最近読んだ小説の中に「トウチョウ」の意味を取り違える会話が出てきました。「盗聴」の会話に後から加わった人が,昔はよくやったものだと話します。「登頂」と勘違いしたのです。驚いた相手が,警察の世話になったのではと聞くと,遭難を連想した「登頂」の人は,そんなヘマはしないと答えて会話が成り立ってしまいます。「登頂」の人の口から「登山部」という言葉が出て初めて,誤解が明らかになるという話です。
それで思い出したのが,Mの話です。STM分野といえば,今も昔も科学・技術・医学(Science, Technology and Medicine)分野を指します。国際STM出版社協会はInternational Association of Scientific, Technical & Medical Publishers。STMのMといえば医学,それが常識だと思っていました。文献情報の世界で化学と並んで取り組みが進んでいた医学がSTMのMなのは納得がいきます。
STMにEの加わったSTEMに出会ったとき,このMも医学だと思ったのです。ところがこのMは数学でした。STEMは,Science, Technology, Engineering and Mathematics。STEM教育は人材育成の問題を解く鍵ともいわれ,単に分野を示す略語ではなく現実の課題を解決するために数学と科学を活用するアプローチといった説明もありました。
人材育成・教育の世界でSTEMのMが医学でなく数学なのは,米国における医学教育が学部卒業生を対象とする,日本でいえば大学院教育にあたることとも関係しているのではないでしょうか。大学進学にあたり医学部を選ぶという選択はないのですから,教育につながるそのMは医学ではなく数学。G7伊勢志摩サミットの「STEM分野で輝く女性の未来」のMも数学です。ちなみに,STEMに続く流れとして,STEAMがあり,AはArt+Designだそうです。
弊誌を案内するJIPSTIのサイトではSTI Updates(ニュース)を流しています。STIのIはInformationからInnovationに変わりました。イノベーションの創出につながる科学技術振興の基盤整備を意識しつつ編んでいます。的確に伝わるよう祈りつつ。(KM)