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超スマート社会(Society5.0)実現に向けて:CPS/IoTとその後
山田 直史高島 洋典木村 康則
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60 巻 (2017) 5 号 p. 325-334

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著者抄録

IoT(Internet of Things)とCPS(Cyber Physical Systems)は共に,物理的な世界とサイバー空間とを融合させることで,世の中に新しい価値を生み出す。本記事では,まず,IoTとCPSに関して,国内外の企業や政府等における具体的な事例を紹介する。次に,第5期科学技術基本計画において,その実践が提唱された「超スマート社会」(Society 5.0)と,その実現に向けたプラットフォームの概要について述べる。さらに,その基盤となる技術の体系化を行い,CRDS(研究開発戦略センター)が作成した研究開発の俯瞰報告書を踏まえて,今後の研究開発課題について述べる。

1. はじめに

今日,IoT(Internet of Things)という言葉を,専門誌だけでなくニュースや雑誌等でよく目にするようになった。また,IoTほど一般的ではないかもしれないが,CPS(Cyber Physical Systems)という言葉も,併せて普及してきている。

それぞれの言葉の出自は異なるが,今日的には両者は似た概念として用いられることが多い。共に,物理的な世界とサイバー空間とを融合させることで,世の中に新しい価値を生み出そうという技術や試みの総称としてとらえることができる。

科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)では,本誌の2015年2月号において,IoTとCPSについて解説記事を寄稿した1)。今回は,IoTとCPSに関する国内外の具体的な事例を紹介する。また,IoTが重要な鍵を握る超スマート社会,Society5.0を概観するとともに,その実現に向けた課題についてCRDSの「研究開発の俯瞰(ふかん)報告書 システム・情報科学技術分野(2017年)」2)からエッセンスを述べる。

2. CPS,IoTとは

近年,パソコンや携帯端末だけでなく,電化製品,自動車,産業用機械,医療機器など物理的なモノがインターネットに接続され,サイバー空間と物理世界との融合が進展している。こうした状況の下,CPSやIoTが生まれ,社会への普及拡大が進むとともに,それによって産業構造や社会の変革を起こしつつある。

CPSは物理世界のモノから得られるデータを基に,コンピューティングによる処理と物理的な制御を統合し,物理的なモノの制御最適化を行おうという技術である。小さな組み込みシステムから,自動車,航空機,さらには国レベルのインフラにまで適用される。また,一連の技術の対象としては人間から得られるデータも含まれる。

CPSは2000年代後半から,米国においてナショナルワーキンググループが幾度も開かれるなど,その効果が大きく注目されるようになってきた。2008年には,CPS Steering Groupによって「Cyber-Physical Systems executive summary」が取りまとめられ,CPSが産業や国に及ぼす影響の重大性が述べられている3)。その後,2009年にNSF(National Science Foundation:米国国立科学財団)を中心に本分野の研究開発への投資が開始され,2017年現在でも継続してファンディングが行われている。

一方,IoTは,もともとは1990年代,サプライチェーンにおけるRFID(Radio Frequency Identification)に関する新しいアイデアに対して,その当時流行し始めていた「インターネット」というキーワードを結びつけて作られた言葉といわれる4)。その当時の意味合いは薄れ,現在ではCPSと同様の概念として扱われることが多い。

IoTは電子機器,自動車などモノの状況をセンサーによってセンシングし,インターネットを介してそれらのデータを集約,分析し,その結果を基にモノやそれらを含むシステムの最適化を図ろうという概念をもつ。IoTはインターネットを中心としたオープンな環境を想定させるが,CPSはそれに加えて外部ネットワークに接続していない閉じたシステムも連想させる。

CPSやIoT(以下,CPS/IoT)によって,モノやモノが置かれている環境のデータが取得可能となる。これらのデータをネットワークを介して収集しデータセンターなどで分析することで,ある種の判断を下す情報を得ることができ,こうした根拠に基づいてモノに対する働きかけ(アクチュエーション)を行うことが可能となる。その対象領域は広がりをみせており,自動運転にも活用される自動車の制御や,水道や電力等の社会インフラの保守・運用,工場のスマート化,田畑の管理,医療・ヘルスケアに適用される。

さらにCPS/IoTは,既存産業の効率化や高度化に利用されるだけではなく,新しいビジネスモデルの創出や製造業のサービス化と呼ばれるような産業そのものの変革を促し社会に新たな価値を生み出している。

3. CPS/IoTの動向

CPS/IoTの適用により産業の変革を起こしている事例として,2012年の米国GE(General Electric)社のIndustrial Internet5)の取り組みが挙げられる。GE社は鉄道機器や航空機,船舶のエンジン,発電所のタービンから家電や医療・ヘルスケアまで多岐にわたる製品を製造している。Industrial Internetの取り組みでは,これらにセンシングやアクチュエーションといったCPS/IoTの機能をもたせることにより,機器の運用の最適化を図っている。

たとえば,航空機のジェットエンジンではエンジンに取り付けた大量のセンサーから得られるデータに基づき,エンジンの稼働状態を観測している。これによって,エンジンの保守スケジュールの最適化や問題の予兆の早期発見につなげている(1)。

これは従来の定期的な保守点検という取り組みではなく,必要に応じて保守を行うという方向へと進んでおり,業務の効率化に多大な貢献がある。さらに,燃料の使用データや,気象データ,航路の状況などに基づき,最適な経路を指示するというサービスも行っている。これによりジェットエンジンを通じてさらなる価値を提供することになる。GE社の試算によるとIndustrial Internetの適用により,わずか1%の効率改善であっても,航空業界では年間20億ドル,電力において44億ドル,医療分野では42億ドル,鉄道で18億ドル,石油とガスで60億ドルの節約ができるとされている5)(数値はGE社資料より算出)。

GE社ではIndustrial InternetのプラットフォームであるPredixを公開するとともに,IoTの業界団体であるIIC(Industrial Internet Consortium)を2014年に立ち上げて技術の標準化を進めるなど戦略的な取り組みを進めている(2017年6月現在250社以上が参加)。

この分野では米国政府も活発な投資を行っている。先に述べたように,2009年よりNSFがCPS研究支援プログラムを立ち上げた。2017年現在もCPSの研究開発の公募が実施され,CPSのサイエンスとテクノロジーとエンジニアリングを対象に約35億円(3,150万ドル,1ドル=110円換算)の予算が付けられている。また,各分野におけるCPSに関連した研究として,NASA,DOT(Department of Transportation:運輸省),NIH(National Institutes of Health:国立衛生研究所)といった政府機関からも公募が実施されている。

さらに,CPSに近いテーマとして,NSFでは2017年より都市に焦点を当てたSmart and Connected Communities(S&CC)注1)への研究開発の公募を開始し,約20億円(1,850万ドル,1ドル=110円換算)の予算が充てられている。このようにCPSへの投資を開始してから,10年近くたつが,引き続き,広い対象領域に対して多額の公的助成金が充てられている。一時の流行によって投資を行うのではなく,CPSを国の競争力強化に向けた重要な研究開発領域と位置づけ,そうした領域には継続して投資を続けるという姿勢がみて取れる。

一方,わが国ではこうした流れを背景に,企業主導で2015年に「IoT推進コンソーシアム」6)が設立された。このコンソーシアムでは,産学官が連携し,IoT技術の研究開発や新たなビジネスの創出に向けた実証,標準化の推進や規制改革の提言を行うとされている。

文部科学省においては,2012~2016年の間に,「社会システム・サービス最適化のためのサイバーフィジカルIT統合基盤の研究」が委託研究開発として行われた(プロジェクト全体で予算約8億円)。このプロジェクトの中で,天候や地理空間情報やプローブカーのデータ等を統合した除排雪システムや,人や都市環境のセンシングとシミュレーション等による都市のスマート化など,データの統合分析基盤構築から,それを用いた具体的な実証実験が行われ成果を上げた7)

NEDO(New Energy and Industrial Technology Development Organization:新エネルギー・産業技術総合開発機構)においては2016年から「IoT推進のための横断技術開発プロジェクト」の委託研究が開始されている(2017年度予算は37億円)。このプロジェクトでは,データを収集,蓄積,解析するために必要となる基盤・実装技術およびそれらに必要となるセキュリティー基盤技術等の研究開発とともに,新技術の社会実装を進めることとしている8)

また,関連した国内企業の動きとしては,日立のLumada9)やNECのNEC the WISE IoT Platform10),富士通のFUJITSU Cloud IoT Platform11)など具体的なIoTのプラットフォームが発表されている。

図1 航空インダストリアル・インターネット

4. 超スマート社会(Society5.0)

わが国の科学技術政策について定めた科学技術基本法に基づき,2016年1月に「第5期科学技術基本計画」が閣議決定された12)。この中で,「ICTを最大限に活用し,サイバー空間とフィジカル空間(現実世界)とを融合させた取組により,人々に豊かさをもたらす『超スマート社会』を未来社会の姿として共有し,その実現に向けた一連の取組を更に深化させつつ『Society5.0』注2)として強力に推進し,世界に先駆けて超スマート社会を実現していく」としている。

ここでいう「超スマート社会」について,その定義は以下のとおり述べられている。

「必要なもの・サービスを,必要な人に,必要な時に,必要なだけ提供し,社会の様々なニーズにきめ細かに対応でき,あらゆる人が質の高いサービスを受けられ,年齢,性別,地域,言語といった様々な違いを乗り越え,活き活きと快適に暮らすことのできる社会」

超スマート社会を実現させるためには,さまざまな「モノ」がインターネットを介してつながり,それらが高度にシステム化されるとともに,複数の異なるシステムを連携協調させることが必要であり,さらに,IoTを有効活用した共通のプラットフォーム(超スマート社会サービスプラットフォーム)構築に必要となる取り組みを推進する,としている。

超スマート社会サービスプラットフォームを構築することにより,高度道路交通システムや,エネルギーバリューチェーンの最適化,新たなものづくりシステムなど他のシステムとの連携協調や新しいサービスへの活用が可能となる。超スマート社会のプラットフォーム(Society5.0サービスプラットフォーム)のイメージは2のとおりである。

  • •   一番上位のレイヤー

「科学技術イノベーション総合戦略2015」において経済・社会的課題の解決に向けた重要な取り組みとして定められた11のシステム(新たなサービス以外)が挙げられている。政府はこの中でも特に,ものづくりシステム,エネルギーバリューチェーン,高度道路交通システムの高度化と他のシステムとの連携を進めるとしている。

  • •   2番目のレイヤー

それらの基盤となる技術として,AI,ビッグデータ,サイバーセキュリティーが挙げられ,これらの強化が重要と位置づけられている。

  • •   3番目のレイヤー

各システムの高度化や複数システム間での利活用に資するデータベースの構築が挙げられている。

  • •   一番下位のレイヤー

知的財産戦略と国際標準化の推進,システムの実用化・事業化を実現するための規制・制度改革の推進と社会的な受容の醸成,さらに能力開発・人材育成が挙げられている。

わが国は,今後,このSociety5.0プラットフォーム構築のイメージに沿って,研究開発やデータベース連携に向けた取り組みを進めていく。

図2 Society5.0サービスプラットフォーム

5. 超スマート社会実現に向けて

政府が掲げる超スマート社会,Society5.0の実現に向けては,CPS/IoTが重要な鍵を握っている。CPS/IoT技術高度化と社会への浸透に伴い,ビジネスや社会活動において,サイバー空間と物理世界が一体となり切り離せないものになりつつある。この動きが進むことで,近い将来,サイバー空間と物理世界が融合一体化すると考えられる。JST CRDSではこれを実現するための技術の総称を「REALITY 2.0」と呼んでいる14)15)

REALITY 2.0はSociety5.0のサービスプラットフォーム実現の一つの方法である。REALITY 2.0によって,社会に存在するモノやヒト,サービスが一つの機能コンポーネントとして存在し,必要なときにネットワークを介して機能を呼び出し,それらをダイナミックに組み合わせて利用することができるようになる。

ここでいう,「機能を呼び出して利用する」という行為は,サイバー空間上では以前から行われている。あるWebサービスを構築するに当たって,すべてのコンポーネントをサービス運営者が自前で作るのではなく,他者が作って公開しているコンポーネントを,必要に応じてインターネットから呼び出し,それを組み合わせるという手法が取られている。このとき,呼び出しのためのインターフェースがAPI(Application Programming Interface)と呼ばれている。

REALITY 2.0は,モノ,ヒト,サービスのAPIを定義して,新しいサービスを構築することを目指している。この考えは超スマート社会の定義に通じる考え方である。そのため,本章では,CRDSの研究開発の俯瞰報告書2)で述べた技術的な課題について,そのエッセンスを紹介したい。

3はCPS/IoT/REALITY 2.0を構成する研究開発領域を俯瞰した図である。各レイヤーにおける課題を以下に述べる。

図3 CPS/IoT/REALITY 2.0俯瞰図

5.1 モノ・ヒト・コトのインターフェース(センサー,アクチュエーション)

CPS/IoT/REALITY 2.0を支える技術であり,実世界とサイバー空間を接続することを目的とする。実世界の状況を認識するセンサーや作用を与えるアクチュエーション技術,デバイスの構成法や処理方式等広範な技術領域である。

(1) センシング

CPS/IoTを高度化させるためには,これまで以上に多数のセンサーを機器に取り付ける必要があり,またセンサー自体の機能を高度化させる必要がある。現在センシング機器はMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いることによって小型化,省電力化が推進されている。たとえば自動車や船舶が積んでいるジャイロスコープはMEMS技術によって小型化され携帯機器に内蔵された。GPSやWi-Fi通信機器は,省電力化により,携帯機器上でオンオフを気にする必要性が低下している。さらに今後注目すべきはセンサーのスマート化である。センサーにより獲得されたデータは目的とする情報にまで認識・分析されれば大幅に縮小することができる。また,認識された情報をその場で活用できる機会も増える。データ量の軽減のみでなく,カメラ映像から人のみを抽出し,映像的に匿名化処理を施す,人流状況の統計的処理をその場で実施するなどプライバシーに配慮した試みも実用化段階にきている。このように実世界との境界(エッジ)での処理をスマート化していく流れが今後飛躍的に進歩することが見込まれる。

(2) アクチュエーション

アクチュエーション技術は実世界に影響を与える作用を実現するものであり,携帯端末での情報提示,街中でのデジタルサイネージ,触覚生成機器,没入型VR機器を用いた入出力一体型インターフェースなどがある。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて,多言語への対応やバリアフリーでの表現など,よりグローバルでユニバーサルな方式が注目されている。さらに,近年ではセンシングした結果を解釈してユーザーの行動変容をいかにして起こすかが課題となっている。健康状態の可視化により注意を促したり,消費電力をリアルタイムに見せて省エネルギーの意識を高めたりといったアクチュエーションにも注目が集まっている。

5.2 CPS/IoT/REALITY 2.0アーキテクチャー

CPS/IoTの進展に伴い,実世界に張り巡らされることが期待される極めて多数のセンサーから得られるイベント,データを収集し,多様なアプリケーションで活用するためのアーキテクチャーとそれに基づくデータ基盤システムが必要となる。特にリアルタイム性や多種膨大なデータへ対応するためエッジコンピューティング,ストリームコンピューティング技術等が注目されている。

(1) エッジコンピューティング

実世界のセンサーデバイスから生じる膨大なデータをクラウドに転送してから処理をするのでは膨大な通信コストが求められる。また,情報処理の遅延も生じてしまい,リアルタイム性が求められる領域でCPS/IoTの効果が十分に発揮されない可能性がある。こうした問題を避けるために,クラウドにデータを転送せず,センサーデバイス,すなわちエッジにおいて必要な処理を行う計算パラダイムがエッジコンピューティングである。

現在もさまざまな状況で適用されており,通信会社における試みなどがある。2016年10月に初めての国際会議が開催されるなど,研究分野活発化の兆しがある。

(2) ストリームコンピューティング

IoT機器からは,膨大なデータが次々に生じる。たとえば天体望遠鏡LSST(Large Synoptic Survey Telescope)も一つのIoT機器と考えられるが,ここからは年間60PB(ペタバイト)の観測データが生成される。このようなデータをすべて保存して処理するには膨大なコストが必要である。そこでシステムに到着したデータを要求に応じてその場で処理するデータ処理パラダイムであるストリームコンピューティングが注目されている。

5.3 スマートなサービス化技術

ここではある機能を他の機能や実体から呼び出せるようにすることを「サービス化」と呼ぶ。情報システムが提供するサービスに加えて,モノ,ヒト,コトなど物理世界や社会活動全体をサービスとして提供,利用可能とするための技術の確立とそれを支援する基盤構築が必要となる。この実現に向けてはWebサービスにおけるサービス構築技術等を物理世界に適用していくことが一つの方法と考えられる。

(1) サービスのAPI化

サイバー上においては,ある機能をもったプログラムが,APIという形でインターネット上に公開されている。Webサービスを構築するに当たって,サービス提供者は必要な機能をすべて一から作成する必要はなく,公開されているAPIを必要に応じてソフトウェアで呼び出し,それらを組み合わせることによって,提供したいサービスを実現している。ここでAPIの作成者は,APIの利用やAPIの利用から得られる収益に対して課金したり,優れたアプリケーションが創出されることを期待して無償で提供したりするといった形で公開している。

公開されているAPIは2005年と比較して2013年には1万倍へと増大している。また,対象も拡大し,高精度3次元地図など実世界の「モノ」,クラウドソーシングなどの「ヒト」の活動もAPI化されようとしている。

(2) サービス仲介技術

サービス化,API化された機能の利用に当たっては,利用者と提供者を仲介させる技術が必要である。近年台頭してきたシェアリングサービスやクラウドソーシングにおいても,相互には直接知ることのない人と人との間でサービスの提供/利用を行うための,仲介サービスの提供が重要な研究開発,ならびに,ビジネスと社会制度上の課題となっている。

多くのシェアリングサービスでは,サービスの提供者と利用者間で即時に信用創造を行う必要があることから,そのためのAPIが提供されている。こうした技術のさらなる対象の拡大が求められる。

(3) サービスエコシステム創出技術

モノ・ヒト・コトのAPI化とマイクロサービス化注3)の進展に伴い,従来の情報システムの枠組みを超えて,あらゆる業種,業界が情報サービス化へと転換している。たとえば,製造業におけるスマート/デジタルマニュファクチャリングや農業などの1次産業から金融業に至るサービスの連携による新たなバリューチェーン構築の研究開発が進展している。

5.4 サービスプラットフォーム

超スマート社会の実現には機能を利用するためのサービスプラットフォーム構築が必要である。サービスプラットフォームでは必要な機能の検索・発見や,価値の再配分,ユーザーの需要動向把握,サービスの運用の統合的自動化や認証認可技術やサービスのレベルを保証する技術等が必要である。

サービスの価値は無形で変動性をもっているために計測や課金が難しい。どのサービスインスタンスがどれだけの価値を生み,利益配分されるべきかを決定するエコノミーの数学的なモデルは存在していない。クレジットカード番号のトークナイゼーション(数字を置き換えて元の番号を不明にする処理)によって信頼を安全にやりとりすることで利益を得るのは誰(Apple Pay,小売店,カード会社,ユーザー)でどの割合なのかを決定できなければ,サービスは不透明で社会的に不均衡なモデルとなってしまう。UberやAirbnbなどは資産を単純にシェアするだけのモデルではなく,ユーザー間の信頼や個人の車や住居を利用するという経験を取り扱う複雑なシェアリングエコノミーであるが,それらの価値の再配分や課金のプロトコルは今後のプラットフォーム構築において参考になる。

5.5 社会デザイン

Society5.0のような新たなコンセプトを社会に導入していく際には,既存の規制制度,技術などの壁を乗り越え,社会の受容性を高めていかなければならない。

そのためには,社会システムデザインの方法論が必要となる。社会システムデザインの考え方によれば,状況を変革する「良循環」を新たに創造し,その良循環を駆動するサブシステムを構築することとされている16)。たとえば,社会受容性については新たな技術や仕組みへの不安を,サービスの需要増やサービスの質向上などわかりやすい形で利用者に提供していくことで満足度を向上させ,壁を乗り越えて社会の変革を起こすことが可能であろう。

6. おわりに

CPS/IoTに関して,その内容と国内外の具体的な取り組み,さらに政府が掲げる超スマート社会の実現に向けた課題について述べた。2015年の前回寄稿時から引き続き,CPS/IoTは今後の情報社会において極めて重要な位置づけにある。また,政府が掲げる超スマート社会の実現に向けて取り組むべきテーマである。

CPS,IoTともにサイバーとモノ(フィジカル)との融合によって新たな価値を創出するという特徴がある。サイバーの世界では米国発の技術やビジネスが世界を席巻している状況にあるが,CPS,IoT分野ではモノが重要な鍵を握る。モノはわが国が得意とする分野である。この分野で競争優位に立つためにも,超スマート社会の実現に向けた取り組みを産学官が一体となって推進していくことが期待される。

執筆者略歴

  • 山田 直史(やまだ なおふみ) nyamada@jst.go.jp

2009年科学技術振興機構入構。論文データベース等のシステム運用業務等に従事。2012年文部科学省研究振興局情報課(当時)に出向。2014年科学技術振興機構に復職し研究開発戦略センターに配属。2015年より,同センターのシステム・情報科学技術ユニット(現職)にて研究開発戦略に関する調査,提言策定業務に従事。

  • 高島 洋典(たかしま ようすけ) y2takashima@jst.go.jp

1979年NEC入社。同社サービスプラットフォーム研究所長,中央研究所支配人などを経て,2012年より科学技術振興機構研究開発戦略センターにおいて,システム情報科学技術分野における技術・社会動向の俯瞰調査ならびに,戦略的研究プロポーザルの作成に従事。

  • 木村 康則(きむら やすのり) yasunori.kimura@jst.go.jp

1981年富士通入社。同社次世代テクニカルコンピューティング開発本部長,米国富士通研究所President&CEO等を経て富士通研究所フェロー。2017年より科学技術振興機構研究開発戦略センター上席フェロー(システム・情報科学技術ユニット)。

本文の注
注1)  都市や地域社会における,物理的,社会的,行動的,経済的,およびインフラの課題を克服し,社会を変革するための研究開発プロジェクト。

注2)  狩猟社会,農耕社会,工業社会,情報社会に続くような新たな社会を生み出す変革を科学技術イノベーションが先導していく,という意味を込めている。

注3)  複数の小さなサービスを組み合わせて,一つのサービスを構築すること。

参考文献
 
© 2017 Japan Science and Technology Agency
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