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官民一体のオープンデータ利活用の取り組み:先進県・福井,データシティ鯖江
牧田 泰一藤原 匡晃
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60 巻 (2017) 11 号 p. 798-808

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福井県は,誰もが自由に使えるオープンデータの活用推進を県内全域で行っている。県内全市町の内容・様式を統一したデータを都道府県として初めて公開し,機械判別に適した様式でデータを公開することで,二次利用を推進している。そして,データを公開するだけでなく,アプリコンテストや普及活動等を行っており,オープンデータを活用したアプリケーション開発数は全国トップクラスである。また,福井県鯖江市は日本で初めてオープンデータに取り組んだ先進自治体であり,オープンデータによる行政の透明化,市民参加,そして官民の連携を進めている。こうした福井県の取り組みと,鯖江市の注目すべき先進事例を紹介する。

本稿は,クリエイティブ・コモンズ 表示 2.1(CC BY 2.1)ライセンスの下に提供する。

1. はじめに

福井県では,2013年12月26日に,「福井県オープンデータライブラリ」を県Webサイト上に開設し,オープンデータの取り組みを開始した。都道府県としては静岡県に次いで2番目となった。今日までに公開したデータセット数は約170種類,これらのデータを活用したアプリケーション(以下,アプリ)が約100アプリに達する。

はじめに,なぜ県がオープンデータの取り組みを始めたのかを説明しよう。何といっても,すでに取り組んでいる県内自治体(取り組み順に鯖江市,坂井市,越前市,敦賀市,福井市)の存在が大きかった。鯖江市の事例は後述するが,これらの自治体では域内のデータが公開され,これを活用したアプリも作られていた。しかし,当該自治体のデータしか公開されておらず,県内全域を網羅したサービスやアプリの開発・提供ができないこと,また,市や町ごとにバラバラの内容・形式でデータを公開しても開発者など利用者に不便であることの2点から,県全体のオープンデータ推進が必要との結論に至った。

そこで,県内全市町の情報担当主管課長をメンバーとする「公共データ民間利活用推進部会」を設立し,県と県内全市町が協議をしてオープンデータの内容・形式を決めた。初期段階において,公共施設情報の公開を優先的に進めた結果,県内全市町における内容・形式を統一したデータを全国で初めて公開することができた。なお,2014年度中には県内全市町がオープンデータを公開している。

本稿では,福井県と鯖江市における官民一体となってオープンデータに取り組む意義を示す具体的な事例を紹介するとともに,得られた知見や課題にも触れる。

なお,本稿の13章は藤原(福井県)が,245章は牧田(鯖江市)が執筆している。

2. 国の動き

国においては,オープンデータ憲章注1)の制定,世界最先端IT国家創造宣言注2)などもあり,公共データのオープン・バイ・デフォルトの方針に基づき,2013年にはデータカタログサイト(http://www.data.go.jp/)が構築され,1万件以上のデータが公開された。2016年12月には議員立法による官民データ活用推進基本法注3)が制定され,この法律に基づき,2017年5月30日に世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画注4)が閣議決定されている。また同日に,個人を特定できないよう加工すれば,本人の同意なしに情報を取り引きすることができる改正個人情報保護法も施行されている。そして2020年の東京オリンピック・パラリンピックを契機に世界に向けてオープンデータ,ビッグデータのさらなる活用が望まれている。

3. 福井県の取り組み

3.1 公共データ民間利活用推進事業

県では,オープンデータ推進の第一歩となる事業を2013年秋に立ち上げた。それが「公共データ民間利活用推進事業」であり,現在も継続している。これまでの主な活動は,アプリコンテストの実施,統計データの公開および活用に関わるモデル事業の実施,有識者や県内企業の方を委員とした福井県オープンデータビジネス利活用研究会の設置,オープンデータセミナー等の普及活動,アイデアソン・ハッカソンの開催,五つ星オープンデータ注5)の整備などである。いくつか具体的に説明する。

3.1.1 アプリコンテストの実施

2013~2016年度に,福井県のオープンデータを活用したアプリなどを募集したアプリコンテストを開催した。3回のコンテストには,累計でアプリ37作品,アイデア12作品の応募があり,県外や学生からの応募もあった。レベルは年々高くなり,2016年度には,スマートフォンアプリの応募が多数を占めるに至った。2017年度の最優秀賞「ただいま営業中 in ふくい」注6)は,営業時間や定休日を考慮して,福井県内のお店や施設を地図上で検索できる。現在位置から気になるお店までの所要時間を検索すれば,閉店時間に間に合うか教えてくれる。

アプリコンテストの主目的は,県内IT企業の活性化であったが,この事業を通じて県のオープンデータが利活用されていることを実感できたのはもちろん,開発者等が県や市や町に求めるデータのニーズを的確に把握することができた。

3.1.2 統計データの公開および活用に関わるモデル事業

2015年度には,総務省統計局,統計センター,福井県,県内全市町,(株)jig.jpが連携して,五つ星オープンデータの公開および活用に関わる「オープンデータモデル事業」を実施した。総務省,福井県や県内市町が保有する各種統計データを,データの自動的な取得や関連データの一括取得が可能な「五つ星オープンデータ」で公開することにより,統計データをわかりやすく見せるアプリ開発が可能かどうかの検証を行った。公開した統計は,男女別年齢別人口(各歳),世帯数・高齢者夫婦世帯数・高齢者単身世帯数,転入・転出者数の3データである。国(国勢調査)・県・市や町が同じデータを公開し,データが重複した場合でも,アプリには影響がない有用性を保てるかどうかも検証した(1)。この結果を受けて,総務省統計局は2016年度から,日本の統計が閲覧できる政府統計ポータルサイト「e-stat」注7)にて公開している統計データを,「五つ星オープンデータ」で提供している。

図1 オープンデータモデル事業で作成された2つのアプリ

3.1.3 福井県オープンデータビジネス利活用研究会の設置

オープンデータを活用した新ビジネスの展開を拡大するのが,行政の使命の一つである。そこで,その方法等を検討するための研究会「福井県オープンデータビジネス利活用研究会」を2015年9月に設置し,2年かけて研究を行った。委員には,民間の研究員や大学教授などの有識者,県内企業情報関係者も加わった。研究会では,地域およびビジネス課題解決のためのデータ利用促進やアプリコンテストの実施方法および展開等について議論を行い,県内企業を対象にした講演会やワークショップを開催した。こうした活動を通じて,利用者ニーズの高いデータを発掘して公開し,利活用を促した。また,アプリコンテストを県単独で行うのではなく,キックオフイベントや表彰式を含めて,ふくい産業支援センターと共同開催したことにより,2016年度の応募数は前年度の4倍にまで増えた。

ビジネス拡大には,まだ多少の時間がかかる見込みではあるが,県としては,今後もニーズの調査・把握を行い,継続的にデータを公開していくとともに,ワークショップなどを開催しながら,県民に利用され地域に根差したアプリの開発を力強く応援していく。

3.2 池田町の取り組み

次に,県内の最小自治体の先進的な取り組みを紹介する。福井県池田町は,総面積の約92%を森林が占め,人口約2,700人,高齢化率43%の自治体である。

町のWebサイト注8)には,駐車場やバス関連情報等16データがオープンデータとして公開されている。2016年度には,まちおこしイベントとして,中学生・町民・役場職員が広く参加した「まちおこしアイデアソンinいけだ」と,そのアイデアを基にした「いなかハッカソンin池田町」を開催し,アプリの開発が実現した。その代表例として,「おしえて!いけだのアニキ」注9)2)がある。これは,森林を最大限に生かしたレジャー施設である「ツリーピクニック アドベンチャー いけだ(TPA)」に来た人々が,池田町の他の場所に寄らずに帰ってしまうという課題を克服するために開発され,県内外から車で訪れる観光客をターゲットに,町内の他の観光スポットや飲食店の情報を発信するWebアプリである。

町民おすすめのスポットが載っており,地域に根差した町民参加型のアプリとなった。ツリーピクニック アドベンチャー いけだや町内飲食店の店頭,さらに最新の『まっぷる 福井 恐竜博物館’18』(昭文社)の裏表紙にQRコードを掲げており,アプリを利用できるようになっている。このアプリにはまた,県のオープンデータが活用されており,県内の観光情報も得られる。福井県立恐竜博物館,曹洞宗(そうとうしゅう)大本山永平寺,東尋坊などの観光スポットの表示も可能であり,利便性にも優れている。

図2 「おしえて!いけだのアニキ」アプリ

3.3 今後の取り組み

2017年5月には,県,ふくい産業支援センター,県内のITエンジニアやデザイナーからなる「チームふくいデータチャレンジ」の3団体が核となり,アーバンデータチャレンジ注10)の地域拠点に参画し,身近な地域課題をITの力で解決することおよび継続的なコミュニティーを形成することを目的に,活動を始めたところである。現在,観光および公共交通をテーマに,アーバンデータチャレンジコンテストの応募に向けて,活動を展開している。

また,2018年9~10月には「福井しあわせ元気」国体・障スポが開催される。これに合わせて,県では現在,オープンデータを活用したアプリの開発を応援しており,県民や来県する選手,観光客等に対し,国体・障スポのみならず,福井の食や観光の情報等を発信し,県のPRを行っていく。

こうした活動を通じて,2022年度末の北陸新幹線の金沢-敦賀開業以降に来訪する多くの方々にも福井を楽しんでもらえるサービスの創出に努めていきたい。

次の章では,県内で初めてオープンデータに取り組み,積極的に推進に努めている鯖江市について紹介する。

4. 鯖江市の取り組み

4.1 福井県鯖江市というところ

鯖江市は福井県の嶺北(れいほく)地方のほぼ中央に位置する。北は福井市,南は越前市に隣接し,南北8.3km,東西19.2km,面積は84.59平方kmの地方都市である。1955年の市制施行当時4万人の人口が,都市基盤整備や,地場産業の発展や企業誘致など商工業の充実により,現在では約6万9,000人に達する。平成の大合併とは無縁であったが,全国的に人口が減少している中,鯖江市は福井県内で唯一,人口が増え続けている。

また,鯖江市は,眼鏡枠の国内生産の9割以上を占める眼鏡,福井県の繊維産業の中核を担ってきた繊維,1,500年の伝統を継承しつつ業務用漆器においても8割のシェアをもつ漆器という三大地場産業を中心として発展してきた。近年は,機械・電子部品工業やIT産業が台頭し,次の100年を支える4番目の産業への成長が期待されている。

1995年,小都市でありながらアジアで初めて世界体操競技選手権大会を誘致し,20万人以下の都市では開催例がなく不安視されたこの大会を,延べ3万人のボランティアの協力で成功に導いた。この成功を受け,3年後の1998年には体操競技ワールド・カップ決勝鯖江大会を誘致し成功裏に終えている。大会成功の原動力となった市民エネルギーは,その後もNPO活動やボランティア活動に生かされている。1999年に活動の拠点として市民活動交流センターが整備され,2010年3月には全国に先駆けて,行動する市民たちによる「鯖江市民主役条例」注11)の原案が策定され,新しい公共につながる市民主役事業にも積極的に関わりをもっている。

また,鯖江市に大学はないが学生が全国から集う町として知られ,河和田アートキャンプ注12),鯖江市地域活性化プランコンテスト注13)が行われる。その期間,町中は若い熱気であふれる。鯖江市地域活性化プランコンテストは,「市長をやりませんか」というキャッチコピーで全国の大学生を集め,2泊3日の合宿を経て活性化プランを競ってもらうイベントであり,今年は10回目を迎えた。提案プランの多くが,市の事業に採用されることもあって,参加学生の鯖江ファンは着実に増えている。

この活性化プランコンテストの運営主体は,県内の地域活性化に熱意を傾ける学生組織「学生団体with」であり,市民とともに全国から参加する若者のおもてなしサポートにより多くの鯖江ファンを生んでいる。

鯖江市役所JK課による地域活動,目的やスタイルを限定しない自由で開放的な体験移住プロジェクト「ゆるい移住」など,市民主役,若者との町づくりは地方創生の優良事例として全国から注目を集めている。

4.2 鯖江市オープンデータの取り組み

2010年12月20日の一つの提案が,鯖江市のオープンデータ取り組みの端緒となった。鯖江市役所市長室においてW3C(World Wide Web Consortium)日本サイトマネジャー,慶應義塾大学の一色正男教授(当時)とW3Cに加盟している(株)jig.jpの福野泰介氏が牧野百男市長に直接会ったことだ(3)。具体的には,ITのまちを目指すためのステップとして,行政がもつ情報を機械が読めるXML,RDF等でWeb上に公開し,民間などが二次利用することにより,新たな公共サービスを創出する取り組みの提案である。2010年3月には,鯖江市民主役条例を制定して市民協働の町づくりに着手しており,条例に市民と行政との情報共有を規定していたこともあり,市長はその場で,広報誌やWebサイトに続く新しい情報共有のあり方として,「面白い,やってみよう」と提案を受け入れたのである。

3か月後に情報統計課が組織され,筆者はオープンデータを担当したが,オープンデータの知識がなく,広報誌や公式Webサイトで公開しているデータとの違いについても理解できていなかった。取りあえず何かみえてくるまでと,実験的な取り組みを進めたのである。最初の公開情報は,わずか40件ほどの緯度・経度をもったトイレ情報だったが,数か月を要した。データ形式であるXMLとはどういうものか。どう作成するのか。緯度・経度の取得方法は……。基礎情報を調べる日々だった。しかし,一度作成すると,次に作成した避難所やAEDなどの情報は,数日もあれば作成できるようになった。

現在の公開データは,公園のトイレ,避難所,AED,市域地図,文化財,消火栓,コミュニティバス(以下,つつじバス)の位置情報,議員名簿,統計情報など185種類に達する。鯖江市の行政情報のデータ公開については,アイデアソン・ハッカソンなどでの情報交換,そして課題解決のための活用アイデアに対して担当課と協議して公開を進めてきた。それに伴い,福野氏をはじめオープンデータを推進している先生や民間企業が作成した,可能性を感じるアプリは200を超えている。これらのデータやアプリはデータシティ鯖江サイト(http://data.city.sabae.lg.jp)(45)で公開している。

最近では,2012年の笹子トンネル天井板崩落事故などの影響もあり,インフラ管理の課題に対して,市管理の405橋梁(きょうりょう)のオープンデータ化に(株)イノベーション推進センターの協力を得て取り組んだ。1926年生まれの91歳の橋も地図上に表示されるなど,古い橋梁の再整備にあたって市民合意を得るためにも意義があると考えている。

また,つつじバスの位置情報を公開しているが,乗降者のオープンデータ化にも取り組んだ。これは2016年11月から3か月間,Code for Japanのコーポレートフェローシップ事業を活用したヤフー(株)からの社員派遣や,(株)jig.jpの協力を得て実現した。高齢者の増加,地球温暖化問題などから,公共交通の重要性が見直されている。つつじバスの位置,乗客数,車いす席利用の有無を利用者に公開し,利便性を高め,バス停ごとの乗降者データを蓄積して効率的なバスの運行を目指そうという取り組みである(6)。2017年4月から8台のつつじバスで試験運用を行っている。

また,データの活用を促進するために,アプリコンテスト,世界中の各都市と協調してオープンデータを推進するイベント「インターナショナルオープンデータデイ」におけるアイデアソン・ハッカソン(7),さらに,オープンデータを普及しようと隔年でオープンガバメントサミットを開催している。その理由は,オープンデータは近い将来,行政のインフラとして欠かすことができないものになると考えるからだ。

また,行政としてはデータを公開しアプリができても,市民が実際に使うことが肝要なので,2013年から60歳以上の鯖江市在住の方を対象に,高年大学(生涯学習施設)や市内全域10公民館でアプリ・タブレット講座を行っている。

さらに,IT人材を育成するために,2020年に開始される小学校でのプログラミングの義務教育化に向けて,市内の6小中学校でクラブ活動としての「こどもパソコンIchigoJam」を使ったプログラミングクラブを始めた。2018年度からは市内全15小中学校においてプログラミングクラブを行う予定であるが,この指導教員を育成するため,2017年7月にはテレビ会議システムを使って全小中学校の教員を対象とした研修を実施した。

図3 オープンデータのきっかけとなった三者会談
図4 「データシティ鯖江」Webサイト
図5 便利なスマートフォンアプリ
図6 リアルタイム「つつじバス」乗客数グラフ(一部)
図7 公共交通をよくするアイデアソン参加者

4.3 成果と課題

オープンデータの取り組みに共感し,これまで200を超える民間の方が作成したアプリが公開されている。電子地図を背景に災害時の避難所などのルートを表示案内するもの,選挙時に投票所までのルートを案内するもの,市民に写真で道路の損傷や地域の情報を写真で投稿してもらい共有する「さばれぽ」アプリ,図書館で図書を検索するとビーコンを使った位置情報で書架まで案内する「さばとマップ」,河川の現在水位を表示するアプリ,子育て支援アプリ「つつじっこリトル」など,市民に活用してほしいものがたくさん公開された。

しかし,市民は,IT講座等でアプリを紹介すると「便利やね!!」とアプリに興味をもつが,多くの市民が便利と感じるまでには至っていない。市職員のデータ公開に対する理解も,初期と比べると進んではいるものの,求められる正確性や責任をもつことへの不安が妨げとなり積極的に公開する意識はそれほど高まっていない。そして,オープンデータの目的とされている3つの効果のうち「行政の透明性」「官民協働」はわずかに実感できるが,「経済の活性化」についてはまだまだの状況である。

4.4 今後の取り組み

今後も,着実な一歩を重ねる,鯖江市の地域事情,課題解決につながるオープンデータの公開を挑戦継続していく。また,データはつながること(Linked Data)が重要であり,データの価値を高めることにもなることから,共通語彙基盤を活用しながら他の自治体とのデータ連携も進めていきたい。また,市民アプリ講座や課題解決のためのアイデアソン・ハッカソンなども,市民,NPO,企業の協力を得て進めていく。

さらに,他の自治体のオープンデータの最初の一歩を応援していきたい。全国の自治体,議会からたくさん鯖江市のオープンデータの取り組みを視察に来られるが,そのときに申し上げているのは,「データ作成は人もお金もかからない。データ公開はLinkDataサイト(無償)やODP(オープンデータプラットフォーム)サイトでエクセルデータをアップロードし,そのデータリンクを公式WebサイトでCC-BYライセンスで掲載する」ということだけだ。国の「地方公共団体オープンデータ推進ガイドライン」「オープンデータをはじめよう:地方公共団体のための最初の手引書」注14)も参照しながら,ぜひ,最初の一歩を進めてほしいと思う。その一歩が,みえる風景を変えてくれるだろう。

5. おわりに

2017年11月現在,全国1,765自治体の約17%となる295自治体(8)において,オープンデータが公開されている。2000年頃に自治体がWebサイトをもつようになってからわずか数年でほとんどの自治体に広がったことから,5,6年もしないうちに大きく広まるだろうと,当初は漠然と考えていた。しかし,効果がみえにくいこともあるのだろうか,まだまだ低調といわざるをえない。また,十二分に利活用されている実感はなく,過渡期であると考えている。

私たちの生きるこの現代はTV,洗濯機,冷蔵庫,パソコンやスマートフォン,そして車,公共交通,水道,電気などのインフラにみられるように,ありとあらゆるものがIT基盤の上に成り立つ社会が到来している。

そして,国や自治体,民間企業,組織そして個人の壁を越えてあらゆるデータがインターネットに公開・蓄積され,これらのデータがリンクしながらお互いの価値を高めあっている。住民福祉の向上のためにも行政におけるIT活用,データ活用は重要な鍵であり,オープンデータはその入り口となるものである。データを充実し,行政サービスや業務において新しいIT活用視点で,この厳しい先のみえない時代を切り開いていきたいと考えている。

また,行政だけでできることは限られている。これまでも支援を受けている,Linked Open Data Initiative,Code for Japan,企業各社,そしてOpenStreetMapやWikipediaの活動とも協調連携して,先の長い「草の根運動」の振り幅を大きくしていきたいと考えている。

2009年TED「NEXT WEB」でWebを作ったW3Cのティム・バーナーズ・リーは,想像しなかった多くのイノベーションを生み出してきたWeb,そしてつながるデータLinked Data,データ公開の草の根運動のすばらしさを視聴者に向けて紹介し,「Raw Data Now!」とオープンデータ推進を呼びかけた。

本記事の寄稿にあたりデータシティ鯖江の提案者,そしてCode for Sabaeの一員として活動している福野氏に,現在とこれからについて感想を聞いた(「福野氏へのインタビュー」参照)。

多くの自治体,市民,NPO等と,最後のチャンスとの危機感を共有しながら,オープンデータによるすばらしい近未来社会の実現,そのために今できる歩みを重ねていきたいと考えている。

図8 日本のオープンデータ都市の現状

福野氏へのインタビュー

――2010年の12月に市長に提案をいただいてから,もう7年になります。鯖江市のオープンデータの提案者そして,内閣府のオープンデータ伝道師として,この7年をどう思っておられますか?

福野 2012年にはたった3都市だったオープンデータ都市も,都道府県単位で残すところあと1県※1となり,大変感慨深いです。オープンデータ伝道師としての活動は,まさにこれからです。市長が「鯖江市役所JK課に対する思い」でも語られた「若者の行政無関心」は,オープンデータ活用を阻む最大の課題です。世界人口は70億人から100億人へと伸び続ける一方,日本は人口減少の一途をたどるという大逆風にもかかわらず,今日の当たり前が明日も明後日もずっと続くような幻想の中にあるようです。

世界最先端IT国家創造宣言は,敗北を認めたリベンジ宣言であり,オープンデータ推進は市民・国民に対する救難信号だと思っていますが,長く続きすぎた行政を人任せにする無関心癖は,一朝一夕で抜けるものではありません。

――2018年には「福井しあわせ元気」国体・障スポ,2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されますが,福野氏の感じているオープンデータの未来,そして,日本の未来はどんなものでしょうか?

福野 メディアが民主化され,趣味嗜好(しこう)が多様化した現代社会において,単なるスポーツイベントとしての発信だけでは,その求心力は限定的です。このままだと,医療費を削らざるをえず,産業の日本離れが加速する暗い未来が近い。国体やオリンピックは,そこから脱却する最後のチャンスだという危機感の共有が必要です。

オープンデータは,誰もがより豊かな社会実現に向けて行動をするために,必要な情報を提供するインフラです。1,000年前の活版印刷,100年前の放送技術の登場によって持つものと持たざるものに分断されてしまった人類でしたが,Webとスマホの普及によって,子どもでも出版社や放送局になれるフラットな社会が戻ってきました。その一歩先には,五つ星オープンデータの普及と,プログラミングスキルの一般化によるイノベーション多発社会があります。

オープンデータの世界ランキング,GLOBAL OPEN DATA INDEX※2において1位である台湾からのオープンデータ視察団の質問は,日本が推進する五つ星オープンデータ,共通語彙基盤に集中しました。五つ星オープンデータによって構築される未来のWebは,Googleが夢みる「世界中の情報を整理し,世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」社会そのものです。

日給100円程度で生活できてしまうアフリカのルワンダのような社会において,プログラミングができればその給料を100倍にすることは難しい夢ではありません。ルワンダのITベンチャー企業の机に一切の紙の資料がないことが印象的でした。法人登記もWebで完結してしまう。ルワンダのように紙文明を引きずらない,Web文明からスタートできるアドバンテージは大きいです。

フラットかつオープンに,島国化する世界,島国先進国である日本の役割を,全員参加で担いましょう。おもてなしをアップグレード,イノベーションをオペレーションにしましょう。

執筆者略歴

  • 牧田 泰一(まきた やすかず) Makita.yasukazu@city.sabae.lg.jp

2011年から鯖江市情報統計課長として鯖江市民主役条例に基づき,市民との情報共有のためXMLによるオープンデータの取り組み「データシティ鯖江」に取り組む。2016年4月から情報政策監。

  • 藤原 匡晃(ふじわら まさあき)

2015年4月から福井県総合政策部政策統計・情報課主事として,県公式Webサイトの運用・管理,ソーシャルメディアの活用,オープンデータ推進を担当している。

本文の注
注1)  オープンデータ憲章(概要):http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/page23_000044.html

注2)  世界最先端IT国家創造宣言:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/decision.html

注3)  官民データ活用推進基本法:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/hourei/detakatsuyo_honbun.html

注4)  世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20170530/siryou1.pdf

注5)  五つ星オープンデータ:ワールドワイドウェブの始祖,ティム・バーナーズ・リーが提唱した,機械判読可能なオープンデータの公開度を,5段階の星の数で示す指標である。五つ星オープンデータは最上位に位置づけられるデータで,システムを使ったデータの自動的な取得や関連データの一括取得が可能である。http://5stardata.info/ja/

注6)  ただいま営業中 in ふくい:https://open-in-fukui.appspot.com/

注7)  統計LODサイト:http://data.e-stat.go.jp/lodw/

注8)  池田町Webサイト:http://www.town.ikeda.fukui.jp/index.html

注9)  おしえて!いけだのアニキ:http://oshieteaniki.com

注10)  アーバンデータチャレンジ:地域課題の解決を目的とした,地方自治体を中心とする公共データを活用した一般参加型コンテスト。http://urbandata-challenge.jp/

注14)  ・地方公共団体オープンデータ推進ガイドライン:http://www.data.go.jp/data/dataset/cas_20150305_0001

・オープンデータをはじめよう:地方公共団体のための最初の手引書:http://www.data.go.jp/data/dataset/cas_20150305_0002

 
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