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展望
展望 国立国会図書館の役割
羽入 佐和子
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2017 年 60 巻 5 号 p. 297-298

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2016年4月国立国会図書館に着任して最初に行ったことの一つが職員との懇談です。これは,それまで身を置いていた教育研究の場とは異なる未知の職場の雰囲気や職員の発想に少しでも触れたいと考えてのことでした。5月末からすべての職階の職員ほぼ500名と50回ほどにわたって懇談し,さまざまな発見がありましたが,中でも,多くの職員が,共通のコンセプトをもって組織全体として同じ方向を目指す必要がある,と考えていたのは印象的でした。

そのことがきっかけとなり,そのコンセプトとして「ユニバーサル・アクセス」に至りました。

「ユニバーサル・アクセス」

国立国会図書館は,国会法に基づいて国会に設置された組織です。

国会法第130条には「議員の調査研究に資するため,別に定める法律により,国会に国立国会図書館を置く」とあり,その目的は国立国会図書館法によって次のように定められています。

「国立国会図書館は,図書及びその他の図書館資料を蒐集し,国会議員の職務の遂行に資するとともに,行政及び司法の各部門に対し,更に日本国民に対し,この法律に規定する図書館奉仕を提供することを目的とする」(第2条)

この目的を遂行するためには,資料の在り方においても利用の仕方の点でも,空間や時間の制約を超える環境が必要です。そこで,図書館資料に対してユニバーサルにアクセス可能な図書館を目指すためのコンセプトを「ユニバーサル・アクセス」としました。

2017年度に開始した新たな中期計画は,中期ビジョン「ユニバーサル・アクセス2020」の下での計画です。

この計画では国立国会図書館の基本的な役割を,国会活動の補佐,資料・情報の収集・保存,情報資源の利用提供,の3要素に概括し,さらに,これらの役割を遂行するに当たって,利用環境,組織力,連携,情報発信という4つの観点から行動指針を定めました。また,「2020」と付したのは,来年2018年に国立国会図書館が設立70周年を迎えることから,今期は,これまでの活動を振り返り30年後の設立100周年を視野に入れて組織基盤を整備する時期と見なしているからです。

そして中期ビジョンは次のように結びました。

「国立国会図書館は,特に,現在と将来の全ての利用者に,目的にかなった情報資源へのアクセスを保証し,豊かな未来の創造に貢献することを期して,『ユニバーサル・アクセス2020』と名付け,これに取り組む」

資料のデジタル化

現在国立国会図書館が所蔵している最も古い資料としては,天平12(740)年の奥書が付され,一般に『五月一日経』と呼ばれる経典のうち3点があります。この資料はおよそ1,300年もの時を経て存在し続けていることになります。資料は存在する限り移動可能であり,空間を超えて利用可能でもあります。とはいえ,長い年月を経た資料は極めて慎重に取り扱われる必要があります。そこで,保存を優先させれば利用を制限せざるをえず,利用を優先すれば資料の恒久性が損なわれる可能性が増します。この点では資料の保存と利用には背反する側面があります。

資料のデジタル化はこの背反する状況を解消させる有効な手段です。デジタル情報はそれだけで時間と空間の制約を超え,また,万一原資料が失われてもその情報にアクセスすることが可能だからです。しかし課題もあります。

デジタル化に関しては,第一に,資料をデジタル化するシステムとデジタル情報を知覚化するためのシステムが常に必要だということ,そして第二に,それらは必ずしも恒久的ではなく,システムとともにデジタル情報を生かし続ける方策が必要になるという課題です。

さらに,国立国会図書館は,主に納本制度によって資料を収集しています。その意図は,国内の出版物を文化的資産として永久に保存し利用に供することにあります。したがって,デジタル化した原資料も保存しています。つまり,デジタル化によって時間と空間の制約を超えうる資料を提供しつつ,同時にデジタル環境を永続的に整備し,加えて原資料を保存し続けることになります。

国立国会図書館の蔵書規模は,図書,雑誌や新聞などの逐次刊行物,マイクロ資料,レコード,電子資料,地図,国内博士論文,文書類等で約4,266万点,デジタル化資料は約260万点です(2017年3月末現在)。さらに増え続ける資料も含めてその作業は膨大であり,考慮すべき課題が多くあるとしても,国立国会図書館の役割として,デジタル化をはじめ高度化する情報技術を駆使してユニバーサル・アクセスを高める必要があります。

「ジャパンサーチ(仮称)」とオープンサイエンス

それだけではなく,デジタル化を進めるとともにさらに2つの方向を目指しています。

第一に,国立国会図書館サーチ(NDL Search)はすでに「“知”のアクセスポイント」として多く利用されていますが,今後これをさらに充実させて,分野横断的なメタデータ検索の統合システム(「ジャパンサーチ(仮称)」)の構築に向けて取り組みたいと考えています。これによって,研究論文をはじめ各機関が蓄積しているデジタル文化資産の所在が明らかになり,アクセス可能性が高まることが期待できます。そして第二に,この取り組みがオープンサイエンスの推進に資することも期待しています。研究を加速させ,透明化し,新たな価値を創造するためのオープンサイエンスに対して,他機関と連携してその一翼を担うこともまたユニバーサル・アクセスの一様態と考えています。

これらを実現するためにも,立法府の組織としての使命を心に留めながら,今後いっそう関係諸機関との連携を深め協力しつつ,質的な変化の途上にある情報環境の中で国立国会図書館が新たな役割を担うことができるよう努めてまいりたいと思います。

執筆者略歴

  • 羽入 佐和子(はにゅう さわこ)

専門は哲学。1982年お茶の水女子大学大学院博士課程修了(学術博士)。1984年お茶の水女子大学講師。同助教授,教授,副学長兼附属図書館長を経て,2009~2014年度同大学長。2015年度理化学研究所理事。2016年4月から現職。

 
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