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集会報告
集会報告 2017年度 人工知能学会全国大会(第31回, JSAI 2017)
清田 陽司
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60 巻 (2017) 5 号 p. 350-353

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開催情報

  • 日程   2017年5月23日(火)~26日(金)
  • 場所   ウインクあいち(愛知県産業労働センター,愛知県名古屋市)
  • 主催   人工知能学会

1. AI(人工知能)ブームを研究コミュニティーはどうみているか

筆者は2011年の盛岡大会から人工知能学会全国大会にほぼ毎年参加しているが,ここ数年の参加者数の激増ぶりに,コミュニティー成長の勢いを強く感じている。2012年の山口大会で常設企業ブース展示を行った際には,筆者の所属企業を含めて6社・1機関が出展していたが,展示コーナーは率直にいえば閑散としており,時折通りかかった参加者とのんびりと雑談していた記憶がある。翻って今回の2017年名古屋大会注1)(以下,本大会)では,筆者の所属企業も含めて37社・1団体が常設展示を行っており(1),セッションが開催されている時間帯にも人足が絶えず,多数の参加者と話すことができた。

本大会の開会挨拶では,人工知能学会会長の山田誠二教授(国立情報学研究所)から発表数および参加者数の変遷の報告がなされ,発表数の増加は安定的に推移しているのに対して,参加者数が激増していることが示された。2011年頃までは参加者数が600名前後にとどまっていたのが,2014年の松山大会で1,000名,2016年の北九州大会で1,600名に達し,本大会では2,500名を超える参加者数となった。最近の参加者数の激増を特徴づけるのが,企業からの参加者の割合の増加である。今回は,全体の42%が企業からの参加者であり,近年のAIブームによって各企業でAIをビジネスに活用しようという機運が高まっていることを裏付けている。

山田会長による基調講演「インタラクティブな人工知能を目指して:HAIとIIS」(2)は,社会からAI研究への期待や不安が高まっている状況に対して「学会としては冷静な目でみている」という切り出しで始められた。最近目立つ「AIと人間が対立する」という言説,たとえば「AIが人間の知的処理のほとんどを代行し,人間の仕事が奪われる」という主張についても「誤っているのではないか」とし,「AIはあくまで工学であり,人間が調整・制御して動かしているものにすぎないが,擬人化してとらえられることもあるため誤解されがちである」と指摘した。その上で,「建設的なAIと人間の関係」を築く必要性を主張した。具体的には,「高速・大規模処理,可視化,網羅的処理」を得意とするAIと,「文脈依存の推論,ヒューリスティックスの利用,目的の設定,日常的な物理動作」を得意とする人間が協調するアプローチ,すなわちインタラクティブなAIを研究することが今後重要であるとし,エージェントと人間の対話のあり方を設計するHAI(Human-Agent Interaction)や,人間とAIが協調して問題解決を行うIIS(Intelligent Interactive Systems)等の研究の取り組みが詳しく解説された。

図1 企業展示ブース
図2 基調講演

2. 参加者層の変化を踏まえた新たな試み

上述したように企業からの参加者が激増する中,学術コミュニティー以外からの参加者へのニーズに対応することを目指した新たな試みも行われた。

新設のインダストリアルセッション注2)では,人工知能学会の賛助会員企業のうち18社から,産業界におけるAI技術の具体的な応用事例などの報告が行われたが,多数の参加者を集めており(3),具体的な事例を知りたいというニーズの高まりを感じた。また,「機械学習」や「対話システム」をテーマとしたチュートリアル講演も,立ち見が出るほど多数の参加者を集めていた。

また,2016年の集会報告1)でも言及したRoboCupにフォーカスした企画も実施された。初めての世界大会が1997年に名古屋で開催されてからちょうど20年の節目を迎える2017年7月に名古屋でふたたび開催されるRoboCup 2017世界大会注3)に向けて,RoboCupプロジェクトの成果をアピールすることを目的に,家庭用ホームサービスロボットのデモンストレーションが行われ,多数の参加者が足を運んでいた。

図3 インダストリアルセッション

3. オーガナイズドセッション主催の感想

2015年の函館大会の集会報告2)でも言及したとおり,本大会の盛況を支える仕組みの一つとして,オーガナイズドセッションというプロポーザル型セッションの存在があるが,今回は過去最高となる39件ものオーガナイズドセッションが開催された注4)

筆者は,所属企業の主な事業領域(不動産情報)に関連した研究開発活動の一環として,不動産情報に関連した共同研究や学術コミュニティー向けのデータセット提供などに取り組んできた。近年の不動産テックの盛り上がりを踏まえ,AI研究コミュニティーの方々と不動産領域でのAI活用の研究事例や課題について議論の場をもちたいと考え,東京大学の山崎俊彦准教授と共同で「不動産とAI」というオーガナイズドセッションを初めて企画提案し,採択された注5)。不動産という一見アナログな世界をテーマとしたセッションが参加者層にどう受け止められるか若干不安であったが,結果としては多数の方の参加を得て大盛況であった(4)。不動産物件価格推定を長く研究されてきた日本大学の清水千弘教授による招待講演の内容が好評であった他,IoT(Internet of Things)の利用,チャットによる接客でのAI活用,物件画像や間取り図の深層学習による解析,街の雰囲気可視化など,幅広いテーマの発表が行われ,深い議論ができたことは大きな収穫であった。

オーガナイズドセッションは,新たな研究コミュニティーの立ち上げに必要となる基本的なインフラ(開催場所,アナウンス,発表募集,予稿集の発行など)を学会が肩代わりして提供してくれる仕組みであり,AI研究コミュニティーの盛り上げに寄与していることは間違いない。一方で,その仕組みは学会の運営を支える若手研究者を中心とする多くの方々の献身的な努力によって支えられている面も意識する必要がある。函館大会で山田会長が言及したとおり,「単に国内でコミュニティーを立ち上げることにとどまるのではなく,最終的には国際会議でワークショップを開けるところまでコミュニティーを育て,世界レベルの新研究分野を目指してほしい」という期待2)に応えることが,オーガナイズドセッションの主催者に求められる責任であろう。

図4 オーガナイズドセッション「不動産とAI」

4. AI研究コミュニティーの発展と研究倫理

AI研究への社会からの関心が高まる中,AI研究者としての考え方を社会に発信すべきであるとの考え方に基づき2014年に設立された人工知能学会倫理委員会の公開討論も,引き続き開催された。これまで積み重ねられてきた議論に基づいて策定され,2017年2月に確定した「人工知能学会倫理指針」注6)について,米国IEEEの「人工知能および自律システムの倫理的配慮に関するIEEEグローバル・イニシアチブ」注7)のメンバーも招いての公開討論セッションが行われた。

一方で,本大会の開催期間中に,小説投稿サイトに投稿された小説データを用いた研究発表の予稿において,投稿者のIDが明らかになる形で引用が行われていたことがネット上で議論の対象となり,発表予稿が非公開とされる事態が起きた3)。情報学やコンピューター科学分野の研究の慣行上は研究の再現性を担保するためにデータの入手先を明らかにすることが求められる,また著作権法も著作者の同意なく正当な範囲での引用を認めているという主張がなされる一方,投稿者の心情への配慮が欠けている,社会学における参与観察の倫理に照らすと問題があるという指摘がなされるなど,議論が続けられている。こうした事態が起きる背景には,AI研究が扱う領域が拡大を続けることに伴い,異分野のコミュニティーとの間で価値観がぶつかり合う可能性が高まっていることがあるように思う。自らの研究が社会に与える影響についてAI研究コミュニティーが意識することとともに,AI研究コミュニティーの根底を支える自由闊達(かったつ)な研究活動ができる環境をどのように維持・発展させていくかをめぐっても,今後議論が深められることを期待したい。

次回の人工知能学会全国大会は,鹿児島県鹿児島市にて2018年6月5日(火)~8日(金)に開催される予定である。

(LIFULL リッテルラボラトリー 清田陽司)

本文の注
注1)  “2017年度 人工知能学会全国大会(第31回)”. 一般社団法人人工知能学会. http://www.ai-gakkai.or.jp/jsai2017/, (accessed 2017-06-10).

注2)  “JSAI2017 インダストリアルセッション”. 一般社団法人人工知能学会. http://www.ai-gakkai.or.jp/jsai2017/industrial-session, (accessed 2017-06-10).

注3)  "RobuCup 2017 Nagoya Japan". RoboCup 2017. https://www.robocup2017.org/, (accessed 2017-06-10).

注4)  “JSAI2017 オーガナイズドセッション”. 一般社団法人人工知能学会. http://www.ai-gakkai.or.jp/jsai2017/os, (accessed 2017-06-10).

注5)  清田陽司, 山崎俊彦. “JSAI 2017 OS-15「不動産とAI」”. JSAI 2017. https://sites.google.com/view/realestate-ai, (accessed 2017-06-10).

注6)  “「人工知能学会 倫理指針」について”. 人工知能学会倫理委員会. 2017-02-28. http://ai-elsi.org/archives/471, (accessed 2017-06-10).

注7)  "The IEEE global initiative for ethical considerations in artificial intelligence and autonomous systems". IEEE Standards Association. http://standards.ieee.org/develop/indconn/ec/autonomous_systems.html, (accessed 2017-06-10).

参考文献
 
© 2017 Japan Science and Technology Agency
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