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図書紹介 『科学と社会の対話:研究最前線で活躍する8人と考える:吉川弘之対談集』
成川 礼
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60 巻 (2017) 10 号 p. 761

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書誌情報

  • 『科学と社会の対話:研究最前線で活躍する8人と考える:吉川弘之対談集』
  • 科学技術振興機構 科学コミュニケーションセンター企画・編
  • 丸善出版,2017年,四六判,217p.,1,800円(税別)
  • ISBN 978-4-621-30149-4

本書は,東京大学総長など多くの要職を歴任した吉川弘之氏と,さまざまな領域の最前線で活躍する8人の研究者・教育者との対談を通じ,科学コミュニケーションの「これまで」を総括し,「これから」を予見する内容となっている。吉川氏の広範かつ深遠な知識と明確な方向づけにより,多様な対談相手の専門性を巧みに引き出しつつ,科学コミュニケーションに関する話題に自然と対談が着地している。

さまざまな事柄を多面的に議論しているため,本紹介文ですべてに言及はできないが,私の経験と照らし合わせ,特に印象深い内容について簡単に触れたい。

昨今,サイエンスカフェなど多くのイベントが全国各地で開催されている。しかし,これらの営みの多くは,科学を自ら受容しようとする人たちには届くが,そもそも科学に関心をもたない層には届きづらく,もどかしい思いを抱えていた。そのため,高橋政代氏(医学者)の「科学を伝えるためのものを,日本科学未来館をはじめとした科学館に閉じ込めていてはだめ」「一般の人が日常的に見られる状態をつくっていかなくてはいけない」という危機感をもった主張に共感を覚えた。芸術分野におけるストリートパフォーマンスのような舞台設計が,これからの社会との対話に必要ではないだろうか。また,科学の中身がすべて伝わらなくとも,最先端の研究者の纏(まと)う熱気が伝わることが重要と感じていたが,高橋氏も同様の意見をもっていることがうかがえた。あるサイエンスカフェにて,一般の来場者から「成川先生自身が面白いと思っていることが伝わり,楽しかったです」という感想をいただいたことを,本書を読んで思い出した。

自らを通訳者と見なし,「抜け落ちる部分があって,それでも大体の意味は訳すことができる」という考えの下,「潔く訳す」スタンスで社会との対話に臨む村山斉氏(物理学者)にも共感を覚えた。井野瀬久美惠氏(歴史学者)との対談において指摘されていたように,研究者自身も専門領域と異なる話題では,受け手側・一般社会での生活者である。それを実感として理解していれば,受け手側が何を求めているかに意識的になり,自然と潔く訳せるのではないだろうか。その意識が,本書でも未来形として語られていた「受け手側からの主体的なコミュニケーション」を促す原動力となるように思う。その観点では,クラウドファンディングがよい循環を生み出すと感じる。受け手側は面白いと思う内容に主体的に投資し,その内容を知ることができる。一方,研究者は研究資金を得られ,自分の研究への社会からの声を直接感じることができる。

ごく一部を駆け足で紹介したにすぎないが,本書は科学コミュニケーションの現状把握と展望が詰まっている。科学コミュニケーションに携わってきた故に,現状の問題点もみえている研究者のみならず,科学コミュニケーションに距離を置き,その実効性に懐疑的な研究者にこそ,本書は読まれてほしい。昨今の研究予算や研究不正に関する話題を鑑みるに,日本の科学の状況は正直にいって厳しい。そのような状況下で社会との対話も意識するのは,多くの研究者にとって重荷かもしれない。しかしながら,社会との双方向の対話を通じ,これからの科学の有り様を模索することが,日本の科学が健全な方向に向かい,真摯(しんし)な研究者が快く研究を行う環境への近道なのではないだろうか。本書が社会との対話について考察を深める端緒となることを願って,筆を置くことにする。

(静岡大学理学部生物科学科 成川礼)

 
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