサイトの構造

海賊版対策の困難性

さて,週プレによれば「はるか」には次のような特徴がある。第一に,自らリンクを記載するのではなく投稿させる。つまり自らはリンク掲載すらしていないので二重に安全,ということだろう。

第二に,それでいながらリンクは合法だと公言し,特定人気作品の海賊版リンクの投稿を呼びかけたりしていた。さらにユーザーをランク付けしたり,見つかりにくい方法をレクチャーしたり,他のリーチサイトと連携するなど,実際には主動的な役割を果たしていたという。

第三に,特に自らスキャン(自炊という)して海賊版をアップしそのリンクを投稿した者(「金ラベル」という)を,大変優遇していた。

第四に,それらの結果,ここはたいてい新たな海賊版のリンクが真っ先に投稿されていたという。最初にリンクを投稿する者は,自ら海賊版をアップした者である可能性が高いことはいうまでもない。まさに,海賊版アップと流布を先導した最大最悪のWebサイトいうわけだ。

記事によれば警察はさまざまなデータを押収し,今後仕組みの解明やさらなる関係者の摘発も視野に入れている。もちろん極めて大きな動きだが,それでも拡大と巧妙化を続ける海賊版を抑え込めるかは不明だ。理論上は,(1)海外に適法(あるいは責任追及の難しい)サイバーロッカーがあり,(2)身元を隠してそこに海賊版をアップでき,(3)それへのリンク自体が適法なら,これは限りなく鉄板の三角形である。筆者は現に海賊版対策の現場にいるが,無論手段はあるものの,相当なエネルギーとノウハウを注ぎ込める存在でなければもう抑え込みは困難だろう。個別の出版社ではとても,である。

なにせ海外のサイバーロッカーへの責任追及は現状あまりに厳しい。彼らのサーバーはしばしば旧共産圏諸国などに置かれているが,現地法も未整備であり著作権の専門弁護士も少ない。いたとしても,週プレ記事レベルの知識をもった専門家は国内に一人もいない可能性は十分あるのだ。その育成なり,国際的な対策チームでも作らない限り難しいだろう。

海賊版はどこまで「有害」なのか?

そのためにも,社会と海賊版のインパクトやそれとの向き合い方を正しく考える必要がある。時折,「海賊版はそもそもどこまでコンテンツ産業の売り上げを害するのか?」との疑問が呈されることがある。たとえば欧州委員会の2014年の委託調査の報告書だ2)。この報告書は海賊版は無害と示した,といった受け取り方をする向きもいたようだが,現実には新作映画では海賊版が10回視聴されると正規版の視聴が4回減ると述べるなど,海賊版の悪影響は認める内容だ。ただ,他の分野では「海賊版視聴と正規版購入は住み分けている」可能性を払拭(ふっしょく)できないとされている。

この点,さらに研究も必要だが,気をつけなければならないのは,こうした調査はあくまで「現状の海賊版」を前提としたものだということだ。現状,海賊版は違法であり,検索サイトなどもそれの封じ込めにはある程度協力している。その結果,一般人はまだまだ海賊版にたどり着くのは容易でないし,その視聴にはかなりの後ろめたさがつきまとう状況だ。つまり,視聴環境は理想的ではない。これがたとえば海賊版が社会的に是認され,今以上に高画質で誰でも幅広くアクセスできるようになれば,さすがに正規版とほぼ同じで,かつ無料である。それで正規版の売り上げが害されないという予測はさすがに無理だろう。つまり,程度問題であって,こうした調査が海賊版の「拡大」まで正当化する理由になるかは疑問だ。

他方,有害かもしれないが,どうせもう止まらないという意見もある。なにせ,海賊版はこんなにまん延し摘発は困難だ。そうでなくても,「適法で無料のコンテンツ」も増えている。万人が発信者の時代にコンテンツは過剰なのであり,ただでさえ正規版のコンテンツ市場は次第に縮小を続けている。どうせ,コンテンツでマネタイズするのは無理であって,あきらめる他ない,という意見だ。悲しいかな,その可能性はあるだろう。筆者の過去の対談などでも提示された視点だ3)

だが,いずれはそうなるかもしれないが,だから座視できるかとなると話は別だ。現にクリエイターや出版社・アニメ会社は苦しんでいる。ネット上でも海賊版を擁護する声はごく少ないのが現状だろう。海賊版業者の商売はあまりにアンフェアであり,時に巨額の利益を上げている。その収益はクリエイター側にはまったく還元されず,クリエイターたちの多くは決して経済的に恵まれてはいないのだ。それは,「破壊的イノベーション」などと呼べるものではなく,多くのITビジネスのような創造的エネルギーを感じることは難しい。

考えられる対策

だから,仕組みの解明を進め民間は対策を続ける。これが本丸であり,その努力は続けるべきだ。そのためには,上で挙げた(1)から(3)の障害をどう封じ込めるか,だろう。

まず(1)の各国・地域での対策としては,「国際的な協力体制の構築」だろう。専門家の育成,各国・地域警察や行政の協力・情報交換である。折からTPP(環太平洋パートナーシップ協定)やEU-EPA(経済連携協定)が話題だが,百害あって一利ない著作権の保護期間延長などより,こちらにこそリソースを投入すべきだ。

次に(2)の身元隠匿は,これは技術とのイタチごっこでどうにも苦しいのだが,「解明と対策技術の開発」を進める他ないだろう。

最後に(3)のリンクの位置づけだが,「リーチサイト規制」は,もはや避けられないと思う。読者の大半は日本にいるのだ。EUなどはすでにそうした判例を出している。日本でも特別法や判例で悪質なリーチサイトの違法類型をはっきりさせるべきだ4)。その際,リンク一般が萎縮しないような対応は重要だろう。

それでも海賊版を抑え込めないなら,もはや残された手は「広告収入など資金源の遮断」や「サイトブロッキング」しかないかもしれない。後者はつまり,海外で手を出せない海賊版サイトは日本から見られないようにアクセスを遮断する措置で,海外ではすでに導入例も増えつつある。

たとえば,2001年の欧州著作権指令では,加盟国に,著作権侵害をしている第三者が利用する媒介サービスの提供者(ISPなど)に対して侵害差し止めの措置を請求できるようにする措置を求めている注1)。これを受けて英国は2003年,著作権法を改正し,民事裁判を通じたISPに対する知財侵害サイトへのアクセス遮断等の差し止めを可能とした。条件は,対象Webサイトが明らかに知財侵害サイトであること,そのサーバーが英国の司法権の及ばない場所にあるため他に対処方法がないこと,だ5)

情報アクセスへの自由を保証する観点からは決して望ましい選択肢ではない(たとえば遮断措置の相当性を人々が確認するのにも対象Webサイトを見る必要はあるし,相手のWebサイト上には適法なコンテンツもあるかもしれない)。

だが,もはやそれしかないと思えるほど,海賊版戦争の現状は危機的なのである。

最後に一つ。これを絶たれたらどんな海賊版も即時全滅という彼らの絶対の生命線がある。それは読者だ。人々が読まなければ海賊版は滅ぶほかない。もちろん,こう書いて済むなら誰も苦労はしないが,それでもやはり最後はこの言葉で締めくくりたい。クリエイターを守るための海賊版への最強最後の武器,それは読者たちの手に握られている。

執筆者略歴

  • 福井 健策(ふくい けんさく)

弁護士(日本・ニューヨーク州)/日本大学藝術学部・神戸大学大学院 客員教授。1991年 東京大学法学部卒。米国コロンビア大学法学修士。現在,骨董通り法律事務所 代表パートナー。『著作権の世紀』『誰が「知」を独占するのか』(集英社),『「ネットの自由」vs.著作権』(光文社),『18歳の著作権入門』(筑摩書房)他。国会図書館審議会会長代理,内閣知財本部など委員を務める。http://www.kottolaw.com Twitter: @fukuikensaku

本文の注
注1)  欧州著作権指令(2001/29/EC)第8条3項

参考文献
 
© 2018 The Author(s)
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