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集会報告
集会報告 第1回 チームサイエンスの科学の日本での推進×ハテナソン
王 戈佐藤 賢一近藤 康久松尾 由美
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2018 年 60 巻 11 号 p. 824-827

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開催情報

  • 日程   2017年10月29日(日)
  • 場所   京都大学吉田キャンパス,研究・イノベーション学会 第32回年次学術大会E会場(京都府京都市)
  • 主催   王戈,佐藤賢一,近藤康久(2017年12月以降,任意団体 チームサイエンスコモンズ/Team Science Commonsとして活動)

1. はじめに

チームサイエンスは「科学者がチームベースで行う研究活動」のことである。チームサイエンスの科学(Science of Team Science: SciTS)は,実証的根拠に基づきチームサイエンスに対する研究開発,人材育成,実施支援を行い,チームサイエンスの効率化・効果の最大化,社会的・科学的なインパクトの解明,アカデミアの構造変容を目指す学際的教育研究分野である1)。チームサイエンスは,ビッグサイエンスやオープンサイエンスと並ぶ,今日の科学文化の潮流を表す概念であるともいわれている2)。2006年以降に米国を中心にSciTSに関する活発な理論構築や実践がみられる一方で,日本ではその動きはまだ小さく,あるいはほとんどない状況にある。

本稿は研究・イノベーション学会 第32回年次学術大会注1)の企画セッション「SciTSの日本での推進×ハテナソン」の概要を報告するものである。本企画セッションの目的は,SciTSを日本に紹介する,日本におけるSciTSの潜在的関係者の顕在化・ネットワーキング化を図る,日本でSciTSを推進するための課題を抽出共有し,かつその解決策(の糸口)を検討する(見いだす)ことであった。

本報告のワークショップ名称にあるハテナソンは,ハテナ(?)とマラソンを合わせた造語である。一人ひとりの発想を生かし,民主的なルールの下で質問をつくる学びの手法,学び場,ワークショップのことを意味する3)。課題の解決策を言語化・可視化するアイデアソン,解決策を実現・実装するハッカソンの前段階に位置づけられ,課題の探索・発見や特定を主目的とする。

2. 実施概要

本ハテナソンのフライヤーと会場の様子は1を参照。

2.1 プログラム

  • (1)ハテナソンの紹介とグループ分け(5分)
  • (2)話題提供1(10分)
  • (3)話題提供2(10分)
  • (4)話題提供3(20分)
  • (5)質問づくり(55分)
  • (6)アクションプランの作成と共有(15分)
  • (7)コメント(5分)

2.2 参加者

11名(スタッフ2名を含む)。なお,参加者以外に,持ち帰り自由の「2.3 配布資料」を14部用意したが,話題3のプレゼン資料がすべて持ち帰られた。すなわち,ハテナソン参加者以外にも一定数の来場者があった。

2.3 配布資料

ハテナソンの流れをたどるための資料,話題提供トーク(3件)のプレゼン資料,本ハテナソンの成果物とアイデアに関する同意書,アンケートに答える前の注意事項,アンケート用紙。

2.4 話題提供トークの概要(タイトルと内容)

話題提供者の詳細は1のフライヤーを参照。

話題1:持続可能な社会とチームサイエンスの科学

持続可能な社会システム実現への科学研究の寄与を考えるに当たり,SciTSなどの支援科学を,社会への知識の反映と知識生産の維持・更新の両方に示唆をもたらすものと位置づけた。

話題2:チームづくりを促進する場づくり

異分野交流やチームづくりには戦略や「仕掛け」が必要だろう。たとえば,研究所内の席替えといった古典的な「仕掛け」も機能しうる。共通の目標や,互いの信頼などを構築できる場づくりも重要だろう。また,2014年に京都大学WPI-iCeMSで行ったイベント「How to 学際融合」注2)からみえてきた事例を紹介した。

話題3:アメリカでのSciTSの発展

2006年にSciTSという言葉が戦略的に使われてから,SciTSは「科学の科学」の一分野として急速な発展を遂げた。その知見は英語圏先進国が主導する公共衛生や環境などの社会的介入プログラムや,農学などの研究現場,研究者トレーニングや大学院教育の現場,研究教育に係る政策策定の現場,研究投資の現場などで活用されている。本話題はSciTSの概念,推進経緯,成果(場の構築,知見の蓄積,促進ツールの開発実装,人材育成,政策提案)を中心に紹介・考察した。

図1 フライヤーと会場の様子

2.5 成果物および回収物

質問リスト,大事な質問リスト,アクションプラン,アンケート回答,同意書。

3. ハテナソンから得られた質問

9名の参加者が3グループに分かれて質問だしを行い,計31個の質問を得た。次に各グループで大事な質問を3つ決め,計9つに絞られた質問を全体共有した。参加者全員でそれら9つの質問をさらに3つに絞り込む投票を行い,各グループが質問1つを担当してアクションプラン作成を行った。1では,選ばれた9つの質問とその得票数が示されている。★のついている質問は,最終的に各グループがアクションプラン作成に用いたものである。アクションプランには3つの構成要素がある:(要素1)重要な質問の仮の答えまたは仮説,(要素2)仮の答えかまたは仮説を検証するために必要な情報(モノ・コト),および(要素3)行動。アクションプランをすべてのグループが完成したわけではなかった。しかしながらたとえば,「国内の既存事例を体系化するにはどうするべきか」の質問に対しては,以下のアクションプランが提案された。(1)事例の定義,先行事例体系化(どう体系化するかを検討),海外の先進事例の収集,(2)まとめ役(研究者),SciTSの関係の人を探す,(3)(2)のメーリングリストの作成等が必要。

表1 大事な質問リスト
グループ名 参加者評価得票数 質問の内容
G1 7 ★SciTSが日本で盛んになることのゴールは何か。
G2 6 ★研究開発マネージメントの研究とSciTSの違いは何ですか。
G3 5 ★国内の既存事例を体系化するにはどうするべきか。
G3 5 SciTSの意識を普及するにはどうすればよいか。
G2 3 SciTSの成果としてみんなが納得する成果を,みんなが納得できる科学的な方法で得ることができるか。
G1 2 日本で誰に参加してもらいたいか。
G2 2 異なる分野の人がチームに入るとき,どのような点が難しくて,どのような配慮が必要か。
G3 2 SciTSを主に扱う(基礎研究)セクターはどこなのか。
G1 1 チームサイエンスが一番期待される分野は何か。

★のついている質問は最終的に各グループがアクションプラン作成に用いたもの

4. 参加者アンケートの結果

参加者7名(男性)からアンケートの回答を回収できた。年齢は,20代1名,30代4名,40代1名,50代1名。業種は,大学4名,公的研究機関1名,公的助成機関1名,行政機関(中央省庁)1名。職種は調査研究3名,政策施策の立案施行2名,研究支援技能職1名,学生1名であった。

アンケートは3つのサブ概念,12項目の質問で構成した(2)。項目1~4では参加動機を,項目5~8では本ワークショップに対する評価を,項目9~12ではSciTSの日本推進に対する考えを尋ねた。総じて,ハテナソンの手法の有効性,SciTSの日本推進に対してポジティブな認識が示された。また回答者全員から,今後の新しい案内等を希望する回答があった。

表2 参加者アンケートの集計結果
サブ概念 質問項目 回答数
はい どちらとも
いえない
いいえ
参加動機 1)ハテナソンに関心があって参加した。 3 4 0
2)SciTSに関心があって参加した。 6 1 0
3)SciTSを以前から知っていた。 5 0 2
4)SciTSが扱う課題に以前から関心があった。 4 1 2
ワークショップに対する評価 5)ワークショップは有意義であった。 7 0 0
6)ハテナソンはおもしろかった。 6 1 0
7)ハテナソンは問題抽出に役に立つ。 7 0 0
8)SciTSに対する理解が深まった。 6 1 0
SciTSの日本推進に対する考え 9)日本はSciTSを科学技術政策の重要な柱として推進すべき。 6 1 0
10)SciTSは日本が早急に取り組むべき課題ではない。 1 1 5
11)日本におけるSciTSの推進に貢献したい。 7 0 0
12)SciTSを考えるハテナソンがあれば,次回も参加したい。 7 0 0

項目10は逆転項目である。

5. おわりに

古くからある諸問題・課題(たとえば研究不正)に対して,それまでになかった新しい枠組みや概念(たとえば研究倫理)がつくられ,また,それらが共有されることで,当事者意識をもつ人が増え,解決やイノベーションが実現することを私たちはこれまでに数多く経験してきている。SciTSで扱われる課題自体は古くから課題として認識されているものが多い。そこへSciTSという新しい概念が形成されたことで,米国ではそれ以前とは異なるアプローチや議論が発展してきた。日本では,SciTSが扱う課題に対する問題意識が高い。しかしながら,誰が主体となってその課題に取り組むのかが不明瞭である。また,研究者のエンパワーメントを通じての横断的・実証的・応用的な取り組み,という視点もまだみられない。SciTSに関する質問を収集・抽出した今回のハテナソンは,研究者や政策立案者のコミュニティーに対してSciTSを紹介すること,各分野に分散しているSciTSの関連者や知見を顕在化・ネットワーキング化させること,SciTSに関する議論や推進を引き起こすことに有効であることが示された。

2018年1月,科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)と任意団体チームサイエンスコモンズの共催で,今回に続く第2回のハテナソンを実施した。「SciTSの日本での推進×ハテナソン」は今後も継続的に開催し,より多様な関係者を巻き込みながら,日本におけるチームサイエンスのエビデンスを蓄積していきたいと考えている。関心ある方はぜひご参加いただきたい。

(科学技術振興機構 王戈,京都産業大学/ハテナソン共創ラボ 佐藤賢一,総合地球環境学研究所 近藤康久,関東短期大学 松尾由美)

本文の注
注1)  研究・イノベーション学会 第32回年次学術大会:http://jsrpim.jp/wp/?cat=4

注2)  第1回「How to学際融合」を開催しました:http://www.icems.kyoto-u.ac.jp/j/pr/2014/03/01-tp.html

参考文献
  • 1)  王戈, 松尾由美, 佐藤賢一. “チームサイエンスの科学に関する動向調査”. 研究・イノベーション学会 第32回学術大会講演要旨集, 京都, 2017-10-28/29, p. 635-639.
  • 2)  Koch, Christof; Jones, Allan. Big Science, Team Science, and Open Science for Neuroscience. Neuron. 2016, vol. 92, iss. 3, p. 612-616. http://www.cell.com/neuron/pdf/S0896-6273(16)30720-6.pdf, (accessed 2017-12-18).
  • 3)  木村成介, 佐藤賢一. 自ら問い,自ら考えるハテナソンによる実験授業の活性化と学びの深化. 京都産業大学教職研究紀要. 2017, vol. 12, p. 43-86.
 
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