情報管理
記事
国内外における医療情報の標準化の現状と展望:相互運用性の向上を目指して
山本 隆一
著者情報
ジャーナル フリー HTML

60 巻 (2017) 9 号 p. 619-628

詳細
PDFをダウンロード (1416K) 発行機関連絡先
著者抄録

医療情報の標準化は相互運用性実現の手段の一つで,効率化が喫緊の問題になっている社会保障においては実現しなければならない最重要項目といえる。日本では医療情報システムの普及は1950年代に始まり,諸外国に比べてかなり早かった。当時は事務処理の合理化がIT化の主目的であり,医療情報の標準化は重視されなかった。このようなシステムの普及が医療情報の利活用のための標準化の普及を遅らせたことは否めない。しかし,データ指向社会においては医療情報の利活用は社会保障の合理化のためだけでなく,創薬,医療機器開発,医療周辺産業の発展のためにも必須で,標準のさらなる普及が急がれる。

1. はじめに

医療分野で標準化と言う場合,大きく2つの意味がある。一つは医療そのものの標準化であり,どこの医療機関でも診断に至るプロセスが同じであることや,診断がついた場合の治療がどこの医療機関でも同じように行われることを指し,診療ガイドラインと呼ぶこともある。学会や医療を統括する行政機関で検討・作成されることが多く,国際学会やWHO等で,国際的なハーモナイゼーション(調和)が図られている。便宜的にこの標準化を「医療の標準化」と呼ぶ。もう一つは電子カルテや診療情報システムにおける相互運用性(interoperability)を確保するための情報あるいは情報システムの標準化であり,ここでは「医療情報の標準化」と呼ぶ。この中には,診療で用いられる概念の標準化も含まれており,医療の標準化とも密接に関連している。

医療の標準化は医療情報の標準化以外に社会的な背景や医療制度的な制限,あるいは医療経済的な事情を斟酌(しんしゃく)する必要があり,検討範囲が多岐にわたる。本稿ではタイトルにあるように医療情報の標準化を取り上げる。

医療情報の標準化は相互運用性の確保を実現するためのものと規定したが,最初に相互運用性を定義したい。相互運用性とは,システムに蓄えられた情報が異なるシステムでも異なる施設でも利用できることを指している。簡単な仮想例を示してみたい。X病院はA社の電子カルテを運用してきたが,リース期間が終了するためにB社の電子カルテに切り替えることにした。システムを入れ替えるためにはどんな準備をすればよいであろうか。電子カルテは複雑なシステムで,A社もB社も性能を最大限に発揮させるために,データベースの構造からユーザーインターフェースのプログラムの仕組みまで,独自の工夫を凝らしており,当然ながら相互に共通するところはほとんどない。つまりA社のデータベースはB社の電子カルテではアクセスすることができない。何の工夫もしなければ切り替え以前のデータは電子カルテ上で閲覧することができなくなり,これでは診療はできない。このような場合でも以前のデータを利用できるようにすることが相互運用性の一つである。

これ以外にも,A社の電子カルテとC社の臨床検査システム,D社の放射線画像情報システム,E社の内視鏡画像情報システムを組み合わせて使う場合に,最小限の労力と経費で接続することができることも相互運用性であり,また,A社の電子カルテで電子的に作成した診療情報提供書をF社の電子カルテを運用しているY病院に送付した場合に,Y病院でも電子的な診療情報提供書を見ることができることも相互運用性といえる。

最後の例は,医療が高度化し,1施設で1人の患者のケアを完遂することが難しく,多施設で協働してケアを行うことが当たり前になっている日本の医療では特に重要といえる。

2. 相互運用性のレベル

診療情報は最終的には医療従事者や患者が使うもので,ヒトという情報処理能力の高い存在が最終的には必ず介在する。人は「風邪」と「感冒」を同一の概念と容易に判断でき,「アスピリン100,5錠,毎食後」という処方と「アセチルサリチル酸1,500mg,分3,食後」という処方がほぼ同じ意味であることを理解できる。しかしこれらは特別な操作をしなければコンピューターは同じとは判断できない。このように人が判断すれば同じものは同じ,違うものは違うとわかるレベルの相互運用性もある。

その一方で検体検査には日本臨床検査医学会が定めたJLAC10注1)というコード体系がある。このコードは検査種別,測定法等,検査結果を判断するのに必要な要素がすべて含まれていて,このコードで表現された検体検査項目はほぼ完全にコンピューターで処理することが可能である。さらに対象患者識別情報,実施日などを別の規格であるHL7注2)で表現すれば,システムを入れ替える際にも旧システムから新システムへ機械的に完全に移行できる。このような高度な相互運用性のレベルも存在する。またたとえば,病理診断報告書で日付や患者識別情報,診断名は自動的に処理し,機械的に分類することが可能であるが,所見は人が読まなければその意味を引き継げないという中間的なレベルの相互運用性もある。

理想はすべて機械処理可能な高度の相互運用性であるが,「核の所見から悪性である可能性は高いが組織構造に破壊がなく断言できない」といった微妙な表現まで機械的に誤解なく判定することは,不可能ではないにしても実現のためには大変な努力が必要で,経費もかさむ。相互運用性はあくまでも利用を前提としたもので,どこまでの情報が将来必要で,かつ機械的に検索・整理できる必要があるか,という観点から必要なレベルを決めなければならない。参考までに米国のHIMSS注3)が提案した相互運用性のレベル分類1)1に挙げる。

表1 HIMSSによる相互運用性のレベル

3. 相互運用性の意義

3.1 システム間の相互運用性

はじめに」の章で簡単に触れたが,あらためて相互運用性の意義について述べる。あるものの意義を考えるためには,それがない場合の損失や不便さを考えることが近道である。最初に強調しなければならないことは,相互運用性がなくても,1つのベンダーで提供されるシステムだけで診療情報システムを組み上げ,外部との情報交換も電子化したものを一切使用しなければ何も困らないということである。日本の医療機関での情報システムの導入は1950年代から始まったが,ほんの少し前まではこのとおりの状況で,実際何も問題はなかった。これは複雑な診療報酬請求に対応するためと,自施設内の事務作業の合理化だけを目的としていたからであって,この範囲では相互運用性はほとんど必要とされない。システムは比較的単純で,ベンダーも安定しており,医療機関は一度導入したシステムを同じベンダーで数年に1度機能強化すればよかった。

ところが,医療の情報化はさまざまな目的で拡張されるようになった。放射線画像はアナログ撮影しかなかったものがCT,MRIにとどまらず,単純撮影や造影,シネフィルムもデジタル化されるようになった。精度さえ十分であれば被ばく線量を減らすことができ,観察も容易なことから急速にデジタル化は進んだ。当然,撮影機器から出力される情報はデジタル情報であり,できるだけデジタルのままで扱う方が利点を最大限に発揮することができる。超音波画像,内視鏡画像,心電図などの波形情報も同様であるし,検体検査も単純な経費請求のためのシステムではなく,結果値を管理し,また精度管理までシステムでサポートするようになった。つまり,情報の質そのものを電子化によって向上させ,本来もっているデータの力を最大限に利用するための情報化へと進んできた。

診療録そのものを電子化する電子カルテにも同じことがいえる。電子カルテは,入力が大変で手書きカルテに比べ情報量が低下するという議論もあるが,確かに複雑な記載が手書きに比較して困難であるという未成熟な部分はあるものの,総体的にいえば元々記入していなかった要素もいちいち記録することを強要されるための大変さが目立っているように思える。他の人が見ることを想定していない診療録記載では最低限の根拠事実と,医師の備忘録の機能があればよかったが,電子カルテはスタッフ間,医療従事者と患者の間,あるいは他の医療機関との情報共有も目的にしているために,記載者にとって書くまでもない当たり前のことも記載しなければならない。多くは半自動的に記入されるが,確認はしなければならず,これが手間の増加になることは否めない。しかしこれによって診療録の情報の質は向上する。

事務処理の合理化だけではなく,情報の質の向上が電子化の目的として明確になると,いくつかの問題が生じる。一つは,大手の医療情報システムのベンダーであっても,医事システムから画像情報システム,電子カルテに至るすべてのシステムに最良の製品を提供することは難しく,個別のシステムごとに得意なベンダーが現れたことである。医療が高度になるにしたがって,専門化,細分化されたのと同じである。個別のシステムを得意とするベンダーは専門知識をもつ技術者だけを用意すればよく,開発効率も高いために総体的に安価で高機能なシステムを作成することができる。医療機関は分野に応じた専門システムを導入する方が,放射線科や検査部などの部門としては望ましい。しかし,システムとシステムはつながらなくてはいけない。診察室から出した撮影依頼は放射線科に正確に伝わらなければいけないし,診断結果は重要画像も診察室に正確に伝えられなければならない。また医事請求も正確にされなければならない。つまり部門システム同士が確実かつスムーズに連携できないといけない。もちろん,それぞれのベンダーごとにお互いに相談して接続することはできる。しかしこの場合,接続に関わる経費はすべてのベンダー間に発生し,すべて医療機関の負担となる。また病院が違えばその度に莫大な接続経費がかかることになる。ベンダーにも栄枯盛衰があり,ある時点で最高のシステムを提供していたベンダーが5年後もそうであるとは限らない。個別の相談で接続する経費はシステムの入れ替えごとに生じることになる。この経費を大幅に縮小させるのが相互運用性の一つの意義である。

患者基本情報をすべてのシステムが同じ形式で扱うことができれば,検体検査システムも電子カルテも医事システムも放射線画像システムも患者基本情報に関して個別の打ち合わせは不要になる。病名,検査結果,画像情報の形式なども同様で,一定レベルの相互運用性をそれぞれのシステムが確保していれば,導入経費を大幅に下げることができる。複数のベンダーのシステムをまとめ上げたものを「マルチベンダーの診療情報システム」と呼ぶことがある。情報の質は医療従事者にとって,専門家としての仕事の質に直接関係するもので,納得のいくシステムを導入したいのは当然で,マルチベンダー化は必然であるために相互運用性は極めて重要ということができる。

3.2 時間を超えた相互運用性

前節では施設内のいわば平面的な相互運用性の重要性について述べた。ここでは時間軸に沿った相互運用性の意義を考えたい。「はじめに」の章のX病院の例をもう少し詳しくみてみたい。X病院はA社の電子カルテからB社の電子カルテに切り替えるわけだが,システムの入れ替えで診療を止めることはできないので,できるだけ短期間で入れ替えを行い,継続した診療ができることを目指さなければならない。両社の電子カルテはあらゆる面で異なっており,利用者も巻き込む問題となるのはユーザーインターフェースと情報の継続性である。ユーザーインターフェースは重要な操作では違和感のない移行が必要である。たとえば薬品の常用量超過のような重要なアラートは見誤ることのない程度に共通であることが望ましい。細かな違いは十分な習熟期間を用意して利用者に慣れてもらう必要がある。このような対策を十分に取ればユーザーインターフェースの違いは何とか対応できるであろう。

その一方,情報の継続利用はどうであろうか。A社のシステムをそのまま稼働させ,B社の電子カルテからアクセスすることは事実上不可能である。電子カルテのような高度なシステムではデータベースとそのアクセスプログラムの関係は一般に密接で,一方を変えれば他方も全面的に作り直す必要がある。つまりA社の電子カルテ内に蓄積された情報をB社の電子カルテシステムに移す必要がある。これも部門システム間の相互運用性とまったく同じで,A社とB社が同意し,医療機関が十分な経費を負担できれば,ある程度の正確さで移行は可能である。しかしシステムはベンダーが開発したものでも,そこに入力されている情報は患者に委託され医療機関が管理しているもので,その情報を継続して利用するために新たな費用が必要になることは合理的ではない。本来,導入システムに蓄積された情報の利用は,導入の経費内で保証されるべきである。とはいえ,最初からシステム変更のための大きな経費を上積みされたのでは同じことになるし,後で利用するシステムが不明な状態ではベンダーも費用の算出ができない。解決するためには容易に移行できる仕組みが必要で,これが時間を超えた相互運用性である。

2006年以来,日本政府のIT戦略では生涯にわたる健康情報の利活用がうたわれており,2017年には厚生労働省がPeOPLe(仮称)と呼ばれる医療情報基盤2)1)を提唱している。現在医療機関の診療録の保存義務は診療の終了後5年であるが,これは紙の診療録を保存する手間とスペースの問題が制限要因で,手間もスペースも大きな問題がないならば,より長期に保存することが望ましいことはいうまでもない。電子化診療情報は手間もスペースも大幅に節約可能であり,相互運用性さえ的確に確保できれば長期の利活用も可能である。

図1 PeOPLe(仮称)

3.3 施設を超えた相互運用性

これまでは主に一つの施設内の相互運用性の意義について述べたが,本来診療情報の主権者は患者である。生涯にわたって一つの医療機関だけにかかる患者はほとんどいない。むしろ,同時に複数の医療機関にかかる,いわゆる連携医療も当たり前の状態になりつつあり,今後はますますこの傾向が強まるであろう。必要な情報は患者とともにそれぞれの医療機関で共有される必要がある。現在,多くの場合は紙の診療情報提供書とせいぜい数枚のX線写真のコピー等で情報の共有が図られている。しかし,現在の医療では1日の診療であっても,膨大なデータを扱うことが多い。単純な手術の術前検査であっても,たかだか数枚の診療情報提供書にはとても書ききれない情報を扱うことが珍しくなく,画像情報に異常がないことを確認するものも含めればかなりの容量になる。もちろん主治医が自分で行った医療を説明するための重要な陽性所見だけに限れば容量はかなり限定されるが,超高齢社会での継続した健康管理では,ある時点で陰性であった,ないしは陰性と判断した根拠データが後で重要な意味をもつことも珍しくはない。そこで可能であればできるだけ多くのデータを提供することが望ましい。

これは容量の点でも検索の容易さの点でも紙やフィルムベースでは不可能で,電子的に提供することが必須となる。後で必要になったときに効率よく検索し整理するためには,人が読まなければ解釈できないデータは大きな負担となり,意味を含めて機械的に処理可能なデータである必要がある。1つの医療機関に蓄えられたデータであれば,独自のルールでコーディングしても継続して利用することは可能である。たとえば血清総コレステロールを示す記号をS1000として値を整数でコンピューターに蓄えれば,S1000の値を検索するだけで数年間の総コレステロール値の変化をグラフにすることは容易である。しかし別の医療機関では記号をS1020としていれば,相手のデータを理解するためには,「血清総コレステロール」という名称を読んで,自施設のコードに変換しなければならない。また名称は「T-Chol」かもしれないし,「総Cholesterol」や,「T-コレステロール」かもしれない。これらをすべて機械的に処理することは困難で,人が介在しなければ継続した値としては処理できなくなる。どの医療機関も,さらには健診の結果も含めて同じ形式やコードで扱っていればこのような問題は解決する。これが施設を超えた相互運用性で,今後の重要な課題といえる。

4. わが国における医療情報の標準化の歴史

医療が高度化し,多施設連携が当たり前になってきていることは少なくとも先進国では共通であり,また社会保障の継続性が問題になってきているのも同様である。そのために医療をできるだけ効率化し,正しくデータが抽出でき,そのデータに基づいて負担とサービスの最適化を目指していることも共通している。そのためには医療のIT化は避けられなく,また情報の標準化も必須といえる。ただ,わが国は医療の情報化に関しては少々不幸な歴史をたどった。

わが国が国民皆保険制度で,医療が運営されていることは周知のことと思う。世界に先駆けての制度導入であり,カバー率も非常に高い。WHO等による世界的評価も高い。しかし導入が1950年代と早く,IT化とは無関係であった。国民皆保険制度の特徴の一つは,いわば医療経費の統制価格で,わが国の場合,出来高支払いをベースに始まった。これは医療のプロセスを細分化し,実際に行われたプロセスにミクロな単位で公定価格を設け,医療機関は1か月に1度,患者ごとに,細分化されたプロセスの価格を積み上げて請求書を作成していた。請求書には根拠も必要で,そのために細分化されたプロセスをすべて記入し,回数を記入し,最後に合計を計算して請求書が完成する。請求は月に1度で,翌月の10日前後に提出すれば1~2か月の審査を経て支払われる。これは膨大な事務作業で,医療機関は月初めから8~9日は前月の請求書作成に忙殺されていた。しかしこの作業は,数は多いものの比較的単純な計算で,人がそろばんで計算し手書きで作成するのは大変であるが,コンピューターを使うことができれば(現在の水準でいえば電卓程度の能力があれば)容易な作業である。幸い1950年代はコンピューターの小型化が始まった時代で,今は死語であるが,オフコン(オフィスコンピューター)が使えるようになった。オフコンで診療報酬請求作成システムが開発され,普及が始まった。効果は絶大で,膨大な作業が必要であった月初めは,スイッチ一つでプリンターの出力終了を待つだけになった。これは大きなインセンティブで,わが国の医療機関にこのシステム(レセコン(レセプトコンピューター)や医事コン(医療事務コンピューター)と呼ばれた)が急速に普及した。1970年代後半には日本の全医療機関の70%近くに導入され,未導入の医療機関は非常に小規模な医療機関が多かったため,患者数でいえば90%近くの診療報酬請求書がコンピューターで処理されるようになった。パソコンが本格的に普及する前であることを考えると,かなり特異な現象で,世界的にみても日本だけの現象といえる。当然ながら,わが国にも世界各国・地域にも医療情報の標準化が必要という意識はなかった。その後,わが国の診療情報システムもレセコン・医事コンだけでなく,検査システムや電子カルテにまで発展したが,常にレセコン,医事コンがベースにあり,これが情報の標準化の妨げになったことは否めない。

これに対して諸外国では,1990年代から診療情報の利活用の高度化を目的に診療情報システムが開発され,導入当初から情報の標準化への関心は高いか,あるいは少なくとも関心は存在した。現在の医療情報の標準化に大きな影響を与える米国の団体であるHL7が活動を開始したのも1990年代である。特殊な事情の日本を除くと世界の関心も高く,国際的な規約制定機関として活動するようになり,1990年代末にはISOにTC 215注4)が設置され,積極的に国際標準の制定が進められている。

一方でわが国も情報の標準化の必要性は90年代には十分認識されており,HL7やISO/TC 215にも積極的に参加し,国際的なハーモナイゼーションを前提とした医療情報の標準の作成も行っている。しかし,先に述べた歴史的な経緯により,標準の導入が遅れていることも事実である。

5. わが国における医療情報の標準の開発の現状

医療情報の標準には大きく分けて3つの分野がある。1つ目はontology(オントロジー)とterminology(ターミノロジー)で,ontologyは概念表現の標準化,terminologyは語句の標準化であり,かなり次元の違う標準である。terminologyには語句そのものの標準化と語句をIT基盤で扱うためのコーディングルールが含まれる。2つ目は交換規格,あるいはメッセージ規格(システム間で交換される伝送情報の形式の構造および内容を定義したもの)で,HL7メッセージが主流である。3つ目はインフラで,セキュリティーやシステム間での結合仕様が含まれる。

ontologyは各国・地域で開発が鋭意進められているが,まだ医療で共通に用いることができる完全なontologyは存在しない。たとえば疾患分類におけるICD-11注5)のようにontologyを強く意識したterminologyは間もなく現れるものと期待されている。terminologyは各国・地域の事情がどうしても入るために,国際的に完全に相互運用性のあるものは存在しないが,たとえばわが国の「標準病名マスター」注6)は70%以上の医療機関で使われているが,1つ上の粒度である疾患分類コードは国際標準であるICD-10を採用しており,このレベルでは国際的に互換性がある。これ以外にも医薬品,医薬品の用法,臨床検査,手術・処置,看護用語など多くのterminologyが開発され使われている。放射線検査を中心とする医用画像系は少し特殊で,国・地域によって違いが大きい診断所見や検査指示を除けばDICOM注7)と呼ばれる規格が国際的なデファクト・スタンダードで,わが国でも直接この規格を採用している製品が大部分を占めている。

また伝送情報形式単位であるメッセージは医療情報システムベンダーの協会である保健医療福祉情報システム工業会が主に開発保守を行っており,HL7ベースでわが国の事情に適合されたメッセージ規格を作成している。

またインフラのセキュリティーでは,PKI(Public Key Infrastructure:公開鍵暗号基盤)の医療応用についてISO規格をベースに厚生労働省がポリシーを作成し,保健医療福祉情報システム工業会が運用ルールを策定している。またシステム結合は国際的にはIHE注8)が開発しているが,わが国への適合は日本IHE協会が行っている。

さてこのように医療情報の標準規格はさまざまな主体が開発保守を行っている。一方でまったく異なる標準がたくさんできても困るので,標準の品質を十分見極めたうえで公認する仕組みが2つ存在する。一つは医療情報標準化推進協議会(HELICS協議会)注9)で,主に標準の開発保守に携わる団体が会員である。この協議会で,品質,保守体制,必要性などを審査し,適合と認められたものは「医療情報標準化指針」と認定される。現在,17の標準規格が医療情報標準化指針となっている。もう一つは「厚生労働省標準規格」で,HELICS協議会で医療情報標準化指針となった規格を厚生労働省医療情報標準専門家会議で審査し,適切と認められたものを厚生労働省標準規格に指定するもので,現在16の規格が厚生労働省標準規格になっている。2に2017年8月の時点での医療情報標準化指針の一覧を示す。厚生労働省標準規格になれば,国の補助金を受けて行う事業では準拠が義務づけられる。

このように積極的に医療情報の標準化は進められているが,先に述べたように,標準化という観点では医療情報システムのやや不幸な歴史もあり,標準の普及という点ではややスピードが遅いことは否めない。それでも最近ではITを用いた情報連携の普及期に入り,やや遅ればせながらも標準採用への動きが高まりつつある。後は適切な政策誘導があれば加速されるものと考えられる。また将来の話ではあるが,厚生労働省が「保健医療2035」の補足としてあるべき情報の流れを前述のようにPeOPLe(仮称)という略称で提案している。概観的な提案で個々の標準化に触れたものではないが,標準化の必要性は強調されている。

表2 医療情報標準化指針の一覧
HS001 医薬品HOTコードマスター
HS005 ICD10対応標準病名マスター
HS007 患者診療情報提供書及び電子診療データ提供書(患者への情報提供)
HS008 診療情報提供書(電子紹介状)
HS009 IHE統合プロファイル「可搬型医用画像」およびその運用指針
HS011 医療におけるデジタル画像と通信(DICOM)
HS012 JAHIS臨床検査データ交換規約
HS013 標準歯科病名マスター
HS014 臨床検査マスター
HS016 JAHIS放射線データ交換規約
HS017 HIS,RIS,PACS,モダリティ間予約,会計,照射録情報連携指針(JJ1017指針)
HS022 JAHIS処方データ交換規約
HS024 看護実践用語標準マスター
HS026 SS-MIX2ストレージ仕様書および構築ガイドライン
HS027 処方・注射オーダ標準用法規格
HS028 保健医療情報-医用波形フォーマット-パート1:符号化規則
HS031 地域医療連携における情報連携基盤技術仕様

HS027以外は厚生労働省標準規格

6. 諸外国における医療情報の標準化

EU諸国の多くは陸続きであり,EUのシェンゲン協定により,人の往来も自由になっている。したがって異なる国・地域の医療機関を受診することもあり,情報の標準化への関心は元々高い。国・地域によって制度の違いはあるが,CEN(European Committee for Standardization:欧州標準化委員会)を中心に積極的に標準化が進められている。ウィーン協定3)で,CEN Standardになった標準はISOで優先的に検討されるために,ISO化の動きも活発である。ISO標準になると,日本への影響も大きいはずであるが,医療制度の違いなどから,海外入札などは実質的にほとんど行われないために,強制力による影響は大きくなく,むしろ,日本の事情に合わせて調整し,検討が進められている状況といえる。

米国はHL7やIHEなど,医療情報の標準化を世界的にリードする組織が存在し,ある意味で医療情報の標準化をリードしてきたが,2008年頃まで医療情報システム自体はほとんど普及しておらず,一部の先進的な医療機関あるいは医療機関の集合体にとどまっていた。しかし,リーマンショックの後で米国復興・再投資法が作られ,医療の情報化がその中心に据えられた。さまざまな政策により,実質的には数十兆円に上る補助やインセンティブ付加で,強力に情報化が進められ,あまり普及していないことを逆手に取り,標準化を強く押し出した政策により,数年で相当な成果を上げている。具体的には,Meaningful use of EHR(Electronic Health Record)として,年度ごとの標準化の目標を定め,それを達成することを約束した情報システムの導入に対してほぼシステム導入経費に相当する額を連邦政府の運営する医療保険の基金から補助し,さらに一定期間後にそのようなシステムを導入していない医療機関に対しては,連邦政府の運営する医療保険の請求金額を割引するというIncentive/Disincentiveの組み合わせで誘導を行っている。また標準自体はわが国でも基本となっているHL7を基礎としたものであるが,ハーバード大学を中心にかなりの研究費をかけて整理をしたものである。さらに最近ではその成果を基に医療情報のさまざまな面での利活用への取り組みも進められている。一気に世界の最先端に躍り出たといえる。

7. おわりに

わが国はあまりに早く,ある意味での情報化が進んだために情報の幅広い利活用を推進する医療情報の標準化はややスピードが遅い。それでも最近は関心も高まり,標準化が進みつつあるが,米国は急速に進めており,EUもそれに追随している。その他の国・地域も,情報化自体はわが国に比べて遅れていたが,それだけに標準化を強く意識したシステムの普及は早い。最初に述べたように医療の情報化は避けられない状況であり,またデジタル化された医療情報を活用することが,社会保障制度の合理化や,創薬,医療機器の開発に有用なことは間違いなく,また医療周辺産業の創成・発展にも資する。そのように考えると,わが国は情報システムの普及が早かったために,標準化の速度が遅いなどと,のんびり構えている場合ではないといえる。ビッグデータに象徴されるデータ指向社会の進展速度は速く,のんびりしていると,世界に取り残されることは確実である。標準化の推進には相当な覚悟をもって挑むべきであろう。

執筆者略歴

  • 山本 隆一(やまもと りゅういち) RY-lab@medis.or.jp

医療情報システム開発センター理事長,自治医科大学客員教授,医師・医学博士。専門は医療情報学で,医療情報の安全管理とプライバシー保護を専門としている。

本文の注
注1)  JLAC10コードは17桁で,分析物5桁,識別4桁,材料3桁,測定法3桁,結果識別2桁から成る。

注2)  HL7:Health Level Seven。患者情報,検査オーダー,検査報告などの臨床情報や管理情報を,異なるシステム間でもやり取りできるように取り決めた国際的な標準規格(プロトコル)。この規約等を作成する,非営利の任意団体HL7協会は1987年に米国で設立され,日本をはじめ世界に支部がある。日本HL7協会(http://www.hl7.jp/whatis/)より一部引用。

注3)  HIMSS:Healthcare Information and Management Systems Society,医療情報管理システム協会。医療ITの普及を目的とした非営利団体。

注4)  ISO/TC 215:ISO(国際標準化機構)は,1998年1月に開催された技術管理評議会(TMB: Technical Management Board)において,保健医療情報分野(Health Informatics)の国際規格化(IS)を図るため新しい専門委員会(TC: Technical Committee)215を設置した。これは独立的なシステム間での互換性と相互運用性を達成するため,また比較統計(分類等)のためのデ-タの互換性を保証し,努力の重複や冗長性をなくすため,保健医療情報および保健医療情報通信技術の国際的な標準化を図ることを目的とした専門委員会である。Participating members:31か国・地域,Observing members:28か国・地域。ISO/TC 215(https://www.iso.org/committee/54960.html)より一部引用。

注5)  ICD-11:WHO国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)第11版。ICD-10の改訂版として作業が進行中である。ICDは疾病,傷害および死因の統計を国際比較するための100年の歴史をもつ統計分類で,アルファベットと数字を用いたコードで表され,人口動態統計や健康情報の管理に使用されている。第11版は,正確で比較検討に適した高品質のデータの収集,SDG(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)で設定された死因別の目標,指標の達成状況の検討が可能で,健康データの電子化や統計学的な用途(医師や検死官が使用する医療用語の統合)にも対応し,疫学・健康管理の国際的な医療診断分類(自治体や保険会社からの保険償還を含む)として役立つよう検討されている。WHO国際統計分類第11版(ICD-11)改訂にむけて(http://www.who.int/kobe_centre/mediacentre/icd-11/ja/)より一部引用。

注6)  医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)では,厚生労働省の委託を受け,保健医療分野におけるIT化を支える基盤技術として標準的用語・コードの開発・普及を行っている。ICD-10対応電子カルテ用標準病名マスター(標準病名マスター)は,2004年度までに診療情報の「用語・コード」の標準化として作成した9分野,10の標準マスターの一つで,標準的な病名およびそのコードを収載している。

注7)  DICOM:Digital Imaging and COmmunications in Medicine。X線,CT,MRI,超音波などの医療画像のフォーマットや関連機器間でのやり取りを可能にする国際標準である。

注8)  IHE:Integrating the Healthcare Enterprise。医療情報システムの相互接続性を推進する国際的なプロジェクト。日本IHE協会:http://www.ihe-j.org/basics/

注9)  医療情報システム開発センター,日本医学放射線学会,日本医療情報学会,日本画像医療システム工業会,日本放射線技術学会,保健医療福祉情報システム工業会が幹事会員を務める医療情報標準化の推進団体である。現在,幹事会員を含め10団体が会員となっている。医療情報標準化推進協議会(http://helics.umin.ac.jp/aboutHelics.html)より一部引用。

参考文献
 
© 2017 Japan Science and Technology Agency
feedback
Top