岡山医学会雑誌
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過去10年間(昭和25年-昭和34年)岡山県下に発生した日本脳炎の疫学的研究
大田原 一祥緒方 正名岡崎 雅治歯朶尾 正幸只友 淳雄
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1960 年 72 巻 11-12supplement 号 p. 1-27

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抄録

昭和25年から昭和34年に至る10年間の岡山県下に於ける日本脳炎の流行を時期的,地域的並びに性別年令別に観察し,又予防接種の効果についても検討し若干の考察を加えた.
過去10年間岡山県に於ける日本脳炎罹患率は殆んど毎年全国罹患率を上廻り,又昭和25年と昭和31年に全国の流行と相俟つて大流行を来しており,岡山県に於ける罹患率は全国罹患率と相関を保つている.
地域的発生状況として10年間に於ける平均罹患率は倉敷市を中心とする西南部が最も高く,東南部,東北部,西北部の順に低くなつている.
時期的発生状況として全県下では8月下旬を頂点とする一峰性の山を描いて流行し,患者の初発と終発との期間は流行の少い年程長い傾向を有する.又北部は南部よりもMedianにて約1週間流行期の遅れがあり所謂北進現象が認められる.
尚前年度の罹患率は翌年の流行に重大な影響を与え,罹患率の高い年の翌年には発病月日が遅れ,罹患率の低い年の翌年には発病月日が早くなる傾向が認められる.
性別については罹患率は女子よりも男子の方が高く致命率は逆に女子の方が高い値を示す.
年命別については10才未満の患者が全体の42.4%を占め,罹患率は10才未満の幼年層と60才以上の老年層に於て高く壮年層に於て低くなつている.
更に之を南北別に検討すると, 50才未満では罹患率は北部よりも南部の方が高く, 50才以上では逆に北部の方が高くなつている.尚10才未満に於ては南北の罹患率差は特に著しく,統計学的にも有意の差が認められる.
予防接種の効果は顕著なものがあり,接種群と非接種群との罹患率比は昭和32年, 33年, 34年には夫々1/2.4, 1/3.1, 1/4.4となつており,統計学的にも有意の差が認められる.又予防接種が広く一般に施行せられ始めた昭和32年前と後では罹患率は26.5%,致命率は24.5%の減少を示しており,今後更に広範囲にわたつて予防接種の施行を奨励すべきものと思われる.
昭和27年以後岡山大学医学部脳炎委員会に於て岡山県に発生した日本脳炎患者より分離したウイルス株は「岡山52A」~「岡山59J」の10株に達し何れも交叉中和試験及び交叉補体結合反応により日本脳炎中山株と同定している.

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