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Vol. 60 (2017) No. 8 p. 564-573

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http://doi.org/10.1241/johokanri.60.564

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動画顔認証を中心とした生体認証技術:現状と,安全・安心な社会の実現に向けて

著者抄録

生体認証技術は個人認証方式としてさまざまなシーンで導入されている。その技術の一つである顔認証でNECは米国国立標準技術研究所(NIST)が主催する評価プログラムで4回連続世界No.1の評価を得ている。顔認証には「積極的認証」「非積極的認証」という2つの視点があるが,これから特に注目されるのが後者で,それは認証対象者本人が意識しない,対象者の協力を得ることができないケースでの認証である。この非積極的認証で使われる技術が「動画顔認証技術」である。同認証は画像中から顔を検出,次に特徴的な点を見つけ,顔特徴量を抽出しデータベースと比較,閾値よりも類似度が高い人物を見つけた場合に本人と判定する。動画顔認証では低解像度画像で照合できることが重要で,NECはNISTの評価試験で最高評価を獲得した。顔認証は対象となる顔の提示が必須であったが,時空間データ横断プロファイリング技術のようなその課題を解決する技術も生まれており,いっそうの活用が見込まれる。

1. はじめに

近年,指紋認証や顔認証等の生体認証技術は,PCや携帯電話のログイン,決済,入退場管理等さまざまなシーンで導入され,今後の先進的活用が検討されている。特に日本の生体認証技術は世界でトップクラスであり,中でもNECの顔認証技術は,2009年より米国国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology: NIST)が主催する顔認証技術評価プログラムに参加し,これまで4回トップ評価を獲得注1),精度世界No.1を誇る。NECではこの顔認証技術を活用したシステムをさまざまなニーズに対し提供しているが,本稿では昨今特にニーズの高いセキュリティー分野での活用について取り上げる。

2. 生体認証の概要

最初に,生体認証について,その概要に触れていきたい。生体認証は個人認証方式の一つで,その人だけしかもちえない個人の身体的もしくは行動的特徴を利用して個人を識別する技術である。身体的特徴としては,顔以外に指紋,掌紋,静脈,虹彩など,また行動的特徴としては署名や声紋などが挙げられる。

一般的な個人認証方式には,パスワードや暗証番号などによる「知識認証」,ICカードや鍵などによる「所有物認証」があるが,これらの認証方式は,忘失,紛失,盗難,偽造といったリスクを抱えている。これに対し生体認証は,忘れない,なくさない,盗まれないといった特徴があり,なりすましによる不正を防ぐなど,安全で安心な社会の実現に貢献するセキュリティー技術としてさまざまな分野で活用が進んでいる。

2.1 指紋認証

NECで最初に研究開発が始まり,また商用化の歴史をもつものが「指紋認証」である。もともとは犯罪捜査における指紋照合作業の効率化を主たる目的として1971年に研究開発が開始された。それまでは指紋の照合作業を1件1件人手で行っていたが,コンピューターを使い自動化し,AFIS(Automated Fingerprint Identification Systems:自動指紋照合システム)を日本の警察庁に納入し作業の効率化,犯罪捜査の迅速化・高度化に貢献したのである。またNECのAFISはその後世界各国・地域の警察にも導入され,特に米国においては3割程度の警察がNECのAFISを導入している。

AFISの導入が進んでいく中で,その技術は国民IDや出入国管理など,高いセキュリティーを求められる領域で活用されるようになる。その一つが,NECが手掛けた国民IDシステムの代表例,南アフリカ共和国のHANIS(Home Affairs National Identification System)である。同国では,国民が公共サービスを平等に利用できるよう,政府が16歳以上の国民に対してIDブックレットを発行している。このIDブックレットを発行する際には指紋押なつが必要であるが,その二重発行を防ぐために従来はその認証作業を手作業で実施していた。しかし登録件数が膨大になるにつれて手作業では限界が生じ,そこで導入されたのがNECのAFISである。その99.9%以上の精度と驚異的な処理速度で,HANISは5,000万人規模の,世界最大級の国民認証データベースを構築することができた。

2.2 顔認証

そして,今最も注目されている生体認証技術が「顔認証」である。日本における顔認証の研究開発の歴史は,指紋認証と同様に長い。NECの場合,その開発開始は1989年までさかのぼる。それ以降,その技術を活用した製品は世界40か国100システム以上に採用されており,ニューヨークJFK空港や,ブラジル主要空港,オーストラリア政府機関など,世界の主要機関で活用されている。2015年には,日本国内でのアーティストによるコンサートやスポーツイベントなどでも活用されており,すでに50公演,延べ30万人以上に利用されるなど,本人確認用として利便性と高い認証精度を兼ね備えた顔認証は,さまざまな状況に利用されるようになってきている(1)。

2に監視向け顔認証システムの利用シーンを示す。このシステムは,ある人物がシステムに登録された場合に,ビデオ映像から通路,エレベーター,階段など,さまざまな状況で本人を見つけることができる技術である。これらの技術の応用として,犯罪捜査,迷子検知,認知症患者の徘徊(はいかい)検知などさまざまな用途での利用が考えられる。

今後,期待されるのは複数の生体認証を組み合わせる「マルチモーダル照合」である。個々の生体認証技術には,その精度を発揮できない「適さない条件」があるが,複数の生体認証を組み合わせることでその条件を克服し,いっそう精度が高く,より利便性の高い照合が可能となる。


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図1 顔認証技術の幅広い用途


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図2 監視向け顔認証における利用シーン

3. 顔認証の用途:積極的認証と被積極的認証

ここでは「積極的認証」と「非積極的認証」という視点から顔認証の用途を考える。

積極的認証の用途は,建物のゲートでの入退場管理や,国境の出入国管理,パソコン・モバイル端末へのログイン,チケット転売防止のための本人確認など,本人の意思で認証を行うケースである。たとえば,モバイル端末のログインでも,顔認証や指紋認証によるログインを行っている。このように認証される対象が本人の意思で積極的に認証を試みる,認証する対象の協力が得られるようなケースを,「積極的認証」と呼ぶ。

一方,認証対象者がそもそも認証されていることに気づいていないケースもある。たとえばVIPのお客さまの来訪に気づくためだったり,介護施設などで要介助者が一人で出歩かないようにするための見守りであったり,あるいは行方不明者や指名手配犯を防犯カメラ上で捜すなどの使い方である。このような使い方では,認証対象者本人が意識せず認証される場合が多く,対象者の協力を得ることはできない。このような用途を「非積極的認証」と呼んでいる。そしてこの積極的認証,非積極的認証の違いは,求められる要件の違いにつながる。

積極的認証の場合,建物のドアやゲートを使った入退場管理を顔認証で行うのであれば,ドアやゲートに必ず来てもらい,もしカメラから顔を背けているような場合には顔をカメラに向けてもらうといった協力を得ることができる。

しかしながら,認証を行っている場所が把握されているので,偽装される可能性がある。たとえば登録されている人の顔写真をカメラにかざすなどである。カードを使った認証の場合,カードの偽造防止というセキュリティー対策が行われるが,これと同じように,顔の偽装を防止する仕組みが必要になってくる。日本ではこれらの技術開発を進め,すでに提供を開始している企業もある。

一方で非積極的認証の場合,カメラに写る対象者もカメラに気づいていない場合が多く,また複数の監視カメラ映像などからの認証となるため,対象者の協力が得られず,異なる技術が求められる。今回はこの非積極的認証を少し掘り下げて紹介する。

非積極的認証の場合,認証される対象はカメラを意識していない。そのためカメラを見たり,カメラの前にとどまってくれたりするとは限らない。隣の人と話をしていて横を向いていたり,あるいはずっとスマホのゲームに熱中していて下を向いていたり,顔がカメラの方を向いてくれないこともある。顔がカメラに写らなければ当然顔認証をできないが,人はずっと同じ方向を見ていることは少ない。たとえば隣の人と話をしながら歩いていても,確認のために前を向いたり,あるいは,街中にある行き先案内板を探すために違う方向を向いたりすることがある。こういった動作は一瞬しかない。そういった一瞬を見逃さないようにするためには,ビデオを高フレームレートで撮影し,さらにはそれをリアルタイムに高速で認証処理を行っていく必要がある。

また,人の行き来する通り道や,人の流れなどが必ずしも決まっていないケースもある。その場合は,顔認証での監視が必要なエリアも広くなる。カメラをたくさん設置すれば,その分広いエリアに対応できるが,カメラの設置コストがかかり,場所によってはそもそもカメラを多数設置することが景観を損ねる可能性もある。1台のカメラで監視できる範囲を広げようとすると,カメラの解像度を上げていくことが効果的である。VGAよりHD,HDよりFull HD,Full HDより4Kの方が1台のカメラでより広範囲の人の認証が可能であるが,処理の負荷が高くなる。

また,広範囲を監視するカメラでは同時に複数の人が写りこむことになる。たとえばイベント会場の入り口などであれば数十人の人が同時に写りこんでくる可能性があり,それらを同時にすばやく認証しなければならない。当然だが,これら要件について,認証精度を犠牲にすることなく,対応する必要がある。

4. 動画顔認証技術の紹介

動画顔認証(3)は,画像中から顔を検出し,次に顔の中から目や鼻,口端などの特徴的な点を見つけ,最後に顔特徴量を抽出し,データベースに登録された特徴量と比較し,閾値(いきち)よりも類似度が高い人物が見つかった場合に本人と判定する処理を行う(4)。次に,それぞれの技術について特長を説明する。


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図3 動画顔認証技術により見つけたい人をリアルタイム・自動で迅速に検知


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図4 顔認証技術を支える3つのコアテクノロジー

4.1 顔検出技術

顔検出技術は,画像の端から順に矩形(くけい)領域を探索し,顔と合致する矩形領域を抽出する。矩形領域が顔か非顔かを識別するために,NEC独自のパターン認識手法である最少分類誤りに基づく「一般化学習ベクトル量子化手法」を用いて,高速で高精度な顔検出機能を実現する。

4.2 特徴点検出技術

特徴点検出技術は,顔矩形領域から瞳中心,鼻翼,口端などの特徴点の位置を探索する。特徴点周辺輝度パターンを用いて最適な位置を探索しつつ,顔形状モデルにより特徴点配置に制約を加えることで,精密に特徴点位置を求めることができる。

4.3 顔照合技術

顔照合技術は,得られた特徴点の位置を用いて顔位置を正規化し,登録画像と照合画像の2枚の顔画像を比較することにより,本人か否かを判定する。顔から目鼻の凹凸や傾きなどのさまざまな特徴を抽出した後,これら特徴の中から,「多元特徴識別法」により個人を識別するために最適な特徴を選択する。これにより,経年変化の影響を受けにくくなるなど,さまざまな変動に頑強な個人識別が実現できる。

5. 低解像度顔画像における性能評価結果

監視向け顔照合を実現するためには,低解像度画像で照合できることが重要である。5に示すように,人物が監視カメラに近い位置にいる場合,高解像度の顔画像を取得できるため照合が容易になるが,カメラに近づくと仰角がきつくなり,髪が顔にかかるなど顔の隠蔽(いんぺい)が大きくなるため照合が困難になる。さらに,実用面でも1台のカメラでカバーできる範囲が小さくなるため,監視用途には不向きになる。一方,人物が監視カメラから比較的離れている場合,仰角は小さくなるため,比較的正面に近い顔が撮れることになる。また,1台のカメラで広い範囲を覆うことができるため,監視に有効である。ただし,取得できる顔画像が低解像度になるため,顔照合技術の低解像度対策が重要になる。すなわち,低解像度顔照合技術が実用化できれば,監視向け顔認証の実現に向けて一歩近づいたことになる。

6は顔の解像度に対する誤照合率の関係を示す。2011年にNISTによって評価された結果からの引用である。横軸は目間距離(両目中心間のピクセル数),縦軸は誤照合率を示す。NEC以外の参加組織のエンジンは,目間距離が96ピクセルよりも小さい場合には徐々に性能が低下し,低解像度に弱い傾向がみられる。一方,NECの顔認証エンジンは,高解像度で誤照合率が低いだけでなく,目間距離が24ピクセルでもほとんど性能が低下せず,低解像度画像に非常に強いことが証明された。このようにNECの顔認証エンジンは,監視カメラを比較的遠方に置いた場合でも,高精度に認証が可能であり,監視向けに適している。

さらに,動画を用いたNISTによる最新の評価試験(FIVE: Face in Video Evaluation,2017年3月公開)注2)でも,NECは最高評価を獲得している。以下はNISTによって評価された結果からの引用である。

〔評価例1〕 乗客ゲート評価結果(7)では,最も低いエラー率である。NECは唯一99%を超える認証精度を達成,「カメラを気にせず立ち止まらない」という実環境下での高い精度を証明した。

〔評価例2〕 競技場評価結果(8)でも,2位に比べ半分以下のエラー率を達成。監視に重要な,小さい顔画像や顔向き変動に対する強さを証明した。またNISTから「NECは低解像度でも照合できる唯一のベンダー」との評価があった。

評価例1,2を通し,好環境でも悪環境でも圧倒的に低いエラー率を達成したNECの顔認証技術は,ウォークスルー認証や監視など,多様な実用環境での高い精度を実現できることが証明された。


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図5 人物がカメラに近い場合と遠い場合の,利点と欠点


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図6 目間距離と誤照合率の関係


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図7 評価例1:乗客ゲート評価結果


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図8 評価例2:競技場評価結果

6. 動画顔認証システムの活用事例

ここから顔認証の活用事例を紹介する。これまでは,パスポートなどの本人確認用途が主であったが,監視向け用途も徐々に増えつつある。

6.1 ブラジル主要14空港における顔認証システム

ブラジルの空港においては,世界的なスポーツイベントなどによる出入国者の増加により,税関での不正拡大の懸念とともに,より効率的かつ適切な通行者の監視が必要になっている。2015年7月に,ブラジル連邦税務局が,14の主要国際空港において税関で利用される顔認証システムを導入した。本システムは税関を通過する乗客に対し,過去に不正の摘発を受けた経歴のある人物リストを基に,顔認証で容疑者を特定する。これにより,空港の税関業務が効率化されるとともに,政府や企業の多様なニーズに柔軟に対応でき,公共施設などのセキュリティー確保や顧客リレーション向上などに貢献している。

6.2 オーストラリアの政府機関向け生体認証システム

オーストラリア連邦政府機関に,顔認証技術・指紋認証技術を用いた生体認証システムが導入された。警察などが保有する1,200万件の顔画像のデータベースを,オーストラリア関係当局間で共有し,犯罪捜査や国境警備などに役立てることが可能になる。たとえば,防犯カメラで撮影された不審人物の顔画像を政府機関のデータベースと照合して個人特定を行う,といった運用が想定されている。

6.3 インドのホテルグループ向け動画顔認証ソリューション

2014年にインドのホテルグループに顔認証ソリューションが導入された。本ソリューションは,インディラ・ガンディー国際空港近くのニューデリー・エアロシティにあるホテルにおいて,顧客の安全確保やサービス向上のために利用されている。カメラ映像に映った顧客を,警察から提供された犯罪者データベースと顔認証を用いてリアルタイムに照合するとともに,ホテルのVIP宿泊客リストとの照合にも利用されている。

6.4 英国サウス・ウェールズ警察向け顔認証システム

2017年に英国のサウス・ウェールズ警察に顔認証システムが導入された。本システムはカメラ映像向けリアルタイム顔認証ソフトウェアを活用し,専用の警察車両に設置したカメラに写った人物と,監視リストに登録された容疑者や要注意人物,行方不明者など計50万枚の写真をリアルタイムに照合し,高速かつ高精度に人物を特定することが可能である。空港やスタジアムなど人の往来が多い場所の安全性の確保に活用され,すでにカーディフ市のウェールズ国立競技場で2017年6月3日に開催されたUEFA チャンピオンズリーグ決勝戦の開催週に活用され,安全な試合運営に貢献している。

6.5 ジョージア内務省向け顔認証を活用した街中監視システム

ジョージア(旧グルジア)内務省に顔認証を活用した街中監視システムが導入された。本システムは,2017年6月から稼働を開始しており,首都トビリシをはじめとするジョージアの主要都市に設置される400台の監視カメラと連携している。カメラ映像向けリアルタイム顔認証ソフトウェアを活用し,犯罪への早期対応や犯罪防止,犯罪捜査の効率化などが期待される。

7. 顔認証照合技術の応用

現在の顔認証の技術には大きな課題がある。入退場管理や,迷子の捜索などでは,あらかじめ対象となる顔が本人や家族,関係者などから提示され,それに基づいて顔認証を行いカメラ映像やビデオ動画を解析して認証する。一方で事前に対象となる顔がわかっていない中で,特定の人を見つけ出すというニーズがある,これがこれからの大きな課題なのである。

たとえば,事件が発生した際にその周囲に頻繁に現れていた人,刑事ドラマなどで,放火犯がやじ馬にまぎれて頻繁に見に来ているといったシーンがあるが,そういった連続事件の現場に共通して現れている人を見つけたいといったニーズや,店員さんは気づいていないが実は頻繁に来店しているお客さまを見つけたいといったニーズがある。これは従来の顔照合の適用では非常に難しいとされてきた。

なぜ難しいかというと,顔照合には,大きく分けて3つのパターンがある。

  • (1)1:1照合

2つの映像上の顔が同一人物かを照合する手法で,たとえば証明書を持ってきた人が証明書に印刷された顔写真と同一人物かどうかを照合するケース。

  • (2)1:N照合

1つの顔写真をデータベースに登録された複数の顔と照合し,該当する人物かどうかを確認する手法。建物の入退場管理であれば,あらかじめデータベースに入場を許可された人の顔を登録しておき,建物の入り口で撮影された顔が登録されているかをチェックする。

  • (3)N:N照合

2つ,または複数の画像間で同じ人がいないか,どれとどれが同じ人かを確認する手法(9)。頻出者の特定や移動経路から人を特定するような場合に必要になる。これは1:1や1:Nと比較してNの数が増えるため,照合に必要な処理量が増加し,最新のコンピューターを使用しても現実的な時間内ではなかなか処理を行うことができなかった。

ここでNECの「時空間データ横断プロファイリング」という技術(10)が有効になる。時空間データ横断プロファイリングでは,撮影された映像から人の顔情報を類似度に応じて,10のようにツリー構造による管理を行う。

下の層ほどよく類似した,つまり同一人物である可能性が高いデータが集まるようになっており,データを抽出したい類似度に応じて下の層から取り出すことで,容易に同一人物である可能性が高い顔情報のグループを取り出すことができる。これによりN:N照合に必要なデータ照合回数を大幅に減らし,事前の情報登録がなくても,人の移動経路や出現頻度といった情報を得ることができるようになった。

この技術を用いて,録画された映像からさまざまな情報を抽出することが可能である。

適用ケースの1つ目は,警備である。従来は,指名手配犯や過去に問題を起こした人などのリストを基に照合しているので,リアルタイムでウオッチリストに該当する人物の出現を見つけることができなかった。しかし,当然悪いことをする人すべての顔が事前にわかっているわけではない。そこで時空間データ横断プロファイリングを使うと,事件や事故が複数箇所で同時に発生したような場合,その場所に共通して頻出した人や,事件事故の現場の周辺に頻出した人を見つけることができるようになる。

2つ目のケースは迷子の捜索。従来の顔認証でも,親が子どもの顔写真を持っている場合,その顔写真を基にリアルタイムの照合を行い,迷子になった子どもがカメラに写れば,そのタイミングでアラートがあがり,迷子を見つけることができた。しかし,親が子どもの写真を持っていない場合はどうだろう。または子どもがトイレにこもっているなど,カメラの死角にいるような場合,従来の顔認証では見つけることができなかった。

しかし,時空間データ横断プロファイリングであれば,親の顔情報を基に,その人と一緒にいた頻度の高い人を見つけ出すことが可能になる。つまり迷子になる前,親は子どもと一緒に行動していたはずだから,一緒にいた頻度の高い子どもの顔写真を見つけることができるのである。

また,過去の出現場所を検索することができるため,最後に顔がカメラにとらえられた場所や,そこに至る移動経路を見つけることができる。そうすれば,子どものおおよその居場所が特定され,係員などによる捜索を効率化することが可能となる。


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図9 大量の顔画像から同じ人を特定しようとすると大量の照合が必要


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図10 大量なデータを類似度に基づきツリー構造で管理,抽出を高速化

8. むすび

本稿では技術面と応用面から動画顔認証について説明してきた。全世界的にセキュリティー不安が高まりつつある現在,顔認証技術は国家運営に欠かせないセキュリティーインフラになりつつある。

NECでは,これまで顔認証技術で培ってきた世界トップレベルの映像認識技術をベースに,大規模・ミッションクリティカルな状況に耐える技術への飛躍,さまざまな場面で適用可能な高い技術を実現することを目標として,顔認証から広がる安全・安心な世界を目指し,今後も研究開発に取り組んでいく。

執筆者略歴

  • 鈴木 武志(すずき たけし)

1993年日本電気入社。資材調達部門,国内の官公庁向け営業部門等を経て,2008年より海外向け生体認証事業を担当,指紋認証・顔認証のグローバル展開に取り組む。現在は同事業の戦略立案やマーケティング,プロモーションを主たる業務としている。

本文の注

注1)  各国・地域のトップベンダーが参画し米国国土安全保障省等も協賛する,米国国立標準技術研究所(NIST)が主催する世界的なベンチマークテスト。静止画の顔認証テスト(2009年MBGC,2010年MBE,2013年FRVT)に続き,動画顔認証技術のベンチマークテスト(2017年FIVE)と,4回連続トップ性能を獲得した。

・MBGC : Multiple Biometric Grand Challenge ・MBE: Multiple Biometrics Evaluation

・FRVT: Face Recognition Vendor Test ・FIVE: Face in Video Evaluation

注2)  FIVE:「動画からの顔照合」評価。https://www.nist.gov/programs-projects/face-video-evaluation-five

参考資料

  1. a)   今岡仁.リアルタイム監視を実現する動画顔認証技術.NEC技報.2016, vol. 69, no. 1, p. 34-37.

Copyright © 2017 Japan Science and Technology Agency

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