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図書紹介
図書紹介 『病院図書館の世界:医学情報の進歩と現場のはざまで』
和気 たか子
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2017 年 60 巻 3 号 p. 211

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  • 図書館サポートフォーラムシリーズ 『病院図書館の世界:医学情報の進歩と現場のはざまで』
  • 奥出麻里著
  • 日外アソシエーツ,2017年,四六判,186p.,2,700円(税別)
  • ISBN 978-4-8169-2649-5

「ご職業は?」と聞かれ「病院の図書室で働いています」と答えると「えっ?」と言われとても長い説明をすることがよくある。故に筆者と同じ道を歩んで来た仲間や先輩・後輩たちが待ち望んでいたのが本書なのである。誰かが書かなければと思っていた同業者たちは出版されることを知り予約し,入手し,ワクワク,ドキドキ,相づちを打ちながら読破したと聞く。これでは身内だけが読めばいいと勘違いされてしまうが,本当に読んでほしいのは病院図書室を取り巻く「病院界」「図書館界」さらに心ならずも家族を含め患者さんになるかもしれない市民の皆さまである。

病院の図書館司書は親機関の病院職員の一員として,医療スタッフを通して患者さんの診療を支えていると自負しているが,院内で理解してもらうには努力が必要だ。著者は持ち前の明るさと勤勉さでそのハードルを跳び越えてきた。図書室の引っ越しのたびに,スペース的にも物理的にも時代に合ったものに作り上げていったことが証明している。「明るさ」といえば,著者にお会いするといつも笑顔でこちらまで元気が出るのはなぜだろうと思っていたが,154ページを読んで納得した。

病院図書館は患者さんのためにあり,(中略)さらに病院のスタッフ(中略)にサービスする必要があります。それぞれに合った医学情報の提供はもちろんですが,毎日忙しく働く皆さんには癒やしの空間も必要です。図書館に来たくなるような場所の提供です。何が一番大切かと問われれば,私は一番に「笑顔」と答えます。「笑顔であいさつ」です。それからやっと「専門性」が問われると思っています

著者の武器は「笑顔」だったのだ。

図書館界では病院図書館の知名度はどのくらいあるのだろうか。異館種図書館の集まりでも説明を要することがある。これからは本書を読んでくださいと答えたいと思う。さらに司書を目指している方々にも病院図書館という世界を知ってもらうのに最良の書といえるだろう。

本書はワンパーソンライブラリーのメリットを十分に発揮し「手作業→パソコン→インターネット→電子ジャーナル」と変化した時代の先頭に立って突き進んだ著者の軌跡である。一人というのは責任も伴うけど一人で決めて一人で実行できる。今,何がトレンドでそれが自分の図書館に必要か,自分の判断だけで進めることができる。決定までが短時間ですむ。著者は実現のため職場内にとどまらず,院外にも助け合える仲間を大勢つくっていた。人的コミュニケーションの輪を広げていったのだ。その様子は第6章の「ホスピタル・ライブラリアンシップ」に書かれている。

最近では病院図書館が患者さん(市民)への医療情報の提供サービスをするところも増えてきた。著者もこのサービスに触れている。本書を一般の市民の皆さまにも読んでもらい,医療情報を入手できる図書館が設置されている病院もあることを知ってほしいと思う。

病院図書館の世界を詳細に時代を追って書くことができたのは,著者が就職から退職の日まで書き続けた173冊の業務日誌の存在があったことを最後に付け加えたいと思う。

(藤沢市民病院図書室 和気たか子)

 
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