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Vol. 60 (2017) No. 8 p. 603-607

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http://doi.org/10.1241/johokanri.60.603

集会報告

集会報告 マルチメディア,分散,協調とモバイル(DICOMO2017)シンポジウム

開催情報

  • 日程   2017年6月28日(水)~30日(金)
  • 場所   定山渓万世閣ホテルミリオーネ(北海道札幌市)
  • 主催   情報処理学会 マルチメディア通信と分散処理(DPS)研究会,グループウェアとネットワークサービス(GN)研究会,モバイルコンピューティングとパーベイシブシステム(MBL)研究会,コンピュータセキュリティ(CSEC)研究会,高度交通システムとスマートコミュニティ(ITS)研究会,ユビキタスコンピューティングシステム(UBI)研究会,インターネットと運用技術(IOT)研究会,セキュリティ心理学とトラスト(SPT)研究会,コンシューマ・デバイス&システム(CDS)研究会,デジタルコンテンツクリエーション(DCC)研究会

1. はじめに

以前本誌に寄稿した集会報告記事1)で言及したとおり,IoT(Internet of Things:モノのインターネット),すなわちさまざまなモノがインターネットを通じて相互に接続されるという概念は,インターネット創成期の1990年代にはすでに存在しており,Xerox PARCに在籍していたMark Weiserが提唱したユビキタスコンピューティングの概念2)を源流とする研究分野は,世界的に発展を続けてきた。日本国内でも,ユビキタスコンピューティングの概念などに創発され,多くの研究者がネットワークを軸としたさまざまな技術を統合的に扱う研究を進めてきた。

1997年に情報処理学会の「マルチメディア通信と分散処理(DPS)」「グループウェア(GN)」「モバイルコンピューティング(MBL)」という3つの研究会によって始められた「マルチメディア,分散,協調とモバイル(DICOMO)シンポジウム(当初はDiCoMoワークショップ)」は,現在は「コンピュータセキュリティ(CSEC)」「高度交通システムとスマートコミュニティ(ITS)」「ユビキタスコンピューティングシステム(UBI)」「インターネットと運用技術(IOT)」「セキュリティ心理学とトラスト(SPT)」「コンシューマ・デバイス&システム(CDS)」「デジタルコンテンツクリエーション(DCC)」という7つの研究会も加わり,400名規模の会議に成長している。今回のDICOMO2017注1)は,初開催から20年の節目を迎え,北海道札幌市の定山渓温泉で開催されたが,2016年の三重県開催を上回る418名の参加者を得て,引き続き盛況となっている。

毎年,電気通信系の企業が幹事企業となって運営をしているが,会場については参加者全員が一堂に会して食事をできること,できればお膳スタイルがよく,温泉であればさらによいという条件で,会場を入念に選定することにより,結果として活発な会議となっている(1)。

活発な会議となっている要因は他にもあり,それは,充実した表彰制度と,後述するナイトテクニカルセッションだろうと筆者らは考える。表彰制度については,「最優秀プレゼンテーション賞」「優秀プレゼンテーション賞」,優れたプレゼンテーションを行った30歳未満の方を表彰する「ヤングリサーチャ賞」,50歳以上の方を対象とし,長年の研究活動に敬意を表して表彰する「シニアリサーチャ賞」,産業への貢献が期待される優秀なデモンストレーションに授与する「野口賞」,3日間を通してよい質問/コメントを行った方を表彰する「ベストカンバーサント賞」,DICOMOシンポジウムの運営を通じて学術交流の活性化へ貢献した方を表彰する「活動功労賞」,ナイトテクニカルセッションにおいてDICOMOシンポジウムを活性化する斬新な発表を行った方への「ナイトテクニカルセッション表彰」といった賞が最終日に表彰される。また,後日「最優秀論文賞」と「優秀論文賞」が授与され,情報処理学会論文誌やトランザクションに推薦される機会もある(手前みそだが,筆者(松木,井上,清田)による発表「介護施設紹介コールセンター記録のアンサンブル学習による傾向分析」注2)も,優秀論文に選ばれた)。DICOMO2017の全表彰リストがWebに掲載されている注3)ので,ご覧いただきたい。

驚くべきことに,これらの賞は開始年から開催年までのすべての受賞が毎年のプロシーディングズに掲載される。このように,手厚い処遇が会を盛り上げる要因の一つとなっていると考える。


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図1 お膳スタイルの夕食会

2. 一般セッション

DICOMO2017では,講演251件,招待講演8件,特別講演1件,デモ12件が,8会場に分かれて並行して3日間開催された注4)。研究会ごとにセッションを構成するが,前述したとおり,ネットワークを中心とした多岐にわたるテーマを扱っていることから,本稿で全体的な内容を伝えることは難しい。ここでは筆者らが参加したセッションにしぼって,印象に残ったセッションの内容を報告する。

  • ・5C「行動とソーシャルメディア」注5)

ウエアラブルデバイスによる人の行動認識や,ソーシャルメディア上での人々の振る舞いに関する分析など,5件の発表が行われた。特に,GPSのみでは取得が難しい屋内での位置推定に関する技術への関心は高く,活発な質疑応答が行われた。水上ひろき氏ら(サイバーエージェント)による「スマートフォンのセンサ情報を用いた屋内来訪検知技術」は,大型家電量販店内の来訪フロア検知を目的に,屋内へのビーコンなどのデバイス設置を行うことなく屋内のWi-Fiアクセスポイントのみを利用するという研究であったが,200万台規模のスマートフォンのデータを利用している点など,実験規模にインパクトがあった。

eコマースのセッションでは,現状のeコマースに対してどのような改善や新しい取り組みを行うことで,ユーザーや企業にとってより使いやすくなるのか,5件の発表があった。本セッションは主に「動画像」「アプリ開発」「レビューデータ」の3つの視点で発表された。レビューデータの発表は2件あり,企業の実データを利用した研究であった。中でも,稲福和史氏ら(筑波大学)による「ECサイトにおける購買行動の成長分析」は,ユーザーの購買順序に着目しており,多くのユーザーから購入された商品同士の関係について,モチーフ分析による購買行動データの分析を行った結果,購買行動推移に特徴的な傾向がみられたという点に関心をもった。

  • ・5G「コミュニケーション」注7)

4つの発表のそれぞれで,用いるデバイスおよびコミュニケーションの対象が異なり,おのおののアイデアや視点が興味深かった。たとえば,角康之氏ら(公立はこだて未来大学)による「人とIoTの情報流におけるサービスマッチング」では,Slackなどのチャットbotを通して,IoTの情報と人の日常対話を同居させることで,人とモノの対話プラットフォームの提案を行うという,将来を見据えた視点があった。また,阪田大輔氏ら(同志社大学)による「スマートグラスにおけるARを用いた音声コミュニケーション支援手法の提案」は,スマートグラスとジャイロセンサーを用いて,実世界に会話の内容を文字で表示し,聴覚障害者のためのコミュニケーション支援の提案を行っていた。

  • ・8G「ウェアラブルセンサ」注8)

このセッションは後日,最優秀論文1件,優秀論文2件が選ばれた豊作のセッションであった。濱谷尚志氏ら(大阪大学)による最優秀論文発表「腕装着型センサによる飲水量推定法の提案」では,手首に装着したモーションセンサーのみで,日常動作から飲水動作を抜き出し,認識できる手法を提案していた。熱中症などの現実的な問題に対して堅実な実験が評価された。三井秀人氏ら(青山学院大学)による「咀嚼回数向上支援システム」や,梅澤猛氏ら(千葉大学)による「腕時計型端末における画面占有面積を抑えたかな文字入力手法」といった,わかりやすい問題設定としっかりとした評価が行われている論文が高評価な傾向にあった。

3. 特別講演・招待講演

特別講演セッションには,深層学習(ディープラーニング)の原型の一つともされるネオコグニトロンの考案者として世界的に知られる福島邦彦氏(ファジィシステム研究所)が登壇した注9)。福島氏の業績については2016年度人工知能学会全国大会の集会報告記事3)でも言及したため,詳しい内容は割愛するが,本講演セッションでも活発に質疑応答が行われ,IoT分野でも深層学習に対する関心が高まっている流れを感じた。

また,62の一般セッションのうち8セッションでは,おのおのの分野で画期的な業績を上げている第一線の研究者による招待講演も行われた。

「知的センシングと応用」セッション注10)では,山口弘純氏(大阪大学)が,「IoTエッジセンサーの知能化に向けて」と題して,IoT分野で今注目されているエッジコンピューティングの最新の流れ,特にエッジ側での機械学習やデータストリーム処理の研究事例について講演した。コンピューティングのアプローチが歴史的に「集中」と「分散」の間で移り変わってきており,2010年代後半から再び分散化の流れにあることや,センサーネットワーク自体をニューラルネットと見なすことで,効率的に行動認識を行うという考え方が興味深かった。

「人と社会」セッション注11)では,筆者(井上)が招待した角薫氏(公立はこだて未来大学)が,「感情を介したコンテンツと人とのインタラクション」と題して講演した。豊富な研究事例をデモムービーで紹介するとともに,「説得技術」や「感情モデル」など,人を対象とした心理学の知見がメディア技術の研究にも生かせることを主張した。特に,「SNSのマナー向上」や「いじめ防止」,「自閉症者との対話方法の学び」などの社会的課題にフォーカスし,説得技術を生かしたインタラクティブなコンテンツを作るという取り組みが印象的であった。

4. ナイトテクニカルセッション

先述したように,DICOMOシンポジウムの名物イベントの一つが,2日目の夜に開催されるナイトテクニカルセッション(2)である。飲み物などを手にした参加者全員がホールに集う中,ステージに登壇した発表者たちが,趣向を凝らしたプレゼンテーションを行い,会場は大いに盛り上がっていた。

2014年からはナイトテクニカルセッションでもベテランの先生方の審査による表彰が行われることになったこともあり,最近は各研究室の学生を中心に,非常に力の入ったプレゼンテーションが行われている。今回は,深層学習の技術を活用した発表が目立った。1位を獲得した奈良先端科学技術大学院大学 ユビキタスコンピューティングシステム研究室の学生グループによる発表「Deep learningによる物体認識技術の回避に向けた擬態手法の実践的検証」は,「人工知能 vs 人間」と題し,深層学習による優秀な物体認識技術を「着ぐるみを着る」ことでだませるかという体を張ったデモムービーが会場を沸かせていた。ナイトテクニカルセッションで毎年活躍している研究室には国際会議でも高いレベルの発表を多数行っているところも多く,特に若手研究者にとってはよい刺激になっているようである。

ナイトテクニカルセッションは,歴史的にはMBL研究会で1997年に開催された「オラが もばいる こんぴゅーちんぐ 自慢」という夜のセッションからスタートしている4)。最近は学生たちが活躍する一方で,上の世代による発表が少なくなったという声も聞かれる。今後は,上の世代からも学生たちに刺激を与えるようなプレゼンテーションが行われることを期待したい。特に,ベテランの先生方が評価者であることから,結果の順位は,場の盛り上がりとは別に,玄人志向あるいはベテラン受けするネタの方が評価が高い(と踏んで九州工業大学では毎年作戦を練って出場している)ため,上の世代からの出陣も有利なはずである。


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図2 ナイトテクニカルセッション

5. おわりに

2日目に行われたデモセッションでは,水野慎士氏(愛知工業大学)の「複数色物体生成と配置制御を可能にする『不思議なスケッチブック』の拡張」注12)3)が,産業界への貢献が期待される優秀なデモンストレーションとして野口賞の1位となった。

DICOMOシンポジウムは,多様な分野の研究者が参加することから,普段はなかなか接点のない研究者とも意見交換ができ,発表者にはさまざまな視点からのコメントが寄せられる。参加人数の増加と比例して,活発な議論が今後も期待される。


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図3 水野氏による「不思議なスケッチブック」のデモ

謝辞

ナイトテクニカルセッションの内容については慶應義塾大学の砂原秀樹先生に,参加者数については三菱電機の阿部博信氏にご教示いただきました。この場をお借りしてお礼申し上げます。

(九州工業大学 井上創造,松木萌/アカデミック・リソース・ガイド 岡崎有彩/LIFULL 清田陽司)

本文の注

注1)  DICOMO2017:http://dicomo.org/2017/

注2)  介護施設紹介コールセンター記録のアンサンブル学習による傾向分析:http://tsys.jp/dicomo/2017/program/program_abst.html#3G-4

注3)  DICOMO2017 表彰:http://dicomo.org/commendation/

注4)  DICOMO2017 シンポジウムプログラム:http://tsys.jp/dicomo/2017/program/

注5)  セッション 5C 行動とソーシャルメディア:http://tsys.jp/dicomo/2017/program/program.html#5C

注6)  セッション 5F eコマース:http://tsys.jp/dicomo/2017/program/program.html#5F

注7)  セッション 5G コミュニケーション:http://tsys.jp/dicomo/2017/program/program.html#5G

注8)  セッション 8G ウェアラブルセンサ:http://tsys.jp/dicomo/2017/program/program.html#8G

注9)  セッション SP 特別講演:http://tsys.jp/dicomo/2017/program/program.html#SP

注10)  セッション 6A 知的センシングと応用:http://tsys.jp/dicomo/2017/program/program.html#6A

注11)  セッション 2A 人と社会:http://tsys.jp/dicomo/2017/program/program.html#2A

注12)  複数色物体生成と配置制御を可能にする「不思議なスケッチブック」の拡張セッション:http://tsys.jp/dicomo/2017/program/program_abst.html#DS-3

参考文献

1)  清田陽司. 集会報告 IoT Solutions World Congress Barcelona 2016. 情報管理. 2017, vol. 59, no. 10, p. 702-706. http://doi.org/10.1241/johokanri.59.702, (accessed 2017-08-31).
2)  Weiser, Mark. "The computer for the 21st century". http://www.ubiq.com/hypertext/weiser/SciAmDraft3.html, (accessed 2017-08-18).
3)  清田陽司. 集会報告 2016年度 人工知能学会全国大会(第30回,JSAI 2016). 情報管理. 2016, vol. 59, no. 5, p. 345-348. http://doi.org/10.1241/johokanri.59.345, (accessed 2017-08-31).
4)  “モーバイルコンピューティング研究会(MBL)第3回 研究報告会”. Ishihara Lab. Computer networking & mobile computing. http://www.ishilab.net/mbl/program/1997/3rd/, (accessed 2017-08-31).
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