2017 年 60 巻 4 号 p. 229-239
現在,大型トラックによる自動運転隊列走行システムや一般道での完全自動運転を目指した技術開発が行われている。本稿では現在国内外で研究開発されている自動運転車の現状を紹介するとともに,近年目覚ましい技術進化を遂げているディープラーニング等のAI技術や3次元デジタル道路地図とセンシング技術を融合したローカルダイナミックマッピング技術等の技術開発動向について,前回の執筆から2年以上が経過したため,2017年4月現在の最新情報を取りまとめた。
2020年代早期の実用化を目指して,完全自動運転車の取り組みが自動車メーカーやIT企業を中心に進められている。自動運転はドライバーの認知・判断・操作を制御システムに置き換えるもので,これまでの安全運転支援システム(ADAS: Advanced Driver Assistance System)注1)とは質的に全く異なり,道路交通システムのパラダイムを変えるものとして,自動車産業界はもとよりサービス事業界や輸送事業界の熱い注目を集めている。
現在,自動車メーカーに加え,Google社やUber社等のIT企業やベンチャー企業が実用化に取り組んでいる他,わが国では,内閣府(戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)自動走行)や国土交通省,経済産業省が自動運転の研究開発事業を推進している。本稿では最近の自動運転車の開発を紹介するとともに実用化に向けた技術開発の取り組みについて紹介する。
現在,レベル3(表1)以上の自動運転車の実用化を目指し,さまざまな自動運転車の開発が進められている。これまで自動運転車の研究開発は主に乗用車を中心に進められてきたが,現在,超小型EV(Electric Vehicle:電気自動車)や,ハンドルやブレーキペダルをもたない小型EVバス,また大型バスやトラックの自動運転車など,さまざまな種類の自動運転車が開発されている。
表2にすでに実用化された自動運転車を含む,開発中の各分野の自動運転車を示す。
通称「Last One Mile」注2)と呼ばれる,ハンドルもブレーキペダルもない短距離移動を目的とした小型EVバスがNAVYA社(フランス)やEasyMile社(フランス)から製品化されている。
図1にNAVYA社にて実用化された初期段階のラストワンマイル車の自動運転システム構成を示す。
車両の4隅にIBEO社のレーザーレンジファインダー(ライダー)注3)と前後にステレオカメラが搭載されており,周辺360度に存在する障害物を検出できる。乗客が目的地を設定すると,あらかじめ設定された走行ルートに沿って自動走行を行う。
NAVYA社およびEasyMile社の自動運転バスはすでに実用化されているが,ジュネーブ(スイス)およびウィーン(オーストリア)道路交通国際条約上,公道での走行は承認されていないため,主に施設内等の公道以外の走行空間にて運行されている。わが国においては千葉県幕張にある大型商業施設内の専用空間内にて,試験運用が行われた。
バス停での正着注4)を行うための自動操舵(そうだ)制御システムが,路線バスですでに実用化されている。図2にフランス・ルーアン市内を走行する正着制御機能をもつバスを示す。このバスにはSiemens社で製品化されたオプティカル・ガイダンスシステムが搭載されており,バス停に近づくと,ドライバーの手動運転からオプティカル・ガイダンスによる自動操舵制御に自動的に切り替わる。
バス停付近の走行路中央には2本の破線状の白線マーカーが敷設されており,バスのフロント部に設置されたカメラ画像によりバスと白線マーカーの横偏差(白線と前輪タイヤ間の距離)を検出して,自動操舵が行われる。正着距離(バス停縁石端部とバスの乗降扉の離隔距離)は図3に示されるように約5.0cmである。これにより介護者なしでも容易に車いすでの乗降が実現されている。
Daimler社にてバス専用道を走行できる自動運転路線バスが開発されている。バスには複数個のカメラが搭載されており,走行路上の白線を認識しながら自動運転される。
また国内の例として,先進モビリティ社が開発中の小型自動運転バス(図4)とそのセンシングシステム構成を図5に示す。この小型自動運転バスは完全自動運転を目指して開発されており,車両前部には3個の近距離用レーザーレンジファインダー(前方近距離3D Lidar)と1個のレーザーレンジファインダー(前方遠距離Lidar),また側方部,後方部にもレーザーレンジファインダーが搭載されており,周辺360度の障害物認識を行っている。
先進モビリティ社が開発中の小型自動運転バスを用いて,2017年3月20日~4月2日に沖縄南城市の一般公道にて内閣府主催による日本で初めての「公共バス向けの自動運転実証実験」が行われた。自動運転バスは最高時速35kmで走行し,あらかじめ決められた走行ルートに沿って走行するようハンドルが自動制御されるが,前方の路肩駐車の車両を検出した場合,自動的に車線変更制御される(図4)。
車間距離を近接して走行させることにより,走行空気抵抗を低減し燃費向上を実現する,自動運転隊列走行1)が国内外において開発されている。わが国では2008~2013年にNEDO(New Energy and Industrial Technology Development Organization:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が15%の省エネ化を目指して,大型トラック3台と小型トラック1台による4台隊列走行システム2)を開発し,車間距離4mでの走行実験を行っている。図6にNEDOにて開発された隊列走行システムの構成を示す。
隊列走行を実現するうえでの重要技術は,CACC(Cooperative Adaptive Cruise Control)と呼ばれる車車間通信3)を用いた車間距離制御技術である。
レーダー等を用いて前方を走行する車両と自車との車間距離を速度に応じた安全な車間距離に保持するACC(Adaptive Cruise Control)は,すでに実用化され多くの車両に搭載されているが,前方車両が急ブレーキをかけた場合の安全性はドライバーに任されている。車間距離情報だけの制御では,前方車の減速度の発生開始から車間距離に変化が表れるまでには大きな遅れ時間が発生するとともに,自車の減速が発生するまでに遅れがあるため,衝突を防止するには長い車間距離が必要となる。
一方CACCでは,前方車両の速度情報や加速度情報を車車間通信を用いて後続車に伝送し,先頭車の急制動時における車間距離制御性を大幅に向上している。図7にCACCのシステム構成図を示す。
先頭車の速度や加減速度が0.02秒ごとに後続車に送信され,車間距離を一定にするため後続車の速度は常に先頭車と同じ速度になるよう制御されるとともに,速度制御誤差により発生する車間距離誤差が車間距離センサーからの情報を基に補正される(図8)。
トラック隊列走行システムはNEDOの他,米国カリフォルニア交通研究所のPATHや,ドイツのアーヘン工科大学でも同様な開発が行われた。
自動運転レベル1で操舵制御を行わない,CACCのみによる隊列走行の実用化・商用化に向けた動きが欧州および米国にみられる。欧州では,Daimler社やScania社,VOLVO社など欧州のトラックメーカー6社が参加した,「European Truck Platooning Challenge 2016」と呼ばれるCACC隊列走行実証実験が2015~2016年に実施され,欧州各地から各社がオランダ・アムステルダムに向け,2~3台の隊列走行をする実証実験が行われた。各トラックの自動運転レベルはレベル1で走行速度や車間距離は通行する国ごとに変化するが,おおよそ時速60kmで車間距離10m程度である。European Truck Platooning Challengeでは車車間通信として日本のDSRC(Dedicated Short Range Communication)方式とは異なり,携帯系通信を利用した車車間通信が使用された。図9にScania社の隊列走行車を示す。
この他,同様のプロジェクトとして,「COMPANION(Cooperative dynamic formation of platoons for safe and energy-optimized goods transportation)」と呼ばれる自動運転レベル1のCACC隊列走行実験がScania社を中心に実施されている。一方米国では,Peloton社がCACC隊列走行による輸送サービスの商用化を目指して開発を行っている。図10にPeloton社のCACC隊列走行車のシステム構成を示す。このシステムでは欧州の隊列走行と同様,車間距離と速度が自動制御されている。Peloton社のCACC隊列では車車間通信として5.9GHzのDSRC方式車車間通信方式が使用されている。また隊列内の車間距離センサーとして,77GHzのミリ波レーダーが使用されている。
大型トラックによる隊列走行の他,SARTRE(Safe Road Trains for Environment)と呼ばれるトラックと乗用車混在の隊列走行も,VOLVO社により開発されている。この隊列走行の特徴は手動運転された先頭の大型トラックを,自動運転のトラックや乗用車が自動追尾するもので,隊列内の車間距離は数m程度に制御される。自動運転車の操舵は白線認識ではなく,先行車両と自車との横方向のずれをステレオカメラとレーザーレーダーで認識して制御する。
2.4 乗用車における自動運転開発日米欧の自動車メーカーが2020年までの自動運転車の実用化を目指し開発を行っている。乗用車での自動運転車開発はGoogle社が2012年ごろまで先行していたが,現在多くの自動車メーカーで自動運転レベル2あるいはレベル3による高速道路での自動運転の実用化を目指し,研究開発が行われている。
自動運転車の自動運転レベルは国内外の機関にて4段階または5段階に分けられているが,レベル3(表1)以上の自動運転車では走行環境認識をシステム側で行う必要がある。センシング技術や情報処理技術において技術革新が求められ,日,米,および欧州において技術開発が進められている。
3.2 自動運転化の重要技術レベル3以上の自動運転を実現するうえで,現在の運転支援システムでは求められない新しいセンシング技術やインテリジェントな制御技術が必要になる。特に重要と考えられているのが,車両の走行位置を高精度に検出するローカリゼーション(走行位置標定)技術と,ローカリゼーションを利用した障害物認識技術である。
図11に現在研究されているローカリゼーション技術と車線維持制御の動向を示す。
運転支援システムでは,車線維持制御にこれまで道路区画白線画像4)を利用してきたが,雨天や降雪等さまざまな自然環境においても動作することが求められる自動運転において,カメラ画像による白線認識では要求される信頼性を実現するのは困難である。このため,高精度な測位が可能であるRTK-GPS注5)やレーザーレンジファインダーの点群データから特徴点を抽出して位置検出を行う方法が研究されている。
図12にレーザーレンジファインダーの事例を示す。図12はレーザーレンジファインダーをスキャニングしながら道路走行して,走行位置ごとにレンジファインダーから得られた水平・垂直の2次元面ごとに距離情報を図化したもので,これが車の進行位置ごとに地図データとしてあらかじめ記録されている。この走行位置ごとの2元面の距離データと自車に搭載されたレーザーレンジファインダーのデータを比較して,自車の走行位置を検出する。
公道における非常に複雑なシーンにおいて自動運転を行うには,交通信号や道路標識,電柱,ガードレール等の構造物と道路および道路上の自動車や歩行者,自転車等を区別するとともに,道路上の物体がどの方向に移動しているかを認識することが求められる。
現状,画像センサーやミリ波レーダー,レーザーレンジファインダー等のセンサー単独で複雑な環境認識をすることは困難なため,これらのセンサーを複数用いて認識性能を向上するセンサーフュージョン技術が開発されているが,これらを完全に区別することは困難である。そこでセンサーによる物体までの距離情報と高度化された道路地図を組み合わせた「ローカルダイナミックマッピング」と呼ばれる距離センサーと地図のフュージョン技術により,この問題を解決する技術が開発されている。
このローカルダイナミックマッピングの概念を図13に示す。
GPSからの位置情報により,電柱や信号機等の道路構造物情報をもつ周辺の詳細道路地図情報が算出される。同時に車載の3次元レーザーレンジファインダー(3D Lidar)より物体までの3次元距離が検出される。
センサーからの3D距離データと道路地図をリアルタイムに合成することにより,レーザーレンジファインダーにて検出された物体が道路構造物か道路上の物体かどうかが正確に区別される。
上記に示すようにローカルダイナミックマッピングには2次元面における距離データが必要である。レーザー光を用いた既存のレーザーレンジセンサーでは2次元面の距離を検出するため,レーザー光はポリゴンミラーと呼ばれる回転ミラーを用いて水平方向および垂直方向にスキャニングされるが,垂直方向のスキャニング分解能が粗いため,自動運転用レーザーレンジセンサーでは垂直分解能の高い新しいレーザーレンジセンサーが必要となる。
3.2.4 画像認識による障害物認識自動運転において,レーザーレンジファインダーによる障害物認識が耐環境性に優れている等の理由で主流となっているが,一方で「ディープラーニング」と呼ばれている深層型ニューラルネットによる学習により物体識別を行う研究が進められている。
レーザーレンジファインダーでは点群データ数が少ないため,遠方に存在する物体の形状認識が困難である。一方カメラ画像はレーザーレンジファインダーと比較し,情報量が100倍以上多いため,物体の形状認識が可能である。「ディープラーニング」では歩行者や乗用車,トラックやバス,二輪車のパターン等を学習させることにより障害物の種類判別が可能となる。
図14は歩行者,乗用車が混在した画像でディープラーニングにて認識した結果を示す。
図14に示されるように,歩行者と車両が分離されて認識されている。また電柱は学習せず,人だけを学習させた場合,人が電柱と並んで立っているシーンでも,ディープラーニングは正確に人間だけを認識する。このようにディープラーニングは環境条件ではかなりの認識率をもつが,もちろん誤認識や未検出が発生する場合があるため,レーザーレンジファインダーとディープラーニングのフュージョンによる障害物認識の認識率向上が自動運転には求められると思われる。
自動運転レベル3以上のシステムでは制御システムが故障した場合,危険な状態になる可能性が高いため,極めて信頼性の高いシステムを構築する必要がある。自動車の機能安全規格としてISO26262にてASIL A~D注6)が定められており,レベル3以上の自動運転にはASIL Dが求められると考えられる。このため自動運転には機器の高信頼化のみならず制御装置の冗長化やフェイルセーフ化が必要になると思われる。
4.2 自動運転のアーキテクチャー安全運転支援システムはドライバーの全運転タスクの一部を担うものであるため,個々の制御システム規模は比較的小さいものである。それに対し,自動運転システムはドライバーに代わり全運転タスクのほとんどを担う必要があり,ローカルダイナミックマッピングや目標走行軌跡生成,環境理解や危険判断等の人工知能機能等,高度な情報処理機能が求められる。
また制御的にも,横方向と縦方向制御が絡み合う非常に複雑なシステムである。したがってすべての入力情報を基に1つのソフトウェアで処理する集中制御方式で自動運転システムを構築した場合,システム変更に対する自由度や,システムの安全性・信頼性の検証が非常に複雑になるとともにバグ発生の要因にもなるなどの問題がある。
したがって,自動運転システムを構成する場合,分散型制御方式が好ましいといえる。
自動運転は認知機能,判断機能,操作機能で構成されることを考えると,自動運転のシステムアーキテクチャーもこの考えで設計されるのが合理的であり,この考えに基づいて筆者により設計された自動運転のシステムアーキテクチャーの一事例を図15に示す。詳しくは,筆者の前回の記事5)を参照されたい。
自動運転車の開発にはテストコースでの性能や安全性の他,さまざまな走行環境変化に対する評価が必要となり,どうしても公道での走行実験が必要である。
海外では公道での自動運転実験が広く実施されている。しかし,わが国では最近まで公道での実験が限定されていたが,現在では警察庁の「自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン」注7)に準じていれば,公道実験が可能な環境となっており,多くの公道実験が行われている。
一方,法令面でも,自動運転の承認に向けた検討がなされている。具体的には2015年11月12日付のGoogle社から米国DOTへのAIによる自動運転に関する質問状に対して,NHTSA(National Highway Traffic Safety Administration:米国運輸省道路交通安全局)より2016年2月4日付で,「AIは運転者とみなせる」旨の回答書が出され,完全自動運転の認可に向けた可能性が示された。またわが国では2017年4月13日に警察庁が「遠隔操作で走る自動運転車について,新たに定めた道路使用許可の審査基準を満たせば公道での実証実験を許可する」ことを発表している。
5.2 日本における自動運転政策動向内閣官房において自動運転の実用化に向けたロードマップが策定されている。図16は未来投資会議に提出された自動運転のロードマップを示す6)。このロードマップでは2020年に実施する公道での完全自動運転の実証実験に向けて,制度や法令の見直し検討が行われる予定である。
また内閣府においてSIPと呼ばれる官民連携の自動走行開発プロジェクトが進められている7)。SIPでは自動走行を実現するために必要となる3次元地図等の基盤技術やART(Advanced Rapid Transit)と呼ばれる次世代バスの技術開発が行われている(図17)。
現在,公道での完全自動運転の実現に向けて,官民の協力体制の下,技術開発や制度の見直しが進められており,2020年での実証実験の成功をステップとして,2020年代での実用化を目指し,今後一層の技術開発の推進が期待されている。
1971年トヨタ自動車入社。同社研究部にて米国運輸省の「I-15 自動運転PJ」用の自動運転車の開発を担当後,同社IT・ITS企画部にて「愛・地球博」用自動運転バス「トヨタIMTS」の開発を担当。2008年,日本自動車研究所に出向するとともに,NEDO「エネルギーITS推進事業」の自動運転・隊列走行技術の開発を担当。2014年,先進モビリティ(株)代表取締役に就任。