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視点 女性研究者のリアル:その3 「輝く」ために断る勇気
坊農 真弓
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2018 年 60 巻 12 号 p. 891-893

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女性枠の仕事

2018年の抱負を「勇気をもって断る」に決めた。今後いろいろと仕事をお願いされても,「それは私にしかできない仕事か」「他の人にもできそうか」を判断し,断るという意味だ。これまで私はさまざまな仕事や依頼を「こんな私にご依頼いただくなんて光栄」「私が引き受けて女性の生きやすさが向上するならやるべき」と積極的に引き受けてきた。しかし,最近それらの仕事量の多さにどうも首が回らなくなってきた。おかげで本原稿も何度も締め切りを延ばしてもらい,最後の最後の締め切りの寸前にインフルエンザになりながら書いている。

実際に,私が女性ということで回ってくる仕事や依頼はたくさんある。これまでは男性ばかりのラインアップで進めていた情報系イベントの登壇者や,理系学会の理事や運営委員,何かの審査委員,挙げだしたらキリがない。どれも私のような若輩者に回ってくる類いの仕事ではない。これらは私が女性であるからこそいただいている「輝く」ためのチャンスである。

「輝く」というのは安倍政権のことばである。安倍政権は「すべての女性が輝く社会づくり」をうたっている。日本の大学や研究所はいま,女性教員の比率を上げるためにさまざまな策を講じている。近年その成果が表れてきており,これまで男性ばかりが名を連ねていた会議に女性が参加するようになったり,そこで女性が発言することも珍しくなくなってきた。

女性は輝けているか

しかしどうだろう。女性はそれらの準備された枠組みの中で十分輝けているだろうか。もちろん輝いている方はたくさんいらっしゃる。しかし,どこか無理しているような,十分能力を発揮しきれていないような,そんな雰囲気をまとって仕事されている方がいるような気がする。かくいう私もその一人だ。実は私は,いま与えられている仕事や依頼に対し,「女性の頭数調整で呼ばれたんだろう」とどこかうがった見方をしてしまっており,十分に自分の力を発揮できず,日々後悔している。

たとえば,いまの理系学会は,歴代の理事や運営委員により長い時間をかけてつくり上げられてきた。そうしたこれまでの鍛錬が昨今の社会を巻き込んだAIブームにも怯(ひる)まず,学会としてゆるぎなくその存在価値を示すことに成功している。しかしどうだろう。近年その末席に加えられた女性はそこで十分輝いているだろうか。日本では学会も組織も社会それ自体も男性中心につくり上げられてきた(もちろん,その中で男女関係なく素晴らしい活躍をされてきた女性もいらっしゃるが)。男性が考え,男性が適宜微調整を加えてよりよくしてきた集まりに,女性が輝く隙はあまり準備されていないように思う。

男女共同参画は,男性がつくり上げた社会に女性を引き入れる試みである。共同参画といいながら,参画する対象が男性色に染まりきっている場合,女性は苦労を強いられることになる。

人工知能学会表紙問題

2013年秋,人工知能学会編集委員を任された。年の瀬,初めて出席した編集委員会では翌2014年1月号に掲載する学会誌の表紙について議論されていた。クラウドソーシングで選ばれた,どことなくうつろな表情をした女性がケーブルにつながれ,箒(ほうき)を持ってこちらを見ているイラストだ。描画のタッチも優しくどこかノスタルジックで,ロボット掃除機が進化したら,アンドロイド掃除機になるといった未来的な発想も感じられ,編集委員会ではほぼ決定の雰囲気が漂っていた。そこで編集委員長が一言,「坊農さん,今日この委員会に出席している女性はあなただけです。表紙について思うところを述べてもらえますか」とおっしゃった。私はそのイラストに投票はしていなかったが,「多くの票を集めたそのイラストが,いまのそして未来の人工知能を表すものとしてみなさんが見るなら,それが答えなんだと思います」と答えた。

アトムに憧れ,ロボット作りを夢見てきた少年の集まりのような人工知能学会の男性会員が,その表紙を選ぶのは自然な流れだと私は思ったのだ。

そして,ご存じの方も多いかもしれないが,表紙は公開と同時に大炎上する。私は大炎上後の3月号から「表紙担当」を任され,火消し作業に関わった。結果として,女性の視点でその後5冊の表紙をデザインすることになった注1)

これは「男性社会において女性が進める隙間仕事」としては,比較的成功した方ではないかと思う。大炎上後は1月号に掲載されたアンドロイドが女性研究者の夢の実現形であるというストーリーラインを作り,子どもをもつ女性研究者の想いを伝えることを試みた。

女性が活躍する文系学会と企業気質の理系学会

私の主戦場は文系学会である。学生の頃から文系学会で発表し,叱咤(しった)激励を受け,研究力を培ってきた。しかしよく考えてみると,文系学会から女性枠の仕事をいただいたことはこれまで一度もない。仕事をいただいたことがないという意味ではない。仕事を依頼されたとしても「女性だから」という依頼ではないのだ。たとえば,私が所属する文系学会は女性が会長を務めていたり,重要なポストについていたりする。招待講演者3名が全員女性ということもざらで,むしろ男性枠をつくらなければ不公平という状況にもみえてくるから面白い。女性という要素はここでは何の役にも立たない。実力や発言力があれば,運営委員や理事に仕事が回ってくる。

ではなぜ,理系学会は男性が率いていることが多いのであろうか。先日私が理事(会誌・出版担当)を務めている情報処理学会の会誌の女性編集委員と集まる機会があった。女性編集委員の間で回していた女性によるコラムをこの3月でいったん終わりにするということで,執筆者何人かで最後に集まって座談会を開いたのだ注2)。そこで出た発言で一番驚いたのは,日本の理系学会は企業気質が強いということだった。日本の企業はいうまでもなく,男性中心で形づくられてきた。「24時間戦えますか」の理念に基づいて動く企業気質の理系学会に,家事育児の両立を前提条件とする女性が入っていくのは至難の業である。

男性はソト,女性はウチ

では,日本の企業から改めればいいのか。いや,問題はもっと広く,日本において男女関係なく多くの人にもたれている「男性はソト,女性はウチ」の価値観を根本的に改めなければならない。高度成長期,男性がバリバリ外で働いて,女性が家事・育児を担当して家を守ることが最も効率がよく,合理的だった。しかし,どうだろう。いまの日本は高度成長期,バブルを経験し,世界でもまれな超高齢社会に突入した。安倍政権が掲げる「すべての女性が輝く社会づくり」は明らかに労働力の確保が主たる目的であると思う。いままさに家事・育児・介護・労働すべてが女性の肩に重くのしかかりつつある。これでは女性は輝くどころか,疲弊してしまうことは目にみえている。では,どうしたらいいのか。女性を輝かせるには,女性に重要なポジションを渡すだけではなく,その仕事を全うできるような社会環境を提供することである。保育園やベビーシッターを多くの人が気軽に使える社会,育児をする男性がイクメンなどという特別なことばで呼ばれずに普通に闊歩(かっぽ)している社会,そういった社会の構築がセットでなければならない。

輝くために断る勇気

というわけで私は,今年はどんどん断ることにした。私に期待してくださっている方々の気持ちは大変ありがたいが,それらの仕事や依頼をすべて引き受けていては私自身の幸せが遠のいてしまう。家事・育児・介護に関する社会環境が整っていないうちに仕事や依頼を引き受けてしまうと,結局自分自身や自分の家族にしわ寄せがいく。もちろん,仕事や依頼を受けることで社会からより注目され,いまよりもっと輝くことができるだろう。しかし,男性中心社会の中で準備された枠組みの中でいくら輝いても,女性である私は男性のように働くことはできず,やはり疲弊してしまう。女性である私たちが自ら築き上げた新しい枠組みの中で,自分自身を輝かせてみたくなった。第一線で活躍する男性とは別のやり方で,女性にしかできない出産も経験しながら,社会に認められる仕事をしてみたい。

輝くために断る勇気は私の夢や理想につながっている。これからもしかしたら何らかのお誘いをいただいてもお断りしてしまうことがあるかもしれない。そのときはどうか,気長に私たち女性の成長を見守っていただきたいと思う。

執筆者略歴

  • 坊農 真弓(ぼうのう まゆみ)

2005年神戸大学大学院 総合人間科学研究科博士課程修了。 ATRメディア情報科学研究所研究員,京都大学大学院 情報学研究科研究員,日本学術振興会特別研究員(PD),米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校 CLIC客員ポスドク研究員,米国テキサス大学オースティン校 文化人類学部客員研究員を経て,2009年より国立情報学研究所・総合研究大学院大学助教。2014年より同准教授。2016年4月~2017年3月オランダ・マックスプランク心理言語学研究所 言語と認知グループ客員准教授。2017年8月より文部科学省研究振興局学術調査官(兼任)。多人数インタラクション研究および手話相互行為研究に従事。情報処理学会理事。社会言語科学会,日本認知科学会,日本手話学会,人工知能学会,各会員。博士(学術)。受賞:2015年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞,他多数。

本文の注
注1)  詳細は,坊農真弓(2015)「表紙に込めたメッセージ:女性とAI」特集:「編集委員会企画:社会とAIの羅針盤2015」『人工知能』vol. 30, no. 1

注2)  詳細は,加藤由花ほか「会誌編集委員会女子部:座談会 ~私たち,いったん解散します!~」『情報処理』vol. 59, no. 3, p. 250-253.

 
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