2016年の秋ごろから,Google翻訳(英文和訳)の質が向上したことを実感していました。何より訳文が流暢(りゅうちょう)になりました。一方で,訳されていないフレーズがあったり,形容詞や副詞を除いてみると訳文ががらっと変わってしまったりすることにも気づきました。今号の「機械翻訳の新しいパラダイム」を読むと,その理由がわかります。
翻訳の難しさの一因は,1対1対応で訳語が決まるわけではない点にあります。文法もさることながら訳し分けの難しさ,意味を取り違える危険など,単語レベルの問題点にも注意が必要です。
編集に携わっていていつも思うのは,これで伝えたいことが間違いなく伝わるかということです。先月号の編集後記に略語(頭文字)「STEM」のことを書きました。略語が何を指しているのかわからないと,文の意味が伝わりません。まどろっこしいようでも弊誌は初出で,一般に通用する場合を除いて全表記と和訳を添えています。
さらに問題になるのが,「一般に通用する」の解釈です。たとえばWHOに,「World Health Organization:世界保健機関」と併記する必要があるのか。自分たちの常識は,弊誌の主たる読者である科学者・技術者・関連実務者にとっての常識と一致しているのか。弊誌はWebで無料公開していますから,広く一般の方にも読んでいただいています。いきおい注記が多くなるのはそのためです。
共同通信社『記者ハンドブック』の中に略語の一つとしてOAが掲載されています。「最初から全表記を省略して略語単独で使用できる」ことになっています。ところがなんと,このOAに対応する全表記は「Office Automation:オフィスオートメーション」。弊誌によく登場する「Open Access:オープンアクセス」としてのOAは,一般に通用する略語とはいえないようです。(KM)